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黒崎一護の異世界物語

作者:幻想花札
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◇説明と現在と契約

「で、君は何者なの?」

胸ぐらを離してもらい、息を吸って落ち着いた時に改めて忍が訊いた。

一護は頭をポリポリと掻きながらあ~~と唸る。

「突拍子もないことなんだが…構わねぇか?」

「突拍子も何もあの化物を見たんだから今更でしょ」

「そういうもんか?」

そう言うと一護は四人に背を向けて外に歩き出す。

訳を話すと言って外に出ていこうとする一護に一瞬呆けるが、直ぐに止めようとする。

「ちょっ!!君!!」

「安心しろ。ちょと外の体を持ってくるだけだ」

「体……?」

一護は取り敢えず安全な所に隠していた自分の肉体を持ち上げる。

どういった理由かなのか判らないが子供になってしまった体を肩に担いで月村邸に入る。

忍達は自分を肩に担いだ一護に顎を外すかのように開けて唖然としたが、米神を押さえながら一護に問い質す。

「えと………君?何なのかな、その………君にそっくりな君は」

「ん?あぁそっか。いまの俺は霊体でな?で、こっちが俺の肉体だ」

一護は倒れてあった椅子を起こしてそこに自分の肉体を座らせ、一体化するように肉体と重なる。

その光景を夢を見ているかのように眺める四人は、黒い和服を着た少年の姿が消え、担がれていたそっくりな体が動き出したことにビックリして飛び上がる。

「ふぅ~~で?ここで説明すんのか?」

荒れ果てた庭で説明するには流石によろしくない。

忍はノエルに紅茶の用意をさせ、ファリンには一護の案内を任せて自分とすずかは服を着替える為に一度部屋に戻る。









SIDE:一護

案内された豪邸のリビングにある椅子に座った一護はこの世界の不自然さに疑問を抱いていた。

「(何かおかしい………俺と一緒に藍染の野郎もあの空間に吸い込まれた筈だ。なのにあの空間で一度も会うことは無かった。それにここもおかしい………何で霊子がこんなに少ないんだ?)」

そう。虚や死神を構成する霊子が空座町に比べて半分近くまで少ないのだ。故にあっちで戦うより弱くなる可能性が高い。

「お待たせ」

忍を筆頭に紅茶を持ったノエルとファリン。すずかが続いてそれぞれ一護と対面側に座る。

出された高級品の紅茶に驚く一護だが、取り敢えず紅茶を置いてさて……と忍に眼を向ける。

「自己紹介から始めようか……俺の名前は“黒崎 一護”」

「私は“月村 忍”」

「わたしは“月村 すずか”だよ」

「ノエルと申します」

「ファリンとです。」

自己紹介を終えた五人。

「で、まず何から聞きたい?」

「そうね………ならまずあの化物からかしらね。どうして兵器が効かなかったのかしら」

「あいつらは虚(ホロウ)と俺達は呼んでいる」

「虚………ですか?」

ファリンの言葉に頷く一護。

「俗に悪霊と呼ばれている霊でな。整(プラス)の肉体が負(マイナス)に落ちることで生まれる存在だ」

「悪霊……つまりは幽霊なの?」

「まぁな」

「流石に信じられないわよ。いきなり幽霊だなんて」

「んじゃ他に納得出来る正体があるか?兵器が一切通用しない存在に心当たりでもあるのか?」

「別にそういう訳じゃないのだけど………だったら一護君も幽霊なの?悪霊を斬っていたし」

「いや違う。俺はああいった虚を刈る死神代行だ」

死神………その言葉に動きを止める四人。

「死………神?」

「あぁ」

「死神というと………あの魂を刈る?」

死神と言う言葉に涙目になるすずか。意味が違うと解っているのにすずかの涙を見て一護は口を引きつかせる。

「そんな偏った意味での死神じゃねぇよ。死神の役目は死んだ霊魂をあの世……『尸魂界(ソウルソサエティ)』に送るのが仕事だ」

「あの世って本当にあったのね………ん?君は死神なの?代行って言ってたけど」

「俺は偶々死神になったからな。他の奴等見てぇな感じじゃねぇ」

「ふぅ~ん。」

「で、死神は霊魂を管理する管理者なんだ」

「どうやって管理しているの?霊魂ってことだから実体がないのに」

「あの世と現世を繋いで魂をあの世に送るんだ。俺の仲間は死神のことを現世とあの世の均衡を保つ調整者(バランサー)とも言ってたな。」

「均衡?崩れたらどうなるの?」

「俺にも詳しいことは分かんねぇんだが……たしか、現世とあの世が入り混じった文字通りの混沌とした世界になるって言ってたな。」

「混沌…途方も無い話なんだね………」

年齢の割には賢いすずか。だが其処で忍は疑問に思った。

「ねぇ一護君」

「ん?何だ忍さん」

「君は刀で虚を斬っていたわよね?殺したんじゃないの」

「あぁ。俺達死神の持つ刀……斬魄刀は虚を斬り伏せることで、虚となってからの罪を濯ぎ、その魂を元の人間のものへと戻して尸魂界へと送ることができるんだ。だから倒しちまえば問題ない」

