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人生コンティニューしたらスクールアイドルを守るチートゲーマーになった

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70話 過去の話 繋ぐ未来

 
前書き
戦闘なし 

 
「ねぇ、やっぱり何かあるんだよ。」
「ああ。そうだろうな———————」



十千万のカウンター席で2人話す俺と千歌。午後9時前のこの空間、そして合宿という雰囲気が俺の心を躍らせる。言葉に言い表すのはかなり難しいが、特別な状況であることがわかっていただけただろうか。

千歌が話しているのは梨子の様子について。今日の相談の際に垣間見えた悩み—————それもピアノに対しての。



「あの曲いいと思ったんだけどな〜」
「梨子なりのコンプレックスってヤツがあるんだろう。確かピアノの調子がうまくいかないから、ここに来た。そしてスクールアイドルにであったんだからな。いわゆるトラウマというか.............人間は一度離れたものに対してどうしても恥とかやるせなさが生まれちまうからな。」
「うーん............才能があるからなのかな?だったら私にはわからないのかも—————」
「そんなんじゃねぇよ。価値観が変わるからってのが主な理由だろう。人間は常に価値観が変わり続ける。そして過去に持っていた価値観を恥じる————俺を含め、お前にだって起こる話だ。」
「そっか..........」
「でもお前が才能ナシってのはちょっといただけねぇけどな。」
「え?」



千歌がすぐさま否定に入ろうと俺の方を見てきたが、俺は千歌ではなく明後日の方向を見ることで説明を放棄した。そんな話をしていると—————当の本人がやってきたようだ。



「千歌ちゃん?何してるの?」
「あ、梨子ちゃん。ちょっと才くんと世間話を—————」
「嘘をつく才能がねぇのは知ってるさ。」
「「え?」」
「梨子、お前にちょっと話しておきたいことがある。」
「————————」



俺から発生しているシリアスな空気を敏感に感じ取った梨子は千歌の出していた和みの雰囲気を捨て去ってしまう。



「お前.........ずばりピアノに悩みあるだろ。」
「才くんそれは.............!」
「でもお前にはAqoursがある。俺たちのために.........ピアノを記憶の彼方へと封印しようとしている。違うか?」
「————————そっか.............やっぱり才君はすごいよ。私の知らないような私の奥にあるものもわかっちゃうだもん。」



正解だ————そう遠回しに言われた。

悩みを抱える少女にはキツい言い方だったと心底思う。だが俺は彼女が嘘に苦しむのは嫌なのだ。苦しんでいいのは《《仮面の下》》だけ..........


梨子は俺と千歌の間のカウンター席に座る。



「《《あの曲》》ね、実は内浦に来る前から書いてたんだ。」
「え!?そうだったの?」
「でもピアノコンクール引けなかったの。そこからスランプの始まり...........でも今考えたらそれがあって、才君や千歌ちゃんに出会えた。でも心の底では気になってた。スランプで遠縁になってたピアノにもう戻れないんじゃないかって——————」



梨子は無理に作ったように見える笑顔を俺に向け、俺たち2人を安心させようとする。



「でもいいの!私は今の方が楽しい。だからピアノは『梨子!』———?」
「決めるのはお前たちスクールアイドルだ。俺はそれをアシストするだけ...........でも、俺の経験からわかることもあるのかもしれない。」
「才........君?」
「ちょっと昔の話だが............」



俺もまた文字通り、今まで記憶の彼方へ封印されていたこの世界での記憶。あちらの世界の代わりに手に入れた———————そんな記憶の《《一部》》なのだろうか。



ーーーーーーーーーーーーーーーー




これは6年前———————小学5年生の頃の話。


ちょうど魁が引っ越していって2年過ぎになる頃か。彼との記憶も少しずつ薄れかかっているような時だ。俺は内浦小学校の5年生。現在の3年生組は6年生だ。


平凡な毎日に起こったとある非凡についての話だ。










「才君また100点だったの?」
「あぁ、いつも通りだ。曜は?」
「わたしは92点!ちょっと早とちりしちゃって.......」
「千歌は?」
「うぅ........60点—————」
「お前にしてはけっこう高いんじゃないか?」
「うるさい天才!」



このぷりぷり怒っている娘は高海千歌。そしてそのそばで苦笑いしているのは渡辺曜。このテストってのは小学4年生社会の確認テスト、47都道府県のテストだ。


そして俺は数々の名門校をこの歳で卒業・在学中だ。卒業校はオックスフォード、ケンブリッジ、スタンフォード、カリフォルニア工科、イェール、ペンシルベニアなど。全て最年少の首席卒業だ。

