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偽マフティーとなってしまった。

作者:連邦士官
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3-3話

 ケネスのねっとりとした「そんな俺だから気になる。お前は何者だ?宇宙世紀のしがらみにも囚われない高潔さ。利権などを絶ち切る清廉さ。民主主義の建前を建前ではなくちゃんと扱うその姿勢。明らかにジオン・ズム・ダイクンすら超えている。誰なんだ?教えてくれよ。俺にさ。この仕組みを作った男の名前を。」を聞いて固まりかけたが、ケネスの意図ははっきりとしている。

 ケネスの言う、マフティーの清廉さを持つかを知りたいのだ。マフティーが清廉さを失えばマフティーではなくなると思っている原作からして、マフティー性を追い求めて、マフティーがまた生まれハサウェイのようなものが現れるまで、養成するような組織を作り上げた男らしい問いだ。

 ハサウェイではなくて、ウッソにキンケドゥを名乗るフロンティアIV出身のシーブックが出てくるわけだけれども、リガ・ミリティアやクロスボーン・バンガードなどにケネスが関わっていたかはわからない。

 こんな変わり果てた宇宙世紀じゃなくてもマフティーによるマフティー性を追い求めていたマフティー罹患者であり、マフティーを追い求めている余りにマフティーになってしまった男だ。マフティー捕りがマフティーになった存在。それこそがケネス・スレッグの本質であり、マフティーを分析するがあまり、マフティーに取り憑かれたのだ。

 だからこそ、ハサウェイはケネス・スレッグという男に処刑されることでニュータイプ神話を終わらせて、逆にニュータイプという概念が無くなることで人々がニュータイプの本質を考えるようになった。つまり、ケネス・スレッグとハサウェイ・ノアはその装置であり、キルケーという単語も暗示だ。

 キルケーは恋に破れてきた。ケネス・スレッグのその信念もアムロが言う「しかし、革命のあとでは、気高い革命の心だって官僚主義と大衆に飲み込まれていくから、インテリはそれを嫌って世間からも政治からも身を退いて世捨て人になる。」が一言一句違わずに効いてくるのだ。

 アムロの「身構えている時には、死神は来ないものだ。ハサウェイ。」はビームバリアーに負けるハサウェイの暗示ではなく、アムロの持論によるマフティーの否定、つまりはニュータイプの代表格が語る革命のやり方についての話だったと思う。

 「身構えている時には、死神は来ないものだ。」これは身構えているハサウェイとケネスには死神は来なかった。ハサウェイとケネスは闘争するうちに理解し合ったのだ。ニュータイプではなくとも戦いのうちに理解し合うそんな話だ。であるならば、死神は誰だったのか?アムロ・レイだったわけだ。

 ケネス・スレッグの組織も、マフティー・ナビーユ・エリンという組織も大衆のムーブメントと官僚主義を巻き込めない一過性で有るとアムロ・レイはシャアと戦いながら論破していた。つまり、連邦の白い悪魔こそが彼らにとっての死神だった訳だ。

 いや、待てよ。このアムロ・レイの論理だと大衆のムーブメントとして、マフティーダンスが行われ、官僚主義の象徴の地球連邦政府の大統領と首相と議長に当選した俺は‥‥‥マフティーとして生きなければならない事になってしまう。

 一瞬視界に緑が広がる。「身構えている時には、死神は来ないものだ。ミハイル。」「お前が始めたならお前が終わらせるべきだろう。」天パや腕まくり部下からロリコン扱いされている年下に父親と母親を求めたオールバック情けない奴ママ部屋おじさんの声が聞こえた気がした。疲れているんだろう。

「もう一度、聞く。お前は誰なんだ?教えてくれよ。マフティー。アムロ・レイなのか?シャア・アズナブルなのか?それともパプテマス・シロッコか?いや、ハマーン・カーンのクローンなのか?」
 距離詰めるな!手に持ったミルクティーのカップを指でなぞりながら近づくな!何だこいつ!

