ウルトラセブン 悪夢の7楽譜
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ユニバース26
ある夜、流れ星の如く一機の円盤が飛来し、山へ不時着する。円盤の扉が開くと、中からは中学生くらいの背丈のネズミのような見た目をした宇宙人が数体出てくる。
「ここが地球か。」
「なかなか、研究のし甲斐がありそうですね、」
「すべては、我らラッテラー星人の知識のために。」
ラッテラー星人達は山から降り、行動を開始した。
それから数日後、街ではあるポスターが目立っていた。
「仮想世界で楽園生活体験?面白そうじゃん!アヤネも応募してみようよ!」
ポスターを見たアヤネのクラスメイトはアヤネに話しかける。
「まあ、応募するのはただだし、やってみてもいーけど?」
アヤネはクラスメイトの押しに折れ、応募した。それを皮切りに、至るところでQRコードを読み込ませる人々が現れる。
「なあナリユキ、楽園なんてお前にぴったりじゃないか?俺達も参加しようぜ!」
「楽園か…争わなくていいなら、参加してみようかな。リョウト、一緒に参加しない?」
アヤネの同級生であるフルハシ リョウトとソガ ナリユキも応募し、応募者は続々と増えていく。
「ふむふむ、計画は順調みたいだ。」
その様子をモニター越しに見ていたラッテラー星人の1人が仲間に伝える。
「機材と設備の準備も進んでいる。イベント期間を外れれば、大規模収容が可能な施設を抑えるのは予想以上に容易なことであった。」
「想定外だったことは、こちらで揃える予定だった機材が想像以上に高騰していたことだ。資金の都合から、そう長い期間の研究は行えそうにない。」
別動班のラッテラー星人は経過を報告する。
「まったく、お偉いさん達は何も解っていない。争いのない世界への探求は何十億年もの昔から様々な惑星の科学者の中で議論され続けていたことだというのに。行動心理学の分野に長けている我らラッテラー星人が率先して行わずにどうする!それなのに、研究資金をケチるとは!」
「リーダー、ここは落ち着いて。先ずは実験を遂行することが先でしょう。」
苛立つラッテラー星人のリーダーを部下が宥める。
「…とにかく!1ヶ月後が楽しみだ。それまでは地球観光でも楽しもうではないか。これほど芸術を優先する星はそうそうはない。研究も大事だが、モチベーションの維持も大切なことだ。くれぐれも、人間への擬態を徹底するのだぞ!」
リーダーの言葉で、ラッテラー星人は人間に変装し、活動を開始した。
それから一月が経過した。応募に当選した人数は実に八千人、男女それぞれ四千人ずつであるが、年齢層はバラバラであった。
「なんだよ、誘ってきたのに落ちてんのかよ。」
会場に着いたアヤネは不服そうにスマホをいじっている。
「ナリユキも当選していたんだな。俺達2人とも行けるなんて運がいいな。」
「そうだね。」
リョウトとナリユキは会場に入っていく。
「皆さん、本日はお集まり頂き、誠にありがとうございます!」
当選者が全員入場したことを確認し、人間に変装したラッテラー星人が司会として現れる。
「これから皆さんに体験していただく楽園体験ですが、改めて概要を説明いたします。先ずはお手元のヘッドギアを装着していただきますと、皆さんの意識を仮想世界へ転送いたします。仮想世界では常に快適な温度で調整されますので御安心ください。また、仕事などは一切存在しませんので皆さんの自由な暮らしが保証されます。」
司会の言葉に人々はざわつく。
「そして、この仮想世界がなぜ楽園と呼ばれるものになるのかについてですが、この仮想世界では現実と同様に空腹や怪我、病気などが発生します。あくまでも、現実に近づけるための措置で行われますので、実際に皆さんのお体に影響があるわけではないのでご心配なく。勿論、ただ病気を発症するのは楽園とは程遠いものなので、怪我や病気はその都度完全に治療され、食事に困ることも起きない、まさに人類にとって理想の楽園になるものです。ここまででご質問のある方はいらっしゃいますか?」
司会の説明を聞き、参加者は納得する。
「それでは皆さん、ヘッドギアの装着をお願いします。」
司会の言葉を聞き、参加者はヘッドギアを装着する。
「それでは皆さん、楽園での至福のひと時を!」
司会は機材を作動させ、参加者の意識を仮想世界へ転送した。
「…ここが、仮想世界ってとこ?」
アヤネが目を覚ますと、そこは現実と何も変わらない空間が広がっていた。
