ウルトラセブン 悪夢の7楽譜
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オペレーション5_5 for 7 —序曲—
“ブゥオオオンッ!”
陽が火照るリオデジャネイロに何かの咆哮が聞こえ、人々は驚き、何事かと狼狽える。しかし、一時間も経つ頃にはブラジル全土の電力は消失し、都市の機能は崩壊していた。
『続いてのニュースです。先日のブラジルの電力消失から始まりました、連続電力消失事件についての続報です。カナダ、アメリカ、ドイツ、フランス、インドと続きまして、中国の電力が消失しました。原因は未だに解明されておらず、各国の対応にも注目です。』
ニュースは件の事件を報道していた。
「こんな事件を起こせるなんて、なにか怪しくない?」
家族でニュースを観ていたマユカは両親に言う。
「学校行く時間だろ?馬鹿なこと言っていないで、早く支度しなさい。」
マユカの父は食べ終えたあとの食器をキッチンに運びながらマユカに言う。
「嘘っ!もうこんな時間なの!?お父さんありがとう!」
マユカは残り一口のソテーを口へ詰め込み、鞄を持って玄関に向かう。
「それじゃ、いってきます!」
マユカは急いで扉を開けて出ていった。
「まったく、慌ただしい娘ね。あ、食器は洗っておくからそのままで大丈夫よ。」
マユカの母はベランダの花に水をやりながら言い、マユカの父も仕事へ向かった。
電力消失事件はマユカの学校でも話題になっていた。
「なあなあ、いきなり電気がなくなるとか、やばくね?」
「俺のやっているゲームにドイツ人の知り合いがいるんだけど、連絡が取れなくなる前に、怪獣の鳴き声みたいなのが聞こえたって言っていたんだ。」
「まさか、怪獣が電気を食っていると思ってんのかよ。」
「電気が主食な宇宙人だっていたんだから、いてもおかしくないだろ?」
「確かに、てか最近俺達宇宙人とかの話しかしてなくね?」
「実際一番話題にしやすいし、インパクトもあるじゃん。」
男子生徒達の話し声が聞こえてくる。
「ねぇ、そういえば今度国際平和機構の会議が日本で開くから施設の周辺が交通整備されるんだって。」
「マジ?あのあたり通り道だから困るじゃん。」
女子生徒達も、事件とは別の話題で盛り上がる。
「マユカもそう思わない?」
女子生徒の1人がマユカに尋ねる。
「…ごめん、なんだっけ?」
「もう、今度会議のせいであのあたりの交通整備がされるって話だよ。」
「週末のあれね。あっち側には行く予定がないから、特に気にはならないかな。」
「マユカって、もしかして男子達が話している電気の事件の方が気になる感じ?」
「だって、電気がなくなったらスマホ使えなくなるんだよ?嫌じゃん?」
「言われてみればそうじゃん!マジ最悪。」
マユカの指摘で女子生徒は気づく。
「でもさ、電気を食べる怪獣なんているの?食べても美味しくなさそうじゃん?」
「電気を食べる怪獣の報告例はいくつかあるよ?57年前にはネロンガが、54年前にはエレドータスが発電所を襲撃したって新聞に掲載されていたらしいよ。」
「半世紀も前じゃん。今更出てくるの?」
「それはわからない。でも、電気を根こそぎ奪っている何かがいるのは事実なんだから、もしものことは考えないと。私達って、電気に頼りきった生活をしているんだし。」
マユカが話していると、学校の周辺で大きな地震が発生する。
「ヤバッ!!」
生徒達は揺れが収まるまで机の下に身を隠す。暫くして地震は収まる。しかし、
“ブゥオオオンッ!”
