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仮面ライダーAP

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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第3話

 
前書き
◆今話の登場怪人

山城一(やましろはじめ)/エインヘリアル
 太平洋戦争時、神風特別攻撃隊を指揮していた元海軍将校。現在は徳川清山が運営する傭兵会社に所属しており、エインヘリアルと呼ばれる怪人として戦っている。当時の年齢は70歳。
 ※原案は魚介(改)先生。

◆プリヘーリヤ・ソコロフ/ケルノソウル
 ソビエト連邦から母親と共に亡命する途中で撃たれ、死に瀕していたところを改造手術により一命を取り留めた少女。現在は徳川清山が運営する傭兵会社に所属しており、ケルノソウルと呼ばれる怪人として戦っている。当時の年齢は11歳。
 ※原案はリオンテイル先生。

橋部一雄(はしべかずお)/ミサイルイナゴ
 戦後、アメリカ軍兵士と日本人女性との間に産まれたハーフの傭兵。現在は徳川清山が運営する傭兵会社に所属しており、ミサイルイナゴと呼ばれる怪人として戦っている。当時の年齢は25歳。
 ※原案はダス・ライヒ先生。
 

 


 ツジム村を焼き尽くした煉獄の炎。その災禍を起こした戦車隊は、闇夜に紛れて迫り来る地獄の軍団に何発もの砲弾を撃ち込んでいた。が、人ならざる怪物の群れはその悉くを紙一重でかわし、戦車隊に肉薄している。

「馬鹿な……! 奴ら、我々の砲撃から生き延びていたとでも言うのかッ!?」
「ええい、撃てッ! 今度こそあの化け物共を、地獄の底に送り返してやれェッ!」

 徳川清山の科学力が生み出した怪人といえど、戦車砲の直撃を受ければタダでは済まない。彼らがツジム村もろとも滅されることがなかったのは、その直前に村を離れていたからに過ぎない。

 ――無辜の民間人を戦いに巻き込むわけにはいかない。
 それは人の身を捨てた今でも残されていた、一欠片の良心だったのだろう。その一欠片こそが、彼らの運命を変えていたのだ。

 そして、今。炎の海を目の当たりにした始祖怪人達は、最後の一欠片すらも捨て去り――人の体も心も持たぬ、羅刹と成り果てていた。
 生身の人間故に、異形を恐れ。その恐れ故に、蛮行を犯す。そんな人間の醜さの極致を目の当たりにした彼らは、確信を深めてしまったのだ。

 弱き人間の心では、力では。何一つ、守れはしない。この世界はどこまで行っても、力だけが全てなのだと。

「……生身の人間達ですら、人の心などとうに捨てているというのに。生身を持たぬ我々が、後生大事にそれを持っているのも可笑しな話……か」

 戦車隊に高速で迫る、異形の怪人達。その最後尾で同胞達を指揮していた野戦服姿の老兵――山城一(やましろはじめ)ことエインヘリアルは、赤く発光している鋭利な双眸で戦局を静かに見据えていた。

 生身の人間とさして変わらぬ外観を持つ彼だが、その「内部」に秘められた人工筋肉と強靭な外装甲は凶悪な怪人そのものであり――隠し切れない「怪物」としての正体が、ブレード状に変形した両手の小指に現れている。
 変身機能を伴わない常時怪人型である彼のボディは実験的に試作されたものであり、後年の改造技術の礎となった、「アーキタイプ」としての側面が強い。

 1945年に終結した、太平洋戦争の末期。当時の神風特別攻撃隊を指揮していた海軍将校だった彼は、時代に翻弄された多くの若者達に「特攻」を命じ、死に追いやってきた。
 その「報い」を受ける間も無く戦争が終わり、死に場所を求めて改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)と化した彼は――国防軍の所業に、「人間」としての「最期の怒り」を燃やしている。

「……橋部(はしべ)、ソコロフ」


 彼は最前線を疾走している2人の部下に対し、最後尾から静かに「報復」を命じていた。
 その指示に深く頷いた2人の怪人は、己の「異能」を戦車隊に向けて行使しようとしている。車内からその気配を察していた戦車兵達は、彼らの悍ましい外観に悲鳴を上げながら砲弾を連射していた。

