| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

偽マフティーとなってしまった。

作者:連邦士官
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

15話

 あれから翌日、人前ではマスクが脱げないために一人で部屋で食事をする。
なんでも合流してきた自称マフティー軍の中には調理ができる人間が多数いたようで、たまに作られる料理は同じ材料でもかなり良くなった。別に毎食が携帯レーションのチューブや缶詰の固形レーションでも全然構わなかったが、こうして温かい料理が出てくるとなると人間は嬉しくなるからわからないものだ。まぁ、近未来宇宙食な今までのレーションも構わなかったが。

 この携帯レーションのチューブには謎の栗きんとんみたいな味がする紫の歯磨き粉のようなものがあり美味い。だが当然の話ではあるが、ハズレを引くと粉っぽいマッシュポテトみたいなものもある。博打性があるのでオエンベリ軍の兵士達は娯楽に使っていたらしい。一番、美味いチューブの味はチョコナッツクリームブリュレらしい。

 まぁどうだっていいか。よし、食べるぞ。今、目の前にある料理は‥‥。
「温かい、匂いも唆るな。醤油がまた美味そうだな。」
排骨飯と言われるスペアリブをカリカリに揚げた肉を飯に乗っけて醤油ダレがかかっている。主菜にはサテと言われる焼き鳥とサラダだ。しっかりとした塩気に旨味と肉汁があり、とても美味い。ミルクティーがついている。

 昨日、集まってきた集団に話を聞いてみたが、その殆どがアフリカからアジアにかけての割と安定してはいない地帯に潜伏していたらしく。特に中核をなすジオン系はフィリピンやインドネシア、ニホン、タイヘイヨウショトウなど島が多い地域に隠れていたらしい。

 初期の宇宙移民の大半が欧米系に差別されて叩き出されたアジア系であったのが幸いして、アジアに隠れるにはうってつけであり、また、地球人口が20億人になるほど減らされた頃には旧枢軸系、中東系、南米系、旧東側系が宇宙に吐き出され、宇宙移民達はなんとも言えない顔立ちが形成され、また地球を管理する為に残された彼等、所謂地球市民の顔立ちも減った人口から結婚が多人種間で行われるようになり、結局宇宙移民と顔立ちが同じとなるという当初の欧米系の思惑に対しての皮肉な結果を招いた。

 故に隠れやすいし、アジアの島々は特に水泳部のMSも秘匿しやすいと当初は決起のために堪えて隠れていたらしい。そして彼らのMSを支えるパーツは一部のチュウゴクやインドネシアに拠点を持つジオン組織が、特にインドネシアやフィリピンなどにティターンズの工場があったから、MSを維持するためにティターンズ崩壊後のドサクサで工作機械を盗み出したらしいと。

 それにしても、この排肉は外がカリカリで中はジューシーで美味い、これを食べるだけで彼等が何年潜伏していたのかを理解させられる。ジオンの集まった彼らは普段は屋台を経営したり、露天商やトラックドライバー、建築作業員、料理人や土産屋やタクシー運転手など、比較的出入りが激しい分野で糊口を凌いでいたらしく、特に飲食店と土産屋に小売店の店主などが多い。いや、だったらなぜこちらのオエンベリのドキドキダンスマフティー部に来るんだよ。君たちにもちゃんとしたその土地に根付いた生活が元いた地域であるだろうと思ったが‥‥。

「ジオンの彼等が袖付きに参加しなかったのが、その生活があったからだもんな。」
手に持ったミルクティーを見つめる。

 ジオンの彼ら(少し語弊がある。集まったジオン残党の多く、3割程度は女性である。残党狩りもここまでジオンに兵がなく、女性がパイロットをしてたなんて知らなかったようだ。MSは女子供老人も有効的に兵士にするための兵器だから当然なんだが。)も度重なるジオン決起に参加したかった者も大半だったらしい。が、彼らとてデラーズ・フリートで、地球のジオン関係者にも被害が出て疑問を覚えて、グリプス戦役を迎える頃には8年もの潜伏生活。

 すっかり現地に夫や妻や子供が出来、仕事だって出来て、目の前の現実の生活に充実すら覚えていたらしい。色々と乗っていた機体は、いつかはサイド3などに帰りたいと保管して居たのだが、このグリプス戦役の過激さにティターンズやカラバに家族が殺されるのを恐れ、決起が出来ずにいた。

