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船上試験、1日目昼。

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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

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船上試験、1日目昼。

 

 龍園君が去った後、俺達は試験についての話し合いを続けていた。

 

「ちなみに、2人はどのグループなの?」

「私は辰グループよ」

「……俺は卯。兎グループだ」

 

 堀北さんの辰グループのメンバーは以下の通り。

 

 Aクラス・葛城康平 西川亮子 的場信二 矢野小春

 Bクラス・安藤紗代 神崎隆二 津辺仁美  

 Cクラス・小田拓海 鈴木英俊 園田正志 龍園翔  

 Dクラス・櫛田桔梗 平田洋介 堀北鈴音

 

 そして綾小路君の兎グループメンバーはこうらしい。

 

 Aクラス・竹本茂 町田浩二 森重卓郎  

 Bクラス・一之瀬帆波 浜口哲也 別府良太  

 Cクラス・伊吹澪 真鍋志保 藪菜々美 山下沙希  

 Dクラス・綾小路清隆 軽井沢恵 外村秀雄 幸村輝彦

 

 兎グループは巳グループと比べてもグループ分けについて特定の法則があるようには見えない。

 

 しかし、辰グループだけは明らかに作為的な編成だと思った。

 

「……辰グループだけおかしくない?」

「……だなぁ」

「ええ。明らかに各クラスの中心人物が集められているわ」

 

 2人も俺と同じ考えらしい。Aクラスの葛城君。Bクラスの神崎君。Cクラスの竜園君。そしてDクラスの平田君と桔梗ちゃんと堀北さん。

 

 完全にクラスのトップをぶつける為の編成だろう。

 

「……だが」

「?」

 

 途中で言葉を止めた綾小路君。

 コーヒーを一口すすり、再び口を開く。

 

「一之瀬が兎グループなのは、理由がわからないな」

「あ、確かに……」

 

 そうだ。Bクラスのトップは一之瀬さんだ。

 神崎君もリーダー格ではあるが、あくまでNo.2のはずだ。

 

「他のクラスはトップが集められてるのに、なんでBクラスだけ?」

「……何か意味があるのか、それとも偶然なのか」

「……何かしらの意図はあると思うわよ?」

 

 俺と綾小路君がいろんな可能性を考えている中、堀北さんは何らかの意図があると言い切った。

 

「え、何でそう思うの?」

「Dクラスのリーダーも別のグループだもの」

「……ああ。そう言うことか」

「ええ」

「?」

 

 綾小路君は堀北さんの言葉で理解できたようだが、俺は理解できていなかった。

 

「なんで? 平田君と桔梗ちゃんはクラスの中心でリーダーでしょ?」

「そうね。確かに平田君と櫛田さんはDクラスを引っ張ってはいるけど……」

「……でも、実際にDクラスを導いてるのはお前だからな」

「え? 俺?」

 

 正直、裏で動いているだけでクラスのリーダーにはなれていないと思っていた。

 だから綾小路君の言葉には驚いた。

 

「須藤君の赤点や暴力事件、それに無人島試験では最終順位を1位にしたこと。これはほとんどの人が気付いてない。だから生徒からは沢田君はリーダー格には見られていないと思うわ」

「うんうん、俺もそう思ってた」

「けれど、学校側は貴方の働きを把握していないはずはないわ」

「そうだな。学校側は沢田の働きを理解しているはずだ」

「うん」

「そして、この試験のグループ分けだって学校側が決めている。それなのに、沢田君が辰グループに入っていない事もおかしいわよ」

「……そっか」

 

 色々考えてみたけど、今の段階ではこのグループ分けの意味を理解する事はできず、想像するくらいしかできなさそうだ。

 

「堀北、話し合いではどう動く?」

「……とにかく、初日はグループ内の観察に徹するべきね」

「そうだね。もしかしたら挙動で優待者が分かるかもしれないし」

 

 まぁそれは俺にも言えるんだけども……

 

 俺が自分の演技力に不安を覚えていると、堀北さんが椅子から立ち上がった。

 

「夜の話し合いが終了後……21時半にもう一度集まりましょう」

「……わかった」

「うん、わかったよ」

 

 と、いうわけで。ここで解散して、夜にまた集まる事になった。

 

 

 —— 客船、廊下 ——

 

 2人と別れ、適当に船内を彷徨いていると……

 

 ——ピコン。

 

 学生証端末からメール受信音が鳴った。

 

(誰からだろ……あ、獄寺君だ)

 

 メールの送信者は獄寺君だった。

 

 

 TO 10代目

 

 お疲れ様です!

