尊敬するからこそ
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第二章
相手バッテリーの癖を見抜いたりスタートの仕方を工夫して盗塁技術を磨いていった、そうしてだった。
福本以上に走った、それを見て誰もが驚いた。
「何だ!?大石凄いな」
「滅茶苦茶足が速いな」
「物凄く走るな」
「福本より凄くないか?」
「まさかと思うけれどな」
「今年のパリーグの盗塁王大石か?」
「福本からタイトル奪うか?」
こうした声が出て来た、そしてだった。
大石はシーズン中ひたすら走った、当然福本も走ったが。
その彼をしてだ、こう言わしめた。
「もうわしの時代終わったかもな」
「おい、そう言うか?」
福本と親しく大石のいる近鉄のエースである鈴木啓示が応えた。
「自分で」
「いや、ほんまな」
「うちの大二郎は速いか」
「しかも若いしな」
このこともあってというのだ。
「もうわし今年でな」
「盗塁王のタイトル獲られるか」
「そうなるかもな」
鈴木と試合の後居酒屋で一緒に飲みつつ話した。
「ほんまな」
「そうか、大二郎がか」
「ああ、わしを尊敬してるらしいが」
「フクちゃんから盗塁王を奪うって言うてるな」
「そやろ、わしが凄いからな」
「そのフクちゃんを越えようと思ってるか」
「そやろな、わしもそろそろ歳やけどな」
ベテラン、そう言っていい年齢だというのだ。
「そやけどな」
「まだ走れるな」
「そのうちにな」
「フクちゃんから盗塁王奪ってか」
「自分がなるって言うてるわ」
「世代交代か。わし等の世界やと常や」
プロ野球即ちスポーツの世界でとだ、鈴木は飲みつつ言った。身体に気を使っている彼が飲んでいるのは白ワインである。
「わしかてな」
「後のモンが出て来るやろ」
「ああ、やがてな」
「それでや、あいつがそう言うてるならな」
「フクちゃんも全力で走るか」
「そう簡単に盗塁王のタイトルはやらん」
こう鈴木に言うのだった。
「わしも意地があるからな」
「そうするな」
「ここであっさり獲られたらな」
そうなればというのだ。
「あいつもがっくりくるやろ」
「尊敬してる相手からあっさりやとな」
「尊敬されるとか性分やないが」
笑ってこうも言った。
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