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終末世界デ最高ノ結末ヲ

作者:久遠-kuon-
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第1章 守らなければならないものがある
  2話「襲撃」

 遠くで爆発音が聞こえた。「なんだろう」と不思議に思うが、その音の正体を確認することはできない。
 私は今、外側からも内側からも、どんな力を加えても壊すことができない"魔法"がかかった部屋に閉じ込められている。そこには窓もドアもない。だから、外を確認することができないのだ。
 私を外界と結びつけるのは、耳を澄ませた時に微かに聞こえてくる音と、目を瞑り、集中することで視えてくる"あちらの世界"にある微弱な魔力の流れのみ。でも、長い時間その二つの情報だけを頼りに過ごしていたら、感覚は鋭くなっていくもので。初めてこの部屋に入った頃に比べて、随分と聞こえる音や、感じられる魔力の流れが多くなった気がする。今回の爆発音も、きっとその成果といっていいだろう。

 もう一度、爆発音が聞こえた。今度はたくさんの足音も聞こえてくる。
 もしかして、"襲撃"があったのだろうか。そう不安に思って立ち上がるが____ギ、と音がして首が締まる。首にはめられた枷に鎖が繋がれていて、それを限界まで引っ張ってしまったために首が締まったようだ。焦ったあまり、一瞬枷の存在を忘れてしまっていた。
 だが……駆けつけなくては。即座に敵を殲滅し、今音の聞こえる方で戦っているであろう戦闘員たちを守らなくては。

 人間は脆い。すぐに死んでしまう。なのに、死んでしまったら替えが効かない。
 死んでしまったらその死を悲しみ、嘆く者がいる。希望を失い、一緒になって命を絶つ者もいた。

 そんな悲しみを、ずっとずっと、そのままにしておくわけにはいかない。
 だから私は"造られた"。

 ____カシャン。ピ、ピ、ピピ。

 聞き慣れた音がした。外にある格子を開ける音、そしてこの部屋のもう一つ外にあるドアの電子ロックを模した魔法が解除された音だ。……ああ、やっと迎えが来た。
 ドアを開けた者は、まだこちらから姿を確認することはできないが、壁のすぐ向こうまで来ている。監視のため、マジックミラーのような性質を持たせたこの壁の向こうで、迎えに来た者が私を見ている。
 さあ、早くこの壁を取り払って。私が、与えられた役目を全うするために。

 人間の代わりとなって戦う"魔法自動人形"。その役目を果たすために。

 ____ジュワッ。

 蒸発するような音とともに、壁が魔力の粒を残して霧散する。
 今日は誰が迎えに来てくれたのだろう、とその人物を確認しようとして、驚いた。
 長身で、しっかりと筋肉がついていることが服の上からでもわかるような、素晴らしい体躯。ホワイトアッシュの艶やかな髪色と血色感を感じない白い肌は、まるで人の手によって作られた芸術作品のように美しい。そして何よりこの人と言ったら、長めの前髪の奥から覗くクリムゾンレッドの鋭い瞳。白の中でもハッキリと目立つその赤色が、彼の人間離れした容貌をさらに際立たせている。

「襲撃だ」

 短く伝えられた指示。直後に、脱走防止としてつけられていた首の枷が外れる。
 自由になった私はすぐに立ち上がって、彼の横を走り抜ける。

 ……ああ、やっと、やっと戦える。役目を果たせる。

 意識を集中させて"あちらの世界"を視、そして自分の足を最大限強化するようにイメージをする。元から自分の体に備えられた魔力と、現実世界の建物内に漂う魔力、そして"あちらの世界"に溢れかえっている魔力を、一時的に全て足へ。早く、私の助けを必要としている場所へ駆けつけたい。一つでも多くの命を、私が助けたい。そう思って、どんどんイメージを練り上げていく。
 そして、そのイメージを現実世界にて"顕現"させる。ただ走っていた足を、一歩、思い切り地面を踏み締めて、練り上げたイメージを込めて____破裂させる!