 10代目。リボーンさんがお呼びですので、客室の027号室に来ていただけますか?

 あ、ちなみにここは俺と山本の部屋です!

 

 From 獄寺隼人(10代目の右腕!)

 

 

 ……リボーンから呼び出し? なんだろ、また特別課題でも出す気なのかなぁ。

 

(っていうか獄寺君、メールの署名でも右腕アピールをしてる……)

 

 それから俺は、リボーンの待つ027号室へと向かった。

 

 

 

 —— 客室、027号室 ——

 

 

 ——ガチャ。

 

 027号室のドアを開けると、その部屋はツインの客室だった。

 

「おじゃましまーす……」

「10代目、お待ちしておりました!」

「よう、ツナ」

「ちゃおっす」

「おせえぞ、コラ!」

 

 備え付けられた2つのベットに、獄寺君、山本、リボーン、コロネロが腰掛けていた。

 

「リボーン、呼び出した理由は?」

「ああ。この特別試験における特別課題を伝えようと思ってな」

「うわ、やっぱりこの試験にも課題が出るのか……」

「当たり前だろ? 特別試験の時には必ず特別課題を出すぞ」

「卒業まで指導はしない、って話だったのに……」

「これは特別だからいいんだよ。それに、これは指導じゃなく一方的な課題だしな。特別な試験には特別な課題が必要だろ?」 

「まぁ、やる以外に選択肢もないしな。それで? 今回はどんな課題?」

 

 俺がそう聞くとリボーンはニッと笑った。

 

「今回の課題では、お前の思考力を試すぞ」

「思考力?」

「そうだ。無人島では統率力を試す為にOtto talenti を統率させた。そして今回だが……お前自身の思考力を試す為に、干支試験の根幹でもあるシンキング能力を使って、クリア条件すらも自分で見つけ出せ」

「はぁ!? 課題なのに問題文なしって事!?」

 

 俺の言葉にリボーンが頷く。

 

「そうだ。統率力ってのは、統率者の思考力があってこそ輝く。いくら優秀なファミリーがいても、ボスの思考力が低いんじゃファミリーのポテンシャルをきちんと発揮させられないからな」

「……なるほど」

「ツナ、大事なのはシンキングする事だぞ。干支試験において、生徒達は何をシンキングする事を学校に求められているのか。それがわかれば、自ずと課題の答えも見えてくる」

「……急にレベル上がりすぎでは?」

「何言ってんだ。こんなの序の口だぞ」

(それって、まだまだ簡単な方って事かぁ。……不安しかない)

 

 しかし、俺にはやる以外の選択肢はない。

 ボンゴレⅩ世になると決めたんだからな。

 

「……わかった」

「よし」

 

 課題を受け入れた俺を見て満足そうに頷くリボーン。

 

「あ、最後に連絡事項だ」

「連絡事項?」

「ああ。この試験中、禁止事項とするのは暴力行為のみだ」

「……そっか」

「そうだぞ。んじゃ頑張れよ。試験終了の翌朝に、またこの部屋に集合な」

「うん。わかった」

 

 そして、俺は027号室を後にした。

 

 

 

 —— 客室、廊下 ——

 

「……」

 

 廊下に戻った俺は、来た道を戻りながらリボーンの言っていた事を思い返していた。

 

『この試験中、禁止事項とするのは暴力行為のみだ』

 

 ……。

 

 つまり暴力行為以外は何をしてもいいワケだ。

 だったら、Otto talenti の力を借りる事もルールの範疇だろう。

 

 ……でも今回は姉妹校は試験に参加してないから、協力してもらおうにも厳しいか? それよりも、クラスメイトや自分のグループの情報の方が重要かもしれないぞ。

 

 課題をクリアする為に、まずはを問題を明らかにする。

 具体的な行動方針を決めるのは、問題を理解してからか。

 

