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後ろ髪

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第一章

                後ろ髪
 高杉晋作は桂小五郎と自分達の師匠である吉田松陰について話していた、今勝因は伝馬町にいるのだ。
「まだですか」
「幕府も神経を尖らせていてな」
 桂は高杉に長州藩の江戸屋敷の中で話した。
「中々だ」
「出してくれませんか」
「それどころかな」
 桂はさらに言った。
「どうも捕えた人達をな」
「沙汰を下していますか」
「しかも打ち首にだ」 
 これにというのだ。
「どんどんだ」
「していっていますか」
「そうらしい」
「おかしなことです」
 高杉は首を捻って言った。
「どうにも」
「何がおかしいのだ?」
「いえ、昨今の幕府です」
 おかしいのはというのだ。
「どうにも」
「刑罰が重いか」
「これまでの幕府は何か言った者はです」
「処罰はしてもな」
「精々遠島か入牢で」 
 それで済ませというのだ。
「命まではです」
「取らなかったな」
「はい、今打ち首と言われましたが」
「あの大老殿がだ」
 井伊直弼、彼がというのだ。
「そこをだ」
「変えたのですか」
「これまでは違ったが」
 幕府もといのだ。
「高杉君の言う通りな」
「命まではですな」
「取らなかったが」
 言った程度ではというのだ。
「それがだ」
「今の大老殿は違いますね」
「そうする、しかもどうも刑罰をな」
 それをとだ、桂は高杉に顔を顰めさせて話した。
「幕府の沙汰は軽くしたな」
「評定所が定めたものより」
「評定所が死罪としてもな」 
 その様に沙汰を決めてもだ。
「その時のご老中が沙汰を書いた文の空いたところに一等か二等減じた沙汰を書いてじゃ」
「その様にせよとなりましたな」
「そうであった」
 まさにというのだ。
「幕府の沙汰はな」
「刑罰は軽くするもの」
「幕府の恩情、仁を占める政であった」
「そうでした」
「最悪評定所の沙汰でな」 
 罪を軽くせずともというのだ。
「済んだ」
「それがですな」
「今のご大老は違う」
 桂はまた顔を顰めさせて話した。
「沙汰を重くする」
「幕府がこれまでしなかったことをしますな」
「その様な御仁ははじめてだ」
 幕府がはじまってからというのだ。
「どれだけ厄介なご大老もご老中もしなかった」
「沙汰を重くすることは」
「今のご大老はそれを平然と行われる」
「それで、ですか」
「この度多くの方が捕えられてな」
「沙汰を受けていますが」
「死罪になった御仁も多いという」
 高杉にこのことを話した。
「伝え聞くところによるとな」
「では先生も」
「普通はならぬが」
 これまでの幕府の政ならというのだ。
「今はな」
「わかりませぬか」
「うむ、僕も大事がないことを願っているが」
「そうですか」
「全く、今のご大老は道を踏み外しておる」 
 井伊直弼をこうも批判した。
「その様なことをして幕府が保たれるか」
「いえ、それは」 
 高杉は強い声で答えた。
「到底です」
「そうはいかないな」
「その様なことをしては人心を失います」
「僕もそう思う、流れは勤皇だ」
「そして攘夷です」
「その流れがさらに速く強くなる」
「ではその時は」
 高杉はさらに言った。 
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