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エターナルトラベラー

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外典 【NARUTO:RE】 その4

壊された木ノ葉の里の再建にアオ達は休む暇もない日々を送っている。

その為イズミの輪廻眼や、アオ達の呪印の事などの確認をする暇もない。

日向一族はアオが里外に農業の為に建てた建物に集まり里の復興を手伝っていた。

一日の作業も終わり、夜中にアオを訪ねてくる数人の上忍。

応接室へと通すとお茶を出し向かいに座る男性達を見る。

真ん中に代表するように木ノ葉の里の頭脳である奈良シカク。左右にはたけカカシと数人の上忍が居た。

「それで、何の用ですかね」

背もたれに深く腰を掛けて尋ねるアオ。

その左右には当然のようにイズミとハナビの姿が有った。

「単刀直入に言う。日向アオ。お前を六代目火影に推挙する」

シカクがそう真剣な面持ちで切り出した。

「はい…?」

「へ?」「ほぉ」

五代目火影である綱手は先日のペイン襲来で命を張って多くの人間を助けたがその反動で弱り切りまだ意識が戻っていないらしい。

いつ意識が戻るのか、医療忍者でも確約は出来ず、このような里の状況にいつまでも火影不在は不味い状況で、他国とのパワーバランスを保つためにもすぐにでも次の火影が必要だと言う事らしい。

そこで白羽の矢が立ったのがアオと言う事らしい。

「おことわ…」

「まぁまて」

言葉を最後まで言えずに止められた。

「なんで俺?次の火影と言うならカカシさんこそ有力なんじゃないの?」

「オレはそう言う柄じゃないでしょ」

いやいやいや。

「正直、頭を使う仕事は俺や俺の部下が居ればどうにでもなる」

「じゃあ」

シカクさんが火影でも良いんじゃない?

