帝の和歌
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第一章
帝の和歌
昭和二十四年十月のことである。
昭和帝にカルフォルニア大学の古生物学の教授であるチェルニー氏からある苗木と種子が献上された、それを受けてだった。
帝は落ち着いたお声で周りに言われた。
「では吹上御苑に植えよう」
「そうされますか」
「苗木と種を」
「これより」
「これは有り難いことだ」
帝は周りにお顔を綻ばせて言われた。
「メタセコイヤはよく育つ」
「はい、この度はです」
「その木が献上されますか」
「その苗木と種が」
「そうされました」
「朕が生物学者であるから」
それでというのだ。
「献上してくれたのだな」
「左様ですね」
「陛下は学者でもあられます」
「そのことを踏まえてです」
「チェルニー教授は送ってくれましたね」
「その心を受けて」
そうしてというのだ。
「吹上の御苑にだよ」
「植えられて」
「その育つのを見られますね」
「これより」
「我が国も民達も今は大変だ」
終戦直後だ、誰もがその爪痕に苦しんでいた。
「だがきっとだ」
「その木の様にですね」
「これより速やかに復興し」
「大きく発展しますね」
「そうなりますね」
「そうなることを祈って」
そしてというのです。
「植えよう」
「わかりました」
「それでは」
周りの者達も頷きそうしてだった。
帝は献上されたその木を植えられた、すると。
木は一年の間に二十五センチも成長した、それで誰もが驚いた。
「何と育つのが速い」
「一年で二十五センチとは」
「これは実に見事です」
「これだけ育つとは」
「これがこの木なんだよ」
帝はその見事な成長を見せる木を前にして言われた。
「一年でこれだけ育つ、この木の様に」
「はい、日本もですね」
「何よりも国民の暮らしが戻り」
「そしてさらによくなる」
「そうなりますね」
「そのことを願うよ」
こう言われるのだった、そしてだった。
木は見る見るうちに成長し日本も復興していった、その中でこの木の保存会までもうけられ各地で植えられたが。
「そう、あの木は痩せた土地ではね」
「育ちが悪いですね」
「どうにも」
「だからですね」
「木材にはだよ」
これにはというのだ。
「今一つね」
「向いていませんね」
「そちらにもと思えましたが」
「それでも」
「しかし外見はよろしいから」
帝は周りに微笑んで言われた。
「公園や道の横にだね」
「植えられています」
「そしてその場を飾っています」
「国の至るところで」
「そうだね、いいことだよ」
日本が復興から発展に移りこの木が増えていく中で笑顔で言われた、そしてだった。
帝はご多忙な御苑のメタセコイアの木が育つのをご覧になられることを楽しみとされた、この木は挿し木で容易に増やせ。
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