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仮面ライダーAP

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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第23話

 
前書き
◆今話の登場ライダー

◆エネミー・アテネリス/仮面ライダーSPR-14ガンブレイドスパルタン
 北欧某国の陸軍伍長であり、精鋭陸戦部隊「マルコシアン隊」の隊員。親の意向で入隊させられた軍人一家の末っ子であり、普段はおどおどしているが有事の際には冷静沈着に任務を完遂する。彼女が装着するガンブレイドスパルタンは、動きやすさを追求したバランス重視の機体であり、専用の高周波ブレードとアサルトマシンガンが特徴となっている。当時の年齢は17歳。
 ※原案は ハナバーナ先生。
 

 

 警察署前にて、ハッカペルスパルタンとグールベレー隊員が熾烈な「一騎打ち」を繰り広げていた頃。その警察署のロビー内では、もう一つの死闘が続いていた。そこではスパルタンライダーとグールベレー隊員による、苛烈な銃撃戦が勃発していたのである。

「ふっ、どうしたどうした! スパルタンシリーズとやらは、この国の威信を賭けた最高の兵器ではなかったのか!? コソコソと隠れてばかりでは、その鎧が泣くぞ!」

 改造人間用に調整された、専用のアサルトマシンガン。その銃口から飛び出す弾雨で辺りを蹂躙している1人のグールベレー隊員が、けたたましく吼えていた。そんな彼の周囲には警察官達の死体が累々と横たわっており、破壊され尽くしたロビー内は血の海の地獄絵図と化している。

 この惨劇を起こしたグールベレー隊員の腰部には高周波ブレードまで装備されており、その足元にはズタズタに切り裂かれた警察官達が横たわっている。弾雨を潜り抜けて接近出来た警察官達も、この刃の犠牲となっていたのだろう。そんな凶戦士の暴走を物陰から観察している1人のスパルタンライダーは、その狂乱を前に戦慄を覚えていた。

「……怖い、けど……ここで逃げ出すわけにはいかない。マルコシアン隊の皆も、警察官の人達も……この街を守るために戦ってる。いつまでも弱い私のままじゃ……いられないっ……!」

 スパルタンシリーズ第14号機「SPR-14ガンブレイドスパルタン」。その鎧を纏うエネミー・アテネリス伍長は、破壊された壁の残骸に身を隠しながら細い肩を震わせていた。かつてない強敵に対する恐怖。だからこそ負けるわけには行かないという蛮勇。その二つの感情がせめぎ合う中、彼女は仮面の下で桜色の唇をきゅっと噛み締めている。

 高名な将校である親の意向でマルコシアン隊に入隊させられた、軍人一家の末っ子。そんな彼女はこれまで、「自分の意思」で戦ったことなどほとんど無かった。そんな自我の弱さが、彼女の最大のコンプレックスだった。
 そうであるからこそ、彼女は逃げ出すことなくこの場に踏み留まり、徹底的に抗戦し続けている。並の兵士なら、すぐにでも逃げ出している状況。だからこそ、自分だけは逃げるわけには行かなかったのだ。

 他のスパルタンライダー達もきっと、背を向けることなく戦っているに違いない。彼らの勇猛さはずっと、遠い光景のようだったけれど。これ以上、弱いままの自分でいるわけには行かない。
 この戦いは、彼らと肩を並べられる千載一遇の好機。ここで逃げてしまったらもう、2度と胸を張ってマルコシアン隊の隊員だとは名乗れない。自分という存在を証明するためにも、エネミー・アテネリスは――ガンブレイドスパルタンは、なんとしても勝たねばならないのだ。

 その武者震いで肩を震わせているガンブレイドスパルタンは、物陰から敵方の動きを覗き込んでいた。「仮面ライダーライブ」や「仮面ライダーエビル」の外観を想起させる彼女の外骨格は、全身がメタリックシルバーで統一されている。
 動きやすさを重視したバランスタイプの機体であり、その両手には一振りの高周波ブレードと、1挺の専用アサルトマシンガンが装備されていた。中距離戦にも接近戦にも適応している汎用性の高さが、この機体の持ち味なのだ。

(だけど……アサルトマシンガンの火力も、ブレードの剣術も向こうのほうが遥かに上。このまま戦い続けても勝ち目がない……。一体どうしたら……!)

