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英雄伝説~黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達~

作者:sorano
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第29話

~黒龍城塞・最奥~



「……………………」

「………戻っ、た………」

「………今の光は…………」

「悪しき息吹も……治まりました…………」

「ああ……ヤバイ気配も完全に消えている。

地面に倒れて目を伏せて黙り込んでいるアーロンをアニエスは驚きの表情で見つめ、大君が消える瞬間に顕れた光の球体に気づいていたメイヴィスレインは考え込み、フェリの言葉に頷いたヴァンは口元に笑みを浮かべた。

「フフ、やったじゃないか、アーロン君。」

「アーロンさんの中で二つの魂を感じました。多分、それに打ち克ったのでしょうね。」

アンゼリカは静かな笑みを浮かべてアーロンを見つめ、リタはアーロンに起こった出来事の推測を口にした。

「ゲホッ……ケホ……クッ……」

「アーロンさん……ッ!大丈夫ですか……!?」

するとその時アーロンが咳き込み、アーロンの様子を見て心配したアニエスがアーロンに駆け寄ってアーロンに声をかけた。

「ああ………それより……俺は……大君……あの野郎は……?それに……オフクロは………?」

「お前のお袋さんについては何を言っているのか俺達もわからねぇが、大君は綺麗さっぱり消えちまった。元のクソガキに完全に戻ってるぞ。ちゃんと―――――守れたじゃねぇか?」

アーロンの確認にヴァンは答えた後口元に笑みを浮かべた。

「ハハッ……そう、かよ。……………………」

ヴァンの答えを聞いたアーロンは目を丸くした後安堵の表情を浮かべた。

「ようやく終わったんですね……今回の一連の事件が……」

「はい……陽動も失敗ですし。今頃アルマータたちも撤退していると思います……」

3つ目のゲネシスを手に取って呟いたアニエスの言葉にフェリは頷いて答え

「幹部達を取り逃がしたのは残念でしたけど、貢献ポイントを稼ぐことはできましたね。」

「ああ。わざわざ煌都まで来た甲斐はあったな。」

タリオンの言葉に頷いたマーティンは静かな笑みを浮かべた。

「!いや―――――ひょっとしたら、”まだ終わってねぇかもしれねぇぞ。”」

一方ある気配に気づいたクロウは真剣な表情を浮かべて出入口へと視線を向けた。



「―――――大儀であったな。裏解決屋にアーロン、そして”エースキラー”に”北の猟兵”よ。」

するとその時聞き覚えのある老人の声が聞こえた後、ギエンが出入口から現れた。

「ギエン、爺さん……!?」

「ど、どうしてこの城砦に……!?」

ギエンの登場にアーロンとフェリは驚き

「あ……ひょっとして加勢に来て下さっていたとか……」

「…………………………」

ある事を推測したアニエスはそれを口にし、ヴァンは僅かに警戒した様子でギエンを見つめた。

「うむ、先程到着したばかりでな。ヌシらが解決できなかった時に備え、密かに戦力を整えていたわけだ。だが無用の備えだったようだ―――――今回の件、その働きに相応しい報酬を取らせることを約束しよう。下に船も呼んだ―――――後の事は儂に任せ、煌都に戻って休むといい。アーロンは儂と共に来るがいい。傷も深いようだし、後始末の話もある。」

「チッ、久々に会ったと思ったら……相変わらず抜け目ねぇ爺さんだぜ。だがまあ、確かにここからは黒月の出番か……」

ギエンの提案と指摘に舌打ちをしたアーロンは苦笑を浮かべた後立ち上がってギエンと共にその場から去り始めた。

(ふふ……よかったですね、アーロンさん。)

(はい、最近あんまり話してなかったみたいですし……)

