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仮面ライダーAP

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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第5話

 
前書き
◆今話の登場怪人

戦馬聖(せんばひじり)/レッドホースマン
 シベリア抑留から生き延びた元日本兵を父に持つ、日系ロシア人の傭兵。現在は徳川清山が運営する傭兵会社に所属しており、レッドホースマンと呼ばれる怪人として戦っている。当時の年齢は28歳。
 ※原案はX2愛好家先生。

福大園子(ふくだいそのこ)/サザエオニヒメ
 環境汚染による疫病で家族と故郷を失って以来、新たな居場所を求めて戦地に身を置いている女傭兵。現在は徳川清山が運営する傭兵会社に所属しており、サザエオニヒメと呼ばれる怪人として戦っている。当時の年齢は26歳。
 ※原案は黒崎 好太郎先生。

◆ブリード・フラナガン/ブレイズキャサワリー
 ブルックリンのスラム街で生まれ育った元ストリートチルドレンであり、ベトナム戦争で瀕死に陥っていたところを徳川清山に拾われた過去を持つ。現在は徳川清山が運営する傭兵会社に所属しており、ブレイズキャサワリーと呼ばれる怪人として戦っている。当時の年齢は19歳。
 ※原案はMegapon先生。
 

 

 カマキリザードによってティーガーIを奪われたことで、国防軍の兵士達はさらに劣勢に陥っていた。が、ケルノソウルの火炎放射による森林火災と猛煙に視界を阻まれている彼らは詳細な戦況を観測することが出来ず、眼前の怪人達にのみ気を取られている。

 ここで即座に逃げ出していれば、ほんの数秒は命が続いていたかも知れない。だが彼らはもはや、その道すら見失っていたのだ。

「……な、なんだアイツはッ! 馬の怪物……なのか!?」
「くそっ、なんてすばしっこいんだッ!」

 2本の脚で戦火の大地を縦横無尽に駆け回り、飛び回る馬型の怪人。
 深紅のボディを持つその怪人は、人間と同じ5本指の手で一振りの両手剣(バスタードソード)を振るい、国防軍の兵士達を翻弄していた。

「……おいおい、ノロ過ぎてあくびが出るぜ。ここの軍隊は的になる訓練でもやってんのかい」

 レッドホースマンこと、戦馬聖(せんばひじり)
 戦後、シベリアに抑留されていた元日本軍兵士とロシア人女性との間に生まれたハーフである彼は、橋部や速猟と同様に偏見と差別の中で育って来た。

 幼少期の頃から異形と謗られて来た彼が、本物の異形――改造人間になることを躊躇する理由など、あるはずもなく。
 徳川清山の手で改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)と化した彼は、長きに渡り醸成されてきた憤怒をここぞとばかりに発露させ、兵士達を両手剣で次々と斬り倒している。

「ぎゃあぁあッ……!」
「誰の命だって、軽いもんじゃあねぇ。……それでも使い潰されるしかないってぇなら、せめてそこには『意義』がなきゃあならねぇんだ。……お宅ら、それを考えてみたことがあるのかい?」

 だが、少なくともこの頃は無慈悲な殺戮マシーンに成り果てていたわけではない。彼の脳裏にはまだ、亡き両親の無惨な最期が焼き付いていた。

 過酷な労働に斃れ、命を落とした父。その悲しみに暮れ、後を追うように病死した母。力亡き命をどこまでも軽んじる、時代という名の暴力。
 それを目の当たりにしながら育って来た戦馬にとって、死に「意義」を持たせることは何よりも優先されなければならない事項の一つとなっていた。両親の死は決して、吹けば飛ぶような軽い事柄ではないのだと、叫びたかったのである。

 怪人に堕ちた今でも、そんな想いに縋るように戦って来た彼だからこそ。死に伴う意義すらも踏み躙る国防軍の暴虐に、獰猛な怒りを爆発させているのだ。

 ――その頃、他の場所では。サザエを想起させる甲殻状の装甲で全身を固めた怪人を、何人もの兵士達が包囲していた。

 だが、突撃銃の連射を浴びてもその装甲には傷一つ付いていない。
 銃弾の嵐に見舞われながらも、サザエの怪人は悠然と炎の戦場を闊歩している。

「な、なんだコイツの装甲ッ……! 何発ブチ込んでもビクともしねぇッ!」
「くそッ、だったら手榴弾だ! 皆伏せろォッ!」

 ならば、破片手榴弾(グレネード)で吹き飛ばしてやるしかない。そう判断した兵士達の1人が、勢いよく手榴弾を怪人目掛けて投げ付ける。
 怪人の頭部に命中した手榴弾が、その場で爆ぜたのはその直後だった。が、爆発の中から現れた怪人は――全くの無傷。何事もなかったかのように、戦闘を再開している。

「お、おい……!」
「嘘だろ……!?」

 銃弾どころか、手榴弾すら通じない戦車並みの装甲。そんな強度の鎧がこの世に存在している事実に慄き、兵士達が後退りして行く。
 だが、サザエ型の怪人はすでに彼らに狙いを定めていた。決して逃しはしない、と言わんばかりの冷たい殺気が、その全身から溢れ出ている。