 しかし、ガンブレイドスパルタンの持ち味を完全に殺した「上位互換」であるグールベレー隊員は、この戦いにおいて常に優位に立っている。単純な撃ち合いでも剣戟でも、すでにガンブレイドスパルタンは一度「完敗」を喫しているのだ。傷だらけになっている彼女の装甲が、そのダメージの深さを物語っている。

「も、もういい……! 君はもう十分戦った、早くここから逃げるんだ……!」
「……! あ、あなたはここの……!」

 すると、そんな彼女の窮状を目にした1人の警察官が声を掛けて来た。血みどろになりながらも地を這い、懸命に撤退を呼び掛けている壮年の警察官だ。彼は血に濡れた手でガンブレイドスパルタンの太腿を掴み、「もう逃げろ」と彼女の身体を揺さぶっている。

(死なせるわけには……行かんのだ……! 娘のような犠牲を……これ以上許すわけにはッ……!)

 この警察署きってのベテランだった彼には、エネミーと同じ年頃の娘が居た。しかしその娘は今回の災厄の中で、帰らぬ人となっていた。エネミーに亡き娘を重ねていた彼は、彼女だけでも生き延びて欲しかったのだろう。

「……私が弾幕を張って奴の注意を引く。いいか、その間に逃げるんだ……! 君のような未来ある若者は……もう誰1人、この俺が死なせんッ……!」

 そんな彼の手には、ガンブレイドスパルタンのものと同じ外観のマシンガンが握られていた。この署の警察官達に支給されている暴徒鎮圧用のマシンガンだ。
 しかし同じ外観と言っても、彼らのマシンガンはあくまで人間用の銃火器であり、改造人間との戦闘など想定していない。当然、シェードの一般戦闘員にも通用しないだろう。

 そんなものが「精鋭」たるグールベレー隊員に効くはずがないのだが、彼はそれでもエネミーを逃すための「囮」を引き受けようとしている。勝てない勝負だと分かり切っていても、退けない理由がある。愛娘を失った彼だからこそ、譲れないものがあるのだ。

「う、動いちゃダメです! 傷が開いてしまいます……!」

 だが、この街の人々を守るための力(ガンブレイドスパルタン)を託されているエネミーには、その申し出を受け入れることなど出来ない。守るべき人を犠牲にして生き残るなど、例え隊長(ボス)が許しても自分自身が許せないだろう。
 捨て身で囮を買って出ようとする警察官を宥めるように、ガンブレイドスパルタンは彼が握っているマシンガンの銃口を掴む。しかしその際の微かな物音が、「命取り」になってしまった。

「そこかッ!」

 遮蔽物からはみ出ていた警察官の影に気付いたグールベレー隊員が、瞬時に狙いを定めて引き金を引く。改造人間同士の戦闘を想定している彼のマシンガンは非常に強力であり、当然ながら生身の人間がその銃弾を浴びればひとたまりもない。

「がはッ……!」
「あ……!」

 瞬く間に蜂の巣にされた警察官の全身が、真紅の鮮血に染まる。その光景を間近で目撃したガンブレイドスパルタンが思わず声を上げた時、警察官の懐から1枚の写真が滑り落ちて来た。血に汚れたその写真には、幸せな笑顔を咲かせた家族の姿が写されている。父親である彼と、母親の女性と……自分と同世代の娘、だろうか。

「あ……あぁっ……!」

 もう2度とこの幸せは戻って来ないのだと、ガンブレイドスパルタンは――エネミーは否応なしに思い知らされ、写真を拾った手指を震わせていた。一方、グールベレー隊員は手応えのない「雑魚」の死にため息を漏らしている。

「……ふん、死に損ないの警官だったか。紛らわしい物音を出しおって、おかげで弾を無駄にしてしまったではないか」

 心底つまらない、と言わんばかりの態度だった。全てを喪ってもなお、最期まで職務に邁進しようとしていた警察官を、あれほど簡単に殺しておいて――何の感慨も持ち合わせていない。そればかりか、弾の無駄とまで吐き捨てている。人間の命など、塵芥程度にも思っていない者の言葉だった。