「だがなぁ」

一度目を閉じて真剣な視線でアオを見つめた。

「こう言う時だから強い火影が必要だ。他国に舐められないようにな」

「強いって…」

「お前達、仙術が使えるだろ」

先日の戦いで流石にアオ達が仙術を使えるのがバレたらしい。

仙術は普通の忍者と隔する力だとシカクが言う。

「それならハナビとイズミも使えますよ」

「わたし達を巻き込まないで」

とイズミ。

「それと木遁も使えるようだな」

シカクがヤレヤレと続けた。

「木遁はヤマトも使えるでしょ」

ヤマトとは柱間の細胞に適応できた実験体だった過去のある暗部出身の忍で、何度かナルト達第七班の班長をしていた事で面識を持っている。

「仙術と木遁、この二つでこの里の忍が誰を想起するか」

無視ですか、そうですか。

「初代様ね」

とハナビ。

初代火影、千手柱間。

彼はその他者を凌駕する圧倒的な実力で木ノ葉の里を作り上げた偉人だ。

「けど俺は日向家ですよ」

千手一族では無い。小日向家はもともと日向家の分家だ。

「宗家の跡取りの婿と言うのもプラス材料だ。お前が火影にならば日向家の支援が強く受けられるだろう」

日向家の白眼は有用で、日向家から火影が出たとなればさらに一層の力添えが期待できると言う事なのだろう。

日向家は分家も含めれば猿飛一族に次ぐ人数の忍者を抱えていた。

「それと、イズミの事も守りやすくなる」

「く…」

嫌な所を付いて来る。

イズミはアオと結婚して日向家に入ってはいるが、木ノ葉の里の唯一のうちはの生き残りである。

うちはがクーデターを企んだと言うのは暗部やその頃上忍だった大人の忍は皆知っている事実だった。

「嫌われているわね」

とイズミが肩を竦めた。

「そうじゃないが、状況は複雑だ」

サスケが里抜けし、そのサスケも良い噂を聞かない。

先だって掴んだ情報では八尾の人柱力を襲ったと言う。

「アオくん」

諦めなさいとハナビ。

「実際、この里であなたより強い忍は居ないわよ。たぶん」

悔しいけれど、とイズミ。

「断定じゃないのね」

「ナルトに期待するのね」

確かにあの短期間で仙人の力を物にした人柱力であるナルトならアオを超える事も出来るかもしれない。

「ナルトはまだ若い」

そうシカクが言う。

「俺も若いつもりなんだけどね」

「いや、アオはすこし枯れている所があるわ」

「ぐは…」

ハナビの言葉が地味に刺さる。

「俺は面倒くさがりだぞ」

「そこは補佐をするオレ達の力の見せどころだな」

奈良シカクほどの知恵者がいろいろ悩んだ末の結論なのだ。

「はぁ…分かりました」



就任式は後にまわし、六代目火影として仕事に当たるアオ。

ハナビとイズミは当然の様にアオに付き添い事務仕事に追われ、折衝などの面倒事はシカクさんに丸投げ。

「アオくんってさ」

「なんだ」

と簡易テントで組んだ火影室の執務机の椅子に座り資料を眺めながらハナビに問い返す。

「面倒な事はしないと言いながら結構口を出しているわね」

そうイズミも呆れて言った。

「そうか?」

「そうよ。しかもなんか慣れているみたいに」

うーん…

「自分でも分からないんだがな」

そんな事をしていると雲隠れの里の死者が雷影からの念書を持って来里する。

雲隠れの忍から渡された念書を開いて確認するアオ。

「サスケねぇ…」

念書の内容は八尾の人柱力を連れ去ったサスケの処理を任せてもらうと言う事らしい。

「サスケくん…」

イズミも複雑そうだ。

「ま、無理だな」

「なぜですか」

雲隠れのサムイが言葉を返した。

「まぁ、色々有るのよ、色々と」

「どのような理由があるのですか」

食い下がるサムイ。

「一つ。確認方法が雑」

「はい?」

「家紋とか、容姿とか。そんなの変化の術でどうにでもなるでしょ」

アホくさとアオが言う。

「感知タイプの忍で確認した?」

「く…」

「雷影は直情的だなぁ」

