| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

最期の祈り(Fate/Zero)

作者:歪んだ光
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

邂逅

「すみません。奥の席、宜しいですか?」
女性の声に、首をもたげた。そこには、金髪の――所謂、美人という部類に入る女性がいた。再度喋りかける。
「私の席、隣なので」
「ああ、失礼」
そういうと、男は一旦席を立った。
場所は、ロンドンの空港。5.00発でフランス行きの航空機の中。そこに全体的に黒い男と黒のビジネススーツに金の髪が栄える女性の姿があった。
女性が座ったのを確認すると、男も座り直し新聞を再読し始めた。
――間もなく離陸します――
アナウンスの後、数分後2人を乗せた飛行機は大空にフライトした。
――――――――――――――――――――――――
パリ郊外、ヒトゴミから少し隔たった場所に小さな公園があった。周りの華やかさとは対照的に、その公園は死んでいた。塗装の剥げきった遊具。風でブランコが揺れる度、金切り音が泣く。それはまるで、最期の時を待つ断末魔の叫びを彷彿させるため滅多に人は寄り付かない。ここから少し歩いた所にもっと大きい公園が在るのも手伝い、後数ヶ月で取り壊しが決定している。それ故か、ここ最近、一層不協和音を立てるようになった。
そんな公園に、目を引く人物がいた。それは、肩まで伸ばした、金が掛かった黄色の髪に柔らかい顔立ちを備えた中性的な人だった。女性と言っても納得でき、男性と言っても秘密の王子様でも想像すれば、経験が実感に勝り受け入れてしまうだろう程の華やかさがある。
彼女……彼の名はシャルル・デュノア。フランスの代表候補生であり、将来もある程度は約束されていると言っても過言では無い。しかし、未来の栄光とは対照的に、シャルルの表情は陰っていた。
「……この場所ともお別れか」
その発言から、シャルルの表情を曇らせる原因の5割程度は察する事が出来た。お気に入りのスポットを壊されれば、誰だって気持ちは沈む。しかし、それだけでは説明に尽きない。
彼は、暇が在れば毎日のようにこの場所に来た。別にこの公園に思い入れが在るわけでもなければ、好きでもない。
……好きなんて話では無い。彼は嫉妬していた。たしかに、この公園は醜い。だが、それは人の手が加わってないことも意味している。自由……
自分はどうだ?確かに外観は華やかかもしれない。しかし中から見れば、他人の手が介入し在る意味、公園の外観すら問題にならないほどの不快があった。
……自然に朽ち、自ずと消える。そのあり方に、言い様の無い快感と寒気を覚える。
彼が公園を破棄する旨の話を聴いた時、まず最初に浮かんだ感情が嫉妬だった。
――何故、僕を置いて先に逝く?――
死への情景に焦がれた次の瞬間、新たに襲ったのは恐怖だった。
……自分は、死を恐れていないのか?
……異常
そして、悟った。どうやら歪になったのは外形だけではないということに。
(……肉体があり、その次に精神があるか……確かにね)
遂にデカルト以来の二元論から脱け出せたと、一人ガッツポーズをとって嫌になる。そんな事、悟ることが出来ても嬉しくない。彼は……彼女はありのままの自分――シャルロットとして死にたい。ただそれだけだ。
だからこそ、
「未だ、死ねない」
そう、今は死ぬわけにはいかない。シャルル・デュノアではない、シャルロットを取り戻すまでは終わる事は出来なかった。
……取り戻すためなら、どんな無茶でもやってのける覚悟があった。例えそれが、男装をしIS学園の男性、特に衛宮切嗣に近付くというモノでもあっても。
一度、公園のブランコを揺らしてみた。やはり、なるのは不快な音。
……ポトと雨まで降ってきた。
(本当に泣き出したよ)
腕の時計を見やると、もう夕方の7時に差し掛かろうとしていた。
最後に公園を睨み付けるとシャルル・デュノアはその場を後にした。
早く行かないと、社長(父親)を待たせてしまう。

……

「……は?」
あれから1時間後、シャルルはデュノア社の社長室にいた。
「何度も言わせるな。お前の監視すべき対象、衛宮切嗣が急遽此方に来ることになった」
この部屋の主と思われる人物の声はどこまでも冷たい。
「さっき、学園の方に話を付けておいた。今から約二週間シャルル・デュノアとして衛宮切嗣の案内役をしろ」
唐突にも程があるだろう。当初の予定では彼とのファーストコンタクトはもっと先、少なくとも日本になるはずだった。いろいろ言いたいことはあったが、敢えて全てを呑み込んだ。
「解りました。彼は今どこに?」
何にせよ、都合が良いことは確かだ。この男の手のひらで踊るのは癪だが、目的が達成できるならお釣りがくる。
「対象は後、1時間程で航空に付く。直ぐに支度をして迎えに行け。あとこれが衛宮切嗣の写真だ」
そう言い、封筒を投げ渡す。シャルルはその場で中身を改めて一枚の写真を確認する。そして
「……?」
よく解らない感情を覚えた。恋では無い……と思う。
結局、後に続く父の話を聞くためその疑問は放置された。
――――――――――――――――――――――――
空港のゲートを出ると、まず最初に切嗣はプラカードを探した。千冬の話によれば、近々日本に来る代表候補生が出迎えに来てくれているという話だった。程無く、それとおぼしき物を見つけた。でかでかと「衛宮切継」と書いてある。
「継じゃなくて嗣なんだけどな……」
常用漢字じゃないから仕方無いと言えば仕方無いが。
とりあえず、そこに近付く。すると先方も気付いたのか此方に歩いてきた。プラカードの持ち主は、顔立ちは非常に整った顔立ちをしていた。……それと同時に言い様の無い嫌な予感が過った。
「君が、織斑先生の、言っていた、シャルル・デュノア君かい?」
だが、予感は予感。そんな物を考えるのは後でいい。
多少、辿々しくはあるがフランス語で喋りかける。
「うん。僕がシャルルだよ。君が切嗣君?」
意外というか、まぁ日本に来るのだから日本語が出来て当然なのだが、相手は普通に日本語を喋った。
……下手なフランス語を話すよりも、普通に日本語に喋り直した方がいいな。
「ああ。宜しく、シャルル」
「うん。此方こそ宜しく」
自然と握手を交わす。
瞬間、光が襲ってきた。
「な、何?」
思わず目を瞑るシャルルに代わり、そちらに視線を向けると……
「あ、こっち向いた!!」
自分達が大勢の人に囲まれているのを見た。……主に女性。
思わず肩を落とし、プラカードを見て嫌な予感に包まれる。
「衛宮切嗣」は今や世界規模で知られている。男性のISパイロットとして。ならば、目の前に居る人物は?3番目の「男性」適合者。その2人が握手を交わしている。ここまではいい。というか、ここで終わってくれ!何で、全員が全員漏れなく鼻血を垂らしているんだ!?
「一旦離れるよ!」
言うな否や、切嗣はシャルルの肩を――非常に不本意ながら――抱くようにその場を後にした。
……余りの状況で、気付く余裕は無かった。切嗣が肩に手を触れた時、「彼女」の顔が赤かった事を。彼の肌の柔らかさが、むしろ女性特有のものだということを……