「……ッ!」

 それほど恐ろしい相手だというのに。不思議と、恐怖の感情は湧いて来ない。ふつふつと湧き上がって来るのは、義憤と殺意だ。あの男だけは許せない、あの男だけは生かしてはおけない。ただそれだけのシンプルな「確信」が、エネミーを突き動かしている。

 マルコシアン隊の隊員らしからぬ厭戦的な気質である彼女は、以前からその「甘さ」を他の隊員――主にマキシミリアンから厳しく指摘されることが多かった。それはエネミー自身も強く自覚している部分であり、自分に軍人は向いていないと考えたことも決して少なくはない。
 しかし今はそんな彼女が、他の誰よりも鋭く殺意を研ぎ澄ませている。一部の隊員達からは、他人を傷付けることを嫌う優しさは人として立派なことだと肯定されることもあった。なのに今の彼女は、その優しさを自らかなぐり捨てようとしている。

(……隊長(ボス)、皆……ごめんなさい。私は今日……初めて。自分自身の意思で……敵を殺します)

 自分の「弱さ」を肯定してくれた全てに謝罪し、ガンブレイドスパルタンはマシンガンを握り締める。仮面の下に隠された双眸で仇敵を射抜いた彼女が、弾かれたように遮蔽物から飛び出して行った。

「……!」
「あなたの相手は……この私です」

 その動きにはもう、迷いなど微塵も無い。仕留めるべき敵を、最速で仕留めに行く。その挙動には、敵に対する「甘さ」など一片たりとも存在していない。敵を殺すという1点のみに集中して最適化された、戦闘マシーンの動きであった。

「ふっ、とうとう覚悟を決めたか! 良かろう、そろそろ決着を付けようではないかッ!」

 そんな彼女の勇姿にかつてない「昂り」を覚えていたグールベレー隊員は、ガンブレイドスパルタンの動きを捕捉した瞬間、嬉々として銃を構え始める。双方のマシンガンが火を噴き、激しい銃撃戦が「再開」された。

「くッ……!」
「ふうッ……!」

 アクロバティックな挙動で俊敏に飛び回る両者は、決して広いとは言えないロビー内を縦横無尽に駆け、銃を撃ち合っている。互いに眉間を狙い合った2人は、発砲の瞬間に大きく仰け反って即死を免れていた。

 グールベレー隊員の銃の方が、ガンブレイドスパルタンが今持っているマシンガンよりも火力が高い。それは、彼女の背後に残っている弾痕の深さが証明している。対してグールベレー隊員の後ろに出来ているそれは、非常に浅い(・・)。火力の差は歴然だ。

「ふはははッ、どうしたどうしたッ! 先ほどより随分と狙いが甘くなっているな!? さすがに疲労困憊かッ!?」
「くぅうッ……!」

 ガンブレイドスパルタンが背後の弾痕に息を呑んでいる一方、グールベレー隊員は自信の表れなのか後ろの弾痕など気にも留めていない。そんな彼は、警察官を射殺する前にガンブレイドスパルタンと繰り広げていた「互角の撃ち合い」を思い出し、薄ら笑いを浮かべていた。

(やはり最高に昂るな、この撃ち合いは……! 奴の銃もこちらの銃も、当たりさえすれば装甲だろうと改造ボディだろうと容易く貫通する威力ッ! どちらにとっても、まともに喰らえば命取り……! 堪らん、実に堪らんぞ! こういう殺し合い(・・・・)を、俺は待ち焦がれていたのだッ!)