「しかしっ!」

「二つ」

と指を立てるアオ。

「俺は日向でこいつはうちは出身なんだ」

「きゃ」

イズミを抱きかかえ嫁だぞ、と言うアオ。

「それがどいう理由になるのですか」

「日向は十三年前、お前達がした事を忘れていない」

十三年前。日向ヒナタの誘拐。

誘拐したのは雲隠れの忍者であるにも関わらず、誤って殺したその人物を理由に日向宗家の死体を要求した。

その要求に戦争を回避したい木ノ葉、そして日向家は屈し、しかしと日向ヒザシではなく日向ヒアシの死体を送った事件があった。

「いいか、立場を考えずに答えろよ」

一般論でな、と言い。アオがサムイを睨む。

「子供を攫った忍と攫った忍を殺した親。どちらが悪い?」

「く…」

「答えろよ」

アオの圧が増す。

「子を攫った忍です…」

「そう言う事だな。木ノ葉は我慢した。今度はお前たちが我慢しろ」

悔しそうなサムイ。

「とは言え、里抜けしたサスケを自由にし過ぎた。サスケは木ノ葉で手を下す。雲隠れは手を出すなと伝えてくれ」

「雷影様は受け入れません」

「ならば戦争だ。今度は双方もっと死者が出るだろう」

計算の出来る人物である事を願うと言い、アオはサムイを退出させた。

「よかったの?」

「ハナビ。まぁ日向の立場としてはね。俺の立場では突っぱねるしかないな」

そうしなければ火影を輩出した日向家の不満が爆発する。

「どうするのよ」

「まぁ、サスケをさっさと捕まえてしまうしか無いな。こちらの手に有れば下手な事は出来ないだろう」

「でもサスケくんはうちはよ。上忍ほどの実力に育っていたら捕まえるのは難しいわ。最悪こちらに死者が出るかも」

とイズミ。

「メンバーの選出が面倒だなぁ」

「あとナルトね」

そうハナビが肩を竦めた。

「ガキの説得は面倒だ。事後承諾だな」

「うわ、汚い大人が居るわ」

「じゃあイズミが説得してきてくれ」

「さて、仕事しようか」

手元の資料に目を移すイズミ。


サスケの件とは別に、最近各国を騒がせている暁の事で五影が集まる事になり、アオは護衛を二人だけ連れて鉄の国へと旅立つ。

「シカクさんは別として。わたしが護衛で良いんですか?」

とは旅支度を済ませたテンテンだった。

「里がこんな時にイズミとハナビを連れて行くわけにはいかないだろう」

「それもそうそうですね。それにアオ先生に護衛なんて必要ないでしょうから、誰が付いて行っても同じですし」

とテンテンは納得したよう。

「行くぞ」

シカクの合図で鉄の国へ出発。


二人を連れて鉄の国へと向かっていると森を抜け対岸へと渡る橋を背に見知った顔を見た。

「よぉ、サスケ」

「な、サスケくん?」

「うちはサスケか」

白眼を持っているアオに不意打ちは難しいと進路上で待ち構えていたようだ。

「まさかあんたが火影になっているとはな」

久しぶりの子弟の再開。しかしサスケの表情は険しい。

「まぁ俺にも色々有ったんだ」

お前が居なかった三年間にな、とアオ。

「残念だよ。かつての師を殺さなければならないなんて」

「どうした、サスケ。何かあったか?」

「何かあったかじゃないっ!オレは木ノ葉を潰す」

「なっ」「サスケくんっ!」

抜け忍になりイタチを殺したまでは復讐と誰もが分かる。

が、しかし。

今のサスケが言っている意味が分からない。

「オレはイタチの犠牲の上にのうのうと生きている奴を許さない」

だから、とサスケ。

「手始めに火影を殺す事にした」

こちらが三人と分かったのか、サスケの後ろにもう二人現れた。

後の尋問で重吾、水月と知るサスケの仲間だ。もう一人香燐と言う忍も近くに居るのだが、どうやら隠れているらしい。

なまじ強い力が有るからの暴論だ。

「まぁお前にも色々考える事が有るのだろう。師としては説得して止めるべきなのだろうが…こういうやつはもう止まらないな。自論で自分を覆ってしまっている。何を言っても聞きはしない」

