| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

不可能男との約束

作者:悪役
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

確固たる行進

 
前書き
さあ行こうよと君が言う

だから、私はこう言う

一緒に行こうと

配点(行進)
 

 
唐突に目の前に現れた女侍に周りがざわめく。
少なくとも戦闘系の特務クラスは目の前の少女のスピードに驚いているだろうなぁと熱田は一応、目の前の少女から密かに間合いを取るためにじりっと一歩下がる。
すると、しっかり瞳では見ていなくても、しかし、目の前の少女はしっかりこっちを捉えている事を気配で気付く。

……へぇ?

疼く血が止まらない。
正直に吐けば、トーリがやる気になったせいで、自分の自制心はさっきから罅割れ状態だ。まだ割れてないことが奇跡だぜと思っている。
いけねぇいけねぇと自分に言い聞かせる。
だから、両手を震わすんじゃねえよ、俺。

「……二代か!?」

「正純か……中等部以来か」

正純が目の前の少女に叫んで話しかけるのをガリレオと同じ風にどうでもよさそうにしながら聞く。
知らない関係だったが、この場で驚く事ではない。
だから、既にガリレオは目の前の刃を見ながらも、それを認めた上で更に前に一歩進んだ。
その行為に本多・忠勝の娘である本多・二代は少し、目を細める。

「───邪魔する気かね」

「邪魔をしているのはどちらで御座るか」

おいおい。
止めに来たお前らが一触即発になってどうすんだよと思わず内心で思うが、こういう争いごとを止める才能が自分にはない事を知っている。
どちらかと言うと俺は

「おっしゃぁ! どっちが勝つか見物だぜ。ま、最終的に勝つのは俺だけどな」

「ここで煽ってきやがった!」

周りのツッコミに俺は投げキッスをする事で応えた。
物凄い嫌そうな顔で睨まれた。

あの野郎ども……ノリって言うのが解らねえのか……!

後でシメてやると心に誓って、トーリたちの方に向かう気配を感じ取る。
気配の数は二人。
そして知らない気配と言うわけでもない気配であった。

「お! 麻呂に麻呂嫁だぜ! 何だよー、二人とも俺の活躍を見に来てくれたのかよー! よっしゃ! じゃあ、俺の象さんの偉大さを見せる時が……!」

「いらんわーー!! 麻呂を馬鹿にするな! 麻呂は武蔵王ヨシナオであるぞ! 大体、忘れていないか? 総長連合及びに生徒会の権限を預かっているのは麻呂だぞ!」

「お? お? お? おいおい皆! どうやら麻呂は自分を倒さなきゃ権限を奪えないぞってご丁寧に魔王宣言をしてきてくれたぜ!」

「つまり、麻呂王を倒せば権限を奪回……これってマジで下剋上ってやつじゃねか!? おい!!」

「この馬鹿総長&馬鹿副長は……! 麻呂に向かってなんてことを……!」

「ヨ、ヨシナオ王! すいません! この外道共が失礼を……! 後でズドンしときますからここは落ち着いてくれませんか!?」

「ふふふ、浅間。あんたの発言に皆が戦慄したわよ───ねぇ、点蔵! そうでしょ!?」

「な、何でそこで自分に回し……そ、そんなわけないで御座るよ! そうで御座るよな! イトケン殿!!」

「おおっと来たね来たね! こうやって周りにパスを回して皆を巻き込む梅組シンパシーだよね!」

『うむ。こうして我らは更に友情を深め、高めあうことが出来るのだ。そうだとも。我らの友情レベルは正に無限の力だとも……!』

「点蔵。率直に申しますけど、これパスを回す相手間違えていませんか?」

「くっ……!」

「まぁまぁ……」

何故かしまったという顔で正純が取り直している光景が後ろに広がっている。
その顔を見て、俺もつい外道達に餌を与えてしまったと内心で思うが、こう思うと智が射撃してくるので何も言わないことにした。
逃げじゃねぇ。
これはそう前を向こうというポジティブシンキングに違いない。ああ、そうだ。それしかないぜ……。
とりあえず麻呂王の要件を正純が聞いているので、耳を傾けてみると、どうやら俺達を諫めに来たという事らしい。
それをしに来たこと自体は有難いっちゃ有難いんだが、はて? どんな方法でこの場を諫めんのかと思っていたら、成程というモノであった。