「なんか、思ってたんと違うなー。」
アヤネはフラフラと歩き始める。仮想世界の中で働いている人物達はAIが使われているらしく、司会の言っていたように働いている参加者は1人もいなかった。
「こんなうまい料理をいくら食べてもいいだなんて、楽園最高だな!」
「ここなら無限にレベル上げ放題じゃん!」
「こういう老後なら、幸せに暮らせそうね。」
すでに多くの人々が仮想世界での快適な生活を満喫し始めていた。
「んじゃ、私も気になっていたスイーツでも食べっか。ここなら太る心配もないし。」
アヤネも他の参加者に倣って仮想世界を楽しむことにしたのだった。
それから二ヶ月が経過した頃、マユカはあることでダンに相談をしに行っていた。
「なに?アヤネちゃんが行方不明だと?」
「詳しく言うとアヤネだけじゃないの。私の学校だけでも5人くらい行方不明になっているの。」
マユカが相談していた内容とは、楽園体験の参加者と連絡がつかなくなっていることだった。
「何か心当たりはないかい?」
「確か、みんな楽園体験がどうとか言っていたはず。」
「楽園体験?なんだいそれは?」
「少し前に応募していた企画で、仮想世界で楽園を体験しようって企画があったの。私の学校でも話題になっていて、かなり多くの人が応募したみたいだけど、私の学校からは5人も選ばれたみたいなの。」
「マユカちゃんも応募したのかい?」
「私はしていない。だってほら、私とアヤネって価値観とか全然違うでしょ?全員が納得できる楽園なんて、存在できるわけ無いでしょ。」
「そんなことを言ったら、平和な世界は実現できないと言ってしまうのと同じじゃないかい?」
「私は、出来ないものだと思っています。誰かにとっての平穏と、私の平穏が同じものだと限りません。それこそ、ノンマルト議題じゃないけど、人間を優先すればノンマルトの、ノンマルトを優先すれば人間の、平和が奪われてしまいます。平和が奪われた方は、新たな平和を求めて誰かの平和を奪ってしまいます。」
マユカは持論を話す。
「…!ごめんなさい!こんなこと、誰よりも宇宙の平和を願っているモロボシさんに言うのは間違っているのに…」
「いいんだ。それは僕達だって解っている。だからこそ、平和を願っている人々から平和を奪う真似を許してはいけないんだから。」
マユカはすぐに謝るが、ダンはそれを受け止める。
「ありがとうございます!そういえば、これがその楽園体験企画の会場です。もしかしたら、みんなそこにいるかも。」
マユカはダンに会場の詳細を見せる。
「ありがとう。調べて見るよ。」
ダンは走り出した。
「ちっ、いつまで追われないといけねえんだよ!」
アヤネは男性から追われていた。話は一週間前に戻る。
「きみ、いい見た目してんじゃん。俺達と遊ばない?」
数人の若い男性グループがアヤネによってくる。
「はあ?そういうのが目的なら、店だっていくらでもあるんだからそっちいけよ!」
アヤネは強気な姿勢を崩さない。
「人が折角仲良くしようぜって言ってやってんのに、そういう態度取るんだ?おい、そのガキ捕まえろ。捕まえたらお前らも混ざっていいぜ!」
男性グループのリーダーは取巻きに指示を出す。その言葉を聞き、取巻きとアヤネによる逃走が始まったのだった。
「はぁ、あんな奴らに絡まれなければ、今頃スイーツ巡りで楽しんでたんだろうなぁ…」
アヤネの回想が終わると、アヤネは捕まるまいと猛ダッシュで取巻きたちから距離を離す。すると、
「こっちだ。」
狭い路地から手が伸び、アヤネを引き込む。
「あんた!」
アヤネは掴んだ手の主を睨もうとする。
「静かにするんだ。こっちで上手く隠すから。」
手の主は路地から出る。
「なぁ兄ちゃん?兄ちゃんと同じくらいの歳の娘が通ったと思うんだけど、どっち行ったかわかる?」
「その娘なら、多分そこのショッピングセンターに入っていったと思う。」
「サンキュー、ありがとな!」
取巻きに質問された手の主は、全く違う方向へ誘導していった。
「さ、もう大丈夫だ。」
「フルハシ、あんたがそんないい奴だったなんて。」
手の主はリョウトであったのだ。
「あいつらがいつまたこっちに来るかわからないから、これに着替えたほうがいい。ダサい服かもしれないけど、これくらいイメチェンすれば、向こうも気づかないと思うから。」
リョウトは地味な服やウィッグ、伊達眼鏡を渡す。
「…ありがと。覗いたらぶっ殺すからね!」
