FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
勝者は・・・
第三者side
残り時間は10分を切っている。その中で闘技場の中に残されているのは三人。
『さぁ!!残るは妖精女王のエルザと水の妖精シリル!!そして蛇姫の鱗のシェリアたんの三人だぁ!!』
『シェリアたんって・・・』
『COOL!!』
相変わらずのロリコンぶりを見せるチャパティに笑いが巻き起こる会場。しかし、そんな弛い空気は長くは続かない。すぐに観客たちの視線は中央に集まりつつある三人へと向けられていた。
「誰が勝つと思う?」
選手たちの待機場所からは離れた応援席。そこで隣にいる自身と同じエクシードに問いかけたのは黒色の猫。それに対し、すぐ真横にいた焦げ茶色の猫と白猫は嬉々として答える。
「もちろんシリルだよ!!シリルが負けるわけないもん!!」
「そうね。エルザもシェリアも強いけど、場所が場所だからね」
水の滅竜魔導士である茶猫の相棒である少年へと期待を寄せる二匹。ただ、それを否定するのは青い色の猫。
「でも相手はあのエルザだよ?シリルでも厳しいんじゃないかなぁ?」
彼の対抗馬となりうる最大の脅威のことを彼はよくわかっていた。そしてそれは後ろにいる妖精の尻尾の面々も同様であった。
「どっちにも負けてほしくないけど、一騎討ちになるのは間違いないよね」
周りがどちらが勝つかの論争になっている中、一人冷静な言葉を漏らしたのは文学少女。彼女のその意見には全員が賛同した。その理由は単純明快。
「初めて同じギルドが参加しているメリットが生かせるな」
「あぁ」
「まずは二人で協力してシェリアを倒して・・・」
「そこから二人で順位決定戦だよね」
運がいいことにこの大会には妖精の尻尾のみが二つのチームが参加している。復興祭と称していることもあり人気のあるギルドから人員を多く参加してもらうための運営の策略だったが、今回はそれが功を奏しそうだ。
「そんな単純に行くかなぁ?」
ただ、一人の少年だけはその考えに納得できていなかった。そしてそれは的中することになることを彼自身も思ってもいなかった。
シリルside
セレーネさんとの戦いを終えてすぐにこの二人。ただ、彼女たちも戦いを終えたばかりであるためか、どこか疲労の色が見えていた。
(二人は残りどれだけ酸素を持っている?)
先の戦いの際に他のバトルに気を払うことができていなかったため、二人があと何個魔水晶を残しているのか、そして今咥えているそれがどれだけ残っているのか把握ができていない。
(少なくとも最後まで空気は持つ。問題はそこからか)
序盤に四つ首の番犬から奪った魔水晶もたった今セレーネさんから手にした魔水晶も空気は十分に残っている。残り時間を戦いながらでも酸素は持つはず。他の二人の酸素量次第では消耗戦に持ち込むことも可能だけど・・・
ゴボゴボッ
頭を使っているせいか、水中で戦っているせいで疲労が普段よりも増しているせいか、気泡の量が増えている。ただ、そんな中俺は二人が一瞬目を合わせたことに気が付き、違和感を覚えた。
「なんだ?」
全員が敵であるこの状況、三人とも自分以外の二人を視界から切らないようにしていたように見えたのに、一瞬だけ二人とも俺から視線を切って目を合わせていた。それの意味がわからず動こうか迷っていると、先に動いたのはその二人。しかも彼女たちはまるで合わせたように俺へと突っ込んできたのだ。
「うわっ!!」
思わず回避行動を取る。間一髪で交わしたことで三人でのバトルロワイヤルが始まるかと思ったが、二手に分断してこちらを挟み打つようにしている彼女たちを見て、全てを理解した。
「悪いな、シリル」
「これが一番得策だからね」
そう言った二人の視線は俺にしか向けられていない。ようやく状況を把握した俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。
第三者side
「なんじゃ!?エルザは何をしておるんじゃ!?」
同じギルドであるシリルをシェリアと共に挟み撃ちにしている女剣士を見て困惑の声を発するマカロフ。それは妖精の尻尾全員が感じていたことを代弁したものだった。
「なんでシリルと一緒にシェリアを倒す選択を取らないわけ?」
「漢・・・じゃないよな?」
「何を考えてるの?エルザさんは」
彼女のこの選択に応援席で見ていた面々はざわついていた。それは仲間であるものだけでなく、全ての観客が同じリアクションをしていた。
「なんとなくそんな気はしてたよ」
「ロメオ?」
その中で一人だけ冷静にことを見ていたのは今挟み撃ちにあっている少年と同年代の人物。彼は二人に攻撃を繰り出されている少年を見ながら自身の考えを述べた。