 シンキング。

 思考する課題はもうすでに始まっているようだ……

 

 

 

 

 —— 午後1時、2階の巳部屋 ——

 

 

 数時間経ち、俺は1回目の話し合いに臨むべく巳部屋を訪れた。

 

 部屋の真ん中には円形の机が置いてあり、椅子が15脚置かれている。

 それとは別に3人掛けくらのソファーが2つ、部屋の隅の方に置かれているようだ。

 

(まだ誰もいないな……)

 

 俺が一番手だった様で、適当な席に座って待っていると5分もしないうちに15名全員が集まった。

 

 席順は、誰も何も言っていないのにそれぞれクラスごとに固まっている。

 

 

 『……』

 

 室内を無言が包む事2〜3分。室内のスピーカーからチャイム音が鳴った。

 

『ピンポンパンポーン。……ではこれより、1回目のグループディスカッションを開始します』

 

 短い放送で試験の開始が宣言された。

 

 

 〜第一回グループディスカッション開始〜

 

『……』

 

 試験が始まったけども、誰も口を開こうとしない。

 まぁ、お互いよく知らない人がほとんどだろうし話しづらいよね。

 

(……しかし、いつまでもこのままでは進まない。それに、最初はまず自己紹介からするようにと学校側から言われてるんだったよな)

 

 俺は膠着した場を動かすべく、自分から話を進める事にした。

 

(他のメンバーに優待者だと思われるかもしれないけど、全く話さないのも怪しまれそうだからな。バランスが大事だと思う)

 

「……あの、まずは自己紹介からしませんか? 学校側からもそう指示があったんだし……」

「おい! なんでお前が仕切ろうとしてんだぁ!?」

「!」

 

 俺の話を遮って、文句を言ってきた人がいた。

 Cクラスの石崎君だ。

 

  石崎君は机の反対側からこちらを睨んでいる。

 

「……誰も話そうとしないからさ。俺じゃ嫌なの?」

「嫌だね! なんで落ちこぼれクラスの中でもトップの落ちこぼれ、須藤のパシリに仕切られないといけねぇんだよ。不満しかねぇわ!」

「いや、俺はパシリじゃないけど?」

「ああ!? 黙ってろや、パシリ!」

 

 石崎君はイライラしているのか貧乏ゆすりを始めた。それを怪訝な顔で見る他のクラスの生徒達。

 

「別に俺じゃなくてもいいけど。誰か代わりに進行してくれる人はいる?」

『……』

 

 俺が問いかけるも、誰も返事しようとしない。

 

「AクラスかBクラスの奴が進行でいいだろ? 頭いいんだからよ」

『……』

 

 石崎君のその言葉にも、AクラスとBクラスの面々は反応しない。

 まぁ進行役なんて面倒だもんな。

 

 石崎君は無反応なAとBクラスに苛立っているようだ。

 

「おい、何無視してんだ? AかBの奴らが進行しろって言ってんだろ?」

 

 ……なんで石崎君はこんなに偉そうなんだ?

 龍園君がいないから自分がグループのトップになれるとでも思っているのか?

 

 そんな事を考えていると、石崎君の隣に座る女子が手を上げた。

 

「……誰もいないなら、私が進行役をやりますよ?」

「! 椎名。俺はAかBの奴に……」

 

 その女子は椎名というらしい。椎名……ひよりさんかな?

 

「石崎君の思い通りにはいかなそうじゃないですか。だったらCかDクラスの誰かが進行していくしかないでしょう? 私だったら石崎君も文句ありませんよね?」

「……でもよ」

「このグループでの決定権は、龍園君から私に一任されている事をお忘れですか?」

 

 椎名さんの最後の言葉で、石崎君の顔が引き締まる。

 

「! ……いや、文句なんてねぇよ」

 

 石崎君が大人しくなった姿を見て、椎名さんは満足そうに微笑んだ。

 

「そうですか。では、僭越ですが」

 

 椅子から立ち上がった椎名さんは全員を見回してから話を始めた。

 

「私はCクラスの椎名ひよりと申します。Dクラスの彼の言う様に、まずは自己紹介から始めましょうか。では、言い出しっぺの彼から自己紹介をお願いします」

「! 俺? は、はい!」

 