「麻呂の警護に付いている警護隊隊長がおります」

すなわち、恐らく現、武蔵にいる中で最大戦力を俺達にぶつけて負けたのならばそこまでだという事だ。
同じような事なら直政とネイトがやったが、それとこれは少し違うだろう。
二人の実力が低いというわけではない。
むしろ、戦闘力は他国の特務クラスに劣らずとも勝らずといったところであると熱田は思っている。
二人とも同じパワーファイターで、故にパワーだけならば副長クラスにも通じるし、戦い方次第では勝つこともできるとも思っている。
だが、やはり、副長クラスは少し違うのだと思う。
自惚れみたいで言う気はないが、副長クラスは単一特化で強い特務とは違い、総合力全てが揃っている戦闘民族だと自分でも思っている。
勿論、相手によってタイプは違うが。
例えば、三征西班牙の副長や英国の副長は攻撃性が特化している副長とは少し、タイプが違う戦い方らしい。
出会ったらバトリたいものだぜと熱田が内心で思いながら、本多・二代を見る。
さっきの唐突な出現。
しかし、それは自分のそれとは違い、単純なスピードである事というのは看破していた。
何らかの加速術式を使った速度を武器とした近接系だ。
例で言うなら、完璧に昨日の立花・宗茂と同じタイプ。速度を武器にしたといえば簡単に思えるが、その実、かなり鍛え上げて作り上げた芸術めいた戦闘技能を持っている事は勘で分かる。
いや、それくらい楽に斬っちまうのが剣神魂なのだが。

「なぁ、シュウ! おめぇ、今、物騒なこと考えてねぇ?」

「何を言ってやがんだトーリ。俺はただ人一人を斬る際の労力を考えていただけで、物騒なことは一切考えてねえよ」

「それを物騒って言うんだよ!」

「いや違う! 良く考えてみろよてめぇら! これからするかもしれない未来に対してどれだけ面倒な事か考えねえ奴がいるか? いねえだろ? つまり、俺が考えているのは物騒な事じゃねえ───要はどれだけ楽に斬れるかって事を思案しているだけだ」

「こいつはもう駄目さねぇ……」

うるせえととりあえず落ちている石で攻撃を開始したら、向こうは人海戦術で大量の石を投げてきた。
偶に巨大な岩やら矢やら御広敷やネンジが飛んでくるのはどういう事だと思いながら、とりあえず逃げた。御広敷に関しては撃退した。ネンジは勝手に散った。
とりあえず、最後まで点蔵の股間を執拗に狙いまくったので、個人的なストレスは解消されたのが素晴らしい事だった。
ともあれ、彼女が強い事は確かだろう。
この場で純粋に斬り合うという意味で、彼女に勝てる人間はいないという事にしとく。
そう頭の中で考えていると、何時の間にか暴力教師が教皇総長に対して結論を言っていた。

「武蔵アリアダスト教導院の問題なのですから、他校の生徒が関与しないでくださいね」

『以後気を付けよう』

そしてガリレオは一度、こちらを興味がありそうな視線で一度こちらを見たが次の瞬間には消えた。
そこでようやく肩の力を抜いて楽にする。
やれやれと思いつつ、とっとと観客席に帰るかと思っていたら

「……」

「……おい」

何故か目の前の女武者がこちらに刃を向けてきた。
何だか嫌な予感がする。
だって、何故か目の前の少女の瞳には好奇心というか、何というか、つまり、こちらに対して物凄い武者震いをしているような表情でこちらを見ているのである。