「しないよ。俺はまだそういうのに興味がないんだ。そういうのは携帯小説で充分だ。」
「あっそ。」
アヤネは着替え終わり、リョウトと並ぶと目立たないカップルのような雰囲気を醸し出していた。
「とりあえず、あいつらが興味をなくすまでの間はこうしていたほうがいい。」
「ありがと。」
リョウトとアヤネは歩き始めた。
「どうだ、見つかったか?」
「いや、見つからない。俺達騙されたんじゃねえのか?あの野郎!」
男性グループは集合したが、成果を挙げられず、男性グループは破壊活動を始め、ショッピングに勤しんでいた参加者達は萎縮してしまう。すると、
“参加要項を破棄したため、ご退場願います。”
そうアナウンスが流れると、男性グループは仮想世界から消滅した。
「どうも、ここ数日で退場者が続出している傾向にあるな。」
仮想世界のデータを見ながら、ラッテラー星人は考察をしていた。
「はい、どうも理想を叶えすぎた影響か、力で勝ち取るものに理想を求めてしまう傾向にあるようです。」
「なるほど、だから女性を襲う男性が増えてきているのか。そして、女性は女性同士でマウントの取り合いを行い、自己の承認欲求を見たそう、と。」
「ふむ、今までのデータと照らし合わせて、これは奇妙だ。」
「リーダー、どこがでしょうか?」
「見て見給え。別の惑星でのデータと比べて、退出措置を行う速度が遥かに早く、加速度的に上昇していっている。」
「集めた対象に問題があったのでしょうか?」
「それはないだろう。なにより、内乱の絶えない惑星や戦争を仕掛ける惑星の住民より退出措置を行わなければならないのは異常としか言えないだろう。」
「そういえば、退出措置を行うのが早かった惑星には、共通点がありますね。」
「気が付いたか。君の言う通り、退出措置を行うのが早かった惑星は、好戦的ではない惑星がほとんどだ。更に言うなら、争わないよう法整備の整っている惑星だ。そこで私はある仮説を立てた。すぐに凶暴になっているのではなく、元から法でがんじがらめにしないといけないくらい凶暴だからこそ、法を取り払えばすぐに凶暴になるのではないかというものだ。」
「それでは、好戦的な性格のほうが楽園を維持しやすくなってしまいます!」
「もしかしたら、我々は大前提から間違えているのかもしれない…」
ラッテラー星人が話し合っていると、突然扉が開く。
「お前達か!人間達を仮想世界に閉じ込めているのは!」
開いた扉からダンが入ってくる。
「君はウルトラセブンか。噂は聞いているよ。宇宙の平和を守るために死力を尽くす君には、是非とも拍手を送りたいほどだ。」
ラッテラー星人のリーダーはダンの入室を拍手で迎える。
「何をふざけたことを言っているんだ!人間達を幽閉し、何を企んでいる!」
ダンは力強く言う。
「幽閉?我々はそんな物騒なことは考えていないさ。寧ろ、君達ウルトラ戦士と同様、宇宙の平和を築くための研究をしているのだよ。」
「平和を築くための研究だと!」
「如何にも。我々はこれまで様々な条件で複数の惑星で仮想空間に楽園を築き、その惑星の住民達の行動心理を研究してきた。様々な星の研究者が争いのない理想の楽園を求めながらも、何故達成できないのか、達成できない理由は何なのか、それを取り払えば達成は可能なのか、ずっと研究していた。」
「そのために、それぞれの星の人々を実験台にするのは間違っている!」
ラッテラー星人の言葉にダンは怒りを顕にする。
「では聞こうではないか。人間は薬品の実験でラットを使うだろう?人間達はその都度律義にラットに実験台にしてもいいのかと尋ねているのかい?そんな事はないだろう。我々のしていることはそれと同じさ。まさか、直立二足歩行を行い、独自の言語体系を有する意思疎通が可能な知的生命体は特別だとでも思っているのかい?」
ラッテラー星人は後ろめたさなど感じない態度を見せる。
「それを本気で言っているのならば、お前達を放置することはできない!」
「そうかっかしないでくれ。我々は戦う気などない。それに、そろそろ地球から撤退する予定だった。」
「どういうことだ!」
「これまでの研究データを持ち帰り、我々の研究チームの解体指示に従う予定だった。」
「話を聞かせてもらおうか。」
