仮面ライダーAP
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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第28話
ランバルツァーを筆頭とする、グールベレーの隊員達。その骸を1箇所に集め、部品とすることにより完成する融合巨人兵「グールズ・ブリアレオス」は、断末魔にも似た凶悪な咆哮を轟かせていた。そんな巨人を仰ぐバレットスパルタンのそばに、スパルタンハリケーンに跨った仲間達が駆け付けて来る。
「バイル、大丈夫か!?」
「皆! ランバルツァー大佐と、他の連中の身体が……!」
「……ッ! やはり、奴らを率いていたのはランバルツァー大佐だったようだな……!」
「ランバルツァー大佐……本当に裏切ったんですか!」
「すると……このデカブツとの戦いが、大佐が俺達に遺した最期の宿題ってわけかい……!」
スパルタンハリケーンから颯爽と飛び降りたスパルタンライダー達は、剣呑な表情を仮面に隠し、ブリアレオスの悍ましい姿を睨み上げていた。彼らは皆、静かに拳を震わせている。しかしそれは、恐怖によるものではない。
「……奴らは確かに、改造人間という『兵器』に過ぎなかったのかも知れない。だが、それでも……俺達と同様に命を賭けて戦場に立つ、1人の『戦士』だった」
「その『戦士』の骸さえ……こうも簡単に弄んで。使い捨てるだけの道具にするというのね……!」
先ほどまで自分達と死闘を繰り広げていた好敵手達でさえ、何の感慨もなく醜悪な怪人の「部品」にしてしまうシェードのやり方に、リペアスパルタンやノイジースパルタン達は激しい怒りを覚えている。その想いは、他のスパルタン達も同様であった。
「上等だぜ……! 今さら、デカいだけの怪物くらい何だってんだ! 皆、ここまで来たら覚悟を決めろ! 何としてもコイツを仕留めて……地獄で待ってるランバルツァー大佐に教えてやれ! あんたの教え子達が、世界最強だってことをなァッ!」
「……了解ッ!」
やがて、ガトリングスパルタンの怒号を合図に。最高潮まで士気を高めたマルコシアン隊の猛者達は、雪崩れ込むようにブリアレオスに挑み掛かって行く。どれほど悍ましい巨人が相手であっても、その動きに迷いや恐怖の色は無い。
「そろそろ終わりにさせて貰うッ!」
「しつこい輩はモテないぜッ!」
「ご迷惑ですので……早急に死んでくださいッ!」
「悪いねぇ、これだけ的がデカいと外す方が難しくてさァッ!」
「……愛娘が怖がってるんだ、さっさと静かにしてくれッ!」
「見ていろレオン、お前の犠牲は無駄ではなかったということを……お前に代わり! レオナに証明して見せるッ!」
アサルトスパルタン、スザクスパルタン、ガンブレイドスパルタン、ゾルダスパルタン、ガトリングスパルタン、そしてサンダーボルトスパルタン。彼らは各々の銃火器を構え、近距離からの全力射撃で肉片の鎧を削る。実弾の豪雨に猛烈な熱光線、さらにはマイクロ波での一斉砲火だ。
「おおぉおおーッ!」
「アタシ達の底力……思い知りなさいッ!」
その火力によって抉られた肉をさらに引き裂くように、ハッカペルスパルタンやバレットスパルタン達が近接攻撃を仕掛けていた。ノイジースパルタンもノイジーアックスを斧状に変形させ、勢いよく斬り付けている。
「叩き壊せェッ!」
「でやぁあぁあッ! ……ツィカーデ少佐ッ!」
「……任せなさいッ!」
コヴァ・サペリやノイジーアックスの刃が巨人の肉を穿ち、バレットスパルタンの鉄拳がその奥に沈み込む。ノイジースパルタンはさらにそこへ斧を突き刺し、巨人の体内に破壊音波を叩き込んでいた。
「……ッ! こいつ、斬っても斬ってもすぐに再生してしまうのか!」
「それなら……再生が追い付く前に細切れにするまでよッ!」
何度斬り付けられても、肉体を「再生」させて行くブリアレオスの巨体。その能力にいち早く勘付いていたソニックスパルタンとサムライスパルタンは、再生する暇も与えまいと高速で刃を振るう。