地中からビルをなぎ倒すように、巨大な機械仕掛けの芋虫が現れる。
「あれ…ロボット怪獣?」
マユカは呟く。眉下の瞳に映るロボット怪獣は送電鉄塔に糸を吹きかける。すると、鉄塔に流れる電気はロボット怪獣に流れていくのが見えた。
「みんな、あいつが世界中の電気を盗んだ犯人だよ!」
マユカはロボット怪獣を指差す。
「まじかよ!」
「本当に怪獣の仕業だったんかよ!」
生徒達はパニックに陥りながら避難を始める。
(きっと、モロボシさんも気づいているはず…)
ダンのことを考えながら、マユかも避難するのだった。
「あれは、何者かが作った怪獣兵器か!」
当然、ダンもロボット怪獣を発見していた。
「ミクラス、アギラ、頼むぞ!」
ダンは怪力が自慢であるミクラスとアギラの二大カプセル怪獣を召喚し、ロボット怪獣と交戦させる。
「ロボット怪獣だとしたら、近くに操っている宇宙人がいるはず。探し出さないと…」
ダンは周辺の住宅街をくまなく探すが、それらしき人を見かけることはできず、市街地へ戻ってくることになる。しかし、市街地の歩道でブレスレットを指でとんとんと叩いている女性を見つけ、ダンはその様子を見ていると、ロボット怪獣の動きと連動していることに気がつく。
「君、そこで何をしているだ!」
ダンは女性に近づこうとするが、女性はそれに気が付き、細道へ隠れてしまい、ダンもそれを追って細道へ入るが、女性の姿はそこにはなく、
“ブゥオオオンッ!”
ロボット怪獣も再び地中へ潜ってしまった。
「ミクラス、アギラ、休むんだ。」
ダンはミクラス達を怪獣カプセルに戻し、休ませる。
「モロボシさん!」
ダンが怪獣カプセルをしまい終えると、マユカが駆けつけてきた。
「マユカちゃん、無事かい?」
マユカの存在に気づいたダンは声を掛ける。
「はい。やっぱりあの怪獣って、宇宙人の侵略ロボットだったんですか?」
「おそらく、そうだろう。あの怪獣を操っている女性を見たんだ。」
ダンは先程の出来事を話す。
「女性ですか?」
「ああ、腕輪にメッセージを送っているようだった。おそらく、それでコントロールしているのだろう。」
ダンは女性の去り際に写った顔を見せる。
「この顔、どこかで見たことあるような…」
マユカは女性の顔を見て何か考える。そして、少し経つとあることに気がつく。
「この人、国際平和機構の二ミンダ・アノニム長官だ!ちょっとまってください!」
マユカはスマホであることを調べ始める。
「やっぱりありました!」
マユカはダンにあるものを見せる。
「これは?」
「ニミンダ長官の外交のルートです。あのロボット怪獣の出現した順番と一致するんです。」
マユカはダンの質問に答える。
「だが、平和機構の長官が怪獣を操るなんて、何かあるに違いない。僕の方でも調べて見るよ。」
ダンはマユカからの情報提供に感謝し、眉下を現場から避難させ、行動を開始した。
怪獣災害から数日後、国際平和機構の合同会議がマユカの学校の付近の大規模ホールで開催された。ホール周辺は厳重な警備が施され、一般人の立ち入る隙などない状態であった。
「白倉支部長、日本で度々現れる宇宙人の命を奪っているウルトラセブンの行動について、日本支部としてはどのように考えていらっしゃるのでしょうか?」
ニミンダは度重なる日本での宇宙人同士の抗争について言及する。
「しかしですね、一切の防衛手段を有していない以上、宇宙人同士が暴れているのを止められないのも、また事実なのです。」
「流石は日本人、ノンマルトを攻撃した人種ですね。あなたがたは24年前、一切他人種を攻撃しないと誓ったのではないですか?」
「たしかに、あのときはそれがノンマルトへの罪滅ぼしになると考え、そう誓いました。しかし、その結果が宇宙人からの侵略行為に無防備でい続けなければならない現状になっているのです。」
「それの何が問題なのでしょうか?それが、我々地球人の償いのはずです。」
