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仮面ライダーAP

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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第18話


 紅衛校と仮面ライダーG-verⅥ。共に重火器を戦闘の主軸としている両者の苛烈な撃ち合いも、最終局面に入ろうとしていた。

 ありのままの姿を剥き出しにしている改造人間の巨漢と、屈強な外骨格に身を包む生身の美女。
 全てが対極でありながらも近しい得意分野を持つ2人は、それぞれの得物を静かに向け合っている。

「……どうやらお互い、残弾は僅かのようだな。そろそろ……『決着』を付けるとしよう」
「えぇ……私も、あなたの顔はそろそろ見飽きたところですから」

 紅衛校の言葉に頷くG-verⅥは、ガトリング形態となっていたケルベロスをロケット弾を発射する「GXランチャー」に変形させる。
 さらに相棒の自動二輪(マシンGチェイサー)を遠隔操作し、車体の両側面に搭載された2基8門のミサイルランチャー「ギガント改」の発射準備を整えていた。
 対する紅衛校も、その筋骨逞しい肉体に巻き付いている弾帯ベルトを握り締め、愛用の重機関銃を構え直している。

 それは、「嵐の前の静けさ」だったのだろう。
 僅かな静寂が2人を包み込んだかと思うと――次の瞬間、彼らは同時に動き出したのである。残された最後の「火力」を、1発残らず残らず出し尽くすために。

「……ぬぅあぁあぁあぁあーッ!」
「……はぁあぁあーッ!」

 互いの絶叫すら掻き消す銃声と轟音の嵐が、この一体を席巻していた。
 紅衛校の重機関銃から解き放たれた凄まじい弾雨は、G-verⅥの重装甲すら徐々に削り取って行く。だが、その弾雨を掻い潜るように飛ぶミサイルも、紅衛校に「とどめ」を刺そうとしていた。

 ギガント改から発射された8発のミサイルが紅衛校の胸板に着弾する寸前、2丁のGXランチャーから放たれたロケット弾が飛び――ミサイルと同時に起爆。その爆炎は花のように広がり、紅衛校の全身を飲み込んでいた。

 「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)」と呼ばれる、G-verⅥの一斉砲火と。紅衛校の持てる弾薬全てを掛けた、最後の一斉射撃。
 双方の死力を尽くした壮絶な撃ち合いは、深く濃厚な硝煙を生み出し――彼らを包み込んでいたその煙が全て晴れた頃には、すでに決着が付いた後となっていた。

「はぁ、んはぁあっ、はっ、ぁっ……!」

 煙が風に流され、勝負の行方が明かされる。G-verⅥの扇情的な荒い吐息が、彼女の消耗を物語る。

「ど、どうだ……! その装甲とて……限界だろうッ……!」

 立っていたのは――紅衛校の方だった。

 鈍重なG-verⅥでは、「曼珠沙華」を仕掛けながら重機関銃の猛連射をかわすことは出来ず。彼女はその全弾を浴び、装甲を全て削り取られてしまっていたのだ。G-verⅥの全身に走る深い亀裂が、その絶望的なダメージを物語っている。

「あうっ……はぁあぁあっ……!」

 やがて――重機関銃の弾雨に耐え切れず、力尽きたように瓦解して行くG-verⅥの外骨格。その下に隠されていた絶世の美女が露わにされた瞬間、彼女は艶やかな髪をふわりと揺らして、膝から崩れ落ちてしまうのだった。

「はぁ、はぁっ、ん、くっ……!」
「ふ、ふふっ……良い格好だな、仮面ライダー。残念だったが、俺を黙らせるには数発ほど弾が足りなかったようだな」

 上気した貌で艶めかしく息を荒げ、女座りの姿勢で両手を着いている爆乳美女――水見鳥清音。紅衛校の弾雨によってG-verⅥの装甲を剥がされた彼女は、その美貌とあられもない姿を晒されていた。

 雪のような色白の柔肌。推定Gカップの乳房を包み込む、黒レースのブラジャー。安産型の巨尻にぴっちりと食い込んだ、Tバックのパンティ。鍛え抜かれ、引き締まった腹筋とくびれたウエスト。
 そのほとんどが容赦なく露わにされており、美しい長髪の先が、しとどに汗ばんだ肉体にじっとりと張り付いている。蠱惑的な香りを滲ませる汗が、白い乳房の谷間を伝っていた。

 そんな光景を目の当たりにすれば、誰もが紅衛校の勝利を確信するだろう。
 G-verⅥの装甲服を完全に破壊された清音自身も、その決着を受け入れざるを得なくなっていた。2mを超える巨漢の影が、へたり込んだ爆乳美女の身体を覆い隠すように伸びている。