「鬱陶しいったらないわね……! ああもう、さっさと死んでくれないかしらッ!」
アサシネイトスパルタンも2本の高周波ナイフを振るい、斬撃の乱舞を見舞っていた。ソニックスパルタン、サムライスパルタン、アサシネイトスパルタン。彼ら3人が振るう高周波ブレードの刀身が激しく唸り、巨人の肉を猛烈な勢いで斬り裂いて行く。
「こッ……のぉおおぉッ!」
「死に損ないがぁああッ!」
「さっさと眠りなぁあぁあッ!」
オウガスパルタンやブロウスパルタン、クラッシャースパルタン達もブリアレオスの肩や頭部に飛び乗り、頭脳部を破壊しようと苛烈な猛攻を加えている。オウガスパルタンの豪腕、ブロウスパルタンの棍棒、クラッシャースパルタンのパワーアーム。それらを活かした彼らの激しい攻撃により、辺りには鮮血の豪雨が降り注いでいた。
「オャスン、手を貸せ! ここまで来た以上、敵の前で怯むことは許さんッ!」
「言われるまでもありませんよぉ、主任ッ! 整備班の意地、このデカブツに見せてやりましょうッ!」
勢いよく振るわれた巨人の腕。その巨大な豪腕の上に飛び乗ったリペアスパルタンとラビッシュスパルタンは、高速で駆け抜けて「助走」を付けると、一気にジャンプして飛び蹴りを繰り出す。彼ら2人によるダブルライダーキックが、ブリアレオスの胸板に炸裂していた。
「……ッ! 肉体の再生が速すぎる……! まるで通じてる気配がないッ!」
「高周波ブレードの斬撃でも瞬時に傷が塞がるなんて、信じられないッ……!」
だが、「手応え」の無さに慄いているソニックスパルタンや、サムライスパルタンが叫んでいるように。ブリアレオスの身体を構築している肉片は、どれほど強烈な攻撃で破壊されても一瞬で自己再生し、スパルタンライダー達の火力を実質的に無効化していた。最高速度の斬撃でさえも、その再生には追い付けなかったのである。
「おいおい、勘弁してくれよ……!」
「こいつ、不死身か……!?」
「俺達の一斉射撃を喰らってるってのに、まるで消耗していない……!」
何度痛打を与えても瞬く間に回復し、暴走を再開するブリアレオス。その異常なタフネスを前に、さしものマルコシアン隊も士気に陰りが見え始めていた。ゾルダスパルタンやスザクスパルタン、ガトリングスパルタン達は規格外の再生速度に戦慄している。
「諦めるな皆、まだ戦いはこれからだッ!」
「シュタイン少佐……!」
その暗雲を切り払うべく、ビームキャノンを構えたパンツァースパルタンが、最大火力での一撃必殺を繰り出そうとしていた。彼は仲間達の前に立つと、2門の砲口を眼前の巨人に突き出す。
「みんな下がれッ! ……はぁあぁあッ!」
グールベレーの副隊長さえ跡形もなく消し飛ばしていた、必殺の一閃「スパルタン・ギガブラスター」。絶大な威力を誇るその閃光は天を衝く轟音を響かせ、ブリアレオスの胴体に風穴を開けていた。しかしその一撃によるダメージさえ、巨人の再生能力は一瞬で消し去ってしまう。
「これでも……通らないのかッ……!?」
圧倒的な力の差を実感し、思わず戦意を喪失したかのように両腕の砲身を下ろしてしまうパンツァースパルタン。そんな彼の「絶望」に反応したのか、ブリアレオスは一気に「反撃」に転じようとしていた。
「……ッ! 不味い、総員退避だッ! 奴が仕掛けてッ……ぐわぁあぁあッ!?」
その挙動を察知したパンツァースパルタンは咄嗟に仲間達の方へと振り返り、退避を促そうとしたのだが――それよりも速く、彼の身体がブリアレオスに蹴り飛ばされてしまう。勢いよく弾き飛ばされ、廃墟の壁に叩き付けられてしまうパンツァースパルタン。
「シュタイン少佐ッ! こいつッ、もう許さ……がぁあッ!?」
「うぐぁ、はぁあッ!」
「ほわぁぁああッ!」
その瞬間を目撃したノイジースパルタンやバレットスパルタン達は、義憤に駆られてブリアレオスに飛び掛かったのだが。士気で状況を覆せるような力の差ではなく、その悉くが一瞬で返り討ちにされてしまっていた。