「エルザ姉とシリル兄が協力すれば確かにシェリアは倒せるけど、このフィールドじゃあエルザ姉でもシリルに勝てるかわからない、つまり二位がほぼ確定しちゃうんだ。対してシェリアはここで二人にやられると三位になってそれ以上どうしようもできなくなる。でも、ここで二人が協力するとどうなる?」
「あ」
ロメオの解説を聞いて彼が言いたいことに真っ先に気付いたのはアルザックだった。それと同じくして数人はこの事態の原因に気が付いたが、まだ気が付いていないものたちは彼らが何に気が付いたのか皆目検討もついていない様子。
「なんだよ、どういうことだよ」
「それがどうしてシリルを攻撃することに繋がるんだよ」
ジェットとドロイが問い詰めるように声を荒げると、アルザックが代わりに説明し始めた。
「もしここでシリルが負けたら、二人とも一位になれる可能性が十分に出てくるんだよ」
「「「「「!!」」」」」
シリルが負けることによって得られるメリット、それはこのフィールドで絶対的な力を発揮できるであろう少年がいなくなれば、二人ともより高い順位での競技終了が狙えるからだった。
「そうか!!シリルがここで落ちれば実力的にはエルザが一位になれる!!」
「けど、残り時間も少ないからシェリアは酸素の消耗を減らして逃げ切れば一位になることも可能ってことか!!」
全員が理解すると同時にこの異常事態の辻褄が合うことに納得する。そしてこうなってくると状況は一気に変わってくるのだ。
「三人ともさっきの戦いで消耗してるから酸素の消費が早い。おまけに二人を相手にするとなればシリル兄でも大きな酸素の消費は避けられない!!」
その言葉の通り、二人に攻められているシリルの口から溢れ出る酸素の量は次第に増しているのが遠目からでもよく見えていた。
レオンside
「やっぱりこうなるのか」
「だろうな」
「オオーン」
次々に換装を繰り出す緋色の剣士とそれに合わせるように強烈な風を繰り出し続ける少女の前に防戦一方になっている水の竜。ただ、こうなることを予期していた俺たちには驚きはない。
「ただ、残るのがエルザか」
「それがネックだよね」
シリルを倒した後に残るのがエルザさん。正直シェリアとエルザさんだと普通に戦えば後者が勝つのは間違いない。
「シェリアも強いよ!!」
「キレんなよ」
トビーの怒りもわかるけど、正面から戦ったらまぁ普通に負けるだろう。ただ、これは大魔闘演武の競技パート。普通のバトルじゃない。
「酸素量ならシェリアの方が有利かな」
エルザさんは恐らく今咥えている魔水晶の酸素しかないはず。それはほぼ満タンの状態から入手しているはずだからまだまだ中身は残っているだろうけど、シェリアはディマリアから満タンではないものの二つの魔水晶を奪っている。仮にシリルの魔水晶をエルザさんに取られても、まだリードしているはずだ。
「あとはどれだけ時間が―――」
タイマーに目をやろうとしたその時、俺はその動きを止め、視線を元の位置へと戻していた。
「なんだ?」
絶対絶命の状況のはずなのに、なぜか口元を緩ませているライバル。彼のその笑いが追い込まれたことにより出てきたものなのか、はたまたまだ何か秘策があるがゆえのものなのか、判断することができなかった。
シリルside
「天神の舞!!」
「ハァァァ!!」
水圧も関係ないほどの竜巻を起こすシェリアとそれを見事に回避しながらまるで陸上を走っているかのようなスピードで接近してくるエルザさん。
しかし俺はそれを難なく回避する。もちろん酸素の消耗は激しいけど、それでも二人の攻撃は先程から一度も捉えていない。
『シリルたん防戦一方!!さすがにシェリアたんとエルザ相手では厳しいか!?』
なかなか反撃に出られていない姿を見てそんな解説が聞こえてくる。確かに俺は二人がかりになってから一度も攻撃を繰り出せていない。いや、正確には―――
「天神の・・・」
右腕に黒い風を纏わせ追撃に入るシェリア。エルザさんの攻撃直後だったこともあって彼女はすぐ目の前へと来ている。だけど・・・
(今だ)
それが俺の狙い。二人は元々接近戦を得意としてくるタイプ。必然的に近い距離での戦いになる。おまけに二人が協力して攻めてくるとなればできるだけこちらに反撃の余地を与えないように次々に魔法を繰り出せるようにしてくるはず。
まともにやれば反撃することもできずに酸素切れになるところだけど、二人はそもそもお互いのことをよくわかっていない。そんな状態で完璧な連携が続くわけない。現に今、シェリアの攻撃のカバーをエルザさんができていないこのタイミングなら、俺にも反撃することができる!!