「____わ、っ」

 速い! やりすぎな程に速い、バカ!
 一歩にかなりの勢いとスピードがつき、まるで銃弾のように廊下を駆け抜ける。曲がり角をきちんと曲がりきれるか不安になるが、これはこれで爽快感もあって楽しい。

 これが、"魔法"。
 先程私を迎えに来た男、マキが見つけた、無力な人間が、ありふれた理不尽へ対抗するための手段。

 走るというより、滑空と再び勢いをつけるために地面を蹴るという動作を繰り返して三分も経たないうちに、戦いが起こっている地点に到達する。
 そこには、味方同士のはずの戦闘員が争っているという奇妙な光景が広がっていた。
 魔法は見た感じ戦闘員たちが小競り合いをする以外で使用された痕跡はない。何かよくない香が炊かれているような感じもしない。もしかしたら他に原因はあるかもしれないが、今一番疑うべきは____

 そう思ったところで、ピタリと戦闘員たちの動きが止まる。そしてグリンと頭が動き、全員の目線が私に集まる。
 その奥から、ローブをまとい顔を隠した男がゆっくりと姿を表し、高らかに宣言した。

「アッハッハ! 新しい子が来たみたいだねぇ」
「……!」
「でも無駄だよ。『みんな死ぬ』んだから!」

 その瞬間、戦闘員たちは一斉に腰のあたりから、配給されたナイフを取り出し、自らの首筋を掻き切ってしまった。血が勢いよく噴き出し、全員がバタンと倒れた。

 マキが魔法を研究するきっかけにもなった、"ありふれた理不尽"の一つ。それがこの、"異能"の力だ。
 人間のうち、選ばれた者だけが異能の力に覚醒する。それは魔法と違い、条件さえ満たせば自身に備わった異能力を自由に発動することができる。
 その力を良いことに利用する者もいれば、こうやって殺人に利用する者もいる。過去にも何度も何度も異能による大量殺戮が行われてきた。

「ハハッ! あっけないねぇ、魔法って大したことないんだねえ!」
「……」

 私がやるべきことは、できるだけ足元に転がる死体の損傷を増やさずに、このローブの男を倒すこと。
 まだ、"この戦闘員たちは助かる"。

「どうしたぁ? ショックで言葉も出ないかぁ! 今なら降参って言えば助けてやらなくもねぇよぉ? 顔はいいみてえだし、よくしてやるよ?」
「興味ないですね」
「……あ?」

 周辺を巻き込むような魔法は禁止。異能は基本的に一人一つ。今見た情報的に、相手の異能は声で相手を操るもので他の能力はないだろうから、接近戦ができる。
 魔法で自分に備えられた聴覚の仕組みを破壊。音が聞こえなくなるが、きっとこの対処は効果的だろう。
 相手はきっと私のことを人間だと思い込んでいる。そもそも魔法自動人形の存在はまだ知れ渡っていないから、人間じゃないと気づくこともないはずだ。

 異能を使って油断したところを、一発殴って仕留める。それだけで_____
 いや、そんなまどろっこしい工程を踏む必要もないか。

「早くやりましょう。時間がもったいないです」
「……ハッ、ぶっ殺してやる」

 再び足に集中し、思い切り地面を蹴って男に接近。
 そして、何が起こったのかまるで理解していない様子の男の腹に手を当て、

「さようなら」

 魔力を凝縮して細く鋭いレーザーをイメージ。それを寸分の狂いなく、人体を最も再起不能に陥らせるような通り方をするように放射。
 一発手応えを感じたら、次はその太さを変え巨大な光の柱に。襲撃者の体を塵さえ残らないほどに焼き尽くし、飲み込んで____

 と、いったところで魔法の発動を止める。
 もうあの男はこの世界から綺麗さっぱり消えてしまった。私の仕事はこれで終わり。パンパン、と大袈裟に音を立てながら手を払って、達成感を噛み締める。

 さて、ここからは別の者が仕事にあたる。この場所に留まっていてはきっと邪魔になるだろうし、私はいつもの部屋へ戻ろうか。
 そう思って、先ほど魔法も使い全速力で駆け抜けた道を、ゆっくりゆっくり歩いて引き返すのだった。 
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