神々の塔
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第六十話 酔いどれ詩人その十五
「またな」
「それが一番の楽しみですか」
「そして幸せだ、幸い神霊になれば金を使わずともな」
そうせずともというのだ。
「酒池肉林が幾らでも楽しめる」
「そやからですね」
「存分にだ」
「これからですか」
「前からもそうだったしな」
「神霊さんになってから」
「だから神霊になってよかったとな」
満面の笑みで言うのだった。
「思っておるぞ」
「そうなんですね」
「色々悪いことをしてきた」
ヌワースは自分から語った。
「こうして酒に贅沢に怠惰に色に」
「ほんま色々ですね」
「あっという間の散財も常だった」
このことはアラビアンナイトにも歴史にもある、アヌー=ヌワースは兎角そうした人生を送ってきた男として知られている。
「しかしそんなわしも神霊になれて天国にも行ける」
「そうしたこと以上の善行を積んでですか」
「そう言って頂いたのだ」
「アッラーが」
「そしてここにもいる」
綾乃に嬉しそうに話した。
「アッラーはまことに偉大だ」
「悪いことをしてもですか」
「わしはそれ以上の善行を積んだ様だな」
「そう評価してくれるんで」
「アッラーは偉大だ、その偉大さに感謝しつつ」
そうしてというのだ。
「そのうえで飲むぞ」
「飲むんですか」
「これは忘れぬ、ではだ」
「また飲んで」
「お主達のことを謡おうぞ」
こう言ってだった。
アブー=ヌワースは紅のワインを実に美味そうに飲んだ、そうして一行を見送った。一行はその彼に自分達が謡われる日を期待して上に行くのだった。
第六十話 完
2024・2・1
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