……おいおい。

似たような視線を見た事がある。
というかさっき見ていた。
俺が臨時生徒会に関わらないと言う前のネイトの視線である。動機とかは違うだろうけど、その好戦的な視線は結果的には似たようなものである。

「いいか? 待ちやがれ。俺はさっきも言ったように───」

「近接武術師、本多・二代」

聞いちゃいねえ! と思わず内心で憤るが状況は待ってくれない。
いけねぇとこの女を諫める手段を考えるが、正純や智と違って、俺は口が達者な男ではないのである。代わりに歌は達者な男だが。
煽る事は得意でも諫める事は不得意なのである。

「剣神・熱田殿とお見受けするで御座る」

「だから、人の話を聞けって……!」

断言してやる。
こいつは熱中したものをしている時は誰の言う事も聞かねえ馬鹿だ。一つの物ごとに憑りつかれたら、そこから脱却出来ねえ馬鹿だ。
となると言葉で止めるのは不可能かもしれねえと結論が出てしまう。
いかん。こういう時は正純を目の前の少女にぶち当てなければいけなかったかと、ようやく思いついてしまい、しかし悲しいかな。
正純とは距離が遠過ぎたし、目の前の少女に近過ぎたのである。

「いざ尋常に───」

どうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうする? と頭の中で混乱して、混乱しまくった結果。
出た言葉はただ一つ。
とりあえずぶった斬るか。

「待ちやがれーーーーーーーー!!!」

叫びの勢いでそのまま右手のメスを振るった。









……これは!

二代は武蔵副長からの攻撃に物凄く驚いたと言ってもいいだろう。
距離からしたら、振るった攻撃は大いに空振らなければいけない距離である。
当たり前である。
こっちは長物で、あっちは武器どころかメスである。人間を相手に振るって当たるようなものではない。そもそも攻撃になるとは思えない。
それなのに、振るった斬撃は飛んできた。

何と面妖な……!

術式ではない。
そんなものが発動したのを見ていない。そして、そもそも剣神・熱田には術式は使えない。
その身に宿る流体は全て外ではなく、内にしか向かないという事らしくて、術式などが使えないらしい。それでも近接最強の称号を得ているのは、その流体を全て自己の強化に使っているからと

確か……剣神は自身の配下と言ってもいい剣と同化することによってその威力を発揮するとか……!

だとしたら、これがそれか。
言葉だけで全く理解できていなかったという事になるが、そんな事を言っている暇はない。
既に飛ぶ斬撃は地面を削って、五メートル近くに来ている。
対してこちらは突撃しようとする瞬間であり、体勢は前に行こうとしている。
初動が遅れたという事実に悔しさを感じながら、避ける為に前に出ている右足を自分の左足で、右に払う。それで右に勝手に転ぶが、このままでは第二射がが来た時に耐えられない。
ならば

……蜻蛉切り!

剣神に向けていた蜻蛉切りの石突きで地面を穿つ。
その衝撃で自分の体は猫の体のように丸まって跳ね飛ぶ。そしてその後に右足から足を付けて、視線を前にする。そしてこのまま加速術式で───

「おーーー!? やっちまったーー!! つい、誤って思いっきり、メスを振るって潰しちまった!!」

「熱田ーー。今、気付いたけど、それって学校の備品のように思えるんだけど?」

「!! 違うぜ! これはアデーレの犬達が奪おうとしていたところを俺が奪い返した戦利品だぜ! むしろ、俺、正義の味方!」

「ここで何で自分に弾を逸らすんですかーー! ち、ちが、違いますよ! 自分の犬達はそんな躾けの悪いことしませんよ!?」

「でも、そういえば先生。以前、アデーレの犬達に肉を奪われたことがあった気がするわねー。」

「来ますか!? ここで来ますか!? 回避不能の一撃必殺をここで出しますか!? ですが、それは諸刃の剣ですよ先生! 一撃必殺故に一撃しかそのツッコミは使えないのですから……!」

