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俺様勇者と武闘家日記

作者:星海月
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第3部
ルザミ
  ガイアの剣

「ううう……。あたまいたい……」
 次の日の朝。珍しく二日酔いで呻き声を上げながら起きてきたのは、シーラだ。
 普段どれだけ飲んでも次の日にはケロッとしている彼女が飲みすぎるなんて珍しい。
「大丈夫? 昨日随分飲んだみたいだね」
「量は大したことないんだけどさ、酔いが回るのがめっちゃ早いんだよね。あんな強いお酒、初めてだよ」
 そう言う割には、夕べのお酒の味を思い出したのか、まだ飲み足りなさそうな顔を浮かべている。
 すると、ベッドで寝ていたフィオナさんが、私たちの会話を聞いていたのか、いつのまにか顔を出していた。
「島の酒はかなり度数が強いんだ。慣れない人が飲んだらおそらく三口ほどで倒れる」
「そ、そんなに強いお酒だったんですか」
 さすがシーラ。確か昨日見たときは、軽く五本は開けていた気がするのだが、二日酔いもこの程度で済んでるなんてさすがだ。
「今さらだが、おはよう。すまないね、こんな狭いところに寝かせてしまって」
「とんでもない! 私たちが勝手に押し掛けてきたんですから」
 夕べ、私とシーラは二階、ナギとユウリは一階で寝させてもらうことになった。二階は一部屋なので、フィオナさんが自分のベッド、私たちはベッドの下の床で休んだのだった。最初フィオナさんはベッドを使っていいと言ってくれたが、そう言うわけには行かないと二人揃ってきっぱりと断った。
 ちなみに男性陣は一階のリビングで雑魚寝している。他の人たちは皆夕べのうちにそれぞれの家に帰っていったらしい。
 一階に下りてみると、二人分の頭が見えた。ユウリはリビングのソファ、ナギはキッチンマットにくるまれていた。さすがナギ、筋金入りの寝相の悪さである。
 ほどなく、私たちの足音にいち早く気づいたユウリが目を覚ました。いつも私たちより早起きしてトレーニングをする彼にしては珍しい。
「おはよう、ユウリ!」
「朝から大きな声を出すな、頭に響く……」
 のっそりと起き上がったユウリの顔は、随分と青白く、げっそりとやつれていた。そして次の瞬間、彼は口を手で覆うと、凄まじい早さでトイレへとかけこんだ。
「だ、大丈夫!?」
「ははあ、あれはきっと二日酔いだね☆」
 昨日、ユウリにしては珍しくナギと一緒にお酒を飲んでいたのだが、まさかここまで具合が悪いとは。
 ユウリの事はひとまず放っておくとして、今度はミノムシ状態のナギを揺り起こしてみる。
「おーい、ナギ、朝だよー」
「うう……」
 キッチンマットにくるまれているからか、彼は苦悶の表情を浮かべている。苦しいのかと思い、キッチンマットを外そうとしたときだ。
「うわああああっっ!!」
「!?」
 大きな叫び声を上げながら、ナギが突然飛び起きたではないか。私は即座にその場から退いた。
「どっ、どうしたの!?」
 私が尋ねるも、ナギは吹き出す汗をぬぐうこともせず、息を荒げたまま動かない。
「ナギちん、どしたの?」
 シーラも心配そうに顔を覗き込む。だが、私たちの存在など気にも止めていないようだった。
 するとそこへ、フィオナさんも下りてきて、ただならぬ様子のナギに声をかける。
「ナギ……、その様子はまさか、『視た』のか?」
 彼女の言葉に、びくりと反応するナギ。フィオナさんを見上げると、小さく頷いた。
『視た』って、もしかして予知夢?
 でも予知夢を見たときって、いつもこんなに具合悪そうにしてたっけ?