「死神は霊魂の管理だけが仕事じゃないのでしょうか?」

ファリンが一護に問い掛ける。そう、死神が霊魂を管理するなら虚を倒すのはまた違う職業の方では無いのか?

「死神のもう一つの仕事ってのが虚を倒し昇華させることだ。死神の他に滅却師という奴もいるが今は関係ねぇ」

「………君は何処からどう見ても子供……よね?君も死神として虚と戦っているの?」

妹であるすずかと同い年くらいの少年が死ぬかもしれない戦場にいるのだ。心配するのも仕方がない。

「あぁ………その……な?信じられねぇかも知れねぇが………その……」

さっきまでとは違い、途切れ途切れに、言葉を詰まらせる。

そんな一護に首を傾げるすずか。

「どうしたの?一護……さん」

「いや……な?驚かねぇでくれよ?みんな」

「そんなに信じられない事なのでしょうか?黒崎様」
ノエルが忍と一護とすずかのカップに新たな紅茶を注ぎながら尋ねる。

「まぁ……な。その……だな?俺は……実は……こ、高校生……なんだわ」

「「「「…………………………」」」」

四人は一護が言った言葉に口を閉ざし、眉を潜める。

今この子は何て言った?高校生?誰が?一護君?

次に発されるであろう行為に一護は耳を塞ぐ。

「「「「ええぇぇぇぇぇ!!!!!!」」」」

四人の驚きの咆哮が月村邸に響き渡る。

「ちょ、ちょっと待って!高校生!?誰が?一護君!!」

忍の脳がパニックを起こす。

「……………!?」

ノエルも驚きのあまりに紅茶の入ったポットを落としてしまった。

「え?え?」

すずかは自分と一護を見比べ頻りに首を傾げる。

「………プシュ~~」

あまりの衝撃的事実にファリンの脳がオーバーヒートを起こす。

「まぁ信じられねぇのも判るさ。何せ俺が一番信じられねぇからな。いきなり空間に亀裂が走って呑み込まれ、その空間から脱け出したらここだったんだ。しかもどういう訳か縮んじまってやがるしな」

自分の体を見て溜め息を吐く一護。

そんな意気消沈な一護の態度にそれが事実だと理解した忍は紅茶を一口飲む。

「一護………君?さん?」

自分より年上な一護に疑問をぶつける忍。そんなどうでもいいことに一護は手を振る。

「別にどっちでもいいよ。今の俺は子供だからな」

「そう。それじゃあ一護君。君は此れからどうするつもりなの?」

「元居た町に帰ろうと思う。此処から●●県の空座町にはどういったらいいんだ?」

「空座町?ノエル」

「はい」

忍がノエルに言うとノエルはその場から動かずに止まる。

「?」

そんなノエルの行動に首を傾げる一護。それに気付いた忍は目を細めて何かを考える。

「(一護君なら………すずかも喜ぶかしら?私達の正体を知っても軽蔑しないわよね)」

まだ会って少しだが、種族が違うからと言って軽蔑するような人間には一護は見えないのだ。

忍は思いきって打ち明けて見る。

「不思議に思ってるの一護君。いきなり動かずに考えているノエルに」

「まぁ……な。俺達死神は虚とかには敏感なんだ。ノエルからは霊圧が感じねぇんだよ。まるで」

「まるで機械のような………かしら?」

「お姉ちゃん!?」

「お嬢様!?」

忍の言葉に悲鳴染みた声をあげるすずかとファリン。

ノエルも良く見なければ分からなかったが一瞬だけ動いた。

何に怖がっているのか理解出来ない一護。

「ふーん」

「ふーんって……他に何か言うことはないの?」

流石の忍も一護のこの態度は予測出来なかった。予想していたのは驚いた顔だったのだ。

「いや別に?んじゃあ忍やすずかも何かあんのか?」

「え………?」

一護のいきなりの言葉。すずかは何を言われたのか判らなかった。

忍やすずかにも何かある?