はぁとため息。

「少しは説得するべきじゃないか?」

シカクが淡泊なアオに何とも言えない表情を浮かべていた。

「薄っぺらな言葉で、復讐は何も生み出さない。むなしいだけだ。お前の復讐がどれだけの悲しみをうむか知っているのか。復讐した先に自分が復讐される側になるぞ、とか?」

八尾の人柱力を襲った事ですでに他者からの復讐対象になっているが。

「お前が言うととても薄っぺらいな」

とシカク。

「そんな事を言って相手が次に何と言うと思う?」

「「そんな事は分かっている」とか」

「「お前に何が分かる」とかだろ」

アオとサスケの言葉が重なる。

アオに馬鹿にされたサスケの表情は鬼の様。

「ほら、な」

アオの言葉にシカクも肩を竦めた。

「もうサスケは止まらない。一度ぶっ飛ばしてやらんとね」

なので、とアオ。

「テンテン」

「は、はいっ!」

どうしてここで自分が呼ばれるのだろうとテンテンは驚きの表情。

「サスケをぶっ飛ばしてやって」

「えー、わたしがですか?」

「その為にお前を弟子にしたんだ」

「うわー。知りたくない事実っ!」

「グダグダだな…おい」

まぁ実際。

「俺の指導じゃ強くなれないと大蛇丸の所に走ったんだろ?俺が育てたテンテンとどちらが強いか」

「ふえーん、分かりましたよぉ」

半泣きのテンテン。

「重吾、水月、下がっていろ」

「サスケッ」

水月をひと睨みで下がらせる。

「下がるぞ、水月」

重吾が水月を連れて下がる。

「大丈夫なのか?相手は写輪眼を持っているのだぞ」

とシカク。

「テンテンの修行はイズミもみてましたからね」

写輪眼との戦い方は熟知しているとアオが言う。

アオとシカクも下がりサスケとテンテンが残る。

先に動いたのはテンテン。

ヒュヒュヒュと印を組むと合掌。

サスケは印を見切る写輪眼を持つが故か先手は譲った様だ。

「憑依口寄せ、『ミザル』っ」

「なんだ…その術は…」

見た事の無い術に戸惑うサスケ。

テンテンの目元に現れる紅い隈取。

両手には小さく紅い体毛。

「仙人化かっ!」

シカクが驚きの声を上げた。

テンテンは時空間忍術や口寄せ忍術に大きな適正を持っていた。

食没でチャクラ量を増やしどうにか仙術を覚えたテンテンだが、自分で仙術チャクラを合成する事は苦手なようだった。

その弱点を解消するのがこの憑依口寄せだ。

契約した仙猿を憑依させ、仙術チャクラを練ってもらいそれを使う。

ついでに静と動の役割分担も出来て一石二鳥。いや、憑依させた仙猿の術も使えるようになるので一石三鳥なのかもしれない。

本来これが仙猿との修行で得られる最終形態なのだろう。

「行きます」

そう言ったテンテンの眼は閉じていた。

写輪眼の幻術への対策だ。

しかし、ミザルは感知能力に長けている。目を閉じていても目を開けているよりも鮮明に周りを認識する。

「双昇龍っ」

テンテンは二本の巻物を天に向かって投げ、ジャンプ。

その巻物からクナイを次々に口寄せしてサスケを狙う。

「写輪眼っ!」

ギンと見開いたサスケの両目は真っ赤に染まり三つ巴の勾玉が浮かんでいた。

「そんな無暗な攻撃、うちはに通じると思うな」

鋭く投げ放たれる無数のクナイだが、写輪眼には通じず。手に持っていた刀で弾き、または最小の動きで避けられてしまう。

戦いの場は森へと移動し、ばら撒かれたクナイが木々や地面に突き刺さっている。

「火遁・豪火球の術」

ボウと放たれる巨大な炎弾。

「くっ」

堪らずとテンテンは巻物を蹴って地面に着地。持っていたクナイを投げつける。

「中忍試験から全く成長の無いヤツだ」

テンテンは中忍試験の折、この技を出したがテマリに敗北している。

「嫌な事を思いださせてくれるわね」

「お前になんて構っている暇は無い」

ツツとサスケの左目から血が流れる。

「天照」

それは必殺の攻撃だ。

瞳術ゆえに回避し辛く、燃やし尽きるまで消える事の無いと言う特性の黒い炎はくらえば致命傷だ。

「まぁ、当てる事ができれば、ね」

今のテンテンの感知能力は凄まじく、発火するであろうポイントに集まるチャクラの流れすら感じ取れている。

術が形になる前にテンテンの姿が消えた。

「っ!!どこだっ!」

写輪眼の洞察力の前にはいかな瞬身でも見逃さない自身が有ったサスケだが、事実彼はテンテンの姿を見失っていた。

「サスケッ後ろだっ」

仲間の叫びで地面を転がるサスケ。

クナイが地面に刺さる。

次の瞬間現れるテンテン。

「何っ!?」

テンテンの持つクナイを寸前で刀で弾くサスケ。

キィン

火花が散って一瞬均衡するが、仙人モードのテンテンの攻撃は自然を味方につけている。

「がっ…!」

大気が抉られるような圧に押されて吹き飛ばされるサスケ。

「火遁・豪龍火の術」

ボウと龍頭をかたどった火炎が飛んで来る。

更に加具土命で黒炎を発生さた黒い龍がテンテンに迫る。

掠っただけで必殺の一撃。

どうだ、とサスケ。

これならばあの消えた様な動きの正体が分かるはずだと写輪眼に力を込めた。

そして次の瞬間。

消えた?

どう言う事だ、やはり俺の写輪眼でも追えない?