 椎名さんに指名されたので俺は椅子から立ち上がった。

 

「Dクラスの沢田綱吉です、よろしく」

 

 俺の短い自己紹介が終わると、時計回りに自己紹介をしていくことになった。

 

「Dクラス……佐倉愛里、です」

「同じくDクラスの、王美雨ワン・メイユイです」

「Bクラスの小林夢です」

「Bクラス……二宮唯」

「俺はBクラスの渡辺紀仁だ」

「Aクラス、篠田恭美」

「Aクラス。清水直樹だ」

「西春香。……あ、Aクラスです」

「……Aクラス、王小狼ワン・シャオランだ」

「先程も言いましたが、Cクラスの椎名ひよりです」

「Cクラス。石崎大地」

「Cクラスの野村雄二、です……」

「……ん〜美しい♪」

 

『……』

 

 1人だけ自己紹介をしない人物に全員の視線が集まる。

 しかし、当の本人は手鏡で自分の顔を見るのに夢中の様だ。

 

「……高円寺君!」

「ん〜♪」

「高円寺君!?」

「ん? なんだい? シーチキンボーイ」

「気付いてくれてよかった……今ね、1人ずつ自己紹介してたんだけど、高円寺君だけまだだから、皆に自己紹介してくれる?」

「ほうほう。了解したよ」

 

 そう言うと、高円寺君は前髪を整えてから口を開いた。

 

「私は高円寺六助。君達、喜びたまえ! この試験で私と同じグループになれた事をねぇ。将来自慢になるよっ!」

『……』

 

 そう言い終えると、高円寺君はまた手鏡で自分の顔に夢中になった。

 

 高円寺君の自己紹介が終り、椎名さんは微笑みながら再び皆を見回した。

 

「ふふ……では、自己紹介も終えたわけですが。ここからはどうしましょうか?」

「……(すっ)」

「! 王君でしたね? 何か意見が?」

 

 椎名さんが意見を求めると、Aクラスの王小狼君が手を上げた。

 

(王小狼……ウチのクラスの王さんと同じ姓か。彼も中国からの留学生なのか?)

 

 小狼君は椅子から立ち上がって、自分の意見を述べた。

 

「……Aクラスは、話し合いには参加しない」

『は?』

 

 小狼君の宣言にAクラス以外のメンバーが驚愕する。

 そして、そんな彼に石崎君がつっかかる。

 

「おい、参加しないってのはどういう意味だ?」

「そのままの意味だ。俺達は試験終了まで、話し合いに参加しない」

「それが何でだって言ってんだよ!」

 

 語気の強い石崎君に、小狼君は呆れた様に首を振る。

 

「はぁ……一回で理解できないとは。さすがはCクラスの下っ端だな」

「なっ! 誰が下っ端だ!」

「違うのか? お前は龍園の駒だろ?」

「ぐっ……」

 

 怒りの余り暴走してしまいそうになる石崎君。

 

 しかし、椎名さんが見ているからかギリギリで踏みとどまっている感じだ。

 

(……椎名さん、Cクラスでもそれなりの立ち位置なのかなぁ。石崎君が言う事を聞いてるし)

 

 石崎君を落ち着かせ、今度は椎名さんが王小狼君に質問をする。

 

「王君。話し合いに参加しないと言う事は、優待者を見つける気がないのですか?」

「その通りだ」

「なぜです? ppが欲しく無いのですか?」

 

 椎名さんの質問に小狼君は笑った。

 

「ふっ、俺達は毎月10万以上のppが入ってくるんだぞ? だから無理してppを取りに行って、他のクラスにCPを増やさせる事はしたくないのさ」

「……なるほど、葛城君らしい保守的な作戦ですね」 

 

 ——ぴくっ。

 

 葛城君というワードに小狼君はピクリと反応し、一瞬眉をしかめる。

 しかし、すぐに元に戻った。

 

「ふん。別にルール違反は犯していない。文句を言われる筋合いはないな」

「それは確かにそうですが。……私達から意見を求めた場合、返答はいただけますか?」

「ふん。優待者探しに関係ない事ならな」

「……それでは試験にならないのでは?」

「なぜだ? 別に話し合いなどしなくとも、最終日に思い思いの人物を報告すればいい。試験終了後の報告ならば、起こり得る結末は結果1か結果2の2つのみだ。結果1と結果2ならばppが減らされる事もなく、どこかのクラスがCPを得る事もない。どこにもデメリットはないだろう?」