腐女……好奇心旺盛な女性達から逃げ切った二人は今、近くのカフェで軽い食事をとっていた。
「それにしても、すまないね。急に迎えに来て貰って」
「ふふっ、大丈夫だよ。僕も特に予定は無かったし」
シャルルが食べているのは、野菜を中心に挟んだサンドウィッチと紅茶……何気にイギリスからの輸入品である。対する切嗣は肉を中心にしたモノとコーヒー。
本来ならハンバーガーと言いたかったが、生憎と置いてなかった。
「はは……それにしても、日本語上手いね。いつから習っているんだい?」
「う〜ん、結構前から。そう言う切嗣もフランス語喋れてるじゃない」
……心なしか、年齢も対照的に見える。天真爛漫なシャルルに対し、老け顔の切嗣。老人と孫と言っても何となく理解できそうである。
「へ〜、他にもドイツ語とクイーンズイングリッシュもいけるんだ」
「むしろ、そちらの方が得意なんだけどね」
一応切嗣は他にも簡単なものなら、中国語と中東のポピュラーな言語も幾つか喋られる。前の世界でも、武器を調達するためにある程度の語学は必要だった。だが最も得意な言語は何だと問われれば、迷わず日本語、ドイツ語、クイーンズイングリッシュが挙がる。日本語はいわずがもがもな、ドイツ語はアインツベルンで過ごした日々の名残で喋られる。……最も、アインツベルンが何百年も引きこもっていたので妙に古臭いが。クイーンズイングリッシュは使えなければ魔術師としての終了のお知らせがなる。イギリスに本部が在るのに、喋れないと色々マズイ。
「切嗣って凄いね」
そう言う彼女の表情は明るい。さっきまでは、寂れた公園で一人取り残されたいと思っていたのに、今は積極的に切嗣に喋りかけていた。
「あまり過度な期待をされると緊張するな……さて、そろそろ店を出ようか」
「そうだね。因みに宿は予約してある?」
「いや、本来ここに来る予定は無かったから特に予定は……」
それを聞くと、シャルロットは少し不味そうに言った。
「それはちょっとマズイね。近々、カーニバルが有って今は何処の宿も埋まっていると思うよ?」
「……しまったな」
「う〜ん。デュノア社の伝で何とか探して見るよ」
待ってて、と言い残すと彼女は電話をかけに外に出た。

――――――――――――――――――――――――
「……分かった。近くの宿を押さえておく。そう伝えておけ」
「有難うございます。では失礼します」
そう言うと、シャルルは電話を切る。
あの男と話しただけでさっきまでの高揚は冷めてしまった。
(……違う。戻っただけだ)
単純に、切嗣と喋っている間だけはシャルロットとしていれた。ただ、それだけのこと。
……なぜ、僕は切嗣といるとシャルロットでいられた。
叶うことなら、彼はシャルロットとして在りたかったのだろう。だが、デュノア社に来てからの数年間に及ぶ教育がそれを許さなかった。……思い返せば、その時からだろう。あの公園に嫉妬し始めたのは。
――だが、だからこそ解らない。一体僕は切嗣の何に魅せられた?切嗣の何が、あの日々を溶かしたのだ?
「切嗣といれば、解るかな?」
携帯をしまうと、店に戻っていく。
(宿が取れたって聞いたら喜ぶかな、切嗣)ふと何の気なしに近くの硝子に目を踊らせると、笑っている自分がいた。
……幾ら、中性的な容姿と言ってもこの笑顔を見てシャルロットを男だと思う馬鹿はいないだろう。


――――――――――――――――――――――――
没ネタ
一体僕は切嗣の何に魅せられた?切嗣の何が、あの日々を溶かしたのだ?
携帯をしまうと、店に戻っていく。
そして、呟く。




「ならば、問わねばなるまい。何を求めて闘い、その果てに何を得たのかを」

side 切嗣
「何だ……急に寒気が」
物語はクライマックスへ……
(シャルロット、ラスボス化)……話が超展開過ぎるのでボツ。 
 

 
後書き
という訳で、シャルロット登場でした。
前回書いた通り、当分、切嗣とシャルロットがメインです。何か指摘があったら、教えて下さい。m(_ _)m 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