 カップが宙を舞い、パリンと崩れ、ケネスに襟を掴まれる。
「何時まで、傍観者としてマフティー・ナビーユ・エリンと言うんだ?正体を表せ。ではないと死んでいった者たちはどこに行くんだ?その遺志はどうなる?永遠に宇宙を彷徨えとでも言うつもりか?英雄に‥‥‥ヒーローに決まったのなら明らかにしないといけないだろう?」
 なりたくてなった訳でもなければ宇宙世紀の子守りをしたいわけでもない。そんな事を言われても困る。
 
 一方的にそのヒーローやアイドルを押し付けてきて、人を偶像崇拝の対象にして中身がなにもないマフティーという単語になんでも意味を詰め込んで、マフティーマフティーと言うだけの野蛮人じゃないか。マフティーに意味を見出したい救われたい一心でマフティーと唱えるのならば極楽浄土に行きたくて念仏を唱える俗物と何が違うと言えるんだ?何も違わないだろう。結局の所アナベル・ガトーと一緒だ。信じたい真実とやらを人は信じた上で好き勝手にやる。ケネス・スレッグもそうなのだ。ハサウェイ達もだ。

 ニュータイプがニュータイプ的な感性を持っていると誰が決めたんだ?ニュータイプはオールドタイプの変化だからこそ、オールドタイプよりもニュータイプになってしまったなら、気を使わなくてはならない。それが人類の革新と言えるだろうか?俺はそうは思わない。人類はニュータイプなどにならなくても争いや戦争はあったがそれなりに暮らしてきた。なら、ニュータイプになる必要はあるか?それは無いだろう。

 ニュータイプは選択肢であって、ニュータイプは目的ではない。手段と目的が入れ違ってしまっている。手段は手段であって目的にはならない。これらがニュータイプ神話でネジ曲がってしまったものだ。ニュータイプという神になろうとして、なった後を考えなかった末路である。神になるのが大事ではなくて、神になったあとが大事。

「明らかも何も俺はマフティー・エリンだ。マフティー・エリンはマフティー・エリンでそれ以上でもそれ以下でもない。だが、こうしてこの立場に立たされている。これ以上の話はあるか?そうだろ?ケネス・スレッグ。俺は俺の意思ではなく、宇宙世紀人に立たされてしまった道化に過ぎない。だからこそ、道化は道化らしく当たり前のことを当たり前にするだけだ。」
 辞めていいならすぐにでも辞めたい。ケネスが思っているほど高潔で清廉な人間でもなければテロリズムに賛同してるわけでもない。

「宇宙に彷徨う魂ではなく、やがては人々は人類という枠組みに帰るだけで、忘れ去られなければ永久的に生き続ける。散っていった者たちも今を生きる者たちも等価だ。死んだから偉いだとか死ななかったら偉いと言うわけでもない。」
 なんだよ。なんでレスバをしたがる?そんなにレスバをして何になる?レスバはレスバであって何の意味も無いだろう。

「やはり‥‥あの虹の‥‥名前などは無駄だということか。人の可能性を信じ切ったその言葉は容易く人を殺せるだろう。マフティー活動は人を人として扱い、人を可能性として扱い、粛清は粛清をする。粛清と慈愛によって成り立つものか。」
 ケネスが謎ポエムを言うが、何そのギロチンと女神理論。マリア主義かよ。マリア主義やラクス・クラインみたいな残念な奴らじゃ俺はないぞ。人を人として扱うのは普通だろ?人を人として扱わないのならば、それは社会が狂っているんだろうよ。

「真意はわかった。マフティーはマフティーとして死ぬ訳だな。マフティーから始めて、マフティーで終わる。マフティーによるマフティー。地獄や魔界から地上に戻るための人類の優しさや厳しさを教えるための活動の様だな。」
 えっ?ケネス、マフティーをアンダーテールか何かだと思ってるのか?それともいきなり最後で東京タワーで音ゲーしだすゲーム扱いか?

「マフティーは社会に社会性を教えるための革命だったわけだな。コイツをジョージ・ジョンソンがテレビで流す訳だ。」
 開かれたタブレットには動画が流れていた。俺も知っている内容だ。出元はブッホがスクラップとして回収したジェガンの交信記録らしい。オールチャンネルで話された二人の会話だ。

 逆襲のシャアの時のシャアとアムロのレスバ!?今更そんなものを出して来て何になる?レスバなんか意味がないだろ、マウントの取り合いに過ぎないって昔から言われている。

 「しかし、革命のあとでは、気高い革命の心だって官僚主義と大衆に飲み込まれていくから、インテリはそれを嫌って世間からも政治からも身を退いて世捨て人になる。か。だから、大衆をマフティーで飲み込み、官僚主義を大統領と首相になる事で飲み込み、革命を始めた。アムロ・レイとシャア・アズナブルを合わせたニュータイプで‥‥いや、ニュータイプはニュータイプという記号になるから、大衆をマフティーデモによって、マフティーと言う記号に自らの意思でさせて変革を促した。オールドタイプとニュータイプをファッションにした。ニュータイプ神話を破壊し、本来のニュータイプ論とラプラス憲章に書かれた存在へと正道に戻した。これが真のニュータイプが求めた‥‥シャア・アズナブルとアムロ・レイが目指した社会なのだろう?」
 いや、そんなシャワーの様にバーと情報をぶち撒けられてわけわからんことを並べて、俺と似て非なる結論を出して満足したような顔をされても。おい、扉の方に行くなよ。お前が壊したティーカップを片付けてから帰れよ。