 ハマーンの地球侵略の際も、本当に信用できるのかと彼らの上官たちがギレン派、ガルマ派、キシリア派、ドズル派、ジオン共和国として名目は自治権は掴んだのにアクシズによって無くなるかもしれないと悩んでいるうちに決起をしそこなった。

 地球に住む彼らはシャアの反乱に共感はするものの、実際には十数年見てきた現地の生活に理想よりも現実を先に変えてくれ、100年1000年先の事を話すインテリ論法に反発した。当然、袖付きの決起の際には1年戦争から十七年、シャアの反乱により現地地球に帰化したに等しく、そこからは皆がすっかりとより地域に根ざして現地に基盤ができており、そこそこの資本を持つまでになっていた。今更決起もできないと諦めてそこから約10年、そして、彼等が恐れていた事態が起きた。地球連邦政府によるジオン共和国の自治権喪失と、それに伴い外敵は居なくなったと次々に拡大をする広域のマンハンターによる人狩りである。

 実際にマンハンターに捕まってしまって、激しい取り調べという名の拷問、ペットボトルとタオルから家族を殴りつけられたり、居住区に降り注ぐ機関銃、マンハンターは賄賂を請求し女子供を時には少年までレイプするものもいる始末で、金を払ってマンハンターとして人間を狩る上流階級もいるとまで言われており、わざと逃して関係ない住民まで撃ち殺していた。

 そこに拍車をかけるのは取り調べでジオン関係者とわかったらとんでも無い事になると言われている噂と、彼らは度重なる決起が出来なかった存在で、鉱山などでの過酷な労働刑を乗り越えて無事にサイド3に帰ろうとも、所謂敵前逃亡者である。それは、かつて連邦政府に帰順せずに民間に流れていたエゥーゴやティターンズの彼らも同じで、紅茶野郎みたいなエリートならまだしも一般参加者たちはティターンズやエゥーゴに参加して、地球連邦軍に帰らなかった単なる反政府主義者のクーデターテロリストとして処理される。この地球で失えないものが出来た彼らがこのマフティー軍に参加するのは、失えないものを守るためというのが殆どであり、マンハンターと言う巨大なトリガーが無ければ彼等は集まりもしなかったらしい。

 彼らが語る一番の懸念は、マスコミが流していたり、インターネットやSNSが語る現政権の軍人が参加した事による軍事政権化、これがマンハンターというものが作ったトリガーを引くことになったらしい。現に兼任していた役職を首相や副首相が批判を避けるために軍人に割り振っていて、兼任はすでに首相兄弟で各3つまでに減っていた。

 実際問題としては、当然集まって来た彼等は戦いたくはないが、戦わなければマンハンターにお遊びで狩られて座して死ぬ。それも家族を巻き込んでという形なので、仕方がなしに決起したに過ぎない。これがただの自分一人が決起をしたならば、家族も騙されていましたと言い張れば迷惑はかからないとそんな理由もあったらしい。それを聞かされて、「はい、帰ってください」とは言えなくて受け入れざるを得なくて困った。

 テロリストを作らないためには、テロリストに家族や財産を作らせてリスクとリターンを計算させたら良いのかとも思った。明らかに袖付きよりも守るべきもののために、死にに来た人数のほうが多いのを見ると、マンハンターが無ければ地球連邦政府の政策はそれなりに間違ってなかったのだろうなと思う。だからこそ、そのマンハンターと上流階級の傲慢さにより、環境も人の営みも滅び行くのをハサウェイが許せなかったんだろうなと思ってしまう。

 本来はジオンもティターンズもエゥーゴも集まってきた彼らは戦うはずの人達ではなかったのだから‥。だとすればこのマフティーブームと、少しだけ連邦政府に反省を促すダンスが流行ったのもわかる。

 彼らのような面と向かって連邦政府に抗議ができない脛に傷持つ人々が、マフティーという仮面を手に入れることによって、違う自分になってやりたい話ができるからだろう。まるでVTuberや匿名掲示板にSNSが流行っている現代とも似ているのだな。

