愛する木

　妻に難しい顔でこう言った。
「僕は不安なんだ」
「お義兄さんのことは」
「兄さんは一途でね」
　その気質はというのだ。
「そして必死だよ、けれどね」
「どちらも過ぎるわね」
「不器用でね。そんな人だから」
「糸杉のことも」
「大丈夫かなってね」　
　その様にというのだ。
「思いもするよ」
「それはあるわね」　
　妻も彼を知っているからこそ述べた。
「お義兄さんは」
「だから心配なんだ」
「そうした人だから」
「糸杉にもね」
「心を入れ過ぎていて」
「どうなるかってね」
「そうね、何もなかったらいいけれど」
　妻は心配そうに述べた。
「折角最近ね」
「うん、兄さんはまだ知らないけれどね」
「絵が知られる様になってきて」
「これまでは全く売れなかったけれど」　
　かつ無名でとだ、テオも言った。
「それでもね」
「最近はね」
「知られる様になってきたし」
「絵も売れるわね」
「そんな雰囲気だから」
「ここはね」
「確かでいて欲しいよ」
　こう言うのだった。
「兄さんのこれまでの苦労が報われるし」
「その時が来るから」
「だからね」
　それでというのだ。
「ここは」
「ええ、お義兄さんはね」
「あの木から離れて」
　そしてというのだ。
「他の絵をね」
「描いて欲しいわね」
「そう思うよ」
　心から言った。
「本当にね」
「そうよね」
「そう思うよ」
　絵を見ながら心配そうに言った、彼は心から何もないことを願った。だが。
　彼の危惧は当たった、兄は次第に奇行が目立ってだった。
「ゴーガンさんと喧嘩して」
「ええ、その後でね」
　夫婦で自宅で話した。
「まさか耳を切り落とすなんて」
「自分でね」
「お義兄さん大丈夫かしら」
「今は治療を受けているけれど」　
　精神病院に入院してである。
「もうこれで不吉なね」
「糸杉の木の絵は描いて欲しくないのね」
「兎に角何でも描くんだよ」
　ゴッホという画家はというのだ。
「だからね」
「糸杉以外の絵も沢山描いてるし」
「もうそちらのね」
「糸杉以外の絵をね」
「描いて欲しいよ」
「そうよね」
　妻は夫の言葉に頷いた、テオは入院した兄のことを今も心配していた、そのうえで退院した兄を迎えたが。
　夫婦に子供が生まれると彼等は子供に自分と同じ名前を付けたのを見てだった。