したがって学校の勉強など馬鹿にしているのかとイラつくほどに簡単だ。



「まさくんそれは?」
「あぁ.........静岡県についての研究レポート。ハーバードに出すんだ。でももう終わったから大丈夫。休み時間くらいお前らと遊びたいし。」
「れぽーと?」
「宿題みたいなもんだ。さて、何して遊ぶ?」
「ソフトボール!」
「お、いいね。ちょうどソフトボールの運動量のレポートも書かなきゃいけないとこだし.........」
「よーし!今度こそ才くんを倒してやる!!」
「その余裕が続けばいいけどな..........」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「ぐぬぬぬぬ.................!」
「「—————————」」


不機嫌さを隠せていない千歌を不思議そうに見る少年と少女。その名は言うまでもなく、深天稜と松浦果南である。


「曜、なんかあったの?」
「昼休みにソフトボールで才君に勝負したらボロ負けして.........」
「全く、相変わらずだなぁお前は。」
「あったりまえだ。舐めプほど相手をバカにすることはないからな。」
「煽りと舐めプしかしてなかったのにどの口が言ってるの!!」



相変わらずバカチカだな。俺が本気出しちまったら学校飛び越えて海にボールが落ちちまうぜ。



この下校している俺たち5人。


俺たちは保育園以前からの幼馴染だ。


最初はじいちゃんのツテでフェリーに乗った時に出会った曜と、たまたまその船に乗っていた千歌。千歌の回覧板繋がりの果南。そして俺と家が近く最初から遊んでいて、なおかつ果南とも友達だった稜。


俺たちの中では話題にならないが、世間一般で見ればこのメンバーのスペックは有能すぎる。


まず曜は高飛び込みのナショナルチーム級の選手で、将来は世界制覇もリーチが掛かっている。瞬発力系に優れている。

果南は言わずもがな体力お化けで、身体能力や技術面で基本困ることはまずない。その代わり知力を失っているが..........

稜は上2人に比べて突出してはいないが非凡な身体と、非常に効率的で知性のある男。組み手ならそうそう打ち負かせはできない。

千歌は自分を普通と言っているが..........正直、千歌が真に強いのはその人望だ。知力ではない真理を突く発言を度々する。それにソフトボールや卓球、習字などけっこう非凡。

そして10歳にしてぶっちぎりで世界一のIQ及び知力とゲームの腕、そしてこの4人を凌駕する身体能力を持つ俺。


——————と我ながら自覚するのは、俺だけだ。


というかそんな優越感など関係ない。この5人は歳の近い兄妹のような存在。友達や親友といった物では言い表せない特別な何かで繋がっている。


マクロじゃなくていい。ミクロな存在でいい。この価値観はこの5人、強いてはこの内浦だけでわかっていればそれでいいんだ。


「じゃ、ここでお前らとはお別れか......また明日な!」
「うん!また明日〜!」


ちょうど交差点に差し掛かったところで、女子3人とは別れる。そして俺は稜と2人で沼津市街方面への道を歩いていく。たわいない世間話をしながら。


「千歌もソフトボールは上手いんだけどな————お前のせいで霞んでるんだな。」
「俺のせい!?——————いや、そうか.........」
「お前なら結構モテるんじゃないのか?」
「ここでそういう話するか〜?」
「まっ、聞くまでもないだろうけど。」
「いや案外そうでもない。」
「え、そうなのか?」
「ああ————でも...........」



不思議なことに事実なのだ。無論、不可解な女心を覗けるほど俺は勘は鋭くはない。俺がモテない理由があるとするならば、ゲーム中毒者であることか賢すぎるか、あるいは............そう思ってきた。


しかしそれは今日、《《一変》》してしまったのだ。



「今日、下駄箱にこれが入ってた。」
「え........これって———ラブレターか!」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『ずっと好きでした。もし付き合う気が少しでもあれば放課後に校舎裏に来てくださいーーーーーーー』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「見たところ何の変哲もないラブレターだけど.......どうするんだ?付き合うのか?」
「よく分からないな.........なにせこういうのは初めてだからな—————」
「俺からとやかく言いはしないが——————よく考えて答えを出せ。常に相手を考えて答えを出すんだ。それが男としての役目だ。」
「あぁ.............」