「ネシンバラ君。アデーレに良い脳の施療院を教えてくれませんか?」

「んー? 素人意見だけど、多分、もう駄目だね」

「断定されましたよ自分!?」

「あたぼうよアデーレ! おめえ自分がまともだと思ってたのかよ、可哀想な奴だなあ。でも、俺達はアデーレが凄く可哀想な奴だと解って付き合ってるから全然大丈夫だぜ!」

「ぜ、全裸に大丈夫だとか可哀想とか言われたくないですよ!」

思いっきり空気に滑らされてしまったで御座る。
思わず半目でこれらの馬鹿どもの仲間である正純の方を見てしまう。
その視線に慌てて正純は手を勢いよく横に振って答える。

「ち、違うぞ! 私はこんな奇妙集団の一員じゃないぞ! 私は至って普通の生徒だ!」

「んー、でもナイちゃん思うに、女子なのに男子の制服で毎日登校しているのは奇妙としか言えないと思うんだけど」

「シッ。言っちゃ駄目よマルゴット。正純はあれで普通だと思っているの。あれよあれ。自分の常識こそが、世界の常識と思っている可哀想……哀れな思考回路を持っているのよ。だから、せめて私達だけでもイタイものを見るような目で見てあげないと───それに同人誌のネタになるから私的にはOKよ。受け入れはしないけど」

「長いし、酷いし、最悪だなお前!」

どうやらお取込み中だと思い、遠慮することにした。
拙者、良い事をしたで御座ると思いつつ、そういえば熱田殿と戦闘中で御座ったと思い、慌てて構え直す。
そこに目の前にいきなり手が現れた。

「……!」

「ああ待った待った。落ち着け、女侍」

何時の間にか間合いに侵入してきた剣神。
その滑らかさに息を呑むのを止められない。
今のは自分の油断か? 周りの馬鹿騒ぎに目を逸らして、相手の動きを視界に入れなかったから当たり前の結果か?
否。
それは違うと断言する。
確かに熱田殿から目を逸らしていたことは認める。周りの馬鹿騒ぎに目を逸らしていたことも認める。
しかし、だからと言って目の前にいる相対の相手から気を逸らす事だけはしていないと断言できる。
自分は未熟な身だ。
なればこそ、油断などする気もないし、してはいけない。……いや、目を逸らしていたことを油断と指摘されたら困るので御座るが、それについては全裸のせいという事にしておくで御座る。
とにかく、自分は無意識で相手から気を逸らさないような訓練を受けている。
鹿角様からも「これならば、忠勝様が背後からだーれだ! などと馬鹿げたことをやってきても対処できます」と保証してくれたので御座る。
父上はそこで鹿角様にしようとしたのだが、逆に肉包丁を父上の首に目がけて叩こうとしていたのだ。
まだまだ甘いで御座ると内心で思いながら、とりあえず意識を逸らしていたわけではないと思う。

……なら、単純に熱田殿の体術で御座るか!?

それならば素直に恐ろしいと思う。
どういう理屈かは解らないし、簡単に理解できるとは思えない。
ただ内容が何であれ、その技術には脱帽物である。
実際、今のがもしも首を取る一撃だったのならば、自分は躱せなかったのである。

───見事!

だからこそ待てと言う言葉を聞かなければいけない。
自分は情けをかけられたのだから、答えなければいけない。

「Jud.何で御座ろうか?」

「おう。ようやく話を聞く気になったか」

「待つで御座る。その言い方では拙者はさっきまで人の話を聞く気がなかったように聞こえるで御座る」

「聞こえるじゃなくて、そうだったんだよ!」

周りの声が大きいで御座るなぁと思いつつ、熱田殿の話を聞く。

「とりあえず……俺は残念ながら、この臨時生徒会には絶対に手出ししねえって宣言してるもんでな。だから、さっきみたいに邪魔してきたならばともかく、お前みたいに相対する奴とは俺は残念ながら闘れねえんだわ」

