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仮面ライダーAP

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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第18話

 
前書き
◆今話の登場ライダー

◆マキシミリアン・アインホルン/仮面ライダーSPR-20サンダーボルトスパルタン
 北欧某国の陸軍軍曹であり、精鋭陸戦部隊「マルコシアン隊」の隊員。自他に厳しく情に厚い鬼軍曹であり、かつての教え子であるレオン・ロスマンとは家族ぐるみの付き合いがあった。彼が装着するサンダーボルトスパルタンは自力での「発電」を可能としている特殊な機体であり、その特性を活かした2連装スタンスピアが特徴となっている。当時の年齢は48歳。
 ※原案はRerere先生。
 

 

 エンデバーランド市内の劇場や消防署が、グールベレーの襲撃によって崩壊していた頃。市の郊外に位置する変電所でも、マルコシアン隊のスパルタンがグールベレー隊員と対峙していた。

 街のインフラを担うこの変電所が被害を被れば、例え今回の侵攻を阻止出来たとしても街には深い傷跡か残ってしまう。この街を、この国を守るために造られたスパルタンシリーズの装着車として、その危機を看過するわけには行かないのだ。

 ――電線で繋がっている幾つもの鉄塔が建ち並ぶ、変電所の敷地内。その戦地に立つマルコシアン隊の一員は、自身の「上位互換」であるグールベレー隊員に何度打ちのめされても、仮面の下で歯を食いしばって立ち上がっていた。

「……この変電所が万一破壊されてしまえば、街の復興はますます遠のいてしまう。俺の命に替えてでも……守り抜かねばならんッ……!」

 スパルタンシリーズ第20号機「SPR-20サンダーボルトスパルタン」の装着者、マキシミリアン・アインホルン軍曹。数多の新兵達を扱き上げて来た「鬼教官」だった彼は、この戦いで先に逝ってしまった教え子達の無念を背負い、満身創痍の身を押して立ち上がっている。

 彼が装着しているサンダーボルトスパルタンの装甲には、マキシミリアンの流血が滴っていた。その鉄仮面は、「ヴァルバラド」の右半分の頭部が左右対称になったかのようであり、複眼は赤い輝きを放っている。さらに背中や肩からは電気コイルが伸びており、ボディのカラーリングは「電気」を連想させるような、黄色と黒を基調としていた。

 この機体には自力で「発電」が出来るという特殊な機構が採用されており、その電力を外骨格や武装の動力に転用しているのだ。彼が左腕に装備している2連装スタンスピアもその一つなのだが――バチバチと青い電光を放っているその槍は、未だ「仇敵」に通用していないのだ。

「ふっ、下位互換の鉄屑如きがデカい口を叩きおって。何度戦っても同じだ、いい加減諦めてはどうだ?」

 サンダーボルトスパルタンと対峙しているグールベレー隊員は、彼のものよりもさらに大きなコイルを両肩から伸ばしている。そこから迸る赤い電光は、サンダーボルトスパルタンのそれを大きく上回る輝きであった。

 彼の身体にも、己のボディから発せられる電力を攻撃力に変換する能力が搭載されているのだろう。サンダーボルトスパルタンよりもさらに大きな「器」である彼のボディからは、より強力な電光が飛び出していた。

 その右腕に装備されていたのは、トライデントのような形状である3連装スタンスピア。サンダーボルトスパルタンのスタンスピアよりもさらに刃が多く、その刃が帯びている電流も凄まじい威力となっている。

 単純な膂力はもちろん、持ち味である電気エネルギーの蓄積量でも。そして、武装の威力においても。このグールベレー隊員は、サンダーボルトスパルタンの基礎スペックを大きく上回っていたのだ。そんな仇敵の冷酷な視線と真っ向から睨み合い、サンダーボルトスパルタンは再び2連装スタンスピアを構え直していた。
 
「何度も言ったはずだ……! 先に逝った教え子達に報いるためにも……このマキシミリアン、死んでもここは譲らんとなッ……!」
「譲らんからなんだというのか。貴様の命などいくら投げ出したところで、何も変わりはせん。惨めな犬死にを晒していた、あの3人のようになぁ?」
「……何だと? 貴様、今なんと言った」

 この戦いで命を落とした仲間達を愚弄するグールベレー隊員の言葉に、マキシミリアンは仮面の下で青筋を立たせる。目を剥いて「憤怒」を露わにする彼は、拳をギリッと握り締めていた。

「惨めな犬死にだと言ったのだよ。特に、最初に死んだあの赤い鉄屑。奴の死に様は一際滑稽であったな!」
「……!」
「盾の硬度がウリの機体でありながら、あっさりと破壊され蜂の巣とは! ハッハハハ! これが笑わずにいられるか!?」