まさか自分達が人間じゃ無いことに気付いた?すずかが軽蔑される未来を思い浮かべて恐怖に呑まれる。

もし………もし拒絶されたら。化物って蔑まれたら。

考えただけで体が震える。

「どうしてそう思うの?」

忍は冷静に返す。

「いや、魂魄が普通の人間とは違うからな?パッと見は人間と同じなんだが、良く見たら少しだけ虚に近いからな」

「………一護君」

忍は秘密を話そうと背筋を伸ばす。一護も忍のそんな空気を感じて姿勢を正す………前にノエルが口を開く。

「その………一護様?忍お嬢様?」

言い難いのか、言葉を選びながら話をする。

「どうしたの?」

「その………誠に言いづらいのですが……●●県を調べました所、空座町という町は………存在しませんでした」

ノエルのその言葉に一護は思っていた事が真実だと気付いて頭を抱えた。

「やっぱり………か」

「へ?えと……いったいどういうこと?」

「この世界は俺がいた世界じゃないって意味だ」

一護の言葉に合点いったと頷く忍。そして驚きに目を見開く。

「つまり俺は並行世界から来たってことか」

帰られないという事実に頭を抱えた一護。

元居た場所に帰れない。そんな事実に言葉が出ない四人。

つまり誰も一護は頼れないということだ。補導されようものなら戸籍が存在しないのだ。どうなるか判ったものじゃない。

「はぁ~~まぁ終わっちまった事だ。今更グダグダ言っても始まんねぇか。で?忍が言おうとしてた事は何なんだ?」

ビクッとすずかが震える。ノエルは一護に一歩近付き、ファリンはそんなすずかの手を握る。

「そうね………隠さず言うわね?私とすずかは『夜の一族』と呼ばれる吸血鬼の人間なの」

言ってしまった。もう後戻り出来ない。でも、受け入れてくれる。忍は心のどこかでそう確信していた。

「吸血鬼?って事は……血を吸った相手を同族何かにも出来んのか?」

一護の疑問に首を振る忍。

一護はへぇと驚いた声を出した。

たったそれだけなのだ。拒絶するのでもなく、軽蔑するのでもなく、ただただ純粋に驚いた一護。

そんな一護に忍は息を吐いた。

ノエルもファリンも今まで見たことも無い行動に驚きを隠せない様子。

すずかは震えた唇を開いた。

「………して」

「ん?」

「どうして……驚かないの?」

信じられないと目を見開くすずか。罵倒されると思っていたのだから一番信じられないようだ。

「まぁ吸血鬼より信じられねぇだろ?死神なんて。それに?すずかはすずかだろ?」

「血を吸う……化物……何だよ?」

「危険性だけならすずかより俺のほうが危険だぞ?」

それは一護の本心である。破面や自身の虚化。殺ろうと思えば一瞬ですずかを殺せるのだ。

「怖く………ないの?」

「全然。俺から見たら普通の女の子にしか見えねぇよ」

そんな、一護の言葉に恐怖で固まっていたすずかの心がほどけた。

すずかは一護の胸に飛び込んだ。

泣きながら震えるすずかを、妹の遊子と夏梨をあやすように受け止めて頭を撫でる。

そんな二人に玩具を見つけた子供のような表情を向ける忍。

「ねぇ?一護君」

「あん?」

「私達夜の一族の秘密を知った者にはある契約をして貰うのが決まりなのよ」

「契約?て、事わ何か?何か血でも飲ませんのか?」


「それもあるけど契約は簡単よ。私達の事を忘れるか、それとも忘れずに一緒いいるか。たったの二つよ」

「忘れる?どうやって」

「私達夜の一族には相手の記憶を少しながら操る力があるの。だから私達の真実の部分だけを消去するの」

「ふ〜ん。答えなんて決まってんだろうが。別にあんたらが吸血鬼だろうが狼女だろうが宇宙人だろうが知らねぇよ。俺は忘れねぇ、契約する」

「本当にいいの?私達は人間じゃないのよ?貴方の血を吸って人形にするかも知れないわよ?」

「そこまで念押しにすんだ。忍や皆が良い奴だってのは理解出来てるよ」

「わかったわ。それじゃ本当にこれで最後。黒崎一護君………絶対私達の秘密を誰にも話さないかしら?」

「あぁ。喩え人質にされようが何されようが絶対誰にも話さねぇ」

真剣な光を灯す一護の瞳を見て忍は微笑んだ。

この子なら信じられる。絶対に裏切らない。

忍は笑みを浮かべながら天井を……否、天井のさらに上の大空を見上げる。

どうか。こんな日がずっと続きますように。
 
 

 
後書き
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