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俺様勇者と武闘家日記

作者:星海月
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第3部
ムオル〜バハラタ
  殺人鬼の謎


 町長の家で殺人鬼の情報を得た私たちは、次に四人目の被害者であり知人でもある、マーリーさんのところへと向かった。
 もう辺りはすっかり暗くなっているが、周囲の家々からはまだぼんやりと灯りがついている。とはいえ町にある店の大半は閉店していたので、急ぎ足でお店を訪問した。
「すいません、お客様。本日はもう閉店で……、って、ユウリさん!?」
 扉をノックして出てきたのは、タニアだった。シーラたちを迎えに来たときに一度再会してるので以前と変わらない様子ではあったが、少し顔色が悪い気がする。やっぱりマーリーさんのことがあったからだろうか。
「お久しぶり、タニア。夜分遅くごめんなさい。マーリーさんが怪我をしたって聞いたんだけど、本当?」
 私が顔を出した瞬間、タニアは張りつめた空気を抜くように、息を吐いた。そして笑顔で、「皆、お久しぶり!!」と迎えてくれた。
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫よ。昨日腕の骨を折られたんだけど、そのあとすぐに教会の神父さんに見てもらって、回復呪文で治してくれたから。今も夕御飯を食べたら、すぐに寝ちゃったわ」
「それなら良かった」
 私はほっとして、家の中を案内するタニアを見た。どことなくフラフラしているようだが、マーリーさんよりタニアの方が心配になってくる。
 そしてタニアに招き入れられた私たちが部屋に入った瞬間、今度は別の人物に出迎えられた。
「お久しぶりです、皆さん!!」
「グプタさん!! お久しぶりです」
 グプタさんに会うのはカンダタ一味を捕らえたとき以来だったので、こちらは本当に久しぶりだ。しばらく見ない間に、随分と逞しい印象を受けた彼は、私がじっと彼を見ていたからか、つい視線が合ってしまった。
「あの、なにか?」
「あ、いえ、しばらく見ない間に随分逞しくなったような気がして」
「やだミオってば、うちの旦那に手を出す気?」
「違う違う!! そう言う意味じゃなくて……って、え!?」
 タニアの発言に耳を疑った私は、聞き間違いかと思い他の三人の方に視線を移す。だが三人とも同じ様に驚いた顔をしていたので、間違いではないと確信した私はタニアを見返した。
「あの……タニア。今グプタさんのことを『旦那』って言った?」
「あれ? 言ってなかった? 私たち、結婚したのよ」
『ええええっっっっ!?』
 衝撃の事実に、思わず叫ばずにはいられなかった。いや、前回会ったときから恋人同士だったんだから想定できたことではあったのだが、まさかこんなに早く結婚するとは思わなかった。
「そうだったんだ~!! おめでとー!!」
 いち早く反応したシーラがお祝いの言葉を伝える。そうだ、二人が結婚だなんて、こんなに喜ばしいことはない。
「おめでとう、タニア。それじゃあグプタさんがここにいるってことは……」
「そう。婿入りしてくれたの。前から話し合ってはいたんだけどね」
「そもそも僕、三男坊なんで。僕の親も好きにすればいい、って言ってくれたから二つ返事でOKしたんですよ。まあ、一番喜んだのはマーリーさんですけどね」
「そうそう。それについ昨日おじいちゃんったら、グプタに店を継がせるって言って、そのまま引退しちゃったしね」
「それ、町長さんも言ってたけど、ホントのことだったんだ!?」
「よっぽどグプタに跡を継がせたかったみたいね」
「それはいいんだけどよ。じいさん、寝ちゃったんだろ? 殺人鬼の情報とか聞けないんじゃねえか?」
「あっ、そうだった!!」
 ナギの指摘に、はっとする私。一方タニアとグプタさんは、殺人鬼という単語を聞いて、一瞬顔がこわばった。
「あの、皆さん、もしかして殺人鬼を捕まえてくれるんですか?」
「ああ。もしかしたらその殺人鬼が、カンダタという可能性もあるからな」
「えっ」
 どうやらタニアは、その考えに初めて気づいたようだ。
「あの時俺たちがカンダタを逃がしてしまった責任もある。真相を突き止めるために、そいつを探しに情報を聞きに来た」
「すみません、あの時僕が……」
「グプタさんのせいじゃないですよ。むしろ、あんな危険人物をグプタさんたちに任せた私たちに責任があるんです。どうか気にしないでください」
 私が説得すると、グプタさんは心なしかほっと胸をなでおろしたようだ。