「しかし、ただ侵略を受け入れ、滅ぼされることこそ、ノンマルトに対する冒涜になるのではないでしょうか?そもそも、国際平和機構は平和の維持を行うことが目的の組織編成だったはずですが、現在はどうですか?防衛という、当たり前のことすら平和を乱す行為と言い、むしろ平和と程遠い対極の位置にあるではないですか!」
「防衛なんて考えがあるから間違いが生まれるんです。宇宙人に滅ぼされるなら、国際平和機構の志としては本望でしょう。」
「滅ぼされるために国際平和機構を作ったというのでしょうか?」
「ええ、そうよ。二度と争わず、宇宙人に滅ぼしてもらう。そうすれば、争いを求める宇宙人が1種族消滅するのだから、平和に近づくでしょう?」
白倉とニミンダの会話は堂々巡りを繰り返す。そんな中、
「ようやく見つけたぞ!お前があのロボット怪獣を操り、世界中の電気を奪っているのはわかっているんだ!」
会場にダンが現れる。
「私が怪獣を?一体なんのために?」
「侵略目的ではないのか?調べさせてもらったぞ。そもそもニミンダ・アノニムなんて人間がこの世に存在したことが一度もないということも!」
「何を証拠に?」
「自身の戸籍を作ることに執着しすぎて、親族の部分がおろそかになっていたみたいだな。平和機構の長官になって、何が目的だ!」
ダンはニミンダが人間ではないことを看破する。
「……はぁ、もう少しでうまく行くところだったのに。これだから人間はしぶとくて嫌なのよ。」
ニミンダは悪態をつく。
「宇宙人であることを認めるんだな。」
ニミンダの態度を見たダンは警戒する。
「ええ、そうよ。そして、この姿を覚えているかしら?」
ニミンダは擬態を解き、本来の姿を晒す。
「貴様、ジスタード星人だったのか!」
「ええ。すべては、24年前から計画していたわ。地球が先住部族と現部族との見識の違いが解決していないことを知った私達はノンマルトを自称している部族を唆し、私が国際平和機構の長官に成り代わってノンマルト議題を提出し、日本に判を押させて武装を排除。あとは旦那に来てもらって地球を明け渡してもらえば全て手に入ると思っていた。それが、ウルトラセブン1人のせいで全て台無しになってしまった!」
「あのとき侵略に来たジスタード星人はお前の夫だったのか!」
「そうよ。まあ、使えない男だったけれど。それに、大切なことを一切報告してくれないし、あんな勝利宣言をされたせいで作戦が頓挫してしまったし。でも今回はそうは行かない。ここには国際平和機構の重役達が集まっている。これほど好都合なことはないわ。現れなさい、集電機獣ラルバスター!」
ジスタード星人の命令を受け、芋虫型のロボット怪獣、ラルバスターが咆哮を上げながら現れる。
「くっ!」
ダンは会場から離れる。そして、
「デュワッ!」
物陰に隠れてウルトラアイを装着し、セブンに変身する。
「やりなさい、ラルバスター!セブンを倒すのよ!」
“ブゥオオオンッ!”
ジスタード星人の指示を受け、ラルバスターはセブンに突進する。セブンは突進してきたラルバスターを避け、ウィンダムを召喚し、向かわせる。しかし、
“ブゥオオオンッ!”
ラルバスターがウィンダムに糸を吹きかけると、ウィンダムはピタリと止まり、うつ伏せに倒れてしまう。
「ラルバスターはエネルギーを餌にしている怪獣よ!このまま行きなさい!」
ウィンダムのエネルギーを吸収したことで活発化したラルバスターはセブンに突進を繰り返す。
「セブン、負けないで!」
屋上で戦闘の光景を見ていたマユカはアヤネ、アキヒサ、リョウト、ナリユキに見られながらセブンを応援する。
「デュワッ!」
セブンはラルバスターの突進を受け止め、ひっくり返そうとするが、全身機械のラルバスターは重く、ズルズルと押されてゆく。
「デュワッ!」
更にラルバスターは踏ん張り、力を込めて突進してきたため、セブンはラルバスターの側面へ回避する。
「デュワッ!」
セブンはアイスラッガーでラルバスターを切断しようとするが、ラルバスターの外殻に弾かれ、セブンの頭部に戻ってくる。それを見たセブンはすかさずエメリウム光線の発射体制を構える。しかし、
“ブゥオオオンッ!”