「許せない……! 人でありながら、人の心を捨てるなんてッ! こんなこと、絶対に……!」

 人の顔が彫り込まれたカブのような頭部と、その下から生えている青白く細長い無数の腕。
 ケルノソウルという名を冠したその姿は、異形という言葉でも足りない、見る者を震え上がらせる悍ましい怪物そのものであった。

 ――が、その正体はプリヘーリヤ・ソコロフという11歳の少女なのである。母親と共にソビエト連邦から亡命する際、追手の銃撃により生死の境を彷徨っていた彼女は、徳川清山の改造手術によりこの力を手にしてしまったのだ。

 母親と死別し、生身の身体を失った今でもなお、人間として生きようともがいていた彼女だったが――国防軍の無慈悲な攻撃を目の当たりにした今となっては、もはや人の情すらも残っていない。外観通りの、怪物そのものと化している。

「俺達のような傭兵も、あいつらのような正規兵も……皆、生きるために相手を殺している。飯を食って行くために、殺し合っている。……だが、この攻撃にはその程度の『意味』すらねぇッ……!」

 人型のイナゴのような外観を持つ怪人――ミサイルイナゴ。
 その姿を持つ橋部一雄(はしべかずお)は、無意味な犠牲を生み出した国防軍の砲撃に煮え滾るような怒りを燃やしている。

 戦後、アメリカ軍兵士と日本人女性との間に生まれた混血児だった彼は、謂れなき差別から逃れようと傭兵の世界に身を投じ、徳川清山と出会い――改造人間となった。
 己の存在意義と価値を証明し、この時代を生き抜くために戦っている彼にとって、「命」の消費に見合うだけの「大義」もない殺戮など、決して許しておく訳にはいかなかったのである。

「はぁあぁあッ……!」
「行け、イナゴミサイルッ!」

 ケルノソウルが、その口から凄まじい火炎を吐き出すのと同時に。ミサイルイナゴは腹部から、イナゴを模した小型ミサイルを大量に連射していた。

「ひぃいいっ!? あ、あづい、あづっ……あ、あぁあぁあッ!」
「イ、イナゴ型のミサイルが……大量にッ!? ぎぃ、やぁあぁあぁあッ!」

 猛炎に飲み込まれた戦車の中で蒸し焼きにされた戦車兵達の絶叫が、この夜空に反響する。その高熱から逃れようとハッチを開いて身を乗り出した搭乗員達は、一斉に襲い掛かって来る小型ミサイルに肉体を吹き飛ばされ、僅か数秒のうちに無惨な白骨死体と化していた。

「せ、戦車隊が……一瞬で、たった2人に……!」
「化け物だ……正真正銘の、化け物だッ!」

 反撃する暇など与えない、速攻に次ぐ速攻。その猛襲を浴びた戦車隊は瞬く間に壊滅し、護衛に就いていた歩兵達を戦慄させていた。
 戦車の装甲はそのほとんどが灼熱に溶かされ、搭乗員達もイナゴ型のミサイルで全身の肉を消し飛ばされていた。まるで、イナゴに食い尽くされた獲物のように。

「……ええい、お前達怯むなッ! 死にたくなければ撃ち殺せッ! 奴らが来るぞッ!」

 それでも、部隊を率いている隊長格の男は士気の揺らぎを律するべく声を張り上げている。例え相手が人智を超えた怪物であろうとも、今さら命乞いなど通じるはずもない以上、戦わねば死あるのみなのだから。

「……逃げようとはせぬか。その理由、『誇り』故か『慢心』故か……見定めてやろう」

 そんな彼らを冷酷に見つめるエインヘリアルが、静かに呟く頃には。すでに歩兵達の前に現れた改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)達が、「総攻撃」の体勢に入っていた。

 もはや、逃げるか否かなど問題ではない。
 肉眼で視認出来る距離まで接近を許してしまった時点で――国防軍兵士達の運命は、決しているのだ。
 
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