「―――――待てよ、爺さん。」

去り始めた二人の様子を微笑ましそうに見つめて呟いたアニエスの言葉にフェリが同意したその時ヴァンがギエンを呼び止めた。

「………?」

「どうした、裏解決屋(スプリガン)?報酬については息子に伝えるといい。悪いようにはせん。」

ヴァンがギエンを呼び止めた事を不思議に思ったアーロンは立ち止まってヴァンへと振り向き、ギエンも立ち止まってヴァンに指摘した。



「それはありがたいが、そっちじゃねぇ。確かめたいことがあるんでね。あんた――――――”アルマータと手を組んでいやがったな?”」

「何だって………?」

「!?ハアアアッ!?」

ヴァンのギエンへの驚愕の問いかけにアンゼリカは眉を顰め、アーロンは一瞬固まった後困惑の表情で声を上げた。

「え、え………?」

「……それって……」

「じょ、冗談ですよね……?」

フェリも困惑し、アニエスは考え込み、タリオンは信じられない表情を浮かべた。

「……………………」

「おいおい………」

「……まさかとは思うが………」

一方ギエンは否定の言葉を一切口にせず黙ってヴァンを見つめ、ギエンの様子を見たマーティンとクロウは真剣な表情を浮かべた。

「……黒月とアルマータが本気で対立しているのは本当だろう。今回、お互いこの地でガチで戦争をするつもりだったのもな。だが―――――ある一点についてのみは”協定”に近いことが連中と結ばれていた。ギエン・ルウ―――――あんたと、恐らく他の長老のみが知る密約として。」

「密約……ですか?」

「オイオイ……何を馬鹿な………」

ヴァンの推測を聞いたリタは首を傾げ、アーロンは信じられない表情で呟いた。



「……あの言葉……『外禍を通じ内患を見定める』ですか。」

「!」

ギエンのある言葉を思い出したアニエスの言葉を聞いたアーロンは目を見開き

「ああ……”外禍”は当然だが”アルマータ”。”内患”は――――――つまりは”大君”ってわけだ。」

「!!!」

更にヴァンの言葉を聞いたアーロンは驚愕の表情で息を呑んだ。

「状況証拠だけなら幾らでもある。一つは、露天商が半グレに奪われてアルマータの手に渡った”とある装置”。あの露天商自体は”誰か”に託され、それを半グレに奪われた流れだが……アンタがアルマータの手に渡るように段取ってたとすれば全て説明がつく。そもそも黒月が封鎖していたこの地に先代大君と共に眠っていた品だしな。」

「それを回収してそんな形で……なんでそんな回りくどいことを。」

「それが政治―――――だからでしょう。敵対者に直接渡す体裁にしないための。」

「……………………………」

ヴァンの話を聞いてある疑問を抱いたフェリにアニエスが答え、ヴァン達の話を聞いていたアーロンは信じられない表情で黙り込んでいた。

「もう一つは、アルマータの連中が余りに40年前の話に詳しかったことだ。意図的に隠蔽され、街でも老人しか知らず、ほぼ口を閉ざしているような”真実”………北部のメッセルダムが拠点の連中に”誰”がそれを教えたんだろうな?」

「あ………」

「……爺、さん………」

ヴァンの更なる推測を聞いたフェリは呆けた声を出し、アーロンは信じられない表情でギエンを見つめた。

「3つ目はアンタのそいつへの態度だ。昔は仲が良かったそうじゃねえか?家族ぐるみで、そいつの母親や義理の姉込みで。ムカつくがそいつは人に好かれる(たち)だ。特にアンタみたいな老人なんかにはな。どうして―――――何の前触れもなく義理の姉も含めてえらく冷たく当たるようになった?」

「ウソ、だろ……ギエン爺さん?……ウソだと、言ってくれよ……!」

ヴァンの最後の推測を聞いたアーロンは悲痛そうな表情でギエンを見つめて問いかけた。



「全部―――――その男の指摘通りだ。チョウが見込んだ者とはいえよもやそこまで見抜かれるとはな。」

「外道が……!(そうなると”伏兵を潜ませている可能性が考えられ――――――いえ、確実でしょうね”……)……………」

そしてギエンがヴァンの推測を肯定するとメイヴィスレインは怒りの表情でギエンを睨んだ後ある事に気づいて厳しい表情を浮かべ、ギエンに悟られないようにヴァン達の背後へと移動して小声で魔術の詠唱を始めた。

「なんでだッ―――――!?どうしてそんなことをッッ!?アンタは昔は優しかった……!!近所のジッチャンとして俺にも姉貴にもオフクロにも良くしてくれた!いつからだ……!?いつから俺のことを―――――!?」

一方アーロンはギエンの腕を掴んで悲痛そうな表情でギエンに問いかけた。

「ここ数年だ。――――――かつての”先代”もヌシのごときあらゆる者を大いに惹きつける若者だった。成長し、頭角を現していくヌシは儂の中で日に日に”彼”と重なっていった。だから、確かめねばならなかった。――――――どんな手を使ってでも。」

