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飲むと地が出た

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第二章

「主任会社に入る前と後は滅茶苦茶優しいんですよ」
「そうなんだ」
「いつも笑顔で。出勤の時同じ車両になった同期の娘がいつも何かと笑顔で優しく教えてもらっていて」
「そのことからなんだ」
「話題になって実際に飲んだり遊びますと」
 スタッフ達の面倒を世話焼きのレベルでしている清音を見ながらの言葉だった。
「こうなんですよ、特にお酒が入りますと」
「こうなんだ」
「地が出て」
「そうなんだね」
「お仕事の時は意識してです」
「クールなんだ」
「気を引き締めておられるみたいですが」
 そうしているがというのだ。
「地はです」
「こうした人なんだ」
「はい、クールで厳しく注意するのはお仕事だからですよ」
「普段はだね」
「凄く優しくて笑顔の人なんですよ」
「いや、意外だね」
 住友は首を傾げさせつつこうも言った。
「厳しくてクールと思ったら」
「まあ人間色々な面がありますから」
「素顔はこうした人ってことで」
「わかって下さいね」
「それじゃあね」
 住友は納得した顔で頷いた、そしてだった。
 清音の下で仕事していきアフターファイブも時々共に遥達と一緒に過ごす様になったが確かに仕事の時とそれ以外の時は別人だった。
 やがて清音が結婚して子供が出来てそれでも仕事を続け係長となっていた彼女の新居に遥や他の同僚達と共に招かれた時に彼女の夫と息子にこんなことを言われた。
「仕事の時もいつも親切で優しですか?」
「明るくて笑顔のお母さんだよね」
「いや、いつも助けてもらって褒めてもらって」
「僕こんな優しいお母さんでよかったよ」
「家庭では素顔のままなんだね」
「そうですね、まあお仕事の時はどうかは」
 遥は清音の夫と息子の言葉に少し苦笑いになった住友に笑顔で言った。
「適当にはぐらかしましょう」
「そうだね、まあ本当にね」
「お仕事の時とそうでない時は別の人ってことで」
「お仕事を離れるとそれが係長の地だし」
「そのイメージは壊さない様にしましょう」 
 彼女の家族のそれはと話してそうしてだった。
 二人も他の同僚達もそうしたところは言葉をはぐらかした、そして今はにこにことして人を褒めてばかりの彼女のことを話した、地の彼女のことを。


飲むと地が出た   完


                  2023・4・19 
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