「……ぬ」

「悪いな」

「……いや」

それならば仕方がないという思いと、悔しいという思いが出来るが、やはり結論は仕方がないの方だろう。
怠惰とか、そういう理由ならば異議を申し出ている所なのだが、ほんの一瞬の攻防だが、相手の思いを一方的に理解はした気がする。
解った事は怠惰などという理由で彼は戦う気がないという事ではないという事。
彼の剣から感じた事は───まるで戦端を斬り開くかのような曇りのない強さだけである。そして彼はその戦端を誰かに捧げている。
この場でその相手が誰かといえば───武蔵総長兼生徒会長の事だろう。
まっこと見事な忠義と思い、二代は侍だからこそ何も言わなかった。

「それがこの場の決定ならば、拙者はそれに従うのみで御座る。であれば、誰が拙者の相手を?」

その言葉にいきなりアリアダスト教導院メンバーがスクラムを組み始めた。

「とりあえず、点蔵は却下だ。キャラクターで負けてやがるからな」

「くっ……! た、確かに自分もあそこまで開き直れないで御座る……!」

「んーー。じゃ、ネンジ行ってみる?」

『吾輩に行けと申すか……! いいだろうトーリよ……然らば、その眼に吾輩の華麗な戦い方を見ておくがいい!』

「散り際の間違いじゃないかな?」

「マルゴットよ……率直に言えばいいというわけではないと拙僧思うぞ」

「じゃあ、どうするのよ。遠距離で言ってもあの蜻蛉切り狙えるんでしょ? じゃあ、私とマルゴットは術の出が遅いから相性が悪いと思うわ───盾がいれば別だけど」

「な、何故にそこで小生を見るんですか! それに相手は幼女じゃないので、小生はあんなババア相手に近寄る気はな───ど、どうして殺気が周りどころか、表示枠からも感じるのでしょうか……」

「無視するけど、シロ君と私じゃあパワーとかは代用系の術式で補えるけど、技術がないから多分駄目だと思うかなー?」

「私とマサはパワーは多分勝っていると思いますけど……さっきの動きや神肖動画で見た動きを察するにスピードで対処できませんから、無理だと思いますわ……」

「となると僕なのかなぁ……一応ベルトーニ君みたいな代用系の術式は僕も使えるから。キャラもクロスユナイト君みたいに負けていないし」

「ここは私が超遠距離からズドンで……とか、なんちゃって……」

「───それだ!!」

「冗談に皆反応しないでください!!」

何だか寒気を感じるで御座る。
そう思い、何となしに周りを見回し、そしてさっきまでいた場所を見直すと───戦慄した。
さっきの斬撃が凡そ二十メートルくらい先まで斬れていたからである。単純な斬撃でここまでの威力を出せるとは………ならば、中距離であっても熱田殿は戦えるという事である。
恐ろしいで御座るなと武者震いをしているところを本人がその傷跡をじっとみている拙者に気付いたのか、何なしにこちらを見て心底駄目だぜと言いたげな一言を呟き、その呟きに再び驚愕した。

「やっぱり────剣じゃなかったらその程度か(・・・・・・・・・・・・・)










「三河君主、ホライゾン・アリアダストの奪還を極東の判断と決定いたします」

それ以降の流れは割とあっさりしたものと言ってもいいだろうと浅間は思った。。
本多・二代さんの相対にはトーリ君の姉である葵・喜美が出た。
一般生徒である彼女は己の術式"高嶺舞"の自分が認めた相手以外には触れさせないという力を使い、見事副長クラスの相手を撃退した。
その事によりもう意志は決定された。
最後に正純が教皇総長に対して、ヴェストファーレン会議で決着を着けようという事で宣戦布告をして、臨時生徒会は終わった。
その後に来たのは一瞬の静けさであり、そして直ぐに大歓声へと変わった。
その声には喜びや嬉しさが籠っていたと、勝手に解釈する。