「ッ………まさかレイ達が殺されたのも、姉貴もレイ達のように殺されたかもしれなかった事もアンタの予想内だったって言うのかッ!?答えてくれたよ!!爺さん――――――!!!」

「……当然、備えはしていたがあれについては奴らに上を行かれた。幾許かの犠牲は織り込み済みではあったが……レイ達には可哀想な事をした。」

仲間達の犠牲すらもギエンの予想内であったことをギエンが肯定するとアーロンは地面に崩れ落ちた。

「……あいつら……あいつらは………そんなことのために……………」

「―――――これが”今の”黒月のやり方だ。不満なら、ヌシがそれを変えればいい。」

「……ぇ………」

地面に蹲って犠牲になった仲間達の顔を思い浮かべて呻き声を呟いていたアーロンだったがギエンのある言葉を聞くと呆けた声を出した。



「この先は疑いようもなく混迷の時代―――――かつてない試練が待ち受けているだろう。だがヌシが先頭に立つならば黒月がそれを乗り越えることも叶おう。ただしそれは―――――非情にして巨いなる”大君”として。」

「……こいつを神輿に担ごうってか。しかもこいつ自身じゃなく、”大君”とやらに仕立て上げて。」

「然り――――――全ては黒月のためだ。」

ヴァンの指摘に肯定したギエンが合図を送ると凶手達がヴァン達の周囲に現れた!

「隠形……!」

「さ、最初から控えて……!」

「チっ……!」

凶手達の登場にフェリは驚き、アニエスは不安そうな表情で推測し、ヴァンは自分達の状況が悪くなったことに舌打ちをした。

「連れて行け。」

「聖なる光よ、降り注ぎ、炸裂せよ――――――爆裂光弾!!」

そしてギエンが凶手達に指示をしたその時その場にいる誰にもわからないように魔術の詠唱をしていたメイヴィスレインが魔術を発動し、メイヴィスレインによる奇襲――――――空より降り注ぐ無数の炸裂する光は頭上からの奇襲を警戒していなかった凶手達にとっては予想外の奇襲になった為ダメージを受けると共に怯み

「へっ、やるじゃねぇか!」

「彼らが奇襲で怯んでいる隙に可能な限り数を減らすよ!」

「「はいっ!」」

「ったく、後でどうなっても知らねぇからな!?」

「ナイスだ、メイヴィスレイン!――――――俺達も続くぞ!」

「はいっ!」

了解(ウーラ)!」

その隙にクロウ達とヴァン達も凶手達にそれぞれ攻撃を叩き込んで凶手達の半数を地面に叩き伏せさせるか、壁に叩きつけた!



「奇襲を受けたとはいえ、凶手達が一瞬で半数もやられるとはさすがはあの”大君”を制した者達と言うべきか……!」

一瞬で凶手達が半数も無力化された事に驚いたギエンは厳しい表情でアーロンを庇うようにそれぞれアーロンの周囲で武装を構えて凶手達と対峙しているヴァン達を睨み

「メイヴィスレイン、ギエンさんがアーロンさんを連れて行くように指示をした瞬間に魔術を放ったようだけど……もしかして、ギエンさんがアーロンさんを連れて行く指示もそうだけど、ギエンさんの部下の人達が潜んでいる事も気づいて先に準備をしていたの……?」

「ええ。そこの老人が今回の一件の黒幕の一人であると肯定した時点でこの場に”伏兵”を伏せている事には気づいていました。そして愚かにも『大君という自らには過ぎたる力を手にしようとする事』も。――――――これでもかつては天使達を率いて魔族達との数えきれない数の戦を行った身。伏兵もそうですが、過ぎたる力に魅入られた愚か者の浅はかな考えを見抜くこと等容易です。」

「ったく、黒月最古の長老の謀を”浅はか”と言い切った上見抜くのも容易とか、とんでもない”切り札”だぜ。」

アニエスの疑問に答えたメイヴィスレインの答えを聞いたヴァンは苦笑し

「我等黒月に何度も被害を与えた挙句、滅亡の危機にまで陥らせかけた忌々しきメンフィル帝国が飼いならしている異種族が………!黒月の長老たる儂らの考えを”浅はか”である事もそうだが、『過ぎたる力を手に入れようとする愚か者』と呼ぶとは随分と大きく出たものよ。凶手達よ、まずはあの小癪な天使を――――――」