「あのジジイから殺人鬼について何か聞いてないか?」
「町長から聞いたと思いますが、マーリーさんが襲われたのは昨日の朝、黒胡椒を仕入れ先に届けるために荷馬車を走らせていた時です。走らせるといっても、年なので早歩き程度のスピードでしたが。それで、黒胡椒を届けてからの帰り道、町まであと数分ほどのところで、突然馬が暴れ出しました。後で調べたら、馬の脚に毒針が刺さっていて、それで暴れたようです。その衝撃でマーリーさんは御者台から落ち、動けないところに殺人鬼が現れました。殺人鬼が斧を振りかぶった瞬間、運よく馬が殺人鬼に向かってぶつかったんです。その後倒れた殺人鬼の隙を見て、マーリーさんは町へと逃げ帰ったそうです」
「ということは、ジジイの怪我は馬車から落ちた時にできたものなんだな?」
「はい、もし馬が殺人鬼を轢いてなかったら、もしかしたら骨折どころか命も……」
 グプタさんの話が言い終わる前に、ドサッ、と何かが床に倒れた音がした。
「タニア!!」
 振り向くと、タニアが顔面蒼白になりながら倒れているではないか。私は急いで彼女を助け起こす。
「どうしたの、タニア!?」
 彼女に触れて気づいたが、以前より痩せ細っている気がする。顔色が悪いのも、ふらふらしながら歩いていたのも、気のせいではなかったのだ。
「グプタさん、心当たりは?」
「わ、わかりません……。でも、もしかしたらマーリーさんのことで気に病んでたかもしれません」
「とにかく、彼女をベッドに運ぼう」
 ナギの一声に、グプタさんはとっさに彼女を抱え、部屋を後にした。そして彼がタニアをベッドに運んでいる間、皆腑に落ちない様子で考えていた。
「そもそも殺人鬼の狙いは何なんだ? もしカンダタだとしても、なぜ夜ではなく第三者に見つかりやすい時間帯に襲ったんだ?」
 ユウリの疑問に、シーラも真面目な顔で唸った。
「う~ん……。犯行動機はわかんなくても、とにかく犯人が行動を起こす時間帯と場所を見張ってれば、見つけられるんじゃない? 明日またマーリーさんに襲われた場所とかを詳しく聞いてみようよ」
「……それもそうだな」
 シーラの提案に同意すると、グプタさんが戻ってきた。早速話をつけようと、ユウリがグプタさんの前に立つ。
「明日の明け方、ジジイに話を聞きたい。また尋ねても大丈夫か?」
「ええ! マーリーさんには、僕の方から伝えておきます」
 グプタさんと約束を取り付けた私たちは、扉を静かに閉めると、お店を後にした。すでに辺りは明かりが点いている家などほとんどなく、静かな夜に虫の声が鳴り響く。
「タニア、大丈夫かな……」
 後ろ髪を引かれる思いでお店の方を振り返りながら私が呟くと、シーラがぽんと私の背中を優しく叩いた。
「大丈夫だよ、ミオちん。グプタさんもいるし」
 穏やかに話す彼女の言葉に、いくらか気持ちが安らいだ。タニアを心配しているグプタさんがいるならきっと大丈夫だろう。胸に抱いていた不安が薄らいできた私は、安堵しつつ今夜泊まる宿屋へ向かったのだった。
 


 翌日。宿の一室から見た窓の景色は空が白み始めていた。あまり早くお店を訪ねても悪いと思い、太陽が昇り始めるころに宿を出た。
「いらっしゃい、皆さん。グプタから話は伺っておりますぞ」
 店から出てきたのはマーリーさんだった。右腕を骨折したらしく、包帯で首と腕を固定している姿が痛々しい。
「おはようございます、マーリーさん。腕の怪我は大丈夫ですか?」
「うむ。怪我自体は治ってはいるんじゃが、年も年じゃし当分は動かさんように固定してるんじゃ。心配しなくてええ」
 そう言って笑顔を見せるマーリーさん。町の教会で治療したと聞いていたが、どうやら本当に大丈夫なようだ。
「後、タニアの具合はどうですか? 夕べ倒れてから心配だったんです」
「何、孫のことなら心配無用じゃ。おそらく疲労じゃろう。今も休ませているから、しばらくすれば元気になるじゃろうて」
「そうですか……」
 やはりマーリーさんの怪我のことで、心労がたたったのだろうか。
「早速だがジジイ、あんたが殺人鬼に襲われた場所を詳しく知りたい」
「うむ。口で説明するより実際に案内した方が早いじゃろう。わしについて来てくれ」
 ユウリの問いに行動で返そうとするマーリーさんは、私達の返事も聞かずさっさとお店を出て行ってしまった。私たちは慌てて彼の後ろを追いかける。
「おじいちゃん、あんまり腕動かしちゃいけないんじゃないの?」
「ほかならぬ勇者様の頼み事じゃ。そんなこと気にしている場合ではないじゃろ!」
