兎唇
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第二章
「そのままでな」
「山県さんもか」
「そうだったらしいな」
「小柄でそうした唇でか」
「それでも滅茶苦茶強かったらしいな」
名将揃いで知られた武田家の家臣達の中でももというのだ。
「ゲームでも強いしな」
「そうなんだな」
クアスメイトは名倉のその話に頷いた、この時はそれで終わりだったが後日名倉は彼の両親にも家で山県の話をしたが。
するとだ、両親はこう彼に言った。
「お前もそうだったんだぞ」
「生まれた時そうだったのね」
「えっ、俺兎唇だったんだ」
「そうだぞ、それですぐに手術してな」
「普通の唇になったのよ」
両親は彼に話した。
「生まれた時は驚いたけれど」
「最初はそうだったんだ」
「その山県って人と一緒でね」
「そうだったんだ」
「誰にも言ってないけれどね」
「お前もだったんだ」
「そうだったんだ」
そのことを知ってだ、名倉は驚いた。そのうえで自分の唇に手をやって言った。
「俺もだったんだ」
「けれど手術受けたらな」
「何でもないでしょ」
「本当に稀にそうした人もいてな」
「今は手術で生まれてすぐに普通になるからね」
「じゃあ何でもないな、山県さんも今なら」
彼がこの時代に生まれていたらと思うのだった。
「何でもないか」
「そうだな、別にな」
「ご両親以外には知らないことだったかもね」
「俺みたいに。そうなんだな」
名倉は唸って言った。
「いや、俺もだったなんて」
「けれど何でもないだろ」
「知ってもね」
「今は普通だしな」
それでと言うのだった、そして一家でその話はしなくなった。別に何でもないと思ったからだ。だが。
名倉はそれから山県という武将をさらに意識してゲームでも用いる様になった、親近感さえ感じて彼が前以上に好きになった。それがどうしてかは誰にも言わなかったが特に意識して用いる様になったのだった。
兎唇 完
2024・2・17
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