「ゴーシュもお前の夢を視たとき、そんな感じだったよ。夢の内容が自分にとって重大であるほど、力を消費するんだろう。それで、どんな夢を視たんだ?」
 フィオナさんの冷静な口調が、困惑するナギを落ち着かせた。ナギはゆっくり息を整えると、訥々と話し始めた。
「どこかはわからねえけど、険しい山がいっぱいあって……、その中でも一番高い山の前で、あいつ……ユウリが見たこともねえ立派な剣を持って立ってた。そこでユウリがその剣を地面に突き刺した瞬間、目の前の山がいきなり噴火したんだ。そのあと場面が切り替わって、滅茶苦茶デカくて不気味な城が見えた。その城の中に入ると、城の中を包むくらい大きな影が現れて、……オレたちを飲み込んだ」
「飲み込んで……、それで終わりかい?」
「ああ。それで目が覚めた。正直怖くてこれ以上見られなかった」
 ナギは額の汗をようやくぬぐうと、大きく息を吐いた。あのナギが怖れるなんて、どれほど恐ろしい夢だったのか想像もつかない。
「情報が多いから、一度整理しよう。まず、ユウリくんが持っていたという立派な剣というのは、何のことだろう? そもそもその剣を武器として使わず、なぜ地面に突き刺したんだ?」
「俺の剣が何だって?」
 トイレから戻ったユウリが、若干ふらふらしながらも私たちのもとへやってきた。
「大丈夫? 二日酔い?」
「ああ。夕べバカザルたちが無理やり酒を勧めたせいで……、いや、そんなことより何の話をしているんだ?」
 私はユウリにナギの夢の内容を説明した。すると、彼もフィオナさんと同じ疑問を抱いたようで、部屋の隅にある自分の剣を取りに行った。
「俺は旅に出た時からこの剣を使っている。バカザルが見たことがない剣ということは、この剣じゃないってことだな」
「そういえば、ユウリが今持ってる剣も立派だよね。誰かからもらったの?」
 そう言って私はユウリの剣に目をやった。
「この剣は旅に出る前にジジイからもらったものだ」
「ユウリくん。ちょっとその剣を見せてもらえるかな?」
「ああ」
 ユウリは頷くと、フィオナさんに剣を渡した。彼女は鞘から剣を抜き、その外観をまじまじと見る。金色に輝く刀身には、邪魔にならない程度の細かな装飾が施されている。そしてしばらく眺めたあと、フィオナさんは何かに気づき、目を見開いた。
「これは……、もしかして『稲妻の剣』かい?」
「さあな。どんな剣か調べる前に旅に出たからな。あんたはこの剣を知ってるのか?」
「古い文献でね。今から数百年……それこそ勇者物語のもとになったと言われる神話の時代からあった、伝説の剣だ。確か本によれば、『長きにわたりネクロゴンドの山奥に眠っている』と書かれていたが、この剣は描かれている挿絵とそっくりだ」
「てことは、本物ってこと……?」
 私が息を呑むと、フィオナさんは首を傾げる。
「うーん……、レプリカの可能性もあるが、わからないな。本物かどうか確かめるとすれば、どうやら稲妻の剣には、特別な力が秘められているらしい。それを引き出すことができれば、間違いなく本物だ」
「どんな力なんだ?」
「それはわからない。何しろ大昔の話だ。この剣が実在しているという事実が伝わっているだけでも奇跡に近いさ」
 フィオナさんはユウリに剣を返すと、今度はナギに向き直った。
「ナギ。その夢はきっと、お前に降りかかるこれからの未来のことだ。私の見解だと、不気味な城というのはおそらく魔王の城。お前たちを包む大きな影は、魔王のことだと思う」
「魔王……!」
「お前の持つ予知夢は、必ず起こる出来事だ。ということは、将来必ず魔王の城にたどり着くということだ。だから、怖れるな。未来が確定しているのなら、今から対策を考えればいいのだから」
 フィオナさんの言葉は、不思議と説得力があった。ナギも心なしか安堵した顔を見せた。
「ねえ、そのナギちんが見たっていう、火山に関する情報が載ってる本ってどこにあるの?」
 すると、ちょうどタイミングを見計らっていたのか、シーラが口を挟む。