 シーラの呼びかけにも、マーリーさんは気に掛けるどころか普通に腕を振って歩いている。血はつながってないはずなのに、こういうところはグプタさんにそっくりだ。
 だんだん小走りになるマーリーさんを追いかけていると、町の入り口まで近づいてきた。たまらずユウリがマーリーさんに制止をかける。
「待て! あんたはそこで待っていてくれ。また殺人鬼に襲われたいのか?」
 ユウリの厳しい言葉に、さしものマーリーさんもたたらを踏む。
「すまん、つい調子に乗ってしまった」
「おじいちゃん、グプタさんのこと言えないね☆」
 シーラに指摘され、バツの悪そうな顔をするマーリーさん。多少自覚もあるようだ。
「大体どの辺りかを教えてくれればいい。どの辺だ?」
「確か……あの一番手前の木と、その隣の木の間の辺りじゃったな」
 マーリーさんが指さす方向を眺めたナギは、盗賊の特技である『鷹の目』を発動した。
「……じいさんの言うとおりだ。あの辺りにいくつも木片が落ちてるぜ。あそこで襲われたんだな?」
「ああ、そうじゃ。あのときは死ぬかと思ったわい」
 きっとその木片は、馬車の部品の一部だろう。実際に現場を目の当たりにすると、その凄惨さが伝わってくる。
「そこまでわかれば十分だ。おいジジイ、あとは一人で帰れるな?」
「当たり前じゃ!! そこまで老いぼれてはないわい」
「それだけ元気なら大丈夫だな」
 ユウリも内心心配していたのか、激昂するマーリーさんに心なしか安堵の表情を浮かべているように見えた。そしてマーリーさんに背を向けようとした瞬間、ユウリのマントの裾が引っ張られた。
「何のつもりだジジイ……」
「勇者様、どうか殺人鬼を捕まえてくれ。わしの同業者の中には、腕が使い物にならなくなって商売ができなくなった者もいる。この町で商売ができなくなるのは死活問題なんじゃ。どうか、頼む」
「……」
 懇願するマーリーさんに、ユウリはいつもと変わらない様子で向き直り、こう言った。
「あんたに言われるまでもなく、殺人鬼は俺たちが捕まえる。絶対にな」
 その力強い口調に、マーリーさんもホッとした様子でマントから手を離した。そして無言で会釈すると、マーリーさんは帰っていった。
 マーリーさんが帰っていくのを見届けた後、私たちは再び被害があった現場に目を向けた。
「とりあえず、調べてみるぞ」
 先に歩き出すユウリの後に私たちは続く。歩いて数分、現場まで目と鼻の先の距離まで来た時だ。突然突き刺さるような視線に私はすぐに反応した。
「ねえ、今の!!」
「ああ。間違いない」
「え、なになに?」
「シーラ、戦闘の準備しておけ」
 シーラ以外の三人が、視線の元がどこかを探り始める。シーラは魔力の感知は得意だが、魔力を持たないものの気配や殺気はわからない。私たちは自然とシーラを背にして取り囲むように陣形を作っていた。
「カンダタかな?」
「わかんねえ。でも、オレたちを殺す気満々みたいだぜ」
 そう言うとナギはチェーンクロスを取り出した。ユウリもいつの間にか稲妻の剣を鞘から抜いている。私も鉄の爪を……と言いたいところだが、やはり慣れない武器では動きづらいため、素手で殺気の主が現れるのを待ち構える。
 すると視界の隅の茂みから、殺気が膨れ上がるのを感じた。
「伏せろ!!」
 いち早く気づいたナギが声を上げた。疑う間もなく、全員がその場にしゃがみこむ。
 その間頭上で空を切る音が聞こえたので辺りを見回すと、すぐ近くの地面に柄のついた針のようなものが突き刺さっている。
 あれがマーリーさんの馬を攻撃した、針だろうか。だが今は悠長に考えている場合ではない。
『今のを避けたか……』
「!!」
 くぐもった低い声。それだけでカンダタかどうか判別するのは難しい。だが声のする方に目を向けつつも、いつどの場所からでも迎え撃てるよう、全方位に神経を集中させている。それはほかの皆も同じだった。
 やがて、殺気を伴った人影が茂みからのっそりと現れた。それは、噂通りの覆面姿の男だった。カンダタと同じように上半身裸ではあるが、覆面の下から見える素肌は土気色をしている。スー族のジョナスたちも色黒ではあったが、それ以上に色が濃く、なにより血が通っている感じがしない。
 私は直感的に、彼はカンダタではない、と感じた。それどころか、人間ですらない。
「ユウリ、あれって……」
「ああ。あいつはカンダタじゃない。魔物だ。しかも人の言葉を話すタイプのな」
『!!』
 その言葉に、私たち三人は戦慄した。
――人の言葉を話す魔物。それはつまり、普通の魔物よりも知能が高く、強いということだ。

 
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