ギエンは怒りの表情を浮かべてメイヴィスレインを睨んで凶手達に新たな指示を出そうとしたその時

「あらあら、実際そちらの天使の言う通り、一度はメンフィル帝国によって滅亡の危機に陥らされたにも関わらず”結社どころか、鉄血宰相すらも滅ぼしたメンフィル帝国”を甘く見ていた貴方達黒月の長老達は愚かで浅はかじゃない。」

「え――――――」

「!?なんであんたがここに――――――」

その場にいる誰でもない女性の声が響き、声が聞こえた方向に視線を向け、屋根の部分にいつの間にか現れていたエンネアを目にしたアニエスは呆けた声を出し、ヴァンが驚きの表情でエンネアを見つめたその時

「――――――ハッ!」

エンネアが矢を機関銃のように怒涛に放って残りの凶手達を怯ませ、更にエンネアの背後から現れて凶手達に襲い掛かったデュバリィの神速の剣が、アイネスの斧槍(ハルバード)の重い一撃が、”天使の姿のマルティーナとユエファ”の聖槍と鉄扇によるそれぞれの一閃が、そして銀髪の少女による体術が残り半数の凶手達に命中し、それらに命中した残り半数の凶手達も地面に叩き伏せられるか、壁に叩きつけられた!



「フフ、ごきげんよう。」

そして屋根から飛び降りて着地したエンネアはヴァン達を見回して声をかけた。

「新手――――――!?」

「ちゅ、中世の騎士装束……!?そ、それにマルティーナさん、”その姿”は……!」

「”天使”……」

「”鉄機隊”に加えて”ラギール商会”の”銀髪の売り子”までいやがるとか、一体何が起こっていやがる……!?」

「私達の”敵”を攻撃したという事は少なくても、”私達の敵ではない”と思いますよ。」

デュバリィ達の登場にフェリは警戒の表情を浮かべて声を上げ、デュバリィ達を目にしたアニエスは困惑の表情を浮かべた後背中に四枚の翼があり、頭上には光の輪っかがある姿―――”天使”の姿のマルティーナに気づくと驚きの表情を浮かべ、タリオンは呆けた表情で呟き、ヴァンは信じられない表情で声を上げ、リタは興味ありげな様子でデュバリィ達を見回して推測を口にした。

「………馬鹿な……………何故”とうの昔に死んだヌシがそのような姿で生きてそこにいる”………!?――――――ユエファ……ッ!」

「オ、オフクロ……ッ!?」

一方ギエンとアーロンは信じられない表情で服装はアシェンのような東方文化の服装でありながらも背に二枚の翼を生やし、頭に光の輪っかがある姿の女性――――――”天使の姿のユエファ”を見つめて声を上げた。



「ハアッ!?」

「ええっ!?アーロンさんのお母さん……!?」

「確かアーロンさんのお母さんはアーロンさんが幼い頃に亡くなったのでは……?」

二人の言葉を聞いたヴァンとフェリは驚きの表情で声を上げ、アニエスは戸惑いの表情で呟き

「フフ………初めまして、私の大切な息子に力を貸してくれている裏解決屋さんにその仲間の人達。―――――私の名前はユエファ・ウェイ。貴方達の知っての通り、大切な息子(アーロン)の母にして、今は義娘であるマティの”使霊”よ。」

「――――――改めて名乗るわ。天使階級第三位”座天使(ソロネ)”マルティーナ・ウェイ。アーロンの義理の姉にして、かつては”イムニス”の地の天使陣営の”統率者”を務めていた者よ。」

「な……っ!?」

「おいおい……冗談だろ?”天使階級第三位”って事は、現在ゼムリアで活動している事が確認されている最も階級が高い天使である第四位の主天使(ドミニオン)よりも上の階級の天使”って事じゃねぇか……!?」

「”使霊”というのは何なんだい?」

「えっと……”使霊”とは確か”天使が自身を守護する為に生み出した存在――――――つまり、使い魔”だったはずですよ。」

ユエファとマルティーナはそれぞれ自己紹介をし、マルティーナの自己紹介のある部分を聞いたメイヴィスレインは絶句して驚きの表情を浮かべてマルティーナを見つめ、ヴァンは表情を引き攣らせて声を上げ、ユエファの自己紹介の際に出て来た気になる言葉が気になったアンゼリカの疑問にリタが自身が知っている知識で答えた。



