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ヤドリギを集め

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第一章

                ヤドリギを集め
 ヴァルハラに帰ってきた主神ヴォータンを見てだった、神々は驚いた。
「ようやく戻られたと思ったら」
「グングニルは切られ」
「何という打ちひしがれたお姿か」
「あれでは余命幾許もない人だ」
「人間の老人ではないか」
「何があったのだ」
「旅の間に」
 誰もが彼を見て思った、だが。
 その目は何故か嬉しそうでだ、彼は神々に命じた。
「薪を積むのだ」
「薪?」
「薪をですか」
「そうだ、ヤドリギの木のだ」
 この木のというのだ。
「薪をな」
「あの」
 虹の神であるフローが隻眼の神に問うた。
「何故でしょうか」
「ヤドリギの木かだな」
「はい、それは」
「我等の木だからだ」
 ヴォータンはフローにこう返した。
「それ故にだ」
「我等の木ですか」
「ヤドリギには不思議な力が宿りな」
「そうしてですか」
「それにこの槍もだ」
 真っ二つに切られた自身の槍も見せて話した。
「そもそもだ」
「柄はヤドリギでしたね」
 雷の神ドンナーも言ってきた、美青年のフローとは対称的に大柄で逞しい身体つきをしていて手には鎚がある。
「貴方の槍は」
「まさに我等の木だ、そのヤドリギの木でだ」 
 それでというのだ。
「薪を作りな」
「そうしてですか」
「積み上げるのですか」
「これより」
「そうだ、ヴァルハラ中に積み上げ」
 そうしてというのだ。
「ローゲが戻るのを待つのだ」
「そういえばローゲは」
 神々の中で最も美しい姿をしているフライヤが言ってきた。
「もうです」
「わしの傍から去ったな」
「そうですが」
「かつてはブリュンヒルテの周りに置いていたが」
 炎の姿に戻っていた彼をだ。
「遂にだ」
「戻って来るのですか」
「ローゲにとってもだ」
 炎の神であるこの神もというのだ。
「縁のある木だからな」
「神であるが故に」
「そうだ」
 まさにというのだ。
「あの者にも相応しい」
「だからヤドリギですね」
「早く作るのだ」
 まさにと言うのだった。
「そしてな」
「積み上げて」
「ローゲを待つのだ」
「ですが」
 中年の女の姿の女神、彼の妻であるフリッカが言ってきた。
「それは」
「わかっている、もうだ」
「私達はですか」
「滅びることになった」
「黄昏の時が来たのですね」
「神々は滅び」
 そしてとだ、ヴォータンは妻に答えた。
「人の世が来るのだ」
「いよいよ」
「だからな」
「今はですか」
「ヤドリギの薪を積むのだ」
「そうしてですね」
「時が来ればな」
 その時はというのだ。 
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