 そしてグールベレー隊員はサンダーボルトスパルタンに対し、最も言ってはならないことを言ってしまう。彼が言及したのは、シールドスパルタンことレオン・ロスマン。マキシミリアンが最も目をかけていた元教え子であり、家族ぐるみの付き合いもあった息子同然の青年。

 そんなレオンのことを、グールベレー隊員はマキシミリアンの目前で侮辱したのである。その言葉の意味を理解した瞬間――サンダーボルトスパルタンの身体は、傷の深さも痛みも忘れたかのように、勢いよく飛び出していた。

「……レオンのことか。貴様は今……レオンを笑ったのかぁあぁあーッ!」

 例え、どれほど敵わない相手であろうとも。最愛の教え子の名誉を穢されて、黙っているわけには行かない。それだけは、是が非でも許すわけには行かない。修羅の形相を仮面に隠しながらも、サンダーボルトスパルタンは羅刹の如くスタンスピアを突き出し、グールベレー隊員に襲い掛かる。

「……ふん、なんだその剥き出しの怒りは。鉄屑如きが一丁前に仲間の死に憤るなど……片腹痛いわッ!」
「ぬぉあぁああぁあッ! 黙れ怪物共がッ! 人間の身も心も捨てた貴様らにッ……俺達の想いなど理解出来るものかぁあぁあッ!」

 だが、サンダーボルトスパルタンの動きなどとうに見切っているグールベレー隊員は、彼が繰り出して来るスタンスピアの連続刺突を軽やかに受け流していた。両肩のコイルから放たれる電撃も、グールベレー隊員のコイルに吸収され、無効化されている。

(……どれほど精神が肉体を凌駕しようと、そもそものスペック差が歴然であれば焼け石に水。哀れなものだな、非力な人間とは)

 どれほど怒りに任せて攻撃したところで、ダメージが通らなければ意味がない。その非常な現実を突き付けようと、グールベレー隊員は自身の3連装スタンスピアで相手を串刺しにしようとする。

「……ッ!?」
「ぉおおおッ!」

 だが、2連装スタンスピアで突撃――するかのように見せかけていたサンダーボルトスパルタンは、その直前で後方に飛び退いてしまう。予期せぬ挙動に瞠目したグールベレー隊員の目前で、彼は背中にマウントしていた大型のレールガンを引き抜いていた。

 銃身の大きさ故に取り回しが悪いこの武装を使うために、回避を兼ねて距離を取っていたのだろう。高度な命中精度を誇る針状の弾丸は、唸りを上げてグールベレー隊員の胸を貫くのだった。

「人間の『覚悟』を……思い知れぇえッ!」
「……ぬぅあぁああッ!」

 咄嗟に上体を真横に動かし、心臓への命中だけは免れたグールベレー隊員。彼はその激痛に苦悶の声を上げながらも、斃れることなく両足で踏ん張り、耐え凌ぐ。

(この男……怒りに身を任せているようで、着実に俺の動きを見切り始めている! これ以上戦いが長引けば……厄介な相手になりかねんッ!)

 「所詮は人間」と、心の奥底でサンダーボルトスパルタンを侮っていたグールベレー隊員。その慢心を恥じた彼は、サンダーボルトスパルタンを「強敵」と認めざるを得なくなっていた。一気に地を蹴って間合いを詰めた彼は、サンダーボルトスパルタンの胸を3連装スタンスピアで容赦なく刺し貫く。

「やってくれるではないかッ……鉄屑があぁああッ!」
「うごあぁああッ!」

 そしてそのまま、相手の胸板に強烈な周り蹴りを浴びせ――天高く吹き飛ばしてしまうのだった。胸を貫かれ、さらに激しく蹴り飛ばされてしまったサンダーボルトスパルタンの身体が、変電所の鉄塔に叩き付けられてしまう。

「……人間風情にしては見事な奮闘だった。しかし……今度こそこれで終わりだ」

 その凄惨な光景を見届けたグールベレー隊員は、この決闘の終焉を確信し、立ち去ろうとする。だが――次の瞬間。

「うっ、ぐッ……おぁあぁあぁああッ!」
「……!? なんだ、奴の外骨格に何が……!」

 突如、鉄塔に叩き付けられたサンダーボルトスパルタンの全身が眩い電光に包まれる。激しい輝きの中で絶叫を上げる彼は、鉄塔を通じて変電所内の膨大なエネルギーを取り込もうとしていたのだ。

「おぉおおッ……!」

 両肩のコイルを通じて、外骨格に莫大な電力が供給されて行く。それは外骨格の許容量を遥かに上回る勢いであり、過剰なエネルギーを一気に吸収しているサンダーボルトスパルタンのボディは、苛烈な負荷による黒煙を上げていた。

(レオン……! 例えこの身が朽ちるとしても……平和を願ったお前の祈りを……無駄にはさせんッ! お前の勝利を信じていた、レオナのためにもッ!)