「”オフクロが姉貴の使い魔”………――――――姉貴、一体どういう事なんだ……!?何でガキの頃に死んだオフクロが……!」

「ユエファが亡くなったあの日の夜………本来なら新たな生を受ける為に”冥き途”に向かうはずだったユエファの”魂”が私の所に来て、”自身の魂を代償にして私との守護天使契約を強制的に結ばせたのよ”。」

「た、”魂を代償”にって、まさか………」

「………ええ。そのユエファとやらの魂はそちらの天使――――――マルティーナの”糧”となり、”マルティーナの力の一部になってしまったのでしょう。”」

「なるほどな……で、その”使霊”とやらは”天使の力によって生み出される存在”だから、そこの天使が”自分の力の一部になってしまったユエファ・ウェイを使霊として生み出した”って訳か。」

リタの話を聞いたアーロンは困惑の表情でマルティーナに訊ね、訊ねられたマルティーナが口にした説明を聞いてある事を察したアニエスは信じられない表情を浮かべ、メイヴィスレインが静かな表情でアニエスが言おうとした言葉の続きを口にし、それを聞いて事情を察したマーティンは真剣な表情で推測を口にした。

「ちょっと待て。”守護天使契約”は確か”その天使が導くと決めた相手と結ぶ契約だろう?”なのに、その”契約相手が守護天使の力の一部”になっちまったら、”守護天使が導くべき主がいない”という本末転倒な事になるんじゃねぇのか?」

するとその時新たな疑問を抱いたクロウがそれを口にした。

「………”私が導く相手はユエファではなく、アーロンよ。”」

「……ぇ………」

「という事は、お袋さんは”自らの魂を代償にマルティーナにアーロンの守護天使として契約させた”という事か………」

クロウの疑問に対して答えたマルティーナの答えを聞いたその場にいる全員が血相を変えている中アーロンは呆けた声を出し、ヴァンは真剣な表情でマルティーナとユエファ、そしてアーロンの”契約”の流れについての推測を口にした。



「何でだ、オフクロ………何で自分の魂を代償にしてでも、姉貴と俺に”守護天使契約”とやらを結ばせたんだ……!?」

「そんなの勿論決まっているでしょう?私の大切な息子であるアーロン、貴方の為よ。――――――貴方の中に眠る”大君”が将来目覚めたり、もしくは黒月が貴方を”大君”として目覚めさせて利用しようとした時の”対策”よ。――――――まさに今の状況のようにね。」

悲痛そうな表情を浮かべて問いかけたアーロンに対して優し気な微笑みを浮かべて答えたユエファはギエンに視線を向け

「!!!」

「よもや儂ら”長老”達の内密の計画をそんなにも早い時期からユエファに見抜かれていたとはな………だが、ユエファよ。何故ヌシが”大君の存在を()っている?”ヌシの両親が幼いヌシを連れて煌都に居を構えたのは”先代大君”をこの地に封じてから数年後………ヌシもじゃが、ヌシの両親も大君の存在を()る事等できないはずじゃ。」

ユエファの話を聞いたアーロンは目を見開き、真剣な表情で呟いたギエンはユエファに新たに抱いた疑問を指摘した。

「ええ、ギエンさんの言う通り確かに私もそうだけど私の両親も大君の存在は()らなかったわ。――――――だけど、”子”というのは”母だけで作れるものではない事”をお忘れですか?」

「”子というのは母だけで作れるものではない”………――――――!もしかして……アーロンさんのお父さんがユエファさんに”大君”の事を……!?」

「ああ……ッ!」

ギエンの指摘に頷いた後ギエンに問いかけたユエファの問いかけを聞いて察しがついたアニエスが驚きの表情で推測を口にし、それを聞いたフェリは声を上げ

「アーロン、貴方は貴方が物心つく前にいなくなって私の手だけで貴方を育てさせた父親(リロイ)の事を嫌っているけど、リロイの代で”大君”との決着をつけられず貴方が産まれた事で貴方に”大君”を受け継がせてしまった事に関して本当に申し訳ないと思っている気持ちもそうだけど、貴方の未来を心から心配していた事は”事実”よ。」