 一方的な蹂躙ではない、互角の殺し合い。そこに美学を見出しているこのグールベレー隊員は、ガンブレイドスパルタンとの熾烈な撃ち合いを心ゆくまで愉しんでいた。
 いくら上位互換と言っても、互いの火力が相手の肉体を貫通し得る域に達しているのなら、条件は実質同じ。双方のマシンガンの威力に大差(・・)が無いという、その緊張感すら愉しむように、グールベレー隊員は歪に口元を吊り上げている。

 1発でも喰らえばタダでは済まない、極上の殺し合い。その「昂り」を追求するグールベレー隊員とガンブレイドスパルタンの撃ち合いは、まさに紙一重の勝負だった。
 互いに1発も被弾しないまま時間が過ぎ――やがて、遮蔽物から身を乗り出したガンブレイドスパルタンが構えた瞬間。弾が尽きたことを告げる空虚な音が響き渡る。

「ハァ、ハァッ……!」
「……ふふ、どうやら弾が尽きてしまったようだな。ならばここからは、高周波ブレードでの一騎打ち。せっかくの決闘だ、心ゆくまで楽しもうではないか?」

 弾を撃ち尽くし、激しく息を荒げているガンブレイドスパルタン。そんな彼女に邪悪な笑みを向けながら、グールベレー隊員は彼女の眼前で敢えてマシンガンを投げ捨て、高周波ブレードの刀剣に持ち替えていた。
 互角の殺し合いが生む緊張感を求める彼にとって、マシンガンによる一方的な射殺など「無粋」なのだろう。対戦相手の小娘(ガンブレイドスパルタン)にその手の拘りが無いことなど百も承知だが、弾が尽きた以上は応じるしかないはず。そう見込んでいた彼は、意気揚々と愛刀を振り翳している。

 そんな彼の見込み通り――ガンブレイドスパルタンは未練がましくマシンガンの銃身を握り締めたまま、遮蔽物から身を乗り出して来た。奇しくも、先ほど警察官が射殺された時と全く同じ場所だ。
 警察官の骸の側に立つ彼女は、弾切れになっているはずのマシンガンを握ったまま、決闘に応じるかのように高周波ブレードを構えている。そんな彼女の姿勢に口元を吊り上げたグールベレー隊員は、最後の果し合いを楽しもうとしていた。

「……」
「覚悟はすでに出来ているようだな。ならば……もはや言葉は不要。いざ尋常に……参るッ!」

 待ちに待った最高の楽しみを、心ゆくまで味わおうとするかのように。嬉々とした表情で高周波ブレードを振り上げたグールベレー隊員は、ガンブレイドスパルタン目掛けて真っ直ぐに突っ込んで行く。

 そんな彼とガンブレイドスパルタンによる、最後の剣戟が幕を開ける――はずであった。

「……な……!?」

 しかし次の瞬間。この場に、乾いた銃声が響き渡る。決して起きるはずのない現象。響くはずのない音。その全てにグールベレー隊員は驚愕し、足を止めて身を震わせていた。

 心臓の位置から鮮血が溢れ、その真紅が足元を染め上げて行く。胸元を押さえながら片膝を着いたグールベレー隊員は、その現象が齎す激痛に苦悶の声を上げながら、眼前の光景に瞠目していた。

「マシンガン、が……!?」

 ガンブレイドスパルタンの手に握られていたアサルトマシンガン。その銃口から、硝煙が上がっていたのだ。グールベレー隊員は相手目掛けて突っ込んだ瞬間、心臓を撃ち抜かれていたのである。
 予期せぬ銃撃に反応出来ず、急所を撃たれてしまったグールベレー隊員。彼は驚愕の表情を浮かべたまま、わなわなと肩を震わせていた。先ほど弾が切れたはずのマシンガンが、何故火を噴いたのか……と。

「き、貴様……弾が尽きたのではなかったのか……!? そのアサルトマシンガンにはもうッ……!」
「……そう思っていたのは、あなた独りです」
「な、にィッ……!?」

 ガンブレイドスパルタンの冷たい言葉に目を剥くグールベレー隊員。やがて彼は視界の端に映り込んでいた、もう1挺のマシンガンの存在に気付く。先ほどまでガンブレイドスパルタンが身を隠していた遮蔽物。その物陰に倒れていた「2挺目のマシンガン」も、硝煙を上げていたのだ。

(銃は「2挺」あった……!? さっきまで奴が撃ち続けていたのは……あの警察官が持っていたマシンガンだったのか!? まさか、奴の狙いが甘くなっていたのはそれを気付かせないため……!?)