「ぷっ」
「いだっ」
そう思い立つとすぐさま俺は咥えていた酸素魔水晶をシェリア目掛けて放った。
レオンside
「は!?」
シリルの口元から吹き出された魔水晶はシェリアのおでこを確かに捉えた。しかし、その行動に俺たちは困惑するしかない。
『なんだぁ!?シリルたん突然酸素魔水晶を吹き出しました!!』
『カウントに入るカボ!!』
ルールに乗っ取りシリルの脱落へのタイマーが起動される。このままいけば予定通りシリルが三位からのシェリアとエルザさんの一騎討ち・・・なんだけど・・・
「シリルはもう一個魔水晶を持っていたはず・・・」
リオンくんの言う通り、シリルはまだ酸素を持っている。先程自ら手放したそれを追いかけないところから見るに、あの魔水晶は酸素切れで騙し討ち的に使ってきたんだろう。
「モード竜魔!!」
たぶんすぐにでも新しいものへと変えるだろうと思っていた矢先、彼はそんな素振りも見せることなく天空魔法を纏わせると魔水晶の衝突により体勢が崩れた少女へと一直線に向かっていく。
「違う!!」
「「え?」」
「オオーン?」
それを見てすぐに彼がなぜあのような行動を取ったのか、そしてこれからどうするのかすぐにわかった。
「シリルはこの30秒で決めるつもりなんだ!!だから少しでも軽くするために魔水晶を捨てたんだ!!」
「なっ・・・」
「マジか!?」
シリルの作戦はいたってシンプル。恐らくあいつはシェリアとエルザさんの連携の乱れに乗じて、彼女たちがしたように一切反撃の余地を与えずに勝ちきるつもりなんだ。
「しかし・・・間に合うか?」
カウントダウンは着実に進んでいる。いくらシリルの得意なフィールドとはいえ、残り30秒足らずで間に合うとは・・・
「竜魔の翼撃!!」
「キャアアアアアア!!」
そんなことを考えている間にあっという間にシェリアへと攻撃を放つと、それは見事に彼女を捉え、その衝撃により魔水晶が口から離れてしまう。
「なっ・・・」
しかも今のシリルの攻撃は普段よりも明らかに増しているように見えた。その結果シェリアが持っていた予備の魔水晶もろとろフィールドへと打ち放たれ、とてもじゃないが10秒では回収できないほどに離れてしまう。
「これじゃあシェリアはどうしようもない」
「水着だから隠しておくこともできなかったしね」
この競技に入る際に全員が水着へと着替えさせられた。そのせいで普段ならものを隠しておけるようなところもなく、強い衝撃があればすぐにものを落としてしまう状況になっていた。
そしてシリルはシェリアのカウントダウンが終了するのを待たずに次のターゲットへと視線を向ける。それは彼女の敗北を確信してのことだった。
「やるなぁ、シリル。だけど・・・」
自身の残り時間が少ないことがわかっている彼は猛スピードでエルザさんへと迫る。ただ、彼の作戦には欠陥がある。
「そううまくいくかなぁ」
そしてその欠陥にはエルザさんも気付いているはず。となると今有利なのは彼女。それをどうやって彼が覆すのか、全員の注目が集まっていた。
第三者side
背後で水と風の渦に巻き込まれている少女に一瞥もすることなく次なるターゲットへと最短距離で向かう少年。そんな彼を見て対する人物は自身が取るべき行動を判断できずにいた。
(ここはどうする?やはり逃げるべきなのか?)
