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博士の挑戦状

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第八十六話

                 第八十六話  残念に思う
 博士は小田切君にまた一冊読みながら言った。
「それで芥川といえばな」
「はい、何でしょうか」
「多くの作品を残したが」
 それでもという口調だった。
「若くしてな」
「自殺してますね」
「うむ、命を授かればな」 
 博士は残念そうに述べた。
「やはりな」
「ああ、天寿を全うすべきですか」
「最後の最後までな」
 まさに死ぬ時までというのだ。
「何があってもな」
「生きるべきですか」
「わしが言うのも何であるが」
 博士は自分が不老不死であることも話した、人間の世界で言う神と呼ばれる存在であることはそれなりに意識しているのだ。
「しかしな」
「命を授かるとですね」
「死に方は色々でもな」
「最後の最後まで、ですか」
「生きるべきじゃ」
「そうなんですね」
「だから自殺なぞはな」
 残念そうな顔はそのままだった。
「するものではない」
「そうですね、僕もです」
 小田切君も読みつつ答えた。
「自殺はしたくないです」
「自殺する位なら思い切って休んでな」
「そうしてですか」
「ゆっくりすることじゃ」
「そうしたらいいですか」
「太宰もそうであったが」
 この作家も自殺していることを話した。
「やはりな」
「自殺はですね」
「出来る限りするものではない」
「最後の最後まで生きることですね」
「そうするのじゃ、休んでも逃げてもよい」
「自殺するよりましですね」
「遥かにな」
 こう言うのだった。
「そうであるのじゃ」
「そうですか」
「だから小田切君もな」
「はい、自殺はしないです」 
 博士に約束した、そうしてだった。
 小田切君はさらに本を読んでいった、そのうえで自分は絶対に自殺をしないでいようと誓うのだった。


第八十六話   完


                   2023・8・3 
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