| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

木ノ葉の里の大食い少女

作者:わたあめ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

第一部
第四章 いつだって、道はある。
  ガイとリー

「肋骨を損傷……それに手首の骨も折られてる。口の中も、ちっと切ってるみたいだね。……だが安心しな、命に別状はないよ。……カカシと同じく、幻術による精神攻撃を受けてるみたいだけど、呼吸も大体安定してきてる。多分大丈夫だ」
「あ、ありがとうございます!!」

 サスケを見終わった綱手は、弟子二人プラス弟そっくりな少年を振り返った。ほっと息を付き合って笑いあうサクラといのの傍で、ナルトもほっと一息をつく。

「まあ、暫く寝かせておいた方がいい。サクラ、いの、お前達二人は先にシズネに修行を見てもらえ。ナルトも、自来也と修行の予定があるんじゃないのか?」

 はーい、とサクラといのが声を揃え、俺ってば螺旋丸の精度をあげるんだ! とナルトが嬉しそうに走りでていく。
 それを見ながら目を細めた綱手が不意に思い当たったのは先日自分が忍びを辞めろと忠告した少年だ。奴らの襲撃は忠告後、大体二十分ほどの頃に起こった。テンテンとネジが必死で彼を守ったかいあってリーの体は無事ではあったが、心の方のショックは、きっとこれぐらいでは済まされないはずだった。

 +

 ――青春の勲章は、さりげない熱血だ。これからもっともっと頑張れば、君はきっと強い忍びになれるぞ!!――

 変化も分身も上手く出来ずに落胆していたリーの前に現れた黒いおかっぱの男は、そう言って白い歯を煌かせながら笑った。――これがガイとリーの、最初の出会いだ。

――僕は、例え忍術や幻術が使えなくても、立派な忍者になれることを、証明したいですッ!!――

 フォーマンセルを結成した当時に言った自分の夢だ。すぐ右隣に座っていたネジに、忍術も幻術も使えない時点で忍者じゃないだろうと馬鹿にされ、そして彼の言葉に返す言葉も見当たらずに落ち込んでいると、ガイは言った。

――熱血さえあれば、そうとも限らないぞ? よきライバルと青春し、競い合い、高めあえば、きっと立派な忍者になれるはずだ!――

 彼はまた、白い歯をきらきらと輝かせながら笑った。努力も必要だけどな、付け足して豪快に笑うガイに、リーはいっそうと惹かれていった。
 ネジと一緒にガイとカカシの勝負を見に行ったことがある。カカシが提示したのはじゃんけん勝負で、その時ネジは傍で零した。めんどくさいからいいようにあしらわれているだけじゃないかと。ガイがまけたら里を逆立ち五百周と言った時には、ネジのあり得ないという言葉に、思わず同意してしまったことも覚えている。
 リーの回想の中で、二人が拳を振り上げる。
 ――じゃんッ、けんッ、――

 ぽん、と。
 リーの肩に、手が置かれた。

「やはり、ここか」
「が……ガイ先生……どうしてここへ?」
「お前のことなら何でもお見通しだ!」

 記憶と全く変わらない、真っ白な歯を見せて笑うガイに、ふ、とリーも口元を緩めた。
 ネジとテンテンにリーのことを聞かされ、ガイは真っ先に病室に飛んでいったが、彼の姿は無かった。そして彼がどこにいるだろうと考えて、思い浮かんだのがこの場所だったのだ。フォーマンセルを結成した当時、みんなで集まった場所。
将来の夢についての質問に、「答えたくない」だとか、「体術しかなくても立派な忍者になる」とか、「綱手様のような忍びになりたい」だとか、三者三様の答えをもらった場所であり、三班の始まりの場所でもある。ネジがリーの夢を馬鹿にしたことも、それに対して自分が、熱血と努力があればそうとは限らないと言い返したことも、何もかもまるで昨日のことのように鮮明に思い出せる。

「始めて下忍になった時……ここで僕の夢、全てを誓いました。――あの時、ネジに笑われましたが、僕は本気でした」

 その時、ガイが言ってくれた。ライバルと競い合い高めあい青春すれば、きっと証明できると。そして、それには努力が必要だと。
 アカデミー時代、そんなことを言ってくれる友達や先生はいなかったから、ガイのその言葉はとても嬉しかったし、心も少し、軽くなった。

「何をしていいのかわからなかった僕に、道が開けました」

 証明したいなどと言いながら、具体的にどんなことをすれば証明できるのかについてはよくわからなかったけれど、ガイのその言葉によって、どのようなことをしたらいいのだろうかが、少しずつ浮き上がってきたような気がしたのだ。
 ひたすら、ただひたすら努力して。ネジを追い越そうとなんども彼に勝負を挑んだ。それでも彼には勝てず、努力だけじゃ天才には勝てないと泣き言を零したリーに、ガイが言ってくれた言葉。
 お前は努力の天才だと、その言葉。
 その言葉によって知った気がするのだ。自分の力を信じる大切さを。過信は禁物であるが、それでも自分に自信を持てない奴が、本当に強くなれるわけがない。
 綱手の言葉が思い出される。涙がぽたりぽたりと滴った。この夢を、自分の忍道を、叶えるためにずっとずっと、自分を信じて努力してきた。

