ウルトラセブン 悪夢の7楽譜
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帰ってきた男
ここは多くのウルトラマン達の故郷、M78星雲、通称光の国。ここでは、宇宙の平和と秩序を守るため、多くのウルトラ戦士が、日夜待機し様々な活動を行っている。ウルトラマン達を他惑星へ派遣する組織、宇宙警備隊本部では、隊長であるゾフィーが近年発生している事件の資料をまとめながら、他惑星に異常が発生していないかチェックを行っていた。その時、
「…っむ!これは!」
ゾフィーはとある惑星に異常なエネルギー反応が起きていることに気がつく。
「セブン、来てくれないか?」
ゾフィーは宇宙警備隊の中でも自身も席を置く幹部組織とも呼ぶべき精鋭、ウルトラ兄弟のNo.3、ウルトラセブンを呼び出す。
「ゾフィー、一体何があった?」
セブンはすぐに駆け寄る。
「これを見てほしい。」
ゾフィーはモニターで先程の画面をセブンに見せる。
「これは、地球?」
セブンは驚く。その異常な反応を見せていた惑星とは、我々の住む地球で発生していたのだ。
「そうだ。今までに発生した事件と照らし合わせたが、該当する事例は見つからなかった。そこで、セブンには直接現地へ向かって調査をしてほしい。」
ゾフィーはセブンに調査の依頼をする。
「ですが、今はアブソリューティアンの襲撃に備える必要があります。それに、消えたウルトラマンの歴史についても、調査が必要なはずです。」
セブンの意見も最もである。光の国は、敵対惑星からの襲撃を受けて間もない状態で、それに重なるようにアーカイブの喪失という二つの事件の解決を要されていた。
「アブソリューティアンについては、ギャラクシーレスキューフォースの協力も含め、手は足りそうだ。それに、我々ウルトラ兄弟の歴史については、タロウとメビウスが率先して回収してくれている。事件の方は任せてほしい。何より、我々ウルトラマンの中で、地球と最も関わりの深いものはセブンをおいて他にはいないと判断したからだ。」
「たしかに、何度か地球で活動はしていますが。」
「だからこそ、頼みたいんだ。」
ゾフィーは念を押すように言う。
「ゾフィーがそう言うなら、その任務、こちらで引き受けよう。」
セブンはすぐに地球へ向かった。
「頼むぞ、セブン…」
ゾフィーはセブンの身を案じた。
『─地球は、まだ狙われている。─』
ここはとある高校の文芸部。部員である少女の書いた作品を読んでいた部員達はその文字列を見るとページをめくる指を止め、パソコンへ入力する前のその原稿を机に投げ捨てた。
「ちょっと、何するの!」
現行を書いた少女、キリヤマ マユカは部員達に食って掛かる。
「何がまだ狙われている、だよ。いまどき古臭いんだよ。」
部長と思われる男子生徒は鼻で笑うようにマユカに言った。
「そうそう、今は強い女性を描くのが主流なんだから、そんなレトロなSFなんて流行らないんだよ。」
「てか、今時ネットで投稿の一つもやってないの、マユカくらいじゃね?」
部員達は部長に続くようにマユカに言う。
「古臭い?流行らない?知らないわよ、そんなの!私は人のご機嫌伺いのために書いていないの。私は、私の書きたい物語を書くの。それに、たとえ古臭かったとしても、読んでくれる人は必ずいるわ!」
マユカは荷物をまとめて部室から出ていく。
「あんなのでムキになるなんて、ばっかみたい。」
「ほんと、才能ないくせに。」
出ていくマユカを見て部員達はクスクスと笑っていた。
学校を出て、マユカは繁華街を苛つくように歩いていた。
(確かに、惑星間戦争なんて、数十年前に下火になった。宇宙人からの侵略なんて、物語の絵空事になった。でも、この地球という小さな惑星の中でも戦争が絶えることなく行われている。それなら、広い宇宙の中でもきっとどこかで惑星間戦争は続いているはず。そういう星にとって、武力の乏しい地球は都合のいい餌にしかならない。そのためにも、誰かが語り継いでいかないと。お祖父ちゃんたちの生きていた時代の志を。)
マユカは強い意志を固め、道を歩く。すると、
「お嬢ちゃん、今暇かい?」
三十代半ばと思われる男性がマユカに話しかける。
「忙しいです。」
マユカは鬱陶しそうに言い返す。
「もしかして彼氏とデート?それなら、俺の方が彼氏君より楽しませてあげられるよ?」
男はそれでもマユカに近づく。
「結構です!間に合っています!」
マユカは苛立った口調で言い返す。すると、
「ちっ、人が優しく話しかけてやりぁいい気になりやがって。そんなに痛い目に遭いたいならやってやるよ!」
男はマユカの髪を掴んで引っ張る。
「ちょっと!離して!」
マユカは必死に抵抗する。そんなマユカを見ても、街ゆく人は我関せずを貫いていた。
「誰か助けて!」
マユカの必死の叫びも虚しく、男によってマユカは裏路地に連れて行かれる。しかし、
「坊や、ちょいと悪戯が過ぎるんじゃないか?」
そこには七十代にしては背筋がピンとした男性がいた。
「誰だ、てめえ!」
男は子供扱いされたことに苛立ち、男性に殴りかかる。だが、男性は臆することなく男の拳を掴み、関節をひねって身動きを封じる。
「早く逃げるんだ。なんだったら、警察を呼んでもいい。」
「ありがとうございます!」
男性に言われるまま、マユカは逃げてゆく。
「お前さんも、こんな馬鹿な真似はやめるんだ。」
「ちっ、わーったよ!」
男は、男性の関節技から開放され、立ち去ってゆく。それを見るなり、
「お嬢さん、もう大丈夫だ。安心するといい。」
