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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ

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クリスマスイブイブストーリー①



クリスマスイブイブストーリー①

 

 12月23日(土) AM7時

 

 —— 龍園side ——

 

 

 

 ——ざっ、ざっ、ざっ。

 

「……寒ぃな」

 

 クリスマス直前の早朝。俺は1人で敷地内を歩いていた。

 

 真冬に加え、この学校は海に囲まれてるから海の潮風まで吹きつけてきやがる。

 

 おかげで顔の傷に少し染みてくる。

 

「はぁ、静かだな」 

 

 いつものような騒ぐ声も聞こえない。早朝だから当然だろうが、だからこそ俺はこの時間を狙って外に出ている。

 

(真っ昼間に出歩くわけにもいかねぇからな)

 

 

 昨日の一件の顛末はもう学校中に広まっているだろう。Cクラスが10人の人質を取り、沢田綱吉を潰しにかかったが、誰1人潰すこともなく沢田に敗北した……とな。

 

 これでもう俺はCクラスのリーダーではいられないだろう。暴君が許されるのは、その権力が意味を成している間だけだからな。

 

 俺が沢田に完敗したことで、前ほどの権力はもうない。

 

 ……だから退学してやろうと思ってたのによ。

 

『龍園、君は1年生の間は退学する事ができない』

 

 坂上から説明された沢田からの3つの和解条件。最初の2つだけでも正直かなりの痛手を受けるわけだが、俺にはこれが一番痛い。

 

 おまけに一年の間は沢田に協力を求められたら応じないといけねぇときたもんだ。

 

 普段の俺ならすぐにでもリベンジを企てるところだが、今回はその気すら起きねぇ。

 

 ……あれのせいだ。あの時、屋上で突きつけられた沢田の狂った覚悟のせいだ。あの沢田の言葉を聞いた途端、俺の中にこいつには勝てないという考えが張り付いて離れなくなってしまった。

 

 これまでどれほど実力差がある奴と戦ってきてもそんな考えは浮かぶことはなかったのによ。だが、その理由は少しだけ理解した。俺はきっとあいつに『恐怖』しちまったんだ。

 

 こいつと戦ってはいけない、勝つのは無理だ……と。

 

 おそらく今まで俺が下してきた奴らと同じような感情を俺も持ってしまったのだろうな。

 

「……2年に上がるまで、めんどくせぇ毎日が続くんだろうな。はぁ。やってられないぜ……お?」

 

 

 歩いている途中、道の端っこに休憩用のベンチを見つけた。すこしばかり休憩しようと俺はそのベンチに腰掛けることにした。

 

「……」

 

 ベンチから見える景色の中に、最近作られたコーヒーショップが見えた。

 

 こう寒いと温けぇコーヒーでも飲みたくなるが、生憎今の俺は0ポイント。どうせ買えねぇし、そもそもこの時間は閉まってるしな。

 

(……つうか、昨日まであんなとこにコーヒーショップなんてあったか?)

 

「……!」

 ——ガチャ。

 

 何気なくコーヒーショップの入り口を見ていると、入り口から誰かが出てきた。

 

 そいつは片手にコーヒーカップを持っており、コーヒーショップのロゴが入った制服を身につけている優男だった。

 

 ……店員か? 紫色の髪だが、変な髪型をしてやがる。あ、あれに似てんな。パイナップルの上部分。

 そして顔面レベルが異常に高い。きっと女には困らねぇだろうな。

 

(……! こっちに近づいてくる?)

 

 イケメンパイナップルは真っすぐにベンチに向かってくる。

 

(あいつがベンチに座るようならここを去るか)

 

 そう考えながらイケメンパイナップルの事を見ていると、そいつはベンチに近づくと迷わずに俺の目の前にきやがった。

 

(……なんだこいつ)

「……クフフ、これをどうぞ」

「……あ?」

 

 俺の目の前に立ったイケメンパイナップルは、なぜか片手に持ったコーヒーカップを俺に差し出してきた。

 

 

(……どういうつもりだ?)