「……確かに」

「それなら問題はないんじゃない?」

 

 小狼君の説明を聞いて、Bクラス全員とCクラスの野村君が納得した様に呟いた。

 

「ふん。ほら、何名か賛同している者もいるじゃないか。では俺達は席を離させてもらうぞ」

 

 そう言い切ると、小狼君含むAクラスの4人は隅のソファーの方へ移動してしまった。

 どうやら本当に話し合いを拒絶するようだ。 

 

「……ふぅ。いきなりグループディスカッションが破綻しましたね。仕方ありません。しばらくはAクラス抜きで進めましょうか」

 

 仕方がないので、Aクラスの事は後回しということになった。

 

 それから約10分の間、BとCとDクラスの3クラスのみで試験に望む上での各クラスのスタンスを伝え合った。

 

 Bクラスは結果1を目指したい。

 Cクラスは結果4でなければどれでもというスタンスとの事。

 

「Dクラスはどうですか?」

 

 Dクラスの方針を言う番になり、俺は他の3人を見回した。

 

『……』

(3人とも答えなさそうだな)

 

 誰も答えなさそうなので、代表して俺が意見を言うことにした。

 

「Dクラスは結果1を目指したいかな。やっぱりppを増やしたいし」

「はい、ありがとうございます」

 

 代表して俺がいかにもDクラスっぽい答えを言うと、椎名さんは朗らかに笑った。そして、その後で石崎君が鼻で笑ったのも見逃さなかった。

 

 3クラスがそれぞれのスタンスを発表し終えると、時刻は丁度昼の2時になった。

 

 

『ピンポンパンポーン。……これで、1回目のグループディスカッションは終了です』

 

 

 試験終了のアナウンスが鳴り響くと、Aクラスの4人を筆頭に、メンバーはどんどんと部屋から退室していった。

 

 王さんと高円寺君もさっさと退室してしまい、佐倉さんも「疲れたから部屋に帰るね」と言って先に退室して行った。

 

「……」

 

 最後は俺だけが部屋に残っていた。

 1人で少し考え事をしたかったのでちょうど良い。

 

(Aクラスのあの行動……椎名さんの言っている通りに葛城君からの指示だろうなぁ。神崎君の話だと葛城君は保守的みたいだし、ppよりも各クラスのCPの維持を優先しているのだろう)

 

 1回目のグループディスカッションを終えたけど、正直どう動くかで悩んでいる。

 

 Aクラスの方針に従えば、結果1か2にたどり着くだろう。結果3になる事もなさそうだ。

 

 ……しかし、堀北さんから結果4を目指して欲しいって言われてるしなぁ。

 

 俺もCPは欲しいし……

 

 ……うん。やっぱり、裏切り者が出るように上手く場を誘導するつもりでいた方が良さそうだ。

 

 特に石崎君とか、優待者が分かればすぐに学校に報告しそうだしな。

 

(……Bクラスの人の事はまだよく知らないし、基本は石崎君狙いで行くか? ……いやでも、石崎君の隣には椎名さんがいるなぁ)

 

 椎名ひよりさん。俺に代わって場を仕切ってくれた優しい人。……だけど、なんか他の人とは違う雰囲気を感じるんだよな。龍園君にグループをまかされてるらしいし、何かあると思って安易に動く事はしない方がいいかもしれない。

 

 のんびり構えすぎるのも良くないけど、Aクラスの小狼君の意見に何人か賛同していたし、すぐに試験終了になってしまう可能性は低いだろう。

 

 高円寺君が暴走して試験を終わらせる可能性もあるけど、このグループの優待者は俺だ。たとえ高円寺君が勝手に報告しても、それは無効になるから問題ない。

 

 ……後はリボーンからの特別課題の事か。

 シンキング、干支試験の根幹にして特別課題の根幹部分。

 

 今回の課題をクリアするには、シンキングして課題の問題文を見つけないといけない。

 でも考えるにしても、この学校のシステム的に個人の力だけでは足りないだろう。

 クラスメイトやOtto talenti の皆の協力を求めるべきか。

 