男性は気配を感じ取り、近くで隠れていたマユカに言い、マユカは男性に近づく。
「さっきは助けてくれてありがとうございます。私、キリヤマ マユカって言います。」
マユカは頭を下げる。
「キリヤマ…随分と懐かしい響きだ。僕はモロボシ ダンだ。」
そう、男性の正体はウルトラセブンが地球で活動する際に変身する姿である、モロボシ ダンだったのだ。
「モロボシ ダン…何処かで聞き覚えが…」
マユカはダンの名前に聞き覚えがあり、考え込む。
「…そうか!モロボシさん、少し待っていてもらえますか?」
マユカはスマホを取り出し、どこかへ電話を始める。
「…うん、そう。それで、お祖父ちゃんに会ってもらいたい人が…そんなわけないでしょ!お祖父ちゃんとあんまり変わんない年齢の人で…わかった!ありがとう!」
マユカは通話を終わらせる。
「モロボシさん、今からお祖父ちゃんに会ってもらえませんか?お祖父ちゃんも、私を助けたお礼がしたいって。」
マユカはダンに質問する。
「大丈夫だよ。行こうか。」
ダンはマユカに連れられてどんどん道を進み、やがて山道へたどり着く。
「ここであっているのか?」
ダンは疑問を口にする。
「もう少しです。ほら、あそこの。」
マユカが指を指した先には、透明なアクリルプレートで作られたような家というよりは牢獄と呼ぶべき空間があり、その中に一人の老父がいた。
「なんだ、あれは?」
ダンが疑問に思っていると、
「こっちです。」
マユカが案内を続け、入り口を開けて家へ入る。
「お祖父ちゃん、久しぶり。」
マユカはその老父、マユカの祖父に挨拶をする。
「久しぶりだな。それで、彼がマユカを守ってくれた方かな?」
マユカの祖父は穏やかな口調でマユカに尋ねる。
「うん。モロボシ ダンさんっていう方。」
マユカの言葉を聞いた途端、マユカの祖父の目つきは鋭くなる。
「ダンだと!?すまないが、すぐにここから立ち去ってくれ!」
マユカの祖父はダンを睨みながら力強く言った。
「どうしたのお祖父ちゃん!」
突然の事態にマユカは驚く。
「詳しくは話せない。だが、ダンとは接触してはいけないんだ!ダン、深くは聞かないでくれ。」
「…わかりました。話せるようになったら、いつでも連絡をください。」
マユカの祖父はダンに頼むように言い、ダンは納得して家から出ていった。
「モロボシさん、お祖父ちゃんと何があったんですか?」
同じく家を出たマユカはダンに尋ねる。
「君は、ウルトラ警備隊というものを知っているかい?」
ダンの言葉を聞き、マユカはハッとする。
「それって、お祖父ちゃんが24年前まで所属していたっていう…もしかして、モロボシさんもウルトラ警備隊の?」
「そうだ、おそらく、それが関係しているのだろう。」
ダンとマユカが話していると、マユカのスマホの電源が突然消えてしまう。
「えっ!なにこれ!今までこんなことなかったのに!」
マユカはパニック状態に陥るが、この事態はマユカのスマホにだけ起きた現象ではなかった。なんと、世界各地の電子機器全てが、一斉に稼働を停止していたのだ。
「一体何が起きているんだ!」
会議中であった国際平和機構の会議室でも、モニターを含めた電子機器が機能を停止していたため、会議どころの騒ぎではなくなっていた。すると、ありとあらゆるモニター付きの電子機器の電源が復帰し、コイル状の導線で体を巻いたような姿の怪人がモニターに映る。
『どうだい地球人、お前達の活用している、社会を運用するシステムが一斉停止する恐怖は?』
怪人は低い男性の声で話す。
「君がこんな騒動を起こしたのか?」
議長は怪人に尋ねる。
『如何にも。俺はジスタード星からやって来た…君達の言語で当てはめるとするなら、ジスタード星人といったところか。』
その怪人、ジスタード星人は名乗る。
「一体、何が目的だ?」
『今、この星の電子機器の使用権限は俺が握っている。無論、世界各地の戦略核の発射プログラムもだ。』
「何が言いたい?」
『簡単な話さ。この地球を我らジスタード星の占領下に置かせろ。そうすれば、命くらいは奪わないでやる。まぁ、すぐにその命を捨てたくなるような扱いをしてやるがな。』
議長の問いにジスタード星人は笑いながら答える。
「何故こんな平和を乱すことをするんだ!」
『お前達の中でも、極東地域の格言でこういうものがあるだろう、“いつまでも、あると思うな親と金”。まともな武装を持っていない今こそが、侵略する好機と踏んだのさ。』
「こんなことをして何になる!」
『俺達の支配する惑星が増えるのは実に愉快だ。今から48時間だけ時間を与えてやる。俺達の奴隷になると言うのであれば、家畜兼工場用の機械として生かしてやる。断るならば、戦略核のプログラムを起動させて滅ぼすだけだ。自称賢い地球人の諸君、良い答えを待っている。』
ジスタード星人は要件を伝えるとモニターの接続を遮断した。
「なんなのこいつ!人んちに勝手にやってきて迷惑かけただけじゃなく、奴隷にならないなら殺すって!」
マユカは怒りを顕にする。
「落ち着くんだ。」
ダンは宥めようとする。
「モロボシさんはどうして落ち着いていられるんですか!」
「僕がウルトラ警備隊にいた頃は、この手の奴らはゴマンといた。まずは相手の出方を見るほうがいい。」
「そっか、ダンさんは経験者だったんですよね。」
ダンの話を聞き、マユカは落ち着きを取り戻す。
「君は御両親を心配させないように帰るといい。僕はこの事件を少し調べてみるよ。」
ダンはマユカを家に帰し、一人行動を開始した。
(さっきの映像だけでジスタード星人の居場所は把握できた。後は計画を阻止しないと、人類の危機だ!)