「サスケ、また後ろだっ!」

「くっ…」

ころころと地面を転がるサスケ。

そしてクナイが突き刺さった次の瞬間、テンテンが現れてクナイを振るう。

キィン

しかしさすがの身のこなしで二回目も刀で弾くサスケ。

「ぐぅ…」

しかしまたも空気圧でサスケは膝から倒れた。

接近戦に持ち込まれては印を組めず。

サスケは天照で反撃。

しかし、発火するよりも速くテンテンの姿がまたもや消えた。

瞬身じゃない…瞬間移動の類だ…これは四代目の…

「飛雷神の術かっ」

くそ、それじゃああの大量のクナイはっ!

分かった所で時すでに遅い。

所かしこにばら撒かれたクナイ全てに飛雷神の術のマーキングが施されていた。

「くそっ!」

完全にテンテンのテリトリーだった。

もう印を組む隙もくれないか…

一呼吸の内に印を組み上げられるサスケでもこの状況でその隙をテンテンが見逃してくれるとは思えない。

「ふ…訂正しよう。中忍試験の時よりお前が一番強くなった…だがな」

再び死角から投げられるクナイ。

「俺はうちはだ」

サスケの体から漏れ出した禍々しいチャクラ。

存在を得たチャクラが巨大な骸骨の上半身を作り上げ右手でクナイを掴む。

「なっ!きゃあっ」

飛雷神の術で現れたテンテンに巨大な左手が襲い掛かる。

一瞬の判断の遅れでその拳を受けて吹き飛ばされるテンテン。

「なんだアレはっ!」

「須佐能乎だな。使えていたのか」

シカクの言葉にアオが答えた。

「これがうちはの力だ。後悔して死ね」

素早く肉付いた須佐能乎は大きな弩のような物を持ち既に引かれていた。

テンテンはダメージによる集中力の乱れで飛雷神の術は難しい。

すぐにテンテン印を組み上げると一度憑依口寄せを解除した。

巨大な弩がテンテンに着弾し砂煙を上げる。

「あはははは。あんたが一人で戦わせるから死んでしまったぞ」

とサスケ。

「それはどうかな」

「何?」

砂煙が晴れる。

「憑依口寄せ、『イワザル』」

イワザルは金剛の体を超えた硬さを誇る仙猿だ。

その防御力は並大抵の攻撃では傷一つ付けられない程強固だが、弱点も多い。

体重が重くなり、ほぼ動けないのだ。

「くそっ!」

二発、三発と弩を放つサスケの須佐能乎。

テンテンはイワザルを解除すると飛雷神の術で移動し、再び印を組み上げた。

「どこだっ!」

と首を振るサスケ。

瞬間移動である為にいかなサスケと言えど見失いその眼で探さなければならない。

「憑依口寄せ、『キカザル』」

ドンとチャクラが弾けた。

キカザルは鬼化猿(きかざる)と書く。

この口寄せは視猿(みざる)、岩猿(いわざる)、鬼化猿(きかざる)の順番で呼ばなければ使えないテンテンの最終奥義だった。

テンテンの姿はさらに猿化が進み、体毛が増え、紅い尻尾が生えている。

「くそぉっ!」

焦りからかサスケの須佐能乎がさらに力強さを増した。

修験者のような鎧を着こみ、右手には加具土命で形態変化させた天照の剣が握られている。

互いに地面を蹴り、激突。

振るわれる剣を飛雷神の術で避け、返す拳で須佐能乎を殴りつけるテンテン。

「はぁっ!」

絶対防御と誇る須佐能乎を殴りつけたテンテンはその拳で打ち砕く。

彼女の体術はガイの指導で十分に達人の域に達していた。

須佐能乎は強力な術だが、その堅牢さを打ち砕けるだけの威力を持った体術使いに接近されると攻撃が大ぶりな分途端に須佐能乎が不利になる。

「火遁・鳳仙火の術」

ボウと吐き出される無数の炎弾。振るわれる須佐能乎の剣。

須佐能乎を纏い距離を取らせたいサスケは強力な雷遁を使う暇がない。

「はぁっ!」

それを逆手に取ったテンテンは飛雷神の術を使い再び近距離に潜り込み殴る殴る殴る。

