氷蕎麦
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第一章
氷蕎麦
岩手県に住む雪男と雪女の夫婦はどちらも蕎麦が好物だ、それで人間の街に出て蕎麦を食べることも多い。
この日もそうで盛岡でわんこそばを食べてだ。
山の家に帰ってだ、二人で話した。
「美味かったな」
「ええ、今日のわんこそばもね、私なんてね」
雪女はその細面で雪そのものの様に白い顔で話した。
「百杯食べたよ」
「何を言う、わしは二百杯だぞ」
雪男は大柄でやはり雪の様に白い顔で言った、雪女は整った艶やかな顔立ちであるが雪男は眉が太く豪快な感じだ。
「あまりにも美味くてな」
「それだけ食べたのね」
「そうだ、しかしな」
雪男はここでこう言った、昭和を思わせる民家である自宅の中で。
「一つ思うが」
「どうしたの?」
「わし等も蕎麦を作ってな」
それでというのだ。
「食ってみるか」
「そうしてみるの」
「仕事があるから店は出さぬが」
「妖怪のね」
「冬に寒くするな」
それがというのだ。
「夏も涼しくするな」
「それがあるからね」
「店は出さぬが」
それでもというのだ。
「しかしな」
「趣味でよね」
「作ってみるか」
「いいわね」
雪女も笑顔で応えた。
「自分達で作って食べるのも」
「そうだな、ではな」
「やってみましょう」
夫の言葉に応えた、そうしてだった。
夫婦で蕎麦を作ってみた、まずは打ったが。
「足だな」
「そう、足で踏むとね」
蕎麦を足で踏みつつ話した。
「コシが出るのよね」
「手で打つよりもな」
「体重もかかるし」
蕎麦の上に乗るからである。
「足の力も強いし」
「だからな」
それでというのだ。
「手で打つのもいいが」
「踏む方がいいのよ」
「そうだ、だからな」
「踏みましょう」
「打つのはな」
「お蕎麦は山形のだし」
素材の話もした。
「それを選んでだから」
「しっかりと打つとな」
「そうしたらね」
「いいぞ」
「そうよね、それじゃあ」
「しっかり打って」
「切ってね」
そして麺にしてというのだ。
「美味しいお蕎麦にね」
「していこうな」
「そうしましょう」
夫婦で共に蕎麦を打ちながら話した、そしてその後で蕎麦を切って麺にするがその包丁捌きについては。
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