ラルバスターは方向を変え、セブンの手足に糸を吹き付ける。
「デュワッ!?」
セブンは驚きながらもエメリウム光線を発射しようとする。しかし、光線は発射されず、セブンの肉体からエメリウムエネルギーがラルバスターによって吸い上げられていく。
「デュァァァッ!」
セブンは苦しそうにしながらもなんとか腕をL字に組んで必殺の一撃、ワイドショットを放とうとするが、それさえモラルバスターに吸い取られてしまう。
「ウルトラセブン、ラルバスターの力を侮っていたようだな!ラルバスターが吸い取るのは電気だけではない。ラルバスターは糸を介してエネルギーを餌として吸い取るのよ!高純度のエネルギーを武器に持つウルトラ戦士は、ラルバスターの格好の餌になるのよ!」
ジスタード星人は勝ち誇るように言う。そうしている間にもセブンのエネルギーはラルバスターに奪われ、セブン活動を管理するビームランプは点滅を始める。
「そう、その調子だラルバスター!ウルトラセブンのエネルギーを吸い尽くせ!」
ジスタード星人の指示を受け、ラルバスターはセブンのビームランプが消灯するまでエネルギーを吸い取り、光を失ったセブンはうつ伏せになり倒れる。倒れたセブンにラルバスターはのしかかる。そして3秒ほど経過した後、
“ブゥオオオンッ!”
ラルバスターは勝利宣言するように咆哮し、セブンから離れる。
「地球人達よ、頼みの綱であったウルトラセブンは破れた!さあ、おとなしく地球を差し出せ!さもなくば、ラルバスターで地球のエネルギーを奪い取ってやる。計画を練ってから24年、本当に長かった。平和という偽善で思考を塗りつぶし、防衛手段を奪い、漸く侵略できた!地球人よ、ウルトラセブンのいない今、お前達の力でラルバスターを止められるか、見せ者として見せてもらおう!」
ジスタード星人は笑う。
「嘘…モロボシさん!モロボシさん!!」
その惨状を見ていたマユカは叫ぶ。
「ちょっとマユカ、何あのジジイの名前を叫んでんの、キモいんだけど。」
そんなマユカを見てアヤネは軽蔑の眼差しを向ける。
「アヤネは知らないんだったよね。モロボシさんこそ、今まで幾度にも渡って地球の危機を救ってくれた英雄、ウルトラセブンの正体なの!」
マユカは事実を語る。
「あのジジイが?冗談でしょ…」
マユカの発言をアヤネは受け入れられずにいる。
「俺はそうなんじゃないかって思っていたけど、やっぱりそうだったんだ。」
アキヒサは以前の経験から納得する。
「セブンが現れるのは、それだけ地球を狙う宇宙人が現れるということなの。数多の侵略者に狙われる度にモロボシさんは地球に現れて、セブンになって命をかけて私達を守ってくれたの。」
「どうしてセブンから見たら他所の星の宇宙人の俺達を守ってくれてたんだよ!?」
リョウトはマユカに尋ねる。
「モロボシさんは、セブンはそれだけ宇宙から争いのない、平和な世界を目指していたから。争いを求める人は相手の事情なんて考えないから、武力で押さえつけるしかなかったの。そうしないと、平和を愛する星が、失われてしまうから。ソガ君、見たでしょ?あれが侵略者のやり方なの。内部に入り込んで、耳障りのいい言葉で相手の抵抗を奪って、制圧してくる。私はお祖父ちゃんから聞いていたから、ずっと、地球はまだ宇宙からの脅威に耐えられないと思っていた。モロボシさんが来たときには安心していた。これで地球は安泰だって。でもそれは、モロボシさんありきのものだった。そして、そんなモロボシさんが勝てなかった!」
マユカは泣き出す。正義感が強く、ダンと行動する機会が多いだけに、ショックも大きかったのだった。
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