……それは嫌ですよね。

目の前で罪もない子供であり、同世代である女の子が死ぬのは。
実際、さっきまで敵側の位置に立っていた正純やマサ、ミトもほっとしたような顔で笑っている。

良かった……。

本当に良かったと思う。
私も、皆も勝手な勘違いかもしれないけど、やっぱり友人を助けたいという思いは真摯な気持ちだったのだと証明できた気がしたのだ。
そう思い、そういえばこの事で一番喜んでいるであろう二人組はどこにいるだろうと思い、顔を回していると───いた。

トーリ君とシュウ君。

二人とも喧騒から離れた場所でこの場の大歓声から切り離されているかのような穏やかな雰囲気で喋っていた。

「……ハァ。長かったな」

「そうだな……オメェの場合は勝手に禁欲かましているのがいけなかったと思うけど?」

「何言ってやがる馬鹿トーリ。俺が何時禁欲なんてしたんだよ。俺はちゃっかり先生の部屋から酒を盗んで飲んだりしているから禁欲なんてしてないぞ」

そして二人は何時もとは全然違う苦笑をして笑いあう。
思わず、その光景をボーっと見てしまう。目の前にいる良く見知った二人がまるで別人のように思える。
二人の事に気付いたのか、梅組メンバーも何時の間にか二人を注視していた。

「さてと……」

「行くか、トーリ」

「別に無理に頼む気はねえぜ? 俺が一人で行った方が俺一人で叱られるだけで終わるだろ」

「そうもいかねえ。アホらしいことに俺はどっかの馬鹿と馬鹿らしい約束をしているからな」

そうしてシュウ君が虚空に手を伸ばす。
すると
生徒会室から窓を突き破ってくる布に巻かれた巨大なものが彼の手まで飛んで行って、そして握りしめられた。

「あーーーー!! オメェ!! あそこには俺が密かに隠していたエロゲが大量にあったのに……!」

「ああ。だから、派手に登場するためにわざとこの剣をあそこに置いといてやったんだぜ。感謝しろよな」

「前から言おうか迷っていたんだが、親友!! 実は俺のエロゲに何か恨みがあるのか! そうなのか! 解った! 巨乳モノを俺が一部独占していたのが悪かったのか! そいつは悪い!!」

「お前ーー!! まさか俺が欲しがっていた『デルモミクエストVER.O・O』とかはお前が買い漁っていたのかよ!!」

「あ、それ俺だ」

「俺の巨乳信仰を妨げやがって……!」

あれれ?
さっきまで私が思っていたのは勘違いですかね? 私の脳が血迷っただけですかね? そもそも何で私は血迷ったんでしょうか? 
結論=あの二人のせいですね。
そうしているとどこからともなく声が聞こえた。

『ヒサシブリナノ』

「おう、久しぶりだな」

声は明らかにシュウ君の手元の巨大な物体から聞こえていた。
布に巻かれているから中身は見えませんけど、恐らく大剣といった所ですかねと想像し、そして人工の知能があるところを見ると

……神格武装級ですか!?

驚きはしたけど、熱田並の神社ならばそれくらい持っていてもおかしくはない。
剣神なのだから、それくらいの武器を持っていないと釣り合わないでしょうし。

『キルノ? キルノ?』

「勿論だぜ。俺が振るうんだから斬るしかねーだろうが」

『タノシミ』

……何か小動物みたいな言動に騙されそうになりましたけど、今、かなり物騒な事を言いましたよ!?
やはり、飼い主があれだったら、ペットも同じ性格になるという事でしょうかと新しい哲学を知った気分になった。

「ま、とっとこ行こうや。あの毒舌女を捕まえたら、その後、どうせ打ち上げだろ? なら、速い方がいいだろ?」

「そうだなー。後でホライゾンに餃子でも作ってやるか……!」

「やってもいいが、その馬鹿に関しては俺を巻き込むな」

そうして彼らは何となしに散歩しに行くかのような感じで階段に向かっていった。

ちょっ……!

