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同盟上院議事録~あるいは自由惑星同盟構成国民達の戦争~

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【著名な戦闘】ヴァンフリート4=2防衛戦
  【著名な戦闘】ヴァンフリート4=2防衛戦(14)~アスターテ星域会戦への道~

 
前書き
「今日、交戦星域の国々とその友好国、すなわちサジタリウスの市民たちの反戦の連帯こそが、世界の安全を完全に崩壊させないことを保障します!国家の自由、人々、社会における多様性、不当な弾圧と侵略に対する安全を保障するのです!それこそが我々の!我々の子供へ!孫たちは捧げる未来の平和を守るための反戦であります!だが貴方達は反戦の名を掲げながら棄民政策をしようとしている!」(ヨハネス・スターヴ下院議員(労農連帯党、エル・ファシル3区選出)サンフォード政権予算案支持を表明する演説において、反戦市民連合議員に対し) 

 
794年 3月~4月19日 ヴァンフリート会戦
自由惑星同盟軍:戦術・作戦的勝利
グリンメルスハウゼン艦隊の包囲により敵主力を挟撃に成功。
なお艦隊包囲網は200隻の小規模分艦隊のかく乱と帝国軍主力の後退により失敗。
被害1500隻 死傷者16万5千人に対して戦果推定2500隻死傷者28万6千人
会戦の名をとっているが実態は小惑星帯を利用した防衛隊形をとり、双方とも決戦を挑むことはなかった。


 自由惑星同盟首都星バーラトの中心、ハイネセンポリスの軍大学病院でローゼンリッターの長は代替わりを迎えようとしていた。
「御加減いかがですか連隊長殿」
「貴様が連隊長だろう」
「発令は来週ですよ」
 シェーンコップが見るかつての『俗物と堅物のハイブリッド、すなわちクソッたれ』ヴァーンシャッフェ連隊長は左手と右足を失っていた。リューネブルクに敗れた代償だ。
「薔薇騎士連隊はリューネブルクのもの。俺は管理をし、そのままお前が受け継いだ、そう連隊では記憶されるのだろうな」

「『リューネブルクの連隊』を継承するのであれば、ですがどうでしょうかね。自分は連隊を担うにあたり、あなたが前任であった意味を、今少し精緻に評価しようと思うのです」
「そうか、あぁそうか。で、どんな評価だね」
「父が残した借金に追われて余裕のない長男と言ったところでしょうか。えぇだからといって次男坊以下が恨み言をこねくり回すのも致し方ないかと」
「手厳しいな」
 笑い声が響いた。シェーンコップは気がつく。この男と一緒に笑ったのは、あの男が逃げ出す前であったか。

「次は、イゼルローンか」
「連隊長交代で再編と訓練の期間を勝ち取りました。そうなるでしょう」
 随分死なせたからな、とヴァーンシャッフェは目を伏せる。シェーンコップは肯定も否定もしない。彼の戦術に対して異論を抱くことはあった。だがどうであれこの先達は連隊指揮官として責務を果たしたのだ。自分とは異なった視点と考えに基づいているが――それを理解しようと思った時には初老の大佐は手足を失っていた。
「初舞台でイゼルローンは不安ですか」
 いつもの反骨を少しだけ抑えて尋ねる。初老の大佐は頭を振った。
「前線でお前に不安を抱いたことはない、だが独立部隊の長となることは意味が違う。だがな――」
 後任が静かに姿勢を正すのを見てヴァーンシャッフェは言葉を継いだ。
「お前の気質には合わないだろうが私の持論として、嫌な上官相手に握手をしないことは、強さではなく。弱さを誤魔化しているだけだ。機知と反骨で飾ろうとな」
「・・・・・・」

「いやな思いをしても、何もかもを護れるものではないがね。万人に愛されることは誰にもできず。愛されるからといって死を命ずる悪夢から抜け出せるわけではない。暴力を管制する稼業とはそういうものだ。内輪にこもり、幻想で周囲を惑わすのはある意味この連隊の存在意義でもあろう。だからこそ、それゆえに抗う必要がある。そうでないと組織に纏わりつく幻想によって人が腐る。老兵の言葉だが、覚えておいてくれ」
 シェーンコップは敬意を込めて老け込んだ上官に頷いた。

「お疲れ様でした。オットー・フランク・フォン・ヴァーンシャッフェ大佐。連隊長の任を引き継ぎます」
「ワルター・フォン・シェーンコップ大佐。君とローゼンリッターに武運と名誉があらんことを」
 薔薇騎士連隊連隊長の引継ぎは円満に終了した。