 長々と考えているうちに料理が冷めてしまった。集まってきた彼らを考えると食欲がなくなってしまったが、残さずに全部食べた。しかし、冷めたミルクティーだけは飲む気が起きずにあきらめた。食わねばやってられるか、このやるせなさ。地球連邦政府が生かさず殺さず納税させると言う建前的な約束を守れば、彼らは決起もせずに幸せに暮らせていたのだ。これらの現実が所詮ここはガンダムの世界であって、何処か現実じゃないと思っていたから楽観視していた俺に堪えた。

 なぜ、あの時に俺がギギ・アンダルシアにあんなに深い怒りと恐ろしさを覚えたのか、今わかった。自分が死ぬとか思わずにどこかで自分は傍観者と思い、当事者意識もなく相手の内面に潜る。まるでそいつは、原作知識があってそれができる俺とそっくりだからだ。その醜い内面をギギのニュータイプ的な感性で暴かれ指摘されるのを恐れたんだ。プルとプルツーのように同族嫌悪だ。

 俺がハサウェイをここまで恐れていたのですら、目の前にある現実として宇宙世紀のこの世界を受け止めていたら、ハサウェイと似たような感情に支配されるかもしれないと何処かで分かっていて理解して現実逃避をしていたからだ。

 俺がかぼちゃのマスクを手放せないのも、マフティーをハサウェイに押し付けれなくなるからだけじゃなく、このマスクを一枚通して画面の向こうの視聴者になりたかったからだ。月面に行こうとするのも、月面に行けば地球の争いから俺は傍観者になれる。

 あのスタークジェガンのクレイ・バズーカの散弾中に飛び込めたのだって、現実ではないと思ってたからだ。

「そうか、これは現実か。」
マフティーとしての服として用意された紺色のスーツに水色のワイシャツ、赤いネクタイと赤いベストに着替えてマスクを被ると俺はこの現実に向き合うことにする。誰かの名言を借りるのではなく、本当の俺に。だからと言って、マフティー性とかを理解できるわけではない。いや、会話の単語が7割以上マフティーだけで会話してる奴いるから。本当に、本当に無理です。そのマフティーを理解するとか、現実に向き合ってもマフティーがこんなに意味を持つとか、そんなの理解できるわけ無いだろ!

 ふと端末を見ると検索上位の記事のタイトルがおすすめとしてピックアップされていた。
「マフティーがしなければマフティーしないといけません。マフティーだからマフティーするのです、とニホンのマフティーが宣言か。」
やっぱ辛いわ、この世界。疲れたときとか追い込まれたり、気分が上下したらやっぱり誰かの名言を言うわ。自分だけで受け止めるとかマフティー性が持つマフティーの可能性に殺されるわ。おかしい、生きるって辛いな。

 今日はケネスやギギ、閣僚に、上流階級をやっと出来たコンテナと木材を組み合わせたホテルに招待しなくてはならない。

 基地を歩く人々はオエンベリ軍なのか、オエンベリにやってきた義勇軍なのかは、その姿で分かる。義勇軍は統一されていない。オエンベリ軍は皆が軍服のような格好をしているからわかる。

「おはようございますマフティー!」「ジーク・マフティー!」「ジーク・マフティー!」
元ジオン軍人が来てから、ジーク・マフティーとか言う謎単語が増えた。ジーク・マフティーってなんだよ。早速、心が折れそうだ。

「ジーク・マフティーとは何かね?」
ジオン制服を着た彼に聞いてみよう。マジで辞めてくれよぉ。

「ジーク・マフティーとは、ジークは勝利で、マフティーはマフティーであります。マフティーがもたらしたマフティー性の‥‥。」
手で答えてくれた彼の発言を止めさせた。マフティー、マフティー、マフティー、そんなにマフティーが好きならな、お前がマフティーをやってみろよ。意味不明だぞ。

「わかったから大丈夫だ。ジーク・マフティーは結構。」
ネオ・マフティーとか、ジーク・マフティーとかオカルト過ぎでは?サイコ・フレームが彼らをマフティーにさせているのか?

「結構ですね。わかりました。」
わかったならいい。マフティーとは一体?中身が無いからこそ、何でも詰め込める買い物バッグ程度の扱いしか受けてなくないか?

 誰か俺にマフティーって何か教えてくれよ。



 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