 グールベレー隊員が察した通り。ガンブレイドスパルタンは警察官の死後、彼の遺品となった銃と自分のマシンガンを入れ替えていたのだ。外観が全く同じであるこの2挺は威力こそ別次元だが、一目では違いが分からない。

 彼女はその点を利用し、自身の銃が弾切れを起こしたかのように見せ掛けていたのである。そして先ほどと同じ遮蔽物に飛び込んだタイミングで、本来の装備に再度持ち替えたのだ。全ては、この瞬間のため。「昂る決闘」に拘るこの男が、致命的な「隙」を晒す瞬間を突くための布石だったのである。

 しかし、グールベレー隊員側もこの「入れ替わり」を看破するのは容易だったはずだ。警察官を射殺するまでは、僅差の火力で「互角の撃ち合い」を繰り広げていたのだから、背後に残った弾痕の深さに大差があるはずがない。一度でも背後を確認し、明らかに浅い弾痕を目にしていれば、銃そのものが変わっていることにも気付けていた。

 それでなくとも、1発でも被弾していれば威力の違いを肌で理解していただろう。しかし彼はその超人的な挙動で、1発も喰らうことなく全弾を避け切ってしまっていた。彼は知らず知らずのうちに、敵の目論見を看破する機会を自ら投げ捨てていたのである。

「……あなたは、私が途中からマシンガンを持ち替えていたことに気付かなかった。当然ですよね? 当たらなければ、弾の威力が落ちていることなんて知りようがないのですから」
「き、貴様ぁあ……! 神聖な決闘を、つまらん小細工で汚しおってぇえ……!」

 虚を突かれた屈辱に打ち震えながら、グールベレー隊員は自身の「決闘」を汚された怒りを露わにしている。しかしガンブレイドスパルタンは全く意に介さず、淡々と歩み寄りながら高周波ブレードを振り抜き――仇敵の首を刎ねていた。

「が、ぁッ……!」
「……これは『戦争』です。決闘ごっこなら地獄でどうぞ」

 苦しむ暇も無い、一瞬の死。それが彼女なりの、最後の優しさだったのだろう。凄まじい形相のまま首を斬り飛ばされたグールベレー隊員の身体は、糸の切れた人形のようにその場に倒れ伏してしまう。

「……」

 この死闘を制したガンブレイドスパルタン――エネミーは沈痛な面持ちのまま踵を返し、高周波ブレードとアサルトマシンガンを腰部に装着する。するとそこへ、屋外で戦っていた「同胞」が駆け付けて来た。

「……ヘルヴィさん……」
「よう。……一皮剥けたな、エネミー」

 たった今、グールベレーの刺客を仕留めたばかりのヘルヴィ・メッツァネン軍曹こと、ハッカペルスパルタン。彼女との合流を果たしたガンブレイドスパルタンは、姉貴分からの労いの言葉にも素直に喜べずにいる。

 辺りの様子を見渡したハッカペルスパルタンもその理由を察し、仮面の下で神妙な表情を浮かべていた。ロビー内にはもう、彼女達を除く生存者は1人も残っていない。
 ロビー内における「最後の生き残り」だったベテラン警察官がエネミーの眼前で射殺された時から、彼女は真の意味では敗北していたのだ。自分の無力さを噛み締めるように俯くエネミー。そんな彼女の細い肩を、ヘルヴィは労わるようにポンと叩いている。

「……皆のところに急ぎましょう。まだ戦いは……終わっていないのですから」
「あぁ……そうだな」

 その気遣いを受けて、心を持ち直したのか。顔を上げたガンブレイドスパルタンは仮面の下で凛とした表情を浮かべ、ゆっくりと前に歩み出して行く。そんな妹分の「成長」を見届けながら、ハッカペルスパルタンも後に続くように警察署を後にしていた。

 やがて彼女達2人はそれぞれのスパルタンハリケーンに跨り、次の戦場へと愛車を走らせて行く。僅かな生き残りである数人の警察官達は、そんな彼女達の背中をただ見送ることしか出来ずにいた。彼女達の行く先が、これ以上の地獄だと分かり切っていても――。
 
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