少年のタイマーは残り20秒弱。もしこのまま下がりさえすればその時間を消費することは可能だろう。だが、それが本当に最善手なのか彼女はわからずにいた。
(しかし相手はシリルだ。私が一時的に退避することも想定しているのではないか?)
現在エルザの手元にある酸素は咥えているもののみ。対してシリルは一つそれを持っている。その残量はわからないが、まだ吸っていないところを見ると自身よりも多いと想像することができる。
(ならここは迎え撃つべきか?)
もし距離を取ればシリルは持っている酸素に手を伸ばす。そうなるともし決着がつかなかった場合シリルに負ける可能性が高い。
(だが・・・それすらシリルの思惑のうちに感じてしまう)
酸素が限られている空間での思考のためかなかなか考えがまとまらない。普段ならありえないほどの長考・・・しかしそんなことをしている余裕がないことに彼女は手遅れになるまで気付かなかった。
「竜魔の・・・」
「!!」
視線を一切切ることなく見ていたはずの敵がいつの間にか目の前に来ているのだ。彼女は慌てて対応しようとするが、少年の拳はその剣を弾き飛ばした。
「鉄拳!!」
「なっ・・・」
反応が遅れたことで剣を握る力が入っていなかったエルザ。しかし、彼女の魔法ならそれも大した問題ではない。
「換装!!」
水中での戦いに適している海王の鎧。それに身を包んでいたエルザだったが武器を失ったことで別の鎧を呼び出そうとする。しかし、それは今彼女が取るべき最善手ではなかった。
「竜魔の顎!!」
「!?」
換装の体勢に入ったエルザ。そんな彼女の脇腹に向けて両手を握り合わせたシリルの一撃が入る。
「えぇ!?」
「あれいいの!?」
「まぁ・・・隙だらけといえば・・・ね?」
まさかの一撃に少年の応援団であるはずのウェンディたちですらこの反応。
「卑怯な気もしますけど・・・」
「そうね。でも・・・」
魔法の発動の最中の攻撃だったことでそれはどうなのかと言う疑問も脳裏を過ったが、ミラジェーンの見解によりそれが間違いだったとすぐに気付かされる。
「エルザの換装の間に攻撃なんて、普通の人は間に合わないわよ?」
「そういえば・・・」
エルザの魔法の熟練度は非常に高い。そのためコンマ数秒の間に次の鎧になれるため今まで誰も換装の最中の攻撃を突くことができなかった。しかし今、シリルの攻撃は誰も成し得なかった攻撃を可能にしていたのだ。
『シェリア選手退場です!!』
場内に響き渡るのは先程シリルとの戦いに破れた少女の敗北の声。そしてそれは残り時間の短さを物語っていた。
「あと何秒?」
「もう10秒ないよ!!」
「早くしないと」
酸素魔水晶が敵から外された場合は10秒以内に再度それを咥えなければならない。シリルの場合は自らの意志で外したため取り替えの時間を要すると判断され30秒間が付与されているが、その間に倒したシェリアがタイムアップとなると彼の猶予もほとんどない。
「あれ?」
エルザが守り抜くかシリルが逆転するか、手に汗握る攻防に全員が固唾を飲んで見守っていたところ、ジュビアはあることに気が付いた。
「これ・・・シリル負けてません?」
「え?なんで・・・あ!!」
彼女がなぜ突然そんなことを言い出したのかと思った面々だったが、彼女たちもジュビアの言わんとしていることがすぐに理解できた。
「そっか!!シリルの持ち時間はもう10秒もないけど・・・」
「エルザは口から外されてから10秒リタイアまでタイムラグがあるんだ!!」
もしシリルがリタイアギリギリでエルザから魔水晶を奪っても彼女はすぐにはリタイアにならない。つまりこのままではシリルの敗北は覆しようがないのだ。
「シリル殿はわかっていないのか?」
魔水晶ビジョンから試合を見ているのは評議院のジュラたち。彼らもこのままでは結果が覆らないことに気が付いていたが、シリルはそれでも新たな魔水晶を使おうとしない。
「自分の残り時間がわかっていないんじゃないのか?オォ?」
「ただでさえも判断力が鈍るこのフィールドでは無理もないか」
ウルフヘイムとハイベリオンも同様のリアクション。しかし、カミューニとゴッドセレナはそのやり取りを聞いてため息をついていた。
「戦局がゴッド見えてないな?お前たち」
「何?」
いつものような軽い口調にムッとするウルフヘイム。険悪なムードになりそうなのを悟ったカミューニがゴッドセレナを制止する。
「シリルの選択はあながち間違いじゃねぇってことだよ」
「間違っていない?」
「あぁ。もっとも、リスクが高すぎてやるべきじゃねぇとも言えるけどな」
どう見ても追い込まれているのはシリルのはずなのに、なぜか彼の方が有利なように話す二人。それにはウォーロッドも賛同なのか、小さく頷いていた。
(残り5秒・・・もう終わりか?シリル!!)