「ああ。今その本のことを考えていたよ。シーラ君、あそこにある『世界の海と火山』と書いてある本を取って来てくれないか?」
「りょーかい♪」
 シーラをは早速本棚へと向かうと、すぐに目的の本を取り出した。
 一方のフィオナさんも別の本棚の前に立ち、 とある本を手にすると、パラパラとページを開いた。覗いてみると、昨日とは違い、今度は私にも読める字で何か書いてあった。
「ナギ、君が見た火山というのは、どんな様子だった?」
 突然のフィオナさんの問いに、ナギはうーんと唸りながら答える。
「あんまりはっきりとは覚えてねえけど、ユウリがいた火山以外にも、あちこちの山で噴火してたな。そうだ、確か山の向こうに、海が見えてた気がする」
「複数の火山と海……、となれば、あそこしかないな。シーラ君、282ページを開いてくれ」
「はーい♪」
 シーラはフィオナさんに言われるがままにパラパラとページをめくり、とある場所で手を止めた。
「……ネクロゴンド火山帯って書いてあるけど」
『ネクロゴンド火山帯!?』
 シーラの一言に、私とユウリの声が重なる。
「心当たりがあるのかい?」
「ああ。以前船で魔王城の近くまで行ったことがある。あのときは火山が噴火してて近づくことできなかったんだ」
 そうだ。確かあれはナギたちと別れた後のこと。船で魔王の城の近くまで行こうとした時、火山に囲まれて着岸することが出来なかったのだ。
 それで、船で魔王の城に向かうことは不可能だと判断し、6つのオーブを探すことになったのだ。
 ユウリの説明を聞いたフィオナさんは、顎に手をやり考えこんだ。そして、さきほど彼女が広げたページに再び目を落とす。
「この本によれば、『精霊神より生み落されし火と大地を司る鋼の力、ネクロゴンドに眠らん』と書いてある。おそらくその『鋼の力』というのは、剣のことじゃないだろうか」
『!!』
「『ネクロゴンドに眠らん』というのは、もともとその鋼の力という存在がそこにあったからだろう。そこに剣を突き刺すっていうのは、鋼の力……つまり剣を元の場所に戻すって意味なんじゃないかな?」
「……一理あるな」
 フィオナさんの考察に、ユウリは深く考えたあとうなずいた。
「その続きは見てないんだよな、バカザル」
「ああ。場面が切り替わって、でっかい城が見えた。……ていうかいい加減バカザルっていうのやめろ陰険勇者」
「えっとつまりナギちんの夢では、ネクロゴンドの一番大きな火山の前でユウリちゃんがその剣を地面に突き刺したら、火山が噴火したってことだよね。そのあと魔王城っぽいシーンが出てきたってことは、そのユウリちゃんの行動で魔王城に行けたってこと?」
「そう考えるのが妥当だな。それとユウリ君、あの棚の上から二段目にある『古の武具の歴史』を取ってくれないか」
 ユウリは無言でうなずくと、すぐに本を取りに行った。
「確か601ページだったかな。精霊神ルビスに仕える眷属について書かれていたはずだよ」
 早速ページを開くと、文字と挿絵が両方載っていた。挿絵の方には、見たことのない剣の絵が描かれている。
「これは……」
「ナギ、君が見たのはこんな形の剣だったかい?」
 フィオナさんがページを見せると、ナギは黙り込んだままじっとその絵を食い入るように眺めている。
「……ああ。間違いない。ユウリが持ってたのはこの剣だった」
「そうか。なら話は早い。この剣は、ユウリ君が持っている稲妻の剣と同じ、太古の昔から存在していると言われている。その名も『ガイアの剣』だ」
「ガイアの剣?」
 全く聞き慣れない名前に、私だけでなくナギやシーラも首を傾げる。
「この本によると、精霊神ルビスにより生み出されたガイアの剣は、火と大地を司り、世界中の火山を生み出したともいわれる」
「さっきから随分と壮大な話になってるな……」
 ナギの言うとおり、精霊神だの火山を生み出しただの、どんどんスケールが大きくなって、私などが口を挟める余地すらない。そもそも剣が火山を生み出すって、いったいどういう理屈なんだろう?