「でも、今回ばかりは努力してみても、自分を信じてみても、どうにかなりそうにありません……!!」

 涙を流しながら、リーは叫んだ。

「ガイ先生、教えてください! どうして僕だけがこんなことになるんです?」

――なんで……? なんでリーなの? どうして誰よりも忍びになろうと頑張ってたリーがこんな目に合わなきゃならないの? 体術しかなくても立派な忍者になるって、誰よりも頑張ってたのはリーなのに……!――

 ネジとテンテンからリーのことを聞かされ、何かの間違いではないかと綱手に問い詰めた時に、綱手はテンテンの言ったその言葉をガイに言い、そして彼女自身も辛そうな顔をした。
 テンテンのその言葉を、きっとリーが一番強く感じていたのではないのだろうか。体術しかなくても立派な忍者になると誰よりも頑張ってきたリーを、一番よくしっているのはリー自身だ。修行の過程でどんなに辛いことがあっても、どんなに疲れたり痛みを感じていたとしても、それでも諦めずに続けてきたのはリー自身だ。なのにどうして自分が、そう理不尽に思う気持ちは、ネジよりもテンテンよりもガイよりも、リーが一番強いはず。

「僕はどうしたらいいんですか……教えてくださいッ!」

 例え自分を蝕む禁術であっても、自分の守りたい意志と夢のために彼はガイに教えを請った。彼はその夢に、忍道に、全てを賭けているといっても過言ではないくらい必死だったのだ。
 綱手の言葉が蘇る。彼女にこのことについて聞いた時、彼女が口にした忠告。あの子の夢がどうであれ、忍びは諦めた方がいいと、彼女はそういった。
 けれど。けれど。
 体術しかなくても立派な忍者になる、それがリーの全てなのだ。
 きっと苦しいに違いない。長い間努力してきた夢が今、理不尽に奪われようとしている。長い長い努力が、水の泡になろうとしている。
 リーには生きていて欲しいと思うけれど、リーにこれから一生、ずっとずっとこの理不尽に奪われた夢に苦しみながら生きてほしくはない。

「リーよ」

 リーが頭を持ち上げる。涙を流し続ける彼に、ガイは言い放った。

「その苦しみから解放されたければ、覚悟を決めることだ!」

 呆然とガイを見上げていたリーは、震える声で聞いた。

「それは……っ夢を諦める覚悟、ですか……?」
「……己の夢を失えば、お前は今よりも苦しむことになる。忍道を失うようなことがあれば、生きていても苦しいだけだ……俺も、お前も。――手術を受けろッ、リー!」

 ガイのその言葉に、リーは涙に濡れた瞳を見開いた。
 そして彼は、言った。

「さっき、ガイ先生が来るまで、僕はなぜか先生とカカシ先生がじゃんけんしている時のことを思い出していました……その時、先生は運も実力の内だと、言ってましたね。……手術も、生きるか死ぬかは五分……でも、じゃんけんとは違います!」

 じゃんけんに負けたって、カカシに一回多く負けるだけだ。じゃんけんに負けたって、逆立ちして五百周するくらいだ。じゃんけんなら何度でもやり直すことが出来る。でもリーの命は違う。
 死んだらそこで終わりだ。じゃんけんみたいに、軽々しくグーやチョキやパーを出すのか決めるほど簡単に決められるようなことではない。

「……あの後のことを、覚えているか、リー?」

 不意にガイが、口を開いた。
 あの時。あの時ガイはパーをだし、カカシはチョキをだし、見事に負けたガイは、言葉通り逆立ちを始めたのだ。夕焼けになっても、真夜中になっても、ずっとずっと逆立ちを続けていたガイに、リーは問いかけた。なぜガイはいつも何かをする前に、ああやって変なルールをつけるのかと。
 ガイは言った――これは自分ルールというもので、勝負の前に、わざと自分を過酷な状況に追い込むようなルールを決め、枷をつける。例えばこのルールなら、過酷なルールをつけることによって、ガイは例えじゃんけんのような取るに足らないことにでも全力で挑めるし、例え負けたとしても五百周を実行することによって自分を鍛えることも出来るのだ。
 そしてリーは、自分ルールを一つ決めた。「ガイ先生についていけなければ、もっと努力する」――ガイを目指し、努力すればきっと立派な忍者になれると、そう信じて、彼はこのルールをつけたのだ。
 そしてガイも一つ、自分ルールを追加した。「もしリーが最後まで俺についてこれなかったら、命を賭けてでもリーを鍛える」と。
 命を賭けて。

「努力を続けてきたお前の手術は、必ず成功する」

 リーが顔をあげて、ガイの顔を見た。

「万が一、いや、一兆分の一でも失敗するようなことがあったなら……俺が一緒に死んでやる」

 だってそれが、ガイの自分ルールだからだ。
 彼は命を賭けてリーを鍛えると約束した。
 だからもしリーが死ぬことがあったのなら、自分も、この命を捨てる覚悟は出来ている。
 リーを立派な忍者にするのがガイの夢。立派な忍者になるのがリーの夢。
 二人とも夢を捨ててはきっと生きてはいけない人間だ。だからリーが死んで、ガイの夢が叶わなくなったとしたら、きっとガイも、生きてはいけない。
 暖かい暖かい師の存在に、リーは堪えきれずまた涙を流した。 
 

 
後書き
なんかなあ……ガイって外見からしてすっごくギャグ系なんですけど、やる時にはやってくれるし、すっごく頼りになるキャラクターだと思うんですよね。後の展開を知っていてもいなくても、手術は絶対成功するって確信をもたらしてくれます。 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