しかし男としての誠実さってのは、あくまで2択のどちらかを選んだ延長線上にあるモノだ。その2択を選ばないことには始まらないのだ。



これはどんな難関学校の最難問よりも難しい。そう感じざるを得なかった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「あぁ...........どうしようか—————」
「さっきから言ってるが、経験のない俺に聞くなよ...............それに宿題の邪魔だ。」
「うーん...............」



父さんが来るまでしばらく俺の家にいる稜。それを尻目に俺は未だに受けるかどうかの選択に迷っていた。受けることで1つ明確になっていることがある。


それは千歌たちと疎遠になってしまうということだ。


これは普通に考えれば至極当然な話だ。しかし俺はそれが易々とはできなかった。かと言って、断ればそれは勇気を振り絞って送ってくれた相手を結果的に冒涜することになる。


男として最善手を尽くしたい。どうすれば全ての人が幸福へと運ぶのか...............


「俺は...............!」






prrrrrr—————





「電話か............」




珍しく固定電話からの受信だ。この家に用があるといえば家事はハイテク機能で勝手に家がこなしてくれるので留守にしているじいちゃんか、近所の人か.........あるいは十千万や渡辺父か松浦家の誰かかもしれない。


とにかく出てみないと話は始まらない。


内事を棚に上げて受話器を握る。



「もしもし?」
『あ!!ま、才君!!はぁはぁ..............!』
「曜か。どうしたんだ?そんな息を切らすなんてお前らしくないな。てかこれ公衆電話じゃん。」
『ち、千歌ちゃんと果南ちゃんが.........!!』
「うん。千歌と果南が?」
『ワニに襲われそうなの!』




「———————は?」
『だからワニに襲われそうなの!!!』
「えっと............は?」



話が唐突すぎて困惑状態に陥ってしまう。話の展開もぶっ飛んでいるが、まず1つ。ワニに襲われるというのはどう考えてもおかしすぎるのだ。無論日本にはマチカネワニという種もいたそうだが、現時点でこんなところに生息しているわけがないのだ。

しかしこんな緊迫した曜からして、悪質な嘘というわけではなさそうだ————クソっ.........最悪の状況だな........



「マジなのか.........?」
『お願い.......まさ君.......助けてよ............』



何を言ってるんだ俺———————少女の涙を見過ごして何が男だ。それが幼馴染なら尚更だ!!



「わかった!すぐ行く!!だから果南と千歌に下手に動くなって言っとけ!!!」



俺は受話器を固定電話に叩きつけて、急いで外に出る準備をする。どんなことが起こっているかは掴めない。しかし3人が窮地に晒されている.......このことだけは事実なんだ。


急いでいる俺を察した稜は事情を問いかけてきた。



「どうした?何かあったのか?!」
「千歌と果南が何かに襲われてるらしい!稜も来てくれ!!!」
「なっ......!わかった!!俺も行こう!!」



俺たち2人は走って面に出て、家の主人である俺に反応してガレージから最新の電動自転車を取り出してくれる。俺はジャンプで運転席に乗り込み、荷物置きに稜は乗り込む。



「悪いが飛ばすぜ!!しっかり掴まってろよ!!!」
「言われなくても!!!」



いつもより運転は粗い。そんなことわかってる。でもそんな戯言を散らす猶予はない。


俺はヒーロー。俺は男。嘆く少女たちを守る。


思い出した............俺の大事なモノは今《《この瞬間》》にあるんだ————




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜







「うぅ.......果南ちゃ.......!」
「千歌ぁ.......」
「千歌ちゃーん!!果南ちゃーん!!才君が」
「おい!(小声)」



叫びかけていた曜の口を押さえて、こちらに引き戻す。幸い《《大事》》には至らなかったようだ。



「曜、ここで大声で叫ぶのはやめてくれ。アレを刺激しかねん。」
「うん........ごめん。」
「しかし才、困ったな————————あのワニ2匹...........」
「あぁ......同感だ。」



正直曜の言葉は半信半疑であったが、言う通りの光景を見せられて信じないわけにはいかなくなってしまった。

俺たちのいる場所は狩野川放水路。狩野川が氾濫しそうな時に開き、住民の窮地を救う救世主。しかし普段は穏やかにチョロチョロと水溜りを作る程度。

そしてどういうわけか、その擬似的な湿地に全長6メートル近くのワニが2匹彷徨っているのだ。

俺たちがいるのは土手。そしてこれもどういうわけか千歌と果南は乾燥してできた三角州に取り残されている。



「まず何であの2人があそこにいるのか知りたいんだが.........今それを聞いても仕方ない。」
「ごめんなさい.........」シュウ
「どうする才?」
「あのワニ.........イリエワニって種だ。クロコダイルの中でも超獰猛の最大種。八丈島とかで確認されたとは聞いていたが、まさかこんなところまで...........だがどんな奴にせよ、あの2人の救出が優先だ。稜、頼んだぞ。」
「頼んだぞって........お前何するんだ?」
「ワニの主食は魚。それを狙って水面に波を立てればそっちに近づくんだ。その隙にあの2人を助けてやってくれ。」