 ――だが。「真相」は、違っていたのである。

「だが……見事な『火力』、だっ、た……!」

 紅衛校は最後に、清音が纏っていたG-verⅥの「火力」を認め――崩れ落ちるように倒れてしまったのだ。その際の轟音が、この戦いの「真相」を告げている。

 G-verⅥが重機関銃の弾雨を全て浴びていたように。紅衛校もまた、「曼珠沙華」の全弾を1発残らず全身で受けていた。
 両者の得意分野が同じだったように。鈍重故に回避行動には不向きであるという「弱点」もまた、共通していたのだ。

 なまじ体格が優れている分、紅衛校の方がより多くの直撃を受け、ダメージを蓄積させられていたのだろう。
 僅かな差だが――最後の最後で競り勝ったのは、G-verⅥこと清音の方だったのだ。

「はぁっ、はぁあっ、んはぁっ……!」

 晒された柔肌を衆目から隠すため、紅衛校が着ていた野戦服の上着を羽織った清音は、腰が抜けたように女座りの姿勢から動けずにいた。

 鎧を全て削ぎ落とされたことによる「死」への恐怖。その極限の緊張感が、まだ解れていないのだろう。
 激しく肩と乳房を揺らしている彼女は、桃色に染まった肌にじっとりとした汗を伝わせ、蠱惑的に息を荒げている。雄の本能を掻き立てる甘い芳香が、その汗ばんだ柔肌から滲み出ていた。

「……最後の瞬間まで、自分が満たされることしか頭にないなんて……どこまでも、哀れな人ですことっ……!」

 そんな彼女の双眸に滲む、深い憐れみの色は。闘争の世界でしか生きられなくなった、かつての少年兵を視るほどに、色濃くなっていた――。

 ◆

 試作量産型のスーツであるマス・ライダーのテスト装着員。
 その「代表」として仮面ライダーRCと対峙している山口梶は、満身創痍になりながらもしっかりと両の足で立ち、超えねばならない宿敵を見据えている。

「ヴ、ァア、アァアァッ……!」
「はぁ、はぁッ……! やっぱり、コイツのパワーは次元が違うッ……!」

 だが、圧倒的なパワーにモノを言わせる激しい殴打を立て続けに浴びていたマス・ライダーの装甲は、すでに限界に達していた。対して、濁った機械音を発し続けているRCはほとんど消耗していない。

 LEPを搭載している後方の兵員輸送車と、そこからRCに繋げられている制御コード。それが仮面ライダーRCの「弱点」であることは梶もすでに看破している。
 だが、いくら鈍重とはいえ易々と敵に背後を取らせるようなRCではない。制御コードの範囲内しか動けないと言っても、彼との接近戦になればマス・ライダーに勝ち目はないのだ。

 コードが届かない遠距離からLEPを攻撃しようと試みたこともある。だが距離を取った瞬間、RCは地面のコンクリートを引き剥がして投げ付けて来るのだ。
 その速度と威力、そして精度は凄まじいものであり、遠距離で戦うことも困難となっていた。制御コードの範囲内でしか動けない彼だが、その欠点を力技で補えてしまうほどのパワーがある以上、「弱点」を狙うことも叶わなくなってしまう。

 このままでは、疲れ知らずのRCに決定打を与えられず、力で押し切られるのは必至。その前に決着を付けなければ、マス・ライダーは役立たずという結果だけが残される。
 それだけは回避せねばならない。梶はその一心で思考を巡らせ――ある一つの「策」に辿り着く。

(……いいや、今さら何を驚くことがある? まともにやり合って勝てる相手じゃないってことくらい、戦う前から分かり切っていたことじゃないか!)

 否。それは、今になって辿り着いた「策」ではない。

 彼はそれ以前から薄々、その「策」でなければRCには勝てないと気付いていた。
 気付いた上で、気付かぬフリをしていたに過ぎない。

 ――どこにでもいる新人警官だった山口梶が、マス・ライダーのテスト装着員として選定されたのは。能力的にも人格的にも尖っている部分が無い、良くも悪くも「平凡」な人間だったからだ。
 「誰もが使える」ことを目指したマス・ライダーを装着する者としては、うってつけのモデルケースだったからだ。

 それは他ならぬ梶自身が、誰よりも理解していることだった。自分には特別な資質など何も無い、だからこそ選ばれた。本当に誰でも良かったから、選ばれたのだと。
 マス・ライダーのテスト装着員としての役割を全うするだけならば、それで良かったのだろう。だが、今に限っては違う。

 今の梶は、マス・ライダーの存在意義そのものを背負って戦っているのだ。誰でも良い、という程度の役割に甘んじるわけにはいかない。
 「まとも」であることを捨て、「一般人代表」という役割から抜け出さなければ、このRCに勝つことは叶わないのだ。そしてこのまま勝てなければ、未来そのものが閉ざされてしまう。

 それだけは許すわけには行かない。それ故に、この勝負から引くわけには行かないのだ。RCを超えた先にしか、マス・ライダーの未来はないのだから。

(俺は今まで……恐れていただけだ。分からないフリをしていただけだ。コイツに勝つには、「まとも」でいちゃいけないんだってことをッ!)

