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色々と間違ってる異世界サムライ

作者:モッチー7
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第2話:見飽きた笑顔

ダームperspective

何が起こっている?
『英雄』クラスの冒険家がこの村に潜んでいたと言うのか?
「貴様、もしかして新しく選ばれた勇者か?」
「ゆうしゃ?なんですそれは?」
「……は?」
人間のクセに何を言ってるんだこいつ?
「なんだって、勇者は勇者だろ?勇者!」
「知りませぬ」
本当に何なんだこいつ!?
人間のクセに『勇者』を知らんのか!?
「それより、そこで転がってる追剥共の御大将とお見受けしたが、真か?」
「そうだ。お前は何者だ?」
「相手に名を訊く時は、本来先に名乗ってから訊ねるモノだが、まあよい。某は月鍔ギンコ。侍です」
さむらい?
聞いた事が無い兵種だな?
「ダームだ。魔王様の命によりこの村を襲い犯している」
「そうか……遠慮は無用か?某はその方が助かる!」
合図も無く俺と小娘との戦いが開始される。
「こ、いつ!俺の腕を!」
速い!
気付けは俺の左腕を斬り落として蹴り飛ばしていた。
「ぬるい!そんな隙だらけの構えでは、某の首は獲れませぬぞ!」
こいつ、確実にレベル100を超えている。
出し惜しみ無しだ!アレで一掃してやる!
「呼応せよ!魔装武具!」
その途端、奴は蹴り飛ばした俺の左腕の方を向いた。俺が呼び戻そうとしている魔装武具の方をだ。
何故魔装武具の特性を知った!?
勘か?
なんだ!?さむらいって!?
だが!
「良い事を教えてやる。魔剣は使用者のレベルを一時的に3割も引き上げるのだ。どうだ絶望的だろ、くくく」
元が150だから3割増しは195だ!
それに、奴は俺の許に戻ろうとした魔装武具を叩き墜とそうとして自分の剣をへし折ってやがる。
この勝負、俺の―――
だが……俺の鬼神連断は奴に捌かれ、奴はもう1本の剣(さっきより短い)を既に抜いていた。
「斧と腕が混じって1つとなるは正に面妖。だが、所詮は正面。あらゆる方向から1つ当たれば即座に『死』……弓槍刀が常に飛び交う合戦に比べれば、中の下」
この状態でも手数負けすると言うのか……!
反応速度が桁違いだ……化物め!
だが!力押しでは俺が上。
力で押して隙を作り、今度こそ一撃を当てる!

……の……筈だったが……

いきなり目の前に現れた奴に、俺は痛みを感じるよりもまず驚愕に目を見開く。

月鍔ギンコperspective

……またか……

またしてもこうなったか……

某は、侍として戦い、侍として死ぬ為に、何百人も斬り殺してきた。

「殺せ……決着はついた」
「いいでしょう……言い残す事はありませんか?」
「……貴様、一体何レベルなんだ?」
「解りませ―――」
「さ……300だってぇーーーーー!?」
ん?三百?
何が三百もあると言うのです?
「ククク……そのレベル差で戦いを挑んでいたとは……俺も充分勇者だな……」

……またか……
彼らはみな笑って死んで逝った。
某はいつも送るだけ。

某はふと思い出す。
某に『有り難う』と言った……討死した男の事を。
「有り難う。お主のお陰で、戦いの中で死ねる。やっと……拙者の番が来たのだ」
『拙者の番』……
その言葉が某の心に重く圧し掛かる……
「案ずるな……お主の番も必ず来る。戦いの中で死ねる日がきっと……お主にも来る。だから、泣くな……」
気付けば……某は某が斬り落とした首を抱えて泣いておりました。

そんな某の鬱な感情を掻き消すかの様に、某の周りで歓声が上がっておりました。

村長perspective

この村を襲って犯した魔族を瞬く間に!?
しかもレベルが300も!
信じられんが、この村1番の鑑定士による鑑定なのだから間違いないだろう。
「もしかして……貴女様がわざわざバルセイユからお越し下さった『勇者セイン』様ですね!?」
だが、村1番の鑑定士が首を横に振る。
「え?」
それに……
「先程のだーむとか言う追剥も言っておりましたが、その『ゆうしゃ』とは一体何なのです?それに、某はそなたらに訊きたい事が山ほどあります」
「聞きたい事?」
「簡潔に嘘偽りなく。よろしいか?!」
「あ……はい」
「ではひとつめ。江戸と言う町を知っておりまするか?」
……はい?
エド?……
その様な名前、聞いた事が無い。
「……承知。ではふたつめ」
と、こんな感じでこの村を救って下さった娘さんとの問答を行っておったのじゃが……