「心配しなくとも、毒など入っていませんよ?」

「……新手の押し売りか? 悪いが、俺は今PPが0でな。買ってやる事ができねぇんだ。他を当たりな」

 

 コーヒーの押し売りかと思った俺はそう良い放った。これで消えるだろうと思ったが、イケメンパイナップルはなぜか微笑みながらさらにコーヒーカップを近づけてきた。

 

「クフフ。安心して下さい。これはサービスなので」

「あ? サービスだと?」

「ええ。最近オープンしたばかりのお店なのでね。お客さんを増やす為に地道に営業活動をしているのです」

「……こんな朝早くからか?」

「はい。朝の方が温かい飲み物が嬉しいかと思いましてね」

「店長直々に営業ねぇ。雇われかよ」

「ハハハ、いえ。僕はただのバイトですよ」

「は? バイトかよ」

 

 朝早くから働いてるから店長かと思ったぜ。

 

「はい。冬休み限定の。私も高校生ですし」

「! なんだ、てめぇもこの学校の生徒かよ」

「いえ、僕は黒曜高校の2年生です」

「!」

 

 黒曜高校……確か都内有数の不良の巣窟だったはずだ。付属の中学もあるが、どちらも相当な荒れ具合らしい。

 

(そんな高校に……こんな優男が通ってんのか? どう見ても優等生にしか見えねぇだろ。というか年上かよ)

 

「……いらねぇ。じゃあな」

「……」

 

 

 ——そう言って立ち去ろうとした時だった。

 

(気味悪りぃ奴だったぜ……あ?)

「……クフフ」

(? た、立てねぇ!)

 

 立ち上がろうとしても、なぜか足に力が入らなくなっていた。

 

(……なんで動かねぇんだよ!)

 

 何とか足を動かそうと頑張るが、一向に足は動かない。

 

 そして、その隙にイケメンパイナップルは俺が座っているベンチに座ってきやがった。

 

「クフフ、そう焦らずに。もう少しお話しましょうよ」

「……嫌だね。(くそっ! 動かねぇ!)」

「僕達は気が合うと思うんですよ」

「初対面でそんな事分かるわけねぇだろうが」

「合いますよ。……君と同じく沢田綱吉に一度敗れた者ですから」

「!」

 

 イケメンパイナップルの言葉は聞き流しつつ、謎の金縛り現象と戦っていたが、イケメンパイナップルの最後の一言で俺は思わず動きを止めてしまった。

 

(なんで沢田の名前が出てくんだ? それにこいつはこの学校の生徒じゃねぇはずだろ。……確か黒曜と言ってたはずだ。にしても沢田に敗れたとは、こんなナリして意外とちゃんと不良ってことなのか?)

 

「……あ?」

「クフフ、そして次は必ず沢田綱吉を潰すと決心している者でもありますね。……あなたもそうでしょう?」

「……」

 

 俺はイケメンパイナップルの質問に答えられなかった。それは別に驚いていたからじゃない。ただ自分が沢田へのリベンジを欲しているとは思えなかったからだ。

 

 無言の俺に対し、イケメンパイナップルはさらに攻め込んでくる。

 

「おや、もしかして絶対に勝てないと諦めてしまったのですか?」

「……」

「おやおや、たった一度の敗戦で諦めてしまうような男だったとは。これは僕の見込み違いですかね。あなたとなら同じ目標を目指して協力しあえると思っていたのですがね」

「……うるせぇよ」

 

 

 なんなんだこいつは。いきなり声をかけてきて、人の傷を抉りやがって。さっさとこんなむかつく奴からは離れねぇとな。

 

(くっ! ……くっ!)

 

 どうにか動かせないかと苦悶するが、今だに少しも動かない。まるで何かに押さえつけられてるみたいだ。

 

「……はぁ、見込み違いのようですねぇ。もういいですよ」

「あ? ……!」

 

 いきなり呆れたような言い方をしてきたイケメンパイナップルを睨むと、急に金縛りが解けて動けるようになった。

 

「……」

「……」

 

 イケメンパイナップルが何も言ってこなくなったかからベンチから立ち上がる。

 

 そのまま立ち去ってやろうと思ったが、俺は一言だけイケメンパイナップルに言ってやることにした。

 

「おい優男。俺ですら今のままじゃ沢田に勝てる気がしねぇんだ。お前みてぇな優男には尚更無理だろ? さっさとお前も諦めろや」

「……ク、クハハハハッ……」

(なんだこいつ。いきなり笑い出しやがったぞ)

 

 笑うとさらに不気味に見えるイケメンパイナップルは、今度は俺に向かって拍手をし始めた。

 

 

——パチパチ。

 

「いやぁ、よかった。きちんと自分と相手の実力を分析した上での選択だったのですね」

「……それがどうした」

「そうだとすれば、勝ち目が出ればあなたは再び沢田綱吉と戦えるということじゃないですか」

「!」

「僕ならあなたに勝ち目を与えられるかもしれません。どうです? 僕と協力して、もう一度奴と闘いませんか?」

 

(勝ち目があれば? 俺は勝ち目があればもう一度沢田と戦えるのか?)