何で二人で勝手に行くんですかと思い、思わず体勢が前のめりになったところにトーリ君の言葉が飛んできた。

「悪ぃ、ちょっと行ってくるわ」

本当に気負いも何も無しに、彼はその一言を告げた。

「お前らは皆、俺に皆でやればホライゾンを救えるという事を教えてくれた───でも、別にお前らはホライゾンを助けなくてもいいよ。だって、これは俺がしたい事であって、お前らがするべきっていう事情はないからな」

即座にならば……という視線でシュウ君の方に視線が向く。
すると、彼は仕方なさそうに溜息を吐いた後に、答える。

「馬鹿げたことに……俺はこの馬鹿の隣で馬鹿をするだなんて脳がいかれた約束を過去の狂っている俺が約束しちまっててな。本当に馬鹿らしいが───約束を破るのは性分じゃなくてな。こいつの横に立ってなきゃいけねえんだよ」

「……! な、何よそれ! 私の指を動かせる気ね!? もう! せっかちな馬鹿二人組ね! 人の予定を気にしてネタを蒔きなさいよ! ───でも、礼は言うわ総長!」

「っしゃあああ!! ほら、親友! 十年前に賭けた金を渡す時だぜ! やっぱり、最後に俺に礼を言っただろう!!?」

「ああ、クソ!! ナルゼ! てめぇ……何、俺の予想を裏切っていやがんだ!!」

「……何、あんたら私をネタにしてるのよ!! 本当に最低ね」

「お前が言うな!!」

全員の睨みにナルゼは無視して表示枠にネームを書きだした。
途中に「ここで浅間にズドンをさせて……いや、もしくは乱入させるべきかしら?」という台詞に戦慄してしまいましたが、こ、後者でトーリ君を除外するならば……と心の中だけで考えて、今回は見逃した。
前者だったら、御望み通りズドンですけど。
とりあえず、皆で落ち着けと落ち着かせ合う。これはこれで私達は一体何をしたいんだろうと思わなくもないですが、とりあえず、空気を戻せればいいと思い、何とか戻した。







そして少年の微笑と共に声が届いた。

「まぁ、俺達だけで行けば叱られるのは俺達だけで済むだろうしさ───俺が行ってちょっと叱れば俺の分はそれで終わりなんだ」

でもなぁ

「俺はそれだけで十分なんだ。ホライゾンが死ぬしかない存在ではない、殺されるだけの存在じゃないってだけで俺はもう十分なんだ。それさえあれば俺は行けるし、笑える」

だからな

「お前らにもしも大事な人が出来たんなら、こう思ってくれよ───お前らは救えることが出来る人間なんだ。出来ねえ俺が保証してやるよ」









……馬鹿ねー。

オリオトライは苦笑と共に二人の馬鹿が階段を下りて行くのを見ていた。
何時も力を隠して、しかし、ずっと馬鹿に期待していた熱田に。
何も出来ねえと思ってても、それでも自分の夢をずっと諦めなかったトーリ。
だから、二人で馬鹿をしに行くと言う二人。
ベクトルは多少違えども、やっぱり、二人の馬鹿は根本的には似たようなモノねと苦笑を深くする。
隣で光紀がおろおろしているけど気にしない。
ヨシナオ王が二人を引き留めようとしているけど、気にしない。
だって、私はこの後、子供たちが何をするのか大体予想しているのだから。

「あ……」

隣で光紀がその光景に漏らす。
誰も彼もが二人の後を追って行ったからである。梅組メンバーも、そうじゃない生徒達も。
誰も彼もが王とその剣を追いかけた。
誰も彼もがやれやれといった感じに笑い、苦笑して、二人の後を追いかける。
何て素敵な子達だろう。配点は満点。
素敵過ぎて、さっきまでの苦笑が微笑に変わっているのが解る。
そして追いつかれた二人が、その光景を見て、仕方なさそうに笑った。

「頑張れ……頑張れ……」

頑張って前を向いて、歩いて、辿り着いてほしい。
そう、これはただ進路を選んだだけなのである。
じゃあ、テストを受けなきゃ。
夢を叶える為にテストを受けて、そして合格点を取るの。平均点くらいじゃ認めるのは難しいわね。やっぱり、夢を叶えるのだから満点を取らなきゃ。
だから