力任せに手足を振るうだけで、スパルタンライダー達が容易く、文字通りに蹴散らされて行く。技術、技巧。それらの小細工を真っ向から捻じ伏せる、絶望的なまでの膂力だ。
そのあまりに桁違いなパワーはすでに、上司であるグールベレーの指揮官さえ超えている。それどころか、シェードの創設メンバーである「始祖」の怪人達すら凌駕し得るほどの域に到達しているのだ。ただでさえ基本性能で大きく劣っているスパルタンシリーズでは、ひとたまりもない。
「うぉあぁあああーッ!」
「がぁあぁッ!?」
知性というものが全く感じられない、ただひたすらに野蛮な「暴力」。そんな「技」ですらない乱暴な攻撃でさえも、その巨体からは想像もつかない「速さ」が伴えば、回避不可能の「必殺技」となり得るのだ。棍棒を振るっていたブロウスパルタンも、屈指の「重量級」であるオウガスパルタンも、容易く吹き飛ばされている。
「ごはぁあぁあッ!」
「主任ッ! この野郎……ぐぁあッ!?」
ブリアレオスの巨躯に張り付き、拳打の嵐を見舞っていたリペアスパルタンやラビッシュスパルタン達は、力任せに振り解かれ、そのまま巨人の脚で蹴り飛ばされてしまう。弾丸のような勢いで吹っ飛ばされた彼らのボディは、廃墟の壁やアスファルトに容赦なく叩き付けられていた。
「このくたばり損ないッ……きゃあぁああッ!?」
そんな中、アサシネイトスパルタンはブリアレオスの首に電撃鞭を巻き付けていた――のだが。巨人が円を描くように激しく首を振った瞬間、その遠心力によって逆に自分が振り回され、投げ飛ばされてしまう。
「ブローニングッ……うぉああッ!?」
マイクロウェーブガンを放り捨て、吹き飛ばされて来た彼女の身体を咄嗟に受け止めたアサルトスパルタンは、両脚のホバー機能で踏ん張ろうとする。しかしその推力でも勢いを殺し切れず、壁に叩き付けられてしまう。
「ぐはぁあッ……!」
「ガ、ガルスッ……!」
精一杯減速させても、コンクリートの建物に穴が開く威力なのだ。アサルトスパルタンの挺身が無ければ、アサシネイトスパルタンは間違いなく即死していただろう。アサシネイトスパルタンの身体を抱き止めたまま、アサルトスパルタンは血反吐を吐いて倒れ伏して行く。
「リーナ、ガルス……! こんのぉおおおッ!」
「いい加減に……くたばりやがれぇえッ!」
クラッシャースパルタンのパイルバンカーと、サンダーボルトスパルタンの2連装スタンスピア。その2本が同時に閃き、交錯するようにブリアレオスの胴体を貫いて行く。しかしその強力な一閃さえ、骸の巨人は瞬時に肉体を再生させて無効化してしまった。
「ちょっと、冗談でしょッ……うがあぁあッ!」
「ヴィルタネン少尉! ……ぐぉあッ!?」
その光景に慄く暇もなく、クラッシャースパルタンとサンダーボルトスパルタンも容赦なく蹴散らされてしまう。まるで足元の人形を蹴飛ばすかのように、ブリアレオスはスパルタンライダー達の身体を激しく吹き飛ばしていた。戦士達の絶叫が、絶えず辺りに響き渡っている。
「うぐッ、お、おぉッ……!」
ただでさえ性能不足なスパルタンシリーズとの間にある力の差は、もはや天と地という言葉でも足りない。言うなれば、地の底から銀河の果て。挑もうなどと思うこと自体が、愚の極み。それほどの絶大な差が広がっているのである。しかしそれでも、彼らに諦める気配はない。
「が、はぁッ……! み、んなッ……まだ、生きてるかッ……!?」
「あぁ……平気、さッ……!」
「マルコシアン隊が……これくらいで、くたばるわけ……ないでしょうッ……!」
血反吐に塗れボロボロに傷付き、死屍累々と横たわるスパルタンシリーズの戦士達。彼らは身を震わせながらも、なおも立ち上がろうとしている。
アサルトスパルタンの呼び掛けに応えるソニックスパルタンやラビッシュスパルタン達も、震える足で地を踏み締めていた。かつての教官であるランバルツァーへの想いが生きているからこそ、彼らは立ち上がるのだ。