俺は橋を渡って稜と曜のいる土手とは反対側の土手に周り、近くにあったソフトボールくらいの石を投げ、ぽちゃんという音をこだまさせる。

ワニらはその策に引っかかり、その小石の方へとのしのしと向かっていく。

稜はその光景を見て、機会を逃さずに水路に足を踏み入れ、果南と千歌の元へと行く。



「早く行くぞ!今こそチャンスだ!!」
「う、うん..................」



未だに恐怖で体を縛られている果南の返事。そしてそれ以上に震える千歌。かろうじて果南は動けるが、千歌はそれすらできなかった。稜は少し判断を留まった。


果南は震える足で水路の段差をよじ登り、安全圏に入る。あとは千歌だけ..............


抱えてでも行こうか—————だが、そんな隙を逃さなかった。



『グルルルル!!!』
「っっっっっ!!千歌!!!!!」


去っていった2匹とは比べ物にならない大きさのワニが大きな口を開け、氷のように固まった千歌を呑もうとする。彼女は気づいていないが、他の3人はその瞬間に全てのリスクを想像してしまった。

悲しむとかそんな次元ではない。ただただ恐れ慄く。絶望の瞬間..........それを待つことしかできなかった。



1人を除いては............









「俺の千歌に何してんだァァァァァ!!!!!!」






瞬きの如く一瞬で3人の瞳に映る景色は変わった。対岸にいた俺ががその超人的な身体能力で、ジャンプ&キックをワニの頭に炸裂させたのだ。その5尺ちょっとの体からは考えられないキック力で恐竜と見まごうワニを5メートルほど吹き飛ばす。


三角州に降り立った俺は、そのまま千歌をお姫様抱っこで抱えて放水路の段差を再びジャンプで登る。


そして悪夢は去っていった—————無量の光を放つ者によって。




ーーーーーーーーーーーーーーーー






「てなことがあったんだ。」
「えーそこで終わっちゃう〜!?」
「うるせぇよ。俺だけの世界なんだからお前は入ってこなくていいんだよバカ。」
「——————で.........結局どういうことなの?」


結論部分が曖昧になってしまったために梨子にツッコまれる。この話から何が得られるか...........考えつく人物はそうそういないのかもしれない。何せこれは俺なりの考え、故に俺にしか通じる物でない...........そう思ってきたが。



「俺はそのラブレターをくれた子より千歌たちを優先せざるを得なかった。結局あのあと俺はそれを無視したんだ。2つを両立はできなかった..........いや、できるのに........か。」
「才くん........」
「だから俺はやれることは全てやる。誰も悲しませたり辛い思いは絶対にさせない。どんなに困難な道でも.......二兎だろうが三兎だろうができるなら全て捕まえる。それがそこから学んだ教訓だ。」



これが俺の根源—————俺というパズルの大きなピース...........だろうか。



「だから梨子にも自分の夢.........大事なモノは全て追いかけてほしい。スクールアイドルって自分を叶えてこそみんなを叶えられるって思うんだ。」
「...................」
「—————俺からはここまでだ。」
「え......?」



俺の突然の切り上げに梨子は驚きと困惑の混ざった表情を見せる。しかし俺はそんなことお構いなしに、俺は席を外し、千歌の方を向けと顎を動かす。



「千歌ちゃん.....?」
「私ね————思い出したの。梨子ちゃん誘った時のこと。」
「——————!」
「あの時私思ってた。スクールアイドルをやって梨子ちゃんの中の何かが変わって、またピアノが弾けるようになったら..........素晴らしいなって。素敵だなって!!だから........!!!」
「!!!」


止められない衝動。いかにも人間的。人の思いのこもった手が梨子の手を掴む。







「自分の思いに..........正直になってあげて?」








「ほっんと変な人たちっ.............!」









涙が溢れ出した。











「ありがとう...............」











ーーーーー



やっぱりこの芸当は千歌にしかできない。どんなに俺が取り繕っても、完全に人間的な行動などできない。


エモーションを失った。俺から抜け落ちたピース。


いつか...............俺も《《会える》》といいな。







 
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