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天武帝の栗

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第二章

「余は入れられようとしている」
「そうなればです」
「太子のお命は帝の思うがまま」
「何時どうなるかわかりませんな」
「そして帝の地位もです」
「余のものとはならない、これはいけない」
 こう言われてだった。
 皇子はすぐに都を出られた、そうしてだった。 
 そのまま一旦山城の田原まで落ちられた、するとだった。
 皇子を見た里の者は妻に言った。
「旅の方だが」
「ええ、狩衣を着た人ね」
「あの人は誰かわからぬが」
 それでもというのだった。
「雰囲気が違うな」
「そうね、言われてみれば」
 妻も夫に頷いた。
「たたずまいも」
「かなりの気品を感じる」
「威厳もね」
「だからな」
 それ故にというのだ。
「どう見ても並の方でないしな」
「それじゃあ」
「ここは家に入れても何もされぬだろうし」
「そんな浅ましさは感じないし」
「高貴な方ならおもてなしするのが礼だ」
「それじゃあね」
「家に入ってもらうぞ」
 こう言ってだった。
 里の者は皇子がどなたか知らないが家に迎えてもてなした、そうして妻に言って焼き栗と茹で栗を作らせてだった。
 器に盛って皇子に勧めた、すると。
 皇子はその栗達を感謝の言葉を言われてから召し上がられたが。
 ここでだ、ご息女から頂いた鮒の中にあった栗のことを思い出され言われた。
「余いや私は栗と縁があるか」
「そうなのですか」
「その様だ、若しだ」
 栗を食べつつ言われた。
「私の願が適うなら」
「それならですか」
「この栗達の残ったものは立派な木になるだろう」
「あの、流石に火を入れた栗はです」 
 里の者はまさかとなり皇子に言った。
「木にはです」
「ならぬな」
「そうですが」
「だがな」
「貴方様の願いが適うならばですか」
「そうなるであろう」
 こう里の者に言われた、そしてだった。
 皇子が実際に残った栗を埋められて田原を後にされてからだった。
 妻にだ、こう言った。
「まさかと思うが」
「あの旅の方のお話がね」
「本当になるならな」 
 それならというのだ。
「凄いことだしな」
「それではね」
「ああ、本当に木になるか」
 焼いたり茹でた栗達がというのだ。
「見ようか」
「そうするわね」
「だから埋めた場所にな」
 その栗達をというのだ。
「印を置いてな」
「栗の木が生えたかどうかをわかる様にするね」
「そうするか」
「そうね、どうなのか」
 妻も頷いた、そうして二人でその埋めた場所に大きな石を置いた、夫婦はこの時まさかと思っていたが。
 皇子は美濃に落ち延びられてからだった。
 その地で屁を集められ挙兵されてだった。
 弘文帝の軍に勝たれ帝がご自害されたのを受けてだった。
 即位された、そしてだった。
 即位されてすぐに廷臣達にだ、こう言われた。 
「田原に行きたい」
「帝が先に落ちられた地ですか」
「その地にですか」
「赴かれたいのですか」
「見たいものがあってな」
 それでと言われるのだった。 
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