「だが……いくら攻撃しても、あの巨人の再生が速すぎてダメージが全く通ってない……! このままじゃあ、俺達が奴に擦り潰されるのも時間の問題だッ……!」
「諦めてはいけないわ……! この世に弱点が無い生物など存在しないッ! 必ず……必ず攻略の糸口があるッ……! それを信じなければ、アタシ達に勝ち目はないッ……!」
「ああそうだ、勝ち筋は必ずある……! ランバルツァー大佐が、俺達に教えたことだろうが……! お前達だけは、最後まで諦めるな……ってな……!」
師であり、仲間であったランバルツァーへの手向け。それだけは、何としても完遂せねばならない。奇妙な友情にも似たその想いが、彼らをこの絶望的な死闘に駆り立てている。危機感を募らせるスザクスパルタンを励ますように、ノイジースパルタンやガトリングスパルタンがその肩を貸していた。
「……! 皆、見て……! 奴の脇腹! あそこだけ……『穴』になっているわッ!」
「なんだって……!?」
その時、ブリアレオスの全身をつぶさに観察していたアサシネイトスパルタンが、ある点に気付く。それは、ブリアレオスの脇腹付近に大きな「穴」が空いていることであった。どんなに攻撃しても一瞬で再生してしまうブリアレオスが、何故かその箇所だけは塞げていないのである。
「……そうか! 私が溶鉱炉で倒した戦闘員は、死体も残らなかった……! あそこにある『穴』はきっと、そいつの死体で埋まるはずだったのよ……!」
「俺と心堂少尉がシェルター前で倒した副隊長も……死体は残っていなかったはず。そうか……そういうことか!」
ハッと顔を上げたサムライスパルタンの言葉にパンツァースパルタンが反応し、仮面の下で目を剥いた。
工場内でグールベレー隊員と戦っていたサムライスパルタンは、溶鉱炉に相手を突き落として勝利を収めていた。パンツァースパルタンの相手だったグールベレーの副隊長は、「スパルタン・ギガブラスター」の熱線で跡形もなく焼却されていた。
「カドラリス大尉とシュタイン少佐が戦った相手は、死体を残さなかった。だから、奴の身体を構築するパーツの中で……その2人が担当していた部位だけが『歯抜け』になっている……ということか!?」
つまり2人が戦った相手だけは、死体すら残せていなかったのである。その2人分の肉塊が不足した結果、ブリアレオスの形成が不完全なままとなっていたのだ。この結論に至ったソニックスパルタンは、核心を突いた言葉を口にする。
「なるほどな……やるじゃないの、カドラリス大尉! つまり、その穴が文字通り……『切り口』になるってわけだッ! シュタイン少佐ッ! さっきのアレ、もう1発行けるか!?」
「いや……残念だが、もうエネルギーが残っていない……!」
その「功績」を讃えるゾルダスパルタンからの呼び掛けに、パンツァースパルタンは力無く肩を落とす。先ほどの1発が、彼に残されていた最後のエネルギーだったのだ。しかしそこへ、傷付いた身を引き摺るようにサンダーボルトスパルタンが駆け付ける。
「エネルギーなら俺が補填します! 撃って下さい、少佐!」
「アインホルン軍曹……!」
「死んで行った仲間達の分まで……共に死力を尽くしましょう!」
「……分かった! 頼むぞ!」
サンダーボルトスパルタンは自身の外骨格に備え付けられているコードを、パンツァースパルタンの背部に接続する。そこから送電された強力なエネルギーが、パンツァースパルタンのビームキャノンに再び「力」を与えていた。今度こそ、最後の1発だ。
「ぬぉおおぉおおッ!」
「行けえぇぇええッ!」
サンダーボルトスパルタンとパンツァースパルタン。彼ら2人は苛烈な雄叫びと共に――最後の死力を尽くした究極の電熱光線「サンダーボルト・ギガブラスター」を撃ち放つのだった。
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