 その「余波」である電熱に全身を焼かれながらも、マキシミリアンは鉄塔から離れようとはしなかった。この程度の電力では奴には通じない。この「器」から溢れ返るほどのエネルギーを、限界を超えるまで溜め込まなくては。その一心で、彼はより大量の電力を外骨格に取り込んで行く。

「……おぉおおおおーッ!」

 やがて、あまりに強大な電力を全身に帯びたサンダーボルトスパルタンは。勢いよく鉄塔を蹴り、人型の稲妻となってグールベレー隊員に襲い掛かる。右腕の小型ガトリングガンを連射して牽制しながら、彼は左腕の2連装スタンスピアを構えていた。

「なッ……なにィッ!? あれほどの電力を吸収しようものなら、いずれ外骨格の方が保たなくなるというのにッ……なんと馬鹿な真似をッ……!」
「思い知れと言ったはずだッ……人間の『覚悟』をなぁあぁあッ!」

 驚愕の表情を露わにした仇敵目掛けて、サンダーボルトスパルタンはスタンスピアを振り上げる。その切先から迸る電光は、これまでとは比べ物にならない激しさであった。
 スタンスピアの先端からビリビリと伝わって来る迫力に慄くグールベレー隊員に、サンダーボルトスパルタンは力の限り吼える。これが、ただの人間の「覚悟」なのだと。

「……ええいッ! 器以上の電力を帯びたところで、この俺のエネルギーに敵うはずがぁあぁあーッ!」

 だが、いくら自滅覚悟で強力なエネルギーを得たと言っても、そもそもの外骨格が貧弱なのだから大した違いはない。そう自分に言い聞かせながら、グールベレー隊員は3連装スタンスピアで迎え撃とうとする。

「うぉおおぉおおーッ!」

 そんな仇敵と睨み合うサンダーボルトスパルタンは、亡き戦友達の想いを込めた渾身の刺突を繰り出すのだった。青と赤の電光がクロスカウンターのように交錯し――互いのスタンスピアが唸りを上げる。

「がッ、はぁッ……!?」

 この一騎打ちを制したのは――サンダーボルトスパルタンの方だった。彼が繰り出した全身全霊の一突きが、グールベレー隊員の心臓を確実に貫いたのである。

「俺の……勝ちだッ!」

 自らのエネルギーに焼き尽くされる覚悟で、限界以上の電力を帯びていたサンダーボルトスパルタン。彼は瞬間的に、グールベレー隊員の力を凌駕していたのだ。満身創痍となり、全身から黒煙を噴き出しているボロボロの勝者は、決闘の終焉を物語るようにスタンスピアを強引に引き抜く。

「バカ、なッ……! 電流兵器でッ……この、俺がぁあッ……!」

 自分の敗北を受け入れることが出来ぬまま。心臓を貫かれたグールベレー隊員は、胸を抑えながら力無く倒れ伏して行く。その最期を見下ろしていたサンダーボルトスパルタンは、静かに踵を返していた。

 ――基礎スペックにおいては、グールベレー隊員の方が遥かに上回っていた。それは電力エネルギーの許容量も同様だ。彼もサンダーボルトスパルタンのように、大量の電力を鉄塔から吸収していれば、この戦闘を制することは簡単だっただろう。

 しかし、彼はそれをしなかった。やろうとも思わなかった。だが、能力的に出来なかったわけではない。過剰供給に伴う電熱に焼かれ、自滅してしまうリスクを恐れただけ。
 その痛みに対する恐怖と敵に対する侮りが、勝利に対する執念を上回ったに過ぎない。そこまでしなくとも、この男を仕留めることは出来る。その慢心こそが、彼の死を招いたのだ。

 レオンことシールドスパルタンは、自分の盾が破られることを「覚悟」の上で囮を引き受け、仲間達を先へと進ませた。マキシミリアンことサンダーボルトスパルタンは自滅を「覚悟」し、グールベレー隊員さえ凌ぐエネルギーを手に入れた。

 勝利に対する渇望。執着。その全てを己の糧とする「覚悟」。その有無が、この決闘の明暗を分けたのである。力無き人間だからこそ、到達し得る信念。それは、人間の身体も心も捨てた改造人間では決して辿り着けない境地であった。

「……限界を越える『覚悟』無き者に、真の勝利など訪れん。俺とレオンに有り、貴様に無かったものが……その『覚悟』だ」

 仮面を外し、精悍な素顔を露わにしたマキシミリアン。彼は仇敵の骸を一瞥した後、変電所前に停めていた自身のスパルタンハリケーンに跨って行く。
 今も市内で仲間達が戦っている以上、この場に留まってはいられないのだ。死ぬ前にやるべきことが、まだ残っているのだから。
 
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