 以上の事を踏まえると……

 

 課題の問題文が分かれば、この試験のクリア方法も分かる。

 まずは自分が優待だってバレない様に努めつつ、特別課題の攻略を頑張った方が良さそうだな。

 

 

(……よし! とりあえずこの方針で動いてみよう)

 

 考えがまとまったので、俺も退室することにした。

 

 

 —— 客船、廊下 ——

 

 ドアを開けると、真っ先に綺麗な白髪が目に入った。

 

「……あ」

「あ、沢田君。遅かったですね」

「椎名さん、もしかして俺が出るのを待ってた?」

「はい。少しお話ししたかったので」

 

 廊下に出ると、椎名さんがドアを出てすぐの所に立っていた。

 どうやら俺を待っていたようだ。

 

「話? 何かな?」

「石崎君の事です。せっかく場を仕切ろうとしてくれてたのに、完全な勘違いで水を差してしまって本当にごめんなさい」

「ああ……別にいいよ。気にしてないし」

「……それなら良かったです。あ、もし嫌じゃなければ、干支試験が終わったらお茶でもしませんか?」

「えっ? あ、はい。もちろん」

「ふふふ、楽しみが出来たので試験を頑張れそうです。……では沢田君、また20時に」

「うん、また後でね」

 

 ペコリと可愛らしいお辞儀をして、椎名さんは俺に背を向けて歩き始めた。

 

(龍園君のクラスメイトとは思えないくらいふわふわした子だなぁ。石崎君の暴言を謝ってくれたし、すごい優しい子なんだろうなぁ……!)

 

 椎名さんの背中を見送りながらそんな事を考えていると、さっきの会話の中に違和感があった事を思い出した。

 

『完全な勘違いで水を差してしまって……』

 

 完全な勘違い。それって俺が須藤君のパシリだって所だよな。

 

 ……龍園くんも俺が須藤君のパシリだと思ってるはずなのに、なんで椎名さんは完全な勘違いだって言い切れるんだ?

 

(やっぱり椎名さんには何かありそうだ。友好的だとしても、警戒は怠らない方がいいな)

 

 女子からお茶に誘われるって青春イベントで緩みかけていた気を引き締めて、俺は椎名さんとは別方向に進んでいった。

 

 

(……とりあえず、部屋に戻れば誰かいるだろ。情報交換ができるといいんだけどなぁ……ん?)

 

 廊下を進んでいると、2階の階段の踊り場から男女の声が聞こえてきた。

 

「……おい、何をシカトして乗り切ろうとしてんだ?」

「……ご、ごめんね、小狼」

「は? 小狼? 誰を呼び捨てにしてるんだ、美雨」

「! ご、ごめんなさい。小狼様」

「……それでいいんだよ」

 

 会話に出てきた内容から察するに、Aクラスの小狼君と王さんの会話の様だ。

 ……王さんの話し方がいつもと違う気がするな。

 

「……にしてもさ。何でお前がこの学校に入学できた?」

「……おじ様が推薦してくれたから」

「はぁ? 親父が? 本当か?」

「……はい」

「……ふーん。まぁ納得はできないけど、こうなった以上はもうどうしようもできないな。……でもな」

 

 小狼君の声が途切れると……ドンっ、と壁を叩く音が響いた。

 

「……忌み捨て子のお前が、俺に迷惑をかけたりする事は許さないからな」

「……わかっております。この試験中も、試験終了後も、小狼様に関わる事すら致しません」

「……それでいい。ま、とにかく。この干支試験が結果1で終わる様にお前も働きかけろ。……いいな?」

「……はい。かしこまりました」

「よし。じゃあな、美雨」

 

 

 ——タン、タン、タン。

 誰かが階段を上がっていく音が聞こえ始めた。

 

 きっと小狼君が階段を上がっているのだろう。

 

(……どうしよう、聞いてはいけなかった事を聞いてしまったみたいだ)

 

 そして、階段を上がる音が聞こえなくなった頃。

 

 ——ぺたん。

 

「……うぅ。……何で、何であの人と同じグループに……」

 

 静かな廊下に、王さんのすすり泣く声が廊下に響き始めたのだった……

 



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