「ふー……つまりまとめると、何も知らぬではないですか!」
いや、わしに怒鳴られても困る!
ヒノモト、フジヤマ、セキガハラ、トクガワ、バクフ、スモウ、タクアン、ミソシル、ショーギ、サムライ等々……
このわしですら初めて聞いた言葉のオンパレードじゃ!
その上……
わしらが知らぬ存ぜぬの一点張りだったのが気に食わなかったのか、その娘さん、急に座り込んで考え込んでしもうた。
それに、この村1番の鑑定士が気になる事を言いおった。
「経験値貯蓄?」
「はい。名前からして経験値を一旦どこかに預け、何かの拍子で一気に放出する。そう言うスキルだと推測されます」
「では、あのお嬢ちゃんはもうレベルアップしないのか?」
「そうとは言い切れません。『レベル上限達成者』の称号を得ていない様ですし、何かの拍子で預けた経験値を取り戻すのかもしれませんし」
「その『何か』とは何じゃ?」
「さあ、そこまでは……いや、もしかすると貯蓄上限を超えれば預けていた経験値を取り戻す事は可能かと」
「じゃあ何か?その上限を突破するまでレベルアップはお預けか!?」
「多分そうなりますね。でも、既にレベル300なので、そう簡単に困る状況には遭遇しないでしょう」
「とは言ってもな……こんな辺鄙な村に魔王軍の幹部が訪れる程だぞ?何時―――」
気付けは……件のお嬢ちゃんがわしらの真後ろにおった!
「うびゃあぁーーーーー!?」
「びっくりしたぁ!」
「わはは、失敬!つい気になり申して!」
気配も足音もしなかったぞ!
ね、猫みたいな奴じゃ!
「それより、もうひとつだけ訊ねたい。この近くに鍛冶屋はありませぬか?」
「鍛冶屋?」
「先程のだーむとやらとの戦いで某の『銀横綱』が折れてしもうて、どこかで打ち直さねばならぬのですが」

ノノ・メイタperspective

村長の命令でツキツバさんの経験値貯蓄と言う寄生虫の様なスキルを完治させる事になり、取り敢えずツキツバさんを聖武具を保存する神殿に案内する事になりました。
でも、大丈夫かなぁ?
その聖武具って、本当なら勇者セイン様に献上しなければならないんじゃ……
それに、経験値を一旦別の場所に預ける事が出来るスキルって……僕なんかまだレベル3なのにもう『レベル最大値達成者』の称号を獲得してるんだよ!
しかも、僕は『経験値倍加・全体』と言う『自分を含めた味方全員が獲得する経験値を倍増するスキル』まで持ってるから、他の人とのレベル差はドンドン広がるばかり……
そんなのズルいよおぉーーーーー!

そんな僕の気持ちも知らないで、ツキツバさんは周りの景色に驚くばかりで……
「ううむ。やはり解せぬ。『ここ』は色も風もまるで江戸と違う。如何なる書にも見覚えが無い文字!」
何でありきたりな看板を見て驚くんだろう?
「……カエル?」
何で角蛙を見て首を傾げるんだろう?
「また変な生き物!」
何で翼蜥蜴を見て目を見開くんだろう?
何でいちいち『初めて見た』みたいな反応をするんだろう?
そうこうしている内に、ツキツバさんは勝手に結論づけた。
「ならば……この世界は……某の生きていた世界とは……別の世界?」
そして、ツキツバさんが思いついた結論をツキツバさん自身が否定した。
「……は、わはははははははは!いやいや!ありえぬからそれだけは!どうやら某、寝ぼけているな!?」
何?そのノリツッコミ?
やはり、ツキツバさんの様な変人より勇者セイン様に聖武具をお渡しした方が良いのでは?
いくら魔族から村を救ってくれた命の恩人だからって―――
「え?……うわあぁーーーーー!?」
その時、僕の脚に何かが絡まって……何時の間にか僕は逆さ吊りにされていた。
どうやら、僕は肉食樹トレントの根に捕まってしまったらしい。
「木が喋ってるーーーーー!?木に顔が付いてる!」
運悪くトレントに襲われたのは確かに不幸だよ。でも、それにしては驚き過ぎでは?
「ホホウ、動けるナ。洗練された動きダ。秘境漁りを生業とスル者、『冒険家』だな?」
『冒険家』……
遺跡、廃墟、秘境などを調査・探索し、そこで得た物を売って生計を立てている人達の事だ。
僕も何時かは……と思った時がありましたが……レベル3の段階でもう『レベル最大値達成者』の称号を獲得してしまって……うう……(涙)
ん?……
冒険家並みに強い?
誰が?
その時既にトレントに逆さ吊りにされていた筈の僕が地面に倒れていた。
もしかして……ツキツバさんがトレントを?
僕が左隣りをそーっと見て視ると、何時の間にか真っ二つにされて斬り倒されたトレントの姿があった。

そう言えはツキツバさん……レベル300でしたね(笑)。
 
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