「!………あのクソ野郎が………………」

自分に視線を向けて苦笑を浮かべて答えたユエファの話を聞いて目を見開いたアーロンは複雑そうな表情で呟き

「リロイから”大君”の事を教えてもらってからずっと貴方の未来を心配していたけど……行き倒れのマティを拾ってマティの事を知ったあの日にようやく安心できたのよ。例え私がいなくなっても、マティがいればアーロンの未来は大丈夫だって。何せ天使達の中でも相当な実力者の主天使(ドミニオン)とやらだからね。――――――ま、唯一の誤算はマティに私の”全て”を託してマティの力の一部になった私が種族は違えど、”私として今こうして存在していられる事”だけどね。」

「そもそも私は貴女が自らの魂を代償にしてでもアーロンとの守護天使契約を結ばなくても、元々アーロンを守るつもりだって言ったのに貴女が強行したのだから、せめて貴女の自我を保ったままの貴女を”使霊”として生み出すのは当然よ。本来死後新たなる生を受けるはずだった貴女の魂は私の力の一部になってしまった事で、今後転生する事が相当難しくなってしまったのだから。」

アーロンから自分へと視線を向けたユエファに対してマルティーナは疲れた表情で答えた後複雑そうな表情を浮かべた。

「フフ、我が子を守る為なら母はどんな事でもするって、昔から言われているでしょう?――――――大切な我が子を守れるなら、私は”どうなったって気にしないわ。”けどそのお陰で大切な息子による”大君”との決着にも加勢する事ができたし、こうしてまたアーロンと話す事ができたのだから、マティには本当に感謝しているわ。」

「オフ……クロ………」

「”母は強し”とはまさにこのことを言うのだろうな。」

「ふふっ、そうね。彼女の信念はかつて”全ての元凶(イシュメルガ)”の抹殺の為に行動されていた”あの御方”の信念にも決して劣らないでしょうね。」

「ええ。そしてその結果が黒月の長老達の謀をも出し抜いたのですから、”見事”と言う他ありませんわね。」

優し気な微笑みを浮かべたユエファに微笑まれたアーロンは泣きそうな表情を浮かべ、その様子を見ていたアイネスやエンネア、デュバリィはそれぞれ感心した様子でユエファを見つめて呟いた。



「リロイ・ウェイ……(ユエファ)が稼いだ金を酒や賭け事につぎ込んだ挙句ルウ家にも目を付けられた事で煌都から追放されたあの下郎がまさかそのような置き土産をしていたとは………どこまでも忌々しい男よ…………」

するとその時ギエンが忌々しそうな表情を浮かべてある人物の事を思い浮かべて呟き

「ギエンさん。ちょうどいい機会でもあるから、先程のヴァンさんの貴方のアーロンへの態度の急変の件についての”続き”を一応確認させてもらってもいいかしら?」

「……………………」

「”続き”、ですか?」

「アーロンもそうだが、マルティーナに対する態度の急変に関してはその爺さんはまだ答えていなかっただろう?ま、今までの流れと今のこの状況を考えたら、大体の想像はできるがな。」

静かな表情を浮かべたマルティーナに見つめられて問いかけられたギエンが黙り込んでいる中マルティーナの言葉の意味がわからず不思議そうな表情をを浮かべているタリオンの疑問に答えたヴァンは周囲に倒れている凶手達を見回した後真剣な表情でギエンを見つめ

「まさか………」

「ユエファさんが亡くなった後のアーロンさんにとって唯一の家族にしてアーロンさんが心から大切にしている”姉”であるマルティーナさんが”大君”の降臨に支障が出かねない、もしくは黒月の神輿として”大君”に仕立て上げたアーロンさんが黒月からの脱退、または裏切りの可能性になりかねない存在だったからですか………」

ヴァンのようにある推測に気づいたアンゼリカは真剣な表情を浮かべ、アニエスが真剣な表情で答えを口にした。

「しかもマルティーナもアルマータに襲撃された件を考えると………今回のこの一件でマルティーナが”アルマータによって殺される事も想定内”―――――いや、最悪”大君”の時のように”大君の降臨の為にはマルティーナを殺す必要がある”ようなことをアルマータに伝えて、アルマータにマルティーナを殺すように誘導したんじゃねぇのか?」