 

 この時俺は、イケメンパイナップルの言葉で俺の中に何かのタネを植え付けられた。そんな感覚がしていた。

 

(……分からない。俺は、もう一度沢田と戦いたいと思ってるのか?)

 

「……」

「……クフフ」

 

 無言で考え込む俺に対し、イケメンパイナップルはベンチから立ち上がり俺の肩に手を置いた。

 

「まぁここで決断しろとは言いません。よく考えて、僕と協力する気が起きたら連絡を下さい」

 

 そう言って、俺の上着のポケットに何かの紙を入れ込んだ。

 

「僕の連絡先です。いいお返事を期待していますよ、クフフ」

 

 そして、イケメンパイナップルは微笑みながらコーヒーショップの中に戻って行った。

 

 俺の視線はイケメンパイナップルから先ほどまで座っていたベンチへと移る。そこには、コーヒーカップが置きっぱなしになっていた。

 

「……コーヒー置いてくなよ」

 

 そう独りごちながらコーヒーカップを手に持つ。

 まだ温けぇな。

 

「……もったいねぇから。飲んでやるか」

 

 わざわざコーヒーショップに入ってまであのイケメンパイナップルに会いたくないと思った俺は、そのコーヒーを処理してやることにした。

 

 静かな敷地内を歩きながら、くいっと一口コーヒーを口にする。

 

「! ……くそが」

 

 一口飲んだだけで、俺はその飲み物に不快感を感じた。なぜかといえば……。

 

「コーヒーじゃねぇ。ホットチョコじゃねぇか」

 

 そう、コーヒーカップの中身がコーヒーじゃなくホットのチョコレートドリンクだったのだ。

 

 別に嫌いじゃねぇが、苦いと思って甘いのを口にするのは不快だ。

 

「……あのイケメンパイナップル、今度文句言ってやるからな」

 

 ——ガサガサ。 

 

 ポケットに入れられた奴の連絡祭を確認する。

 

「……ろくどう、むくろか? はっ、小難しい名前しやがって」

 

 連絡先の書かれた紙を戻しながら文句を言いつつ、その後も俺は温くて甘ったるい味を口にし続けたのだった。

 

 

 

 ——その頃、コーヒーショップにて ——

 

 

 

 ——ガチャ。

 

「!」

 

 紫髪の店員がコーヒーショップに戻ると、カウンターに小さい何者かが立っていた。

 

「おや、久しいですね」

「ちゃおっす。約2年ぶりだな」

「ええ。代理戦争以来ですからね」

「ほぉ。少し大人びたな、骸」

「あなたは変わらずですね。リボーン」

 

 そう。今この場にいるのは、ボンゴレⅩ世の霧の守護者である六道骸と、ツナの家庭教師であるリボーンである。

 

「せっかくだからコーヒー飲ませろよ」

「ふん、図々しいですね」

「今さっきイタリアから帰ってきたんだ。時差ボケにはコーヒーが効くんだぞ」

「そもそも時差ボケとかしないでしょうに」

 

 小言を言いつつもコーヒーを一杯入れた骸はリボーンへと手渡した。

 

 ——ゴクリ。

 

「ほぉ、なかなかだな」

「素直に美味しいと言えないのですか?」

「だってこれ有幻覚だろ? というかこの店自体」

「クフフ。まぁそうなんですけどね。でもヴェルデの機械で本物に変えてますから」

「残念だ。お前の有幻覚とヴェルデの発明でも、さすがに味では本物には勝てないようだな」

 

 先ほど龍園も見たこのコーヒーショップ。実は骸の有幻覚と天才科学者ヴェルデの発明で生み出された代物である。だから最初に龍園が違和感を持ったのも当然のことだったのだ。

 