ダンは街から離れた鉄塔にたどり着く。
「ジスタード星人、隠れていることはわかっている!姿を現すんだ!」
ダンの力強い言葉を聞き、ジスタード星人は拍手をしながら姿を見せる。
「ほう、俺の居場所を当ててみせるとは、地球人にしては珍しい。」
「こんな馬鹿げたことはもうやめるんだ!」
「勇敢な地球人よ、食料を確保するために狩りをする。どんな生物だってやっていることではないか。我々は、電気が食料だっただけの話さ。」
「ならどうして、わざわざ奪うなんて発想にたどり着くんだ!」
「楽だからに決まってんだろ!必死に命乞いをする虫けら共を笑いながら優雅に食事を取る。至上の喜びだと思わないか?」
「それは違う!食事とは、自身の命を繋ぐことへの感謝を込めることだ。」
「何も違わないさ。人間達だって、狩った獲物の大きさを張り合っているではないか。我々は食料を生み出す惑星を狩猟し、食料を生産させることで強さを自慢しあっているだけだ。」
「僕は知っている、互いに支え合う人間の優しさを。どんな困難にもあきらめない人間の底力を!」
「はぁ、くだらないな。折角俺の居場所を突き止めた知恵を評して、上級奴隷くらいにはしてやろうと思っていたが、消えてもらう!」
ジスタード星人は電気エネルギーの光球を放つ。ダンは光球を咄嗟に回避する。そして、ウルトラ戦士の姿へ戻るためのアイテムであるウルトラアイを装着する。
「デュワッ!」
ウルトラアイから放たれるエネルギーによって、ダンの姿は一瞬のうちにウルトラセブンへと変わる。
「げっ!ウルトラセブンだと!ウルトラマン達が人手不足の今が侵略のチャンスだと思っていたのに、こうなったら、実力行使だ!」
ジスタード星人は巨大化し、鉄塔を引き千切る。それを見たセブンも巨大化し、拳を構える。
「デュー!」
ジスタード星人は引き千切った鉄塔をアイスピックのように持ってセブンに突き刺そうとするが、攻撃をセブンは躱してゆく。
「デュー!」
攻撃が当たらないことに苛ついたジスタード星人は光球を辺り一帯に放つ。
「デュワッ!」
それを見たセブンは光球が地面に着弾しないように額のビームランプから放たれるウルトラビームで光球を破壊する。そして、
「デュワッ!」
腕をL字に組んで放つ必殺光線、ワイドショットを放ち、ジスタード星人は電波が乱れるようなエフェクトを発生させながら爆発していった。
翌日、セブンとジスタード星人の戦闘はニュースで取り上げられていた。
『まずはこちらの映像をご覧ください。私達に脅迫行為を行っていたジスタード星人が謎の赤い巨人によって撃退されている様子を撮した映像になります。この赤い巨人の正体ですが、1967年、1974年、そして1999年に出現し、怪獣、宇宙人の撃退を行っていたとされるウルトラセブンと呼ばれる宇宙人と同質のものであると思われ、有識者は同一人物であるか調査を進めております。』
ダンはビルの巨大モニターで映されている自身の戦闘の映像を見ている。すると、
「モロボシさん、ここに居たんですね。」
マユカが声を掛ける。
「マユカちゃんか。どうしたんだ?」
「お話したいことがあるんです。地球でのウルトラセブンのこと。それから、24年前に起きたウルトラ警備隊のことを。そして、現代での宇宙人からの侵略のことを。他でもない、ウルトラセブン自身に。」
「…それは!?」
マユカから言われた突然の内容に、ダンは驚くことしかできなかった。
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