 後輩が立ち去った病室にノックが響く。
「どうぞ」
 現れたのはどこか少女めいた金髪の女性であった。彼女の名をヴァーンシャッフェはよく知っていた。豊満な銀髪の女性軍人が側についている。
「やあフォン・ヴァーンシャッフェ准将閣下、お加減はいかがでしょうか」

「【クラカウ女公】ブリジット閣下‥‥!」
 畜生、バーラトのなんだかの公社で研究職員をやってるんじゃなかったのか、なんで俺の病室なんぞを訪ねるんだ。
「あぁよしてくださいな、今日は非公式だし、公式な場で重傷の英雄相手に礼を強制するのはなおさら問題になります」
 礼節の裏に含まれるものを嗅ぎ分けているのか否か、ブリジット女公は鷹揚に応じている。
 ヴァーンシャッフェが知る限り自分はまだ大佐だ。そして軍の前線に立つことはもはやない。であれば――
「あなたは同盟軍に対する権限はないはずですが」
 探るような口調にブリジットは薄く微笑した。
「私には何の権限もないよ。アルレスハイムの統領にして王冠の守護者、マリアンヌ姉上のメッセンジャーさ。より正確に言えばその”最も高潔なる枢密顧問官”達の助言と承認を経たお言葉だ」

「‥‥‥!」
 ヴァーンシャッフェは警戒するように『帝族』を見る。
「ヴァーンシャッフェ大佐にはアルレスハイム軍功二等勲章を贈呈される。それと同時に君をアルレスハイム軍に招聘したい。招聘後には、ヴァーンシャッフェ“准将閣下”を歓迎し、全アルレスハイム労兵レーテからもアルレスハイム人民英雄の称号が贈呈されるそうだ。うらやましいな、なあヤヨイくん」
 ブリジット女公がクスリと笑い、護衛らしい女性将校に目を向けると年若い中尉は気まずそうに眼をそらした。

「‥‥えぇと、はい」
 中尉が目を泳がせると女公は美しく微笑み‥‥
「ひぃん!」
 中尉は尻を押さえて跳ねた。
「中尉、中尉、祝福の場で言葉を詰まらせてはいけないよ。君にはあとで礼法をしっかりと叩き込んであげよう」
 さて、と女公は古びた大佐に向き直る。

「2年間は幕僚研究に勤しんでもらうよ。あぁ君が同盟軍士官学校の”院”課程も修了していることは知っているがね」
 要するに慣れろということなのだとわかった。だがそれでもこれだけは言わねばならない。このイゼルローン攻略作戦の準備段階ですら何人の地上軍将兵が
「なぜ私なのですか」

「君がローゼンリッターとして忠誠に殉じたからだ。生き残って武勲を立てたのだ。楽に死ねると思うな。祖国の歯車となるがいい。姉さんからの言葉をそのまま伝えよう。『貴方にも私にも国民の自由を守るには共同体たる国家の主権を守る義務があるの。憲政の範囲内でね、そして貴方は奇特にも献身的に振る舞ってしまったじゃない、簡単に逃げられると思わないことねー』だそうだ」
 困ったことに君も私もそうした義務を持つ立場なのだよ、と帝冠の守護者を姉に持つ女は笑った。



794年 10月~12月10日 第6次イゼルローン攻略作戦
自由惑星同盟軍:戦術的辛勝、作戦的・戦略的失敗
初動でヴァンフリート星系より出動した第8艦隊を陽動に第7・第9艦隊の回廊突入により
初動で前衛艦隊9千隻の包囲に成功するも3000隻程の艦隊により開囲される
ホーランド少将の追撃により前衛艦隊に痛打を与えるも決め手に欠き、下院選の投票前日まで包囲を続け、撤退する。
被害2000隻 死傷者22万人、戦果3000隻、死傷者推定36万人

同年12月20日バーラト・アテナイ・ホテル
サジタリウス商工会議所、公共発注に関する意見交換会 懇親会

 ジョアン・レベロは華美なホールを中央付近に好敵手にして同輩が若い女性と歓談している姿を認めた。

「やあジョアン」
ヨブ・トリューニヒトはいつもの魅力的な笑みをレベロへと向けた。
「やあヨブ」
レベロも笑みを浮かべて国防委員長とにこやかに会話をしていた女性をみる。
「こちらのお嬢さんは?」

「エオウィン博士だ。パランティア産労研究所の元研究員で我ら国民共和党の尊敬すべき党員だよ。今度の選挙で同盟弁務官の当選したばかりだ」

「ほほう、お若いのに大したものですな」

「はじめまして、レベロ財務委員長閣下。パランティア同盟弁務官の最新参ですがよろしくお願いします」
自由党党首としてではなく財務委員長とエオウィンは呼びかけた。それにも意味がある。そういう場である。
「博士、貴方から見て今回のイゼルローン攻略作戦をどう見ます?」
 レベロはにこやかさを崩さず、問いかける。
「ひとまず上手くいったといってよいのではないでしょうか?遠征能力に傷をつけるのが最善でしたが損害を抑えて政権不信を抑えることもできました」
 エオウィンは、そうでしょう?というかのように笑顔で首を傾げた。レベロもトリューニヒトも笑顔で頷き返す。双方ともに「最高評議評議員」の立場であればそう返すしかない。