勝敗が決したかのように見える戦い。それは水中にいるエルザも同様だった。
(ここから私の魔水晶を落としても先にリタイアになるのはシリル。このままではどうあがいてもここから逆転することはできないぞ)
彼が勝利するには今持っている酸素魔水晶をすぐにで吸い込みタイマーを戻すこと。だが、恐らく身体に酸素がほとんど残っていない彼は急な酸素の取り込みで動きが鈍くなるはず。
(狙うはそこ!!もしそうしなければそのまま―――)
完全に見えた勝利への道筋。対する少年は自ら破滅の道を進むのか、特攻に打って出た。
(勝負を諦めたか?シリル)
これによりほぼ負けることがなくなったエルザは水着姿のまま紅桜へと握り変え、迎え撃つ。
「ん?」
さすがの泳力で目の前まで来ていた少年の表情が目に入ったエルザは困惑した。なぜなら彼は追い込まれているはずなのに、口元を緩めたからだ。まるで自らの作戦にかかった獲物を見るように。
(何を笑って―――)
その表情の真意は不明だが、彼女は本能のままに射程圏内に入ってきた少年へと剣を振るう。これをシリルは回りながら回避すると、剣を握る右腕へと体当たりする。
「なっ・・・」
その衝撃で彼女の手から紅桜が離れてしまう。慌ててそれを拾おうとしたエルザだったが、それにより少年から目を切ってしまった。
「竜魔の鉤爪!!」
「ぐっ!!」
顔を下げたところを狙っていたかのように足を蹴り上げたシリル。それは見事に彼女の咥えていた魔水晶を捉えると、瞬く間に水中へと跳ね上がった。
「これは決まったな」
「どういうことだ?」
舞い上がった魔水晶それを見たレオンは小さく呟き、リオンはそれがどういうことなのかわからず問いかける。
「シリルが意地でも自分の魔水晶を使わなかったのはこれを狙っていたからだ」
「これ・・・あ」
いまだに狙いがわからずにいたリオンだが、すぐに少年の出た行動がその答えを物語っていた。シリルは自身の目の前に浮いてきたそれを掴むと、すぐさま口へと咥える。
「そうか!!シリルは最初からエルザの酸素を奪うつもりだったのか!!」
「これなら自分のタイマーも元通りになるし、対するエルザさんはもう酸素を持ち合わせていない」
さらにシリルはここまで無呼吸だったこともありすぐさま距離を取り酸素を吸い込む邪魔をされないようにしている。なんとか剣を掴んだエルザだったが、これでは酸素を奪い返すことができない。
「エルザさんが勝つなら逃げてシリルに自分の酸素を使わせながら、彼女自身は消耗を抑えて逃げ切るしかなかった。でも、剣士としてのプライドが邪魔したんだろうね」
一瞬は脳裏を過った距離を置く選択。彼女が勝利するならばそれが最善の手立てだったが、彼女はそれを取ることができなかった。
「これはシリルの作戦勝ちだったね」
追い付こうにも二人の泳力の差とエルザの残り時間を考えればそれが叶わないことがすぐにわかる。それを察知した剣士は肩をすくめ、首を横に振ってみせる。
『エルザ選手退場カボ!!よって勝者!!シリル選手カボ!!』
アナウンスと同時に右手を突き上げる少年。その姿に会場中から大歓声が巻き起こるのだった。
後書き
いかがだったでしょうか。
みなさんもう更新されないと思ってたでしょ?安心してください、私もです(゜o゜)\(-_-)オイ
なんか突然やりたくなって書き始めたら時間はかかりましたがなんとか書けました。
イメージとは違くなってしまったのであれですがまぁこんなもんでしょう。
もし次更新されることがあればまたよろしくお願いしますm(_ _)m
ページ上へ戻る