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青行燈

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第四章

「私もいるんだよ」
「いや、まさか出るとは」
「わかったね、大阪の妖怪のことも私のことも」
「実際にお会いしたんで」
 楓は素直に答えた。
「わかりました」
「それは何よりだよ、じゃあそっちの兄さんにね」
「阪神優勝記念の本をですね」
「二〇〇五年のね」
 この時のものをというのだ。
「あげるんだよ」
「そうします、約束は守ります」
「そういうことでね、じゃあ私も食べに行こうかい」
 妖怪はパルコの方を見て笑って話した。
「中華バイキングを」
「そうされますか」
「これでも食べものには五月蠅いんだよ」
「グルメですか」
「大阪にいるからね、じゃあね」
「はい、これでですね」
「また会おうね」
 こうした話をしてだった。
 妖怪は二人に手を振って別れを告げた、二人も手を振り返してパルコに入る妖怪を見送った。その後で。
 楓は小林に向き直って彼に言った。
「それじゃあ」
「阪神優勝の記念本だね」
「二〇〇五年の」 
 この年のものであることを強調して言った。
「あげます」
「じゃあ約束だから」
「そういうことで」
「かなり貴重な本だよね」
「いや、あのシーズンは」
 楓は口をへの字させて言った。
「私まだ物心ついてなくて」
「僕もだよ」
「その目で見た訳じゃないんで」
 それでというのだ。
「実感としてです」
「知らないね」
「はい」
 そうだというのだ。
「どうしても。ですが」
「シーズン制覇まではよかったですね」
「最高だったよ」
 小林も否定しなかった。
「金本さんがいてね」
「兄貴さんが」
「それで投手陣がね」
 阪神伝統の彼等がというのだ。
「もうね」
「凄かったですよね」
「井川さんがいて」
 エースとしてだ。
「何と言ってもね」
「中継ぎ抑えのJFKですね」
「あの人達がいてくれて」
 道頓堀の方に向かって二人で歩きながら話す、流石にずっとパルコの前にいる訳にはいかない。二人の家はそれぞれ大阪にあるがそこまで帰る必要があるからだ。
「もうね」
「盤石でしたね」
「それこそだよ」
 小林は言い切った。
「無敵と言ってもね」
「阪神最強のシーズンだったかも知れないです」
「一九八五年も強かったけれど」
 日本一になった時である。
「バースさん掛布さん岡田さんで」
「バックスクリーン三連発ですね」
「あの時も強かったけれど」
 日本一になっただけにだ。
「けれどね」
「あの時も強かったですね」
「それで胴上げも」
「巨人に勝ってで」
「巨人に見せつけてね」
 全人類普遍の敵である邪悪そのもののチームに対してだ。
「そうしたよ」
「最高でしたね」
「けれどね」
 小林は肩を落として言った。
「それがね」
「シリーズではでしたね」
「その圧倒的な強さがね」
 阪神最強だったのではないかと思われるまでのというのだ。
「全くだったね」
「駄目でしたね」
「四連敗したよ」
「今も語られる位の負け方で」
「三十三対四とか」
 小林は項垂れて述べた。 
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