 その答えに辿り着いたマス・ライダーは――敢えて制御コードの範囲内に歩み出る。そして真正面から、小脇に抱えたワイヤーネットガンの銃口を向けるのだった。

「……来なよ、ガラクタ野郎。お望み通りの真っ向勝負だ……!」
「ヴ、ァア……アァアァーッ!」

 あまりに無謀な自滅行為。自暴自棄の果てに行き着いた、勝ち目のない無意味な行動。
 これまで交戦して来た人間達の戦闘データから、その「結論」を弾き出したLEPは――愚かな弱者に引導を渡すべく、制御コードを介してRCのボディに「とどめ」を命じる。

「ライ、ダァ……パァ、ンチッ!」
「ぐ、うぅうぅッ!」

 RCが濁った絶叫を上げ、容赦なく鉄拳を突き出したのはその直後だった。
 その拳が命中する直前、マス・ライダーもワイヤーネットガンの引き金を引き、RCの全身を網で絡め取って行く。

 そして、RCの鉄拳が直撃した瞬間。ワイヤーネットガンを握り締めたまま、マス・ライダーのボディは紙切れのように吹き飛ばされてしまうのだった。

「うぉおお……あぁあああぁーッ!」

 当たり前の結末だと言えるだろう。マス・ライダーの身体は容易く蹴散らされる雑魚のように、空を切って飛んで行く。

 ――だが、それだけでは済まなかった。

 彼はRCのパンチで吹き飛ばされながらも、ワイヤーネットガンを決して手放さなかったのである。
 その銃口から射出された網は、殴られた後もRCに絡み付いたままとなっていた。

 つまりRCは、マス・ライダーとワイヤーネットガンで物理的に繋がった状態のまま、彼を殴り飛ばしてしまったのだ。
 マス・ライダーの装甲服という鋼鉄の塊を高速で吹き飛ばしたことによる、凄まじい圧力。その全てが、RCの身体に絡んだワイヤーネットに掛かっていた。

 それほどの衝撃が掛かってもなお、ワイヤーネットが千切れることはなく。RCは自分が殴り飛ばしたマス・ライダーに引っ張られる形になったのだ。

 ――全ての制御コードを引き千切られてしまうほどにまで。

「……!? ア、ガァ、アッ……!」

 始祖怪人の中でも最強と謳われるほどの圧倒的なパワー。それを逆手に取られたRCは、文字通りの「糸の切れた人形」として倒れ伏してしまうのだった。

 結果的には、マス・ライダーの作戦勝ちと言えるだろう。だが、その「策」を仕掛けた彼の方も無事では済んでいない。

「あっ、ぐっ……うぁあぁっ……!」

 ようやくワイヤーネットガンを手放した彼は、仰向けに倒れたまま呻き声を上げており、そこから動けなくなっていた。

 自分を殴らせることによって、強制的にRCのボディを制御コードの範囲外に引っ張り出す、というこの作戦。
 これは、山口梶の両腕を犠牲にしなければ成り立たないものだったのだ。

 当然ながら、RCの制御コードが千切れるほどの衝撃は、ワイヤーネットガンとそれを握る梶の両腕にも集中する。
 そしてこの作戦を成功させるには、軸となるワイヤーネットガンから手を離すわけには行かなかったのだ。例え、両腕の骨が粉々に砕けることになろうとも。

 ――実のところ、梶がこの作戦に出る可能性については、LEPの想定内にも含まれていた。が、これまでのデータからLEPは、彼がその作戦を遂行し切ることはないと判断していたのである。

 LEPが過去に対峙して来た人間達は皆、極限状態の先に行き着いた結果、「我が身可愛さ」や「自暴自棄」の感情を殺し切れなくなっていた。
 それらのデータから、LEPは例え梶がこの作戦を実行に移したとしても、途中で衝撃と痛みに耐え切れず、RCの制御コードが切れる前にワイヤーネットガンを手放すだろうと分析していたのである。

 脆弱な生身の人間には、惰弱な精神しか宿らない。天地がひっくり返ろうとも、完全なるロボット兵器であるRCがそんな人間に負けることなどあり得ない。
 それがLEPの基礎思考であり、「誤算」の元となっていたのだ。マス・ライダーの性能諸元や、過去の装着者達のスペックは把握出来ても、山口梶という男の精神力までは見通せなかったのである。

「……へ、へへっ……! どうだ、案外馬鹿にならないものだろ……!? マス・ライダーはよっ……!」

 そして、マス・ライダーの――人間の底力を証明して見せた梶は。砕けた仮面の下で朗らかに笑い、四肢を投げ出すのだった。
 
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