「………さすがにそこまではしておらん。先程も言ったように、犠牲の件については奴らに上を行かれただけの事だ。」

「――――――その割には私が務めているホテルからの指示という名目で私に”2番街”の人気(ひとけ)のいない所――――――いえ、”人払いをした場所”に向かうように誘導して、ガウランという男に私を襲わせましたけど、それについてはどうお答えするつもりですか?」

「な――――――ガウランに襲撃されただとっ!?姉貴、その話はマジなのかっ!?」

厳しい表情を浮かべたクロウの指摘に対して答えたギエンの答えを聞いたマルティーナは真剣な表情でギエンに更なる指摘をし、マルティーナの口から語られた驚愕の事実を知ったアーロンは絶句した後驚きの表情でマルティーナに確認した。

「ええ、今日の18時頃にね。」

「その”ガウラン”という人物は何者なんですか?」

「”月華最強の男”と称されている黒月に所属している武闘家だ。確か所属している派閥は”ルウ家”ではなく、”ライ家”だったはずだが………18時頃――――――俺達がこの城砦の探索を始めた頃に襲撃させたって事は、目的は大方”大君”として黒月の神輿として担ぐアーロンに自分達の思い通りに動いてもらう為の”人質”にする為と言った所か。」

アーロンの問いかけにマルティーナが答えた後二人の会話から出て来た人物が気になったフェリの疑問に答えたヴァンは自身が考えた推測をギエンに指摘した。



「その通りだ。……最も幾ら腕が立つとは言え、あのガウランを”返り討ち”にした挙句監視の者たちも含めてずガウラン共々全員病院送りにする程ガウラン達が徹底的に痛めつけられるとは思わなかったが………ヌシの”正体”を知った今では、ガウランすらも返り討ちにしたという話も納得したわい。」

「その様子ですとガウランという男を撃退して監視の人達にも重傷を負わせたのは私だと思っているようですけど、それは違いますよ?確かに”私自身の手で撃退する事も可能でしたけど、ガウランという男もそうですが、監視の人達を病院送りにしたのは実際に迎撃しようとした時に突如介入してきた人達の手によるものです。”」

ヴァンの指摘に肯定したギエンは苦々しい表情でマルティーナを見つめたが、マルティーナはギエンにとって予想外の答えを口にした。

「何……?――――――なるほど、”鉄機隊”、もしくはそこのラギール商会の”銀髪の売り子”の仕業か。」

「……………………」

マルティーナの答えを聞いて眉を顰めたギエンだったがすぐに察しがついてデュバリィ達や銀髪の少女を見回し、ギエンの指摘に対して銀髪の少女は何も答えず黙り込んでいた。

「そういえば何でお前らが煌都にいるんだよ?お前らの担当は”アルマータ”関連の”本物の拠点”の捜索だと聞いているぜ。」

「ええ。ですが本日、”本国”――――――それも”英雄王”とシルヴァン皇帝の連名による緊急の指名(ノミネーション)要請(オーダー)が下された為、その対処の為に急遽この煌都に訪れたのですわ。」

「え、”英雄王”――――――メンフィル帝国の前皇帝にしてメンフィル帝国の大使でもあられるリウイ前皇帝陛下と現メンフィル皇帝であられるシルヴァン皇帝陛下の連名による緊急の指名(ノミネーション)要請(オーダー)、ですか………?」

「その話も気になるが、まさかとは思うが”鉄機隊”の連中も―――――」

一方ある事が気になっていたクロウの疑問に答えたデュバリィの話を聞いたアニエスは戸惑い、ある事に気づいたヴァンがその推測を口にしようとしたその時

「まさか”凶手”達を全員無力化するとは………なっ!?ユ、ユエファ………!?」

「おやおや、これはまた興味深い状況になっているようですね。」

驚いた様子のファンと興味ありげな様子のチョウの声が聞こえた後、ファンがチョウや黒月の構成員達と共にその場に現れた―――――





 
 

 
後書き
というわけで原作では故人のユエファが登場できた理由はマルティーナによって使霊として生み出されたからでした(冷や汗)それと既に察している人もいると思いますが、デュバリィ達が登場したということは”某聖女”の登場も間近になっています(黒笑)なお、デュバリィ達の登場シーンからかかるBGMは空シリーズの”Cry for your Eternity”だと思ってください♪ 
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