「でもその説明だと、そのガイアの剣って火山を生み出すんでしょ? 火山なんか生み出しちゃったら魔王の城になんて行けないんじゃない?」
「確かにシーラくんの言うとおりだ。だが、逆に火山ができることで地形が変わることもある。それによって道が開ける可能性も、なくはないのかもしれない」
 フィオナさんの見解は妙に説得力があった。けどやっぱり、そんなおとぎ話みたいなことが実際に起こりうるのか、にわかには信じ難かった。
「てことは、魔王の城に行くならオーブじゃなくても、そのガイアの剣ってのを見つければいいんじゃねえの? だってネクロゴンド山脈って、魔王の城から近いんだろ?」
 ナギの考えに、一瞬ユウリは驚いた様子を見せたが、すぐに表情を戻した。
「バカザルにしては良く気付いたな。だが、魔王軍はオーブを集めていたサイモンたちをわざわざ襲ったんだ。ラーミアが魔王の城に行くのに必要なのは間違いない」
「あー、そっか……」
 ということは、結局オーブ探しは変わらないという訳だ。さらに今度は、ガイアの剣も探さなければならない。
「ねえ、誰かこの島にガイアの剣のことを知ってる人っていないのかな?」
「この島にかい?」
 私の疑問に、微妙な表情をするフィオナさん。
「どうだろうね。私以上に知識のある人間は、この島にはいないと思うが。それに、島の人たちは他国と交流することもまずないし、他国の人間が知ってる知識でも、ここの人たちにとっては聞いたこともないようなことばかりかもしれない」
「そうですか……」
「けど、確かこの島に一人だけ、他国から島流しに遭ってここにやってきた人がいたな」
「ホントですか!?」
 思いがけない言葉に、身を乗り出す私。
「確かこの島で一番年配のセグワイアさんだったかな。昨夜の飲み会にも来てたはずだよ」
「ならそのセグワイアって奴のところに行って、ガイアの剣のことを聞いてみようぜ」
 早速ナギもその提案に賛成する。しかしそれにユウリが待ったをかけた。
「そうは言うが、そいつは元犯罪者なんだろ? そんな奴に尋ねても大丈夫なのか?」
「まあ、確かに彼は元罪人だったが、夕べの飲み会でもわかるとおり、今さら悪事を働こうなんて気は起こらないだろう。それにこの島に来た時点で、罪は十分償っている。そんな彼を罪人と呼ぶのは些か見当違いだと思わないか?」
「……つまり気にするなということか」
 フィオナさんの解答に、ユウリは完全に得心してはいない表情で返した。
 そんな彼に対して、私は夕べの飲み会を思い起こす。みんなそれぞれお酒を酌み交わし、食事をしながら会話を楽しんでいた。誰一人問題を起こすこともなく、一夜を過ごしていた。それは一緒にいたユウリもわかっているはずだ。
「フィオナさんの言うとおり、あんまり心配しなくてもいいと思うけどなぁ」
 ぼそりと呟いた私の言葉に、ユウリは小馬鹿にしたような目で睨み付ける。
「だからお前はいつまで経っても能天気なんだ! 万が一のことがあったらどうする!!?」
「だとしてもユウリに敵う人なんていないでしょ?」
「……まあ、それはそうだが」
 なんかあっさりと納得してしまった。まあその方が話が早くて助かるけど。
「なら話だけでも聞いてみようよ。島だってそんなに広くないんだから、そんなに時間はかからないんじゃない?」
「ねえ☆ だったら聞き込みのついでにそこの砂浜に行って泳ごうよ!!」
「待ってシーラ!! もうそれただの観光だから!!」
 結局私たちは泳ぐとはいかないまでも、シーラの提案とユウリの妥協により海岸で水遊びを楽しむことになり、その後セグワイアさんに話を聞くことにしたのだった。






※公式の稲妻の剣はまあまあ派手な感じですが、この話に出てくる稲妻の剣は割と地味めな見た目です。この世界では鞘に収まる程度の形で進めていきます。

 
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