インフィニット・ストラトス~黒き守護者~
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イギリス代表候補生
「お前は馬鹿か? というか本当に脳みそはあるのか?」
「いきなり酷い言いようだな……」
さっきの時間が終わり次第、織斑は俺の席に来た。
それで教えてくれとせがむので仕方なく教えてやっている。
「だいたい、表紙にデカデカとこれでもかと言いた気に『必読』と記入されていただろうが」
「そ、それは………」
「第一、今はそっちの知識を蓄えるのが優先だろうが。お前は家で何をしていた」
「掃除だな」
「というかまずはここに来る準備から始めろ。それとこれ」
そう言って鞄の中から参考書を纏めた物を出す。
「これをその参考書と照らし合わせて理解してこい。一週間ぐらいあればできると思うぞ」
「そうなのか!?」
「まぁな」
「でも、これももらったらお前は―――」
「安心しろ。それは予備だ」
そう言うと織斑は唖然とした。
「ちょっと、よろしくて?」
「へ?」
「ん?」
俺と織斑は反応すると無視すればよかったと後から後悔する。
その女生徒はさっき織斑に侮蔑の視線を送った代表格だった。しかもおそらくだが俺の嫌いな世に言う『女尊男碑』にどっぷりと嵌った人間だろう。
「聞いてます? お返事は?」
さっき返事しただろうに……。
「あ、ああ。聞いてるけど……どういう用件だ?」
織斑が応対すると、やはりというかなんというかわざとらしく声をあげた。
「まあ! なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」
少なくとも、俺はそんなことを持ち合わせていない。第一今はそんな暇はない。
「悪いな。俺、君が誰だか知らないし。祐人は?」
「いきなり呼び捨てかよ……。まぁ俺もしらないが……」
その返事が気に入らなかったのか、相手は男を見下した口調で続けた。
「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを!?」
あれ? そういえばそういうのがニュースでやっていたような……。でもこの分だと大した実力はないんだろうな……。
「あ、質問いいか?」
「ふん。下々のものの要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」
別に貴族じゃなくても質問に答えると思うがな。
「『ダイヒョウコウホセイ』って、何?」
織斑の言葉に俺は唖然とした。
「あなたっ! 本気でおっしゃってますの!?」
「おう。知らん」
織斑はどうやら底抜けの馬鹿らしい。
「信じられない。信じられませんわ。極東の島国というのは、こうまで未開の地なのかしら。常識ですわよ、常識。テレビがないのかしら……」
「おい。こんな馬鹿でどうしようもない人間と一緒にするな。織斑を一般の男と考えるな」
「それ、どういう意味だよ。あ、あと俺を呼ぶとか『一夏』でいいぜ」
律儀だな、こいつ。
「ところ祐人、代表候補生って何なんだ?」
「読んで字のごとく、その国の代表の候補生だ。一部からはエリートと呼ばれてる」
「そう! エリートなのですわ!」
復活に必要なタイムラグが短いな。
そしてオルコットは俺たちを指差した。
「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡……幸運なのよ。その現実をもう少し理解していただける」
どちらかと言えばそっちの方が運がよかったんだろうに……。
「そうか。それはラッキーだな」
「……馬鹿にしてますの?」
(お前が幸運だって言ったんだろうに……)
俺はつい頭を抑えていた。
「大体、あなたISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。男でISを操縦できると聞いていましたから、少しくらい知的さを感じさせるかと思っていましたけど。そっちの方はまだ覚えがあるようですが、その容姿、どうにかなりませんの? もう少し前髪を切ったらいかがです?」
そう。今の俺は前髪が少し長く、目を隠している。そして黒だ。
「まぁ、どちらにしても期待はずれですけど」
「俺に何かを期待されても困るんだが。というか容姿をどうこう言うなよ。祐人に謝れ」
なんか知らないけど、この二人を蹴り飛ばしていいかな?
「ふん。まあでも? わたくしは優秀ですから、あなたのような人間にも優しくしてあげますわよ」
いらねぇよ。というかそんな暇なんてないっての……。
「ISのことでわからないことがあれば、まあ……泣いて頼まれたら教えてさせ上げてもよくってよ。なにせわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」
教官なら俺も倒したけど。俺が初心者とはいえ、山田先生は手強かった。
「入試って、あれか? ISを動かして戦うってやつ?」
「そうですわ」
「あれ? 俺も倒したぞ、教官」
「は……?」
へぇ、こいつも倒したんだ………。一応真意を確かめるか。
「なぁ一夏」
「何だ?」
「お前、何に乗って戦った?」
「え? 打鉄だけど……」
このとき、俺はまぐれだと思った。
「じゃあ相手は? 俺が知っている人か?」
「ああ。山田先生だった」
「まぐれだな」
「酷くねぇ!? 確かにまぐれだけどさ!」
ほら。やっぱりな。
大体、素人があの人に勝てるわけがない。高性能な専用機を俺みたいに持っていない限り。
「そういう祐人はどうだったんだよ」
「山田先生にギリギリ勝った」
「え? ギリギリなのか?」
「………たぶん、あの人は並みの代表候補生ならすぐに負けると思うぞ」
と、俺が言うと代表候補生だと言っていたオルコットに視線がいった。
「な、何ですの?」
「オルコットはどうだと思う?」
「……実力は知らないからなんとも言えないが、たぶん負けると思う」
それほどまでに彼女の能力は高かった。
そう思っていると同時にチャイムが鳴り、周りの人間が急いで席に戻る。
(そう考えると、あの時は手加減してくれていたのだろうか?)
ふと思い出すあの戦い。もしかしたら山田先生は手加減していたのかもしれないな。借りにも兵器を扱う学校だ。たぶんだがもっと強いだろう。
(………もっと、強くならなければいけないかもな………)
そう心に決心した。
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