 リボーンはコーヒーカップをカウンターに置くと、骸に真剣な顔で話しかける。

 

「で、どうだった? お・前・の・生・徒・は」

「クフフ。全然ですね。まぁあなたが僕を選んだ理由は何となく分かりましたけどね」

「そうかそうか」

「話をするまでは、なぜ僕なのかと思ってましたから。彼の波動はどう見ても嵐ですからね」

「まあな。でも獄寺よりもお前の方が適任だと思ってな」

「……彼、獄寺隼人と似たような素質を持ってますけど、その中でも霧の波動は強めでした。それでですか?」

「ああ。あと性格的にお前の方がいいんじゃないかってな」

 

 骸はやれやれと首を振るが、その顔には笑みが含まれている。

 

「それにしても。わざわざ僕を沢田綱吉のそばに来させるとはね。僕が沢田綱吉の体を奪うのを諦めたと思ってます?」

「分かってるさ。それでも龍園のかてきょーはお前が適任だからな。それにツナには試練を与えていかねぇとと思ってな」

「クフフ、僕や彼がその試練だと?」

「そうだぞ」

「僕、いずれ本気で肉体を乗っ取りに動きますよ」

「かまわん。そういう約束だからな。その代わりお前も約束を守れよ」

「ええ。生徒や職員に危険を与えず、必要があれば守護者の使命を果たす。そして、沢田綱吉の強敵として龍園翔を教育する。それでいいんですよね」

「ああ。……そういや、M・M達はどうした?」

「冬休みは僕だけです」

「そうか。じゃあよろしく頼む」

 

 ぴょん、とカウンターからリボーンが飛び降りる。そしてコーヒーショップから出て行こうとする……が、入り口のところで立ち止まった。

 

「どうかしました?」

「骸。いくら素養があるからって〝六道輪廻〟は会得させるなよ?」

「!」

「まぁどうせ六道全部は無理だろうけどな? そんじゃな〜」

 

 ——ガチャン。

 

「……フッ」

 

 リボーンが出ていくと、骸はリボーンが飲んだコーヒーカップを片付けながら楽しそうに笑い始めた。

 

「……クフフ。それではまるで、僕が彼に六道輪廻を会得させたいみたいではないですか」

 

 それからしばらく、骸は楽しそうに笑い続けるのであった。

 

 彼のポケットにある、六道眼の有幻覚を撫でながら……。

 

 

 

 —— 生徒用マンション屋上 リボーンside ——

 

 

 コーヒーショップを後にしたリボーンは、レオンと何かを話していた。

 

(パチパチ!)

「ほう」

(ペロペロ〜)

「そうかそうか。ツナの奴、よくやったようだな」

(コクリ)

 

 レオンは喋れないが、リボーンは意思疎通を図る事ができる。

 

「んで? クリスマスイブとクリスマスに10人と2時間ずつデートすることになったのか」

(コクリ)

「ツナはどう思ってんだ?」

(パチパチ! シナシナ〜)

「なんだ、戸惑ってんのか?」

(コクリ)

「まだまだガキンチョんだな」

(コクリ)

 

 レオンに頷き返し、リボーンは懐からスマホを取り出した。そして、とある人物に電話をかける。

 

(そろそろアレを受けさせるつもりだったし、まぁちょうどいいか)

 

 ——プルルルル〜ガチャ。

 

『プロント?』

「ちゃおっす。俺だ」

『なんだ、リボーンか。朝早くになんか用か?』

「ああ。お前今日本にいるんだろ?」

『ああ。所用でな』

「ならちょうどいい。24日と25日は高度育成高等学校に来てくれ」

『え? それツナの通ってる学校だよな?』

「そうだぞ」

『なんで俺が? ボンゴレ式クリスマスパーティーとか言わねえよな』

「違うぞ。お前を呼ぶのはツナのかてきょーをして欲しいからだ」

『はい? なんで俺が?』

「兄貴分として、先にプログラムをこなした先輩としてアドバイスを頼む」

『! ちょっと待てよ? プログラムってことは……まさかあれか!?』

「そうだ。お前もやったよな〜。大企業の御令嬢を2日間エスコートすることになった時だったな」

『やっぱりか! ぐっ……古傷が痛む』

「ツナにも受けさせるぞ。〝ボンゴレ式紳士育成プログラム〟だ!」

 

 



 
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