「……携行火器で私の装甲を破りたいというのなら、RPG-7を持って来るべきだったな。手榴弾如きが通じると思われるとは、この私も随分と安く見られたものだ」

 サザエオニヒメこと、福大園子(ふくだいそのこ)。右腕にサザエの殻を想起させる螺旋状の武器(ドリルアーム)を備えている彼女もまた――時代に翻弄され、改造人間となる道を選んだ1人であった。
 戦後、世界各地で顕在化した工業廃液による数々の環境汚染。それが引き金となった「疫病」は両親の命と、彼女自身の居場所を無慈悲に奪い去った。経済至上主義の風潮が、彼女の未来を殺したのだ。

 行く先々で偏見と差別に遭ってきた彼女は、徳川清山の誘いに乗り――改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)としての生き方に、己の存在意義を見出すようになったのである。
 強者の都合一つで、どこまでも弱者は搾取され、蹂躙される。国防軍の暴虐によってその「現実」を思い起こされた彼女は、左手の拳を静かに震わせていた。

「我々が望んでこの力を得たように、貴様達は望んで銃を取った。そして、この作戦に加担したのだ。……ならば、その『ケジメ』を付けねばなるまいな?」

 改造人間になったこと。殺しを稼業とする傭兵の道を選んだこと。
 全てが己自身の選択によるものならば、その「ケジメ」は己自身で付けなければならない。

 その信条に則り、彼女は無慈悲な殺戮に加担した国防軍の兵士達にも、然るべき「ケジメ」を強いるのだった。
 右腕の武器を高速回転させ、一気に兵士達の懐に飛び込んだ彼女は――薙ぎ払うように、その右腕の回転で兵士達の肉体を斬り刻んで行く。

「ぐっ、ぎゃあぁああぁあッ!」
「……痛いか? 苦しいか? ならばもっと味わえ、あの村人達の分までな……!」

 彼らの断末魔が絶え果てるまで、右腕の回転が止まることはない。抉られた肉体から飛び散る血飛沫と絶叫が、猛火に彩られた夜空を衝く。
 遠方からその状況を目撃していた隊長格の男は、無線機を握る手をわなわなと震わせながら、必死に部下達に指示を飛ばしていた。

「くッ……! 貴様ら、奴らとは距離を取って戦え! 飛び道具を使えない連中なら、遠くからッ……!?」

 レッドホースマンもサザエオニヒメも、近接戦闘用の武器で戦っている。この近辺に居る怪人達に飛び道具が無いなら、ひたすら距離を取って戦うしかない。

 だが、その判断が実を結ぶことはなかった。無線機を握り締めていた隊長格の頬を、何者かの「爪」が掠めて行ったのである。

「……飛び道具が、何だって?」

 それは、隊長格の位置を補足していた「新手」の怪人の仕業であった。
 青や赤を基調としたカラーリングと、炎を思わせる意匠を持った、2足歩行のヒクイドリ型怪人。その異形の怪物が、鋭い双眸で隊長格の男を射抜いている。

 踵に備わっているスパイク状の爪。このヒクイドリ型怪人は、それを射出して遠方の敵を狙い撃つことが出来るのだ。

「ヒ、ヒクイドリの怪物……!?」
「確かに俺達の中には、接近戦に特化した連中が多い。だが、それは飛び道具が無いってことじゃあない」

 ヒクイドリ型怪人――ブレイズキャサワリーこと、ブリード・フラナガン。
 ニューヨークのブルックリン区にあるスラム街で生まれ育ったストリートチルドレンだった彼もまた、生きるために改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)にならざるを得なかった者達の1人であった。

「……使うまでも無いのさ。歩兵同士の白兵戦となれば、俺達に負ける道理などないのだからなッ!」
「え、ええいッ! あの鳥野郎を先に潰せッ! 何としてもこちらに近付けさせるなァッ!」

 彼の存在を危険視する隊長格の指示により、兵士達は一斉に銃口をブレイズキャサワリーの方向へと向ける。
 だが、銃弾の雨を掻い潜って兵士達の眼前に飛び込んで来た鳥の怪人は、すでに再生していた踵の爪を薙ぎ払うように振るい、その蹴撃で彼らの肉体を切り裂いてしまう。

「ぎゃぁあぁあッ! た、助けッ――!」
「聞こえないなァッ! ……この戦火を振り撒いたお前達が、そうだったようにッ!」

 国防軍の兵士達が、ツジム村の悲鳴に耳を貸さなかったように。命乞いする彼らの絶叫に耳を傾けることなく、ブレイズキャサワリーは踵の爪を活かした連続回し蹴りで、兵士達の首を次々と刎ねて行く。

 ――スラム街での飢えに苦しむ日々から抜け出そうと、アメリカ陸軍に志願した彼はベトナム戦争で瀕死の重傷を負っていた。そんな彼を発見した徳川清山の改造手術が無ければ、彼はそのまま命を落としていたのである。
 人間の肉体を捨ててでも、何としても生き延びる。その生存本能に従い、これまで戦い続けて来た彼は今――初めて、命よりも矜持を優先していた。

 ツジム村の貧しい人々に、かつての己を重ねていた彼は。そのツジム村を焼き払った国防軍への憎悪に燃えているのだ。

「ひ、ひぃいッ……! こ、この化け物共がぁあぁッ……!」

 その光景に慄き、尻もちを付いてしまった隊長格の男は、脚を震わせながら森の奥へと逃げ出して行く。だが、ブレイズキャサワリーも他の怪人達も、彼を見逃すことはない。

 行手を阻む兵士達を1人ずつ、ゆっくりとすり潰しながら。彼らは確実に、砲撃の実行を命じた隊長格の男を追い詰めて行くのだ。

 ――然るべき報いを、受けさせるために。
 
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