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海の魚

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第一章

                海の魚
 インカの話である。
 かつて海には魚がいなかった、池にいるだけだった。
 それで池を司る女神ウルピワチャックはその魚達を時折釣って調理して食べていた、初老の女の外見を持つ彼女は笑って言っていた。
「お魚は美味しいから皆にも食べてもらいたいわ」
「しかし池にしかいないぞ」
 創造の神であるヴィコラチャ、白い肌と黒く長い髭を持ち彫のある顔の彼はウルピワチャックに対して言った。
「だからな」
「皆食べられないのね」
「そうだ、池に行かないとな」
「私が司る」
「誰もが池に行けるか」
 こう言うのだった。
「違うな」
「それはそうね」
「だからだ」
 ヴィコラチャはウルピワチャックに対して言った。
「それをだ」
「何とかするのね」
「そうだ、さもないとだ」
 そうしなければというのだ。
「誰もが魚をふんだんに食べられないぞ」
「それもいつも」
「我等神もでだ」
 自分達もというのだ。
「そして人や他の生きもの達もな」
「折角美味しいのに」
「だからだ」
 それが為にというのだ。
「池よりも遥かに広い海にだ」
「お魚がいられる様にするの」
「そうするのだ」 
 こう言うのだった。
「これからはな」
「そうね、そうしたらね」
 ウルピワチャックもそれならと頷いた。
「皆が食べられる様になるわね」
「それに池にだけいるとな」 
 魚達がというのだ。
「それぞれの池で増え過ぎる」
「狭いお池に」
「誰もが池に行かないと食べられないのならな」 
 釣ってというのだ。
「それぞれの魚同士で食い合うにしてもだ」
「それでは減るにも限度があって」
「それでだ」
 そうした状況になってというのだ。
「そうなるぞ」
「それはそうね」
「どの池も魚で一杯になってな」
「どうしようもなくなるわね」
「だからだ」
 そうなることが予想されるからだというのだ。
「いいな」
「海にもお魚が行く様にして」
「広い海にな」
「皆が食べられる様にするのね」
「そして海は広いからな」
 それ故にというのだ。
「幾ら魚がいてもな」
「大丈夫ね」
「それぞれの池にいるのでなく広い海にいる様にすればな」 
「ではそうなる様にしましょう、けれど」
 ヴィコラチャの言葉に頷きつつだ、ウルピワチャックは彼に尋ねた。
「一体どうしてお池と海をつなぐのよ」
「そのことか」
「貴方の考えはわかったけれど」
 それでもというのだ。
「一体どうして」
「案ずるな」
 ヴィコラチャは確かな声で答えた。 
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