「頑張れ……頑張れ……」

頑張って───夢を叶えに行きなさい。









「まったく物好きな馬鹿どもだぜ」

「それに関しては同感だぜ親友。というか、東。来ても大丈夫なのかよ」

「大丈夫だよ……余にだって出来る事があるはずだから」

元皇族の東の言葉を聞いて皆苦笑する。
何一つ気負いのない行進。
これから世界に喧嘩を売る態度とは思えない、昨日までと変わらない姿であった。
そして彼らが階段を下りると、そこにはアリアダスト教導院学長の酒井・忠次学長が何時も通りの笑顔でそこに立っていた。

「おう派手な出陣だねぇ」

「派手あってこその始まりだろうが」

「ちょっ……熱田。少しは礼儀を……」

「はっはっ、いいんだよ正純君。この馬鹿はこれくらいで丁度いいくらいの調子なんだよ」

そこでとりあえずと前置きを作って

「その剣。使う気になったのかい?」

「……まぁな。俺の剣になってくれているんだ。使わなきゃもったいないぜ」

「使ってこその剣。でもね。使うからには───」

「勝ちを拾えっていうんだろ。何を当たり前の事言ってんだ爺。熱田の剣神が剣を抜くときは必勝だぜ」

二人の会話の意味は誰も理解できていなかった。
だけど、二人はそれを無視して熱田がそれにだと前置く。それを酒井学長は興味深そうな顔で聞く。
その宣言は

「俺は世界最強になる男だぜ。こんな所で負ける様な熱田様じゃねーンだよ」

「……はは」

皆が熱田の発言に流石に驚いた。
だが、酒井学長は少し驚いた後に、本当に可笑しそうな顔で、お腹の痛みを耐える様な震える笑いを吐き出した。

「ははは……その台詞───ダっちゃんに聞かせたかったよ」

「天国まで届けば問題ねーよ。もしくは地獄か?」

はは、とまた笑い、そしてそのまま視線を全体に向けた。

「まぁ、でも、ホライゾンを連れてちゃんと帰ってこいよお前ら。遠足は家に帰るまでが遠足ってよく言うでしょ。それと同じだ」

「おいおい学長。これからちょっと聖連に喧嘩売るのが遠足と同じなのかよー」

「お前さんが一番そんな風に思っている気がするけどね、トーリ」

苦笑して、しかし言葉は続ける。

「現場に置いては努力をするな。ただ全力を出せばいいんだ。限界何て超えたら無駄に肩に力が入るだけなんだから。ただ今まで積み重ねたものだけを信じろ。そしてそれでも無理だったら……」

一息を入れて、そして言った。

「生還しなよ」

「───Jud.!」

言葉を合わせてその言葉を皆が受け入れる。
その言葉を皆が胸に刻んでいる中、トーリが浅間に喋りかけた。

「なぁ、浅間」

「……何です?」

「俺がオマエに預けていたの借りていいかな。きっと、これから必要になる事になると思うんだわ」

その言葉に誰もが視線をトーリと浅間の方に向ける。
その言葉の意味を解らない梅組じゃないのだ。
その言葉に反応したのは喜美であった。

「ふふふ、愚弟。別に構わないんだけど、忘れちゃいないでしょうね?」

「ああ、大丈夫だよ姉ちゃん。俺は何も出来ねえから、直ぐに人を頼りにすると思うけど、それを皆のせいにする気はないし、それに───死ぬ気もねえよ」

「ふふふ、ならいいわ」

「……まったく。本当に人の話を聞かない姉弟ですね……解りました。こっちで通す準備をしときます」

「ありがてえ」

その言葉に浅間は苦笑しながら表示枠を開いて、何らかの操作をする。
そして最後に酒井からホライゾンの入学推薦書を貰い、そして一言。

「じゃあ、皆、行こうぜ───全員、頼りにしてんぜ」

「───Jud.!!」
















 
 

 
後書き
感想お待ちしております 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