「マフティー・ナビーユ・エリン‥‥。俺もアクシズで虹を見た。虹の結果がお前ならば俺はやはり、マフティーを信じる。マフティー。やってみせてくれ。お前ならなんとかなるはずだ。」
 そしてケネスは出ていった。はぁ?何だったんだアイツ。ネットリ野郎が。ふざけんなよ。紅茶野郎二号だなお前。というかこのティーカップの破片どうするんだよ。

『マフティー、マーサ・ビスト・カーバインがそろそろ着きます。』
 いや、そんなに詰め込んでくるな。カツカツのスケジュールにするな。現実なんだぞ。俺は悪いこともしてないし、こんなにも次から次へと問題ばっかりで積み木を砂漠の上でやっているようだ。なんでこんな酷いことばっかりできるんだよ!

「あぁ、わかった。マーサ・ビスト・カーバインを呼んでくれ。」
 決戦の時間だ。いや、決戦をしすぎて何が決戦で何が決戦じゃないのかが、もはや分からないが。

 マーサ・ビスト・カーバイン。恐らくはアナハイムの中でも上位の存在だった女。それは恐ろしくもあるが、実際はこちらは軍事力がある。アナハイム解体をしたときのように軍事力を全面に出せばいい。

 ナラティブの時の状態のままならば簡単だが、そうではない可能性が高い。可能性は可能性だが実際、立ち直っていたら面倒くさい事この上がない。

 軟禁状態である。逮捕はされてはいない。公式文書ではコロニーレーザーは無いことになっていた。事件自体が抹消されたのに罪には問えない。コウ・ウラキが許された理由みたいな話だ。事件がなくなったのに結果が残るわけがないのだ。罪はないが罰はあり、彼らの罪が消えたのと一緒だ。

 マーサがどうなっているのかは知らないが余計なことになってる可能性もある。気力を取り戻していれば高潔な自害をするだろう。彼女は高潔さを求めていたのだから。

 死ぬ可能性がある以上、医者を用意した。絶対に死なれないように。逃しはしない。表舞台から逃げ出そうがやってきた事がある。俺は逃げたいのに逃げれない、マーサは逃げられた。これが理不尽と言わずに何を理不尽と言うのだろうか?理不尽さには理不尽をぶつける。

 茨の園がどうなってようが俺の知るところでは無いが、危ないことになって無いと思いたい。それこそが大事だ。

 数十分後には、マーサが連れてこられた。

「貴女がマーサ・ビスト・カーバインでしょうか?私は地球連邦政府代表にさせられた単なる一般人のマフティー・ナビーユ・エリンです。道化と呼んでくれてもいい。政治家は有権者の道化でしょう?」
 圧力を初手でかける。そして、最高級のコーヒーを用意する。そして、茶菓子を手に彼女に渡すのはある資料。

「これは‥‥‥ハウンゼンのビスト財団の‥‥これらをどうするつもり?私もアルベルトもどうしようもできない。それに財団やアナハイムを解体したのでしょう?これ以上、何ができると言うの?財団の血に塗れた歴史でも表すのかしら?父殺しに息子殺しに。貴方が私にしたいことがわからない以上、交渉には応じません。選挙で選ばれただけのテロリストでしょう?ビスト財団もテロリストが偶然に選ばれただけの組織です。なら、違いはないはず。テロリストとの交渉には応じません。」
 マーサはやはり立ち直っている。今日この精神力を持っている。

「ハウンゼンで運ばれていたものの中身はご存知ですか?」
 ハウンゼンの密輸の目録を見たマーサは顔色を変えた。やはり、罪悪感はあるらしい。全く、割と宇宙世紀人にしてはまともな感性をしているな。

「こ、これは‥‥。しかし‥‥。」

 書いてあるのは単なる単語、しかし、それには重大な意味を持つ内容だ。
 
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