「一息つけたよ、基地を保持できたおかげで損害を避けられた。基地は露見したが防衛した甲斐があったのだろう?」
「私も専門外だが制服組が言うには”足がかりが多数あれば敵も迷う”とのことだ」
 トリューニヒトとレベロが意見を同じくしている光景を周辺で歓談してた政財界の人間や記者達が面白そうに眺めている。
「なるほど、それでシトレが新進気鋭の後方幕僚を送り込んで成果を出したわけだ。パランティアではどう受け止められているかね?」
レベロは探るような眼でエオウィンを見る。シドニー・シトレはレベロが率いる自由党の色が濃い。トリューニヒトが人気を高め、エル・ファシルでは国民共和党トリューニヒト派の首相が政権を主導している。であれば自由党の党首として交戦星域で制服組トップの受け止められ方が気になるのは当然である。
 エオウィンはにこりと微笑んだ。
「パランティアは常に交戦星域の平穏を願っております。それは国家的常識の範疇であり政治・経済・民生のすべての要素において普遍であります」
「あの要塞さえ落ちれば、略奪者という汚水を流し込む蛇口を閉められます。 ですから我々は――」エオウィンは微笑を浮かべ、グラスを掲げた。

「明くる年こそ勝利を、そう願うのです」
同盟最高位を占める議会政治家達は新人議員と共にグラスを掲げ、唱和しつつ視線をかわした。
 ――彼女は同盟政界を生き抜けるだろうな。

795年 2月2日~14日 第3次ティアマト星域会戦
自由惑星同盟軍:戦術的敗北、作戦的・戦略的勝利
被害5900隻(約8割が第11艦隊に集中) 死傷者64万9千人、戦果4千隻、死傷者推定48万人
第一梯団に第5・第9・第11艦隊を動員。第二梯団に第4・6艦隊を動員。
総司令部、第二梯団の指揮のため後方に位置
ホーランド中将が否決された構想(浸透戦術)連携ミスにより浸透戦術を行ったホーランド中将が戦死
側面機動が行う第2梯団の到着により、撤退する。




795年8月28日~9月17日 第4次ティアマト星域会戦
自由惑星同盟軍:戦術的引き分け、戦略的勝利
被害6900隻 死傷者75万9千人、戦果 推定艦艇7000隻、84万人
第2・第10・第12艦隊を主力。第7艦隊を戦略予備として動員。
前回の戦術的失態から同盟軍は土地勘のある構成邦宇宙軍を偵察部隊として動員。第2艦隊は惑星レグニッツァにて帝国艦隊と遭遇戦になるもミサイルによる誘爆を相互に狙ったことで惑星嵐により戦場が混乱し先頭が本格化する前に互いに離脱。
会戦においてはグリーンヒル総参謀長下幕僚チームの提案で第7艦隊が帝国軍の後方連絡線を遮断すべく大迂回を行ったことで帝国軍が後退、ローエングラム伯の後衛戦闘により戦果拡張に至らず、同盟市民からは機動戦力撃滅の失敗を批判された。



796年2月4日~2月12日アスターテ星域会戦
同盟軍:戦術・戦略的大敗
被害1万5400隻(被害の8割が第4・第6艦隊に集中) 死傷者約200万人、戦果4千隻、死傷者推定36万人
自由惑星同盟軍、第一梯団に第2・第4・第6艦隊総計約4万隻を動員。同盟軍はこの数の利を活用した包囲殲滅を企図したが、第4艦隊は行軍隊形をとっていたところ、逆に数の利を生かした2方面攻撃により司令部を突かれ潰走。第6艦隊は側背を突かれ同じく艦隊旗艦狙いの突撃により潰走、第2艦隊の持久戦と駐留艦隊を糾合した総司令部が救援に駆けつけ、帝国軍艦隊は撤退した。




宇宙歴796年3月20日 同盟弁務官総会 安全保障委員会 第34委員会室 
 
「あ~、本日はアスターテにおける大規模戦闘、失礼、大規模戦闘の結果を踏まえた安全保障体制、および国防行政に関する調査を議題とし、質疑を行います。質疑のある方は順次御発言願います」
 アイランズ委員長は唇を舐め、その男の名前を呼んだ。
「‥‥アレークシン・リヴォフ君」
 怒りに燃える老弁務官がのそり、と立ち上がった。
 
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