「我々の研究チームの目的である争いのない理想の楽園が構築不可能であることはラッテラー星の連邦政府から告げられていた。それでも我々は行動心理学の応用を行えば可能だと思っていた。しかし現実はどうだ。どの惑星でも楽園の維持が困難で、最長は2年半、地球に至っては1ヶ月半で楽園が無法地帯に変わり始めた。故に、多種多様な心を持つ知的生命体に、楽園を築き上げることは不可能と我々は決断し、最後のレポートを提出し、我々は再び個人の行動心理学者に戻ろうと決意したのだ。我々にだって資金の限界はある。政府からの資金援助も打ち切られ、個人で出資できる資金も限界が来た。ここが引き際だと判断したんだよ。」
ラッテラー星人は円盤を呼び寄せる。
「ウルトラセブン、我々は母星へ帰還する。それが虚偽ではないことを見届けてほしい。」
ラッテラー星人はダンに頼む。
「嘘ではないんだな。そこまで言うなら信じよう。デュワッ!」
ダンはセブンに変身する。
「さらばだウルトラセブン!地球での研究はとても役に立った!」
ラッテラー星人の円盤は感謝の意を伝えるモールス信号のような光を放ち、地球から出ていった。それを見届けたセブンは再びダンの姿に戻る。
「マユカちゃん、みんなを仮想世界に閉じ込めていたラッテラー星人は、侵略の意思がなかったみたいだ。僕だって、侵略行為を行わない宇宙人を攻撃したりはしない。彼らには帰ってもらうことにしたんだ。」
ダンは夕焼けの中で輝く一つの光を見ながら言う。
「地球って、いろんな星と比べて恵まれている星だって、お祖父ちゃんが言っていました。そうなれば、侵略以外にも、調査目的で地球に来たがる宇宙人も多いと思うんです。」
マユカとダンが話していると、
「おい、ナリユキ!アヤネから聞いたぞ!あの男達に襲われそうになっているアヤネを売ろうとしたんだって!?お前、見損なったぞ!」
リョウトがナリユキの胸ぐらを掴みながら怒鳴りつけている場面に遭遇した。
「2人とも、落ち着くんだ。」
ダンとマユカは2人を引き剥がす。
「爺さん、もしかして祖父ちゃんの言っていたモロボシさんか!?俺、フルハシ リョウトっていいます!ちょっと今、仮想世界でのことでナリユキのことを怒っていたんです!」
リョウトとアヤネは仮想世界で理性のタガが外れた男性グループに追われていたことを話す。
「リョウト君、女の子を守ろうとするのはいいことだけど、だからといって見捨てようとした人を脅したら、その悪人と同じになってしまうよ。」
ダンは仮想世界でのリョウトの行為を褒めつつも、先程の行為の問題点を指摘する。
「そもそも、襲われたとしても、自分の身を委ねればいいだけなのに…」
ナリユキはボソボソと言う。
「ナリユキ君、君は自分が同じように悪事に巻き込まれても同じことが言えるのか!侵略者に自由を奪われても、同じことが言えるのか!」
ナリユキの言葉を聞き、ダンの瞳は鋭くなる。
「言える。侵略者が攻めてきたら、植民地にしてもらうほうが絶対に幸せになれる!」
「君はそれでもソガ隊員のお孫さんか!」
「祖父さんと俺を一緒にしないでくれ!そもそも、ウルトラ警備隊の存在自体が間違っていたんだ!主義主張が違うから争い合うんだったら、最初っから1人の支配者に平等に支配されていれば、誰の領土とか、どっちが優れているとか、そんな争いはなくなるんだ!」
ナリユキは言いたいことを言うだけ言うと、早足で去っていってしまった。ダンは、自身が考えもしたことのない価値観に、困惑することしかできなかった。
後書き
UNIVERSE計画及びユニバース25
1960年代に実施されたラットを利用した飢餓、怪我、病気、外敵の存在しない完璧な楽園を目指した実験の総称であり、1度目から24度目までは施設が狭かったことから一切の進展もなく時間が過ぎていったが、25度目には大きな施設にすることで群れの拡大には成功するが、外敵が存在しないことにより多様性が生まれ、社会性が消失。それにより同族殺しを平然と行うディストピアへと変貌し、最終的に生物の主目的たる種の保存すら行われなくなる絶望的事態となり、ラットの全滅により、ユニバース計画すべてが打ち切りとなった。この実験によって得られたものは、
・多様性の実態は種におけるルールから逸脱した危機的事態の予兆
・多少窮屈で不満のある生活のほうが平和で社会性のある生活が行える
・楽園なんて作ることは不可能である
という、人間社会にも当てはまる内容であった。この大型実験はユニバース25(25回目のユニバース計画)として様々な形で記事となり電子、紙媒体どちらでも調べられる内容となっている。
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