今のテンテンの体術の強さを比較するならば、八門遁甲で第六門『景門』を開いたガイに匹敵する。

「ガイ先生、技をお借りします。…朝孔雀(あさくじゃく)」

拳の連打が空気の摩擦で発火し炎を巻き散らしながら須佐能乎を破壊していく。

「うぉおおおおおおおおっ!」

「サスケェーーーーっ!」

サスケと香燐の絶叫。

どこかから駆け寄っていく香燐に影が伸びた。

「おっと、動くなよ」

シカクの影縛りの術だ。

「くっ」

悔しそうにうめき声が漏れた。

テンテンの拳は須佐能乎の鎧をはぎ、肋骨を折り、ついにはサスケへと到達。

「はぁーーーっ!」

渾身の力で殴り飛ばした。


「かは…っ……」

ついにサスケは意識を失い地面を転がる。

「強かったんだな…お前の弟子は」

とシカク。

「仙術は使えるとは言っても仙術チャクラを練るのは下手くそですし、得意な忍術は時空間忍術や口寄せと変わってますよね」

「四代目火影の逸話もある。飛雷神の術は勇名だな」

「もともとサスケを凹する為に修行させたと言うのも有りますね。仮想敵の練習は積んでます。今回は相手に上手くハマっただけです」

「ちょっと、師匠ならちょっとは褒めてくれても良いじゃ無いですか」

「よくやったぞ、テンテン」

「もう。心がこもってなーい」

「テンテンっ!」

サスケを見ていたアオが異変に気が付く。

「はっ!」

サスケの真下から何やら巨大なハエトリグサのような物が伸びて来てそのままサスケを引きずり込んで潜り込んでいく。

「白眼っ!」

地中を透視するが、その移動速度は速く、追いつけそうもない。

「逃げられたか」

「ええ、他の二人もね」

重吾と水月は戦況が不利になった瞬間、加勢するよりもサスケは殺されないと踏んで奪還の為に既に撤退していた。

「まぁ、尋問はこいつだけで十分か」

「ひっ…」

「サスケは捕まえておきたかったのですがね」

「そう思うならお前が動けば済んだことだ」

「いやぁ…意趣返しに夢中で…すみません」



香燐を木ノ葉の里の暗部を呼んで引き渡すと時間もない事と先を急ぐ。

鉄の国の侍大将ミフネを囲むように各国の影達がその被った傘を置く。

その数は五つ。

アオのそれには火の文字が刻まれていた。

「ふん、火影までこんな青二才に代替わりしていようとはな」

とは雷影の言葉だ。

「会議は始まる前に火影に言っておく事が有る」

とても威圧的に睨む雷影。

「どうしてうちはサスケの討伐の許可を出さない」

「あー、それですか。まぁ…ほら、俺は日向ですからね」

「ぬ」

どう言う事だとどよめく他の影達。

アオはため息を吐きながらサムイに話したのと同じような内容を口にした。

「そりゃお前の言い分は通らんじゃぜ」

と土影。

「我が里で同じような事が有れば俺自身どう思うか明白だ」

そう風影が言う。

「私達はそう言う時代からは脱却したいのです」

水影も言う。

ここに雷影に賛同する者は自里の者以外居なかった。

ガンと机に拳を下ろす雷影。

護衛が一斉に戦闘態勢を敷き一触即発だ。

「ふぅ…話を続けるぞ」

どうやら沸騰した怒りより最後の理性が勝ったらしい。

机の犠牲で五影による会談が続く。

集まったのは世界を騒がせている暁の事について。

既に各里の人柱力は狩られていて、残った人柱力は九尾の人柱力であるうずまきナルトだけと言う状況。

そこに現れる仮面をした何者か。

その誰かは自分をうちはマダラと名乗った。

雷影が率先して先ほどの怒りをぶつけるかのようにマダラを攻撃するが、すり抜けてしまう。

「むだだ、俺に攻撃は通用しない」

「すり抜け…時空間忍術の一種か」

シカクさんがそう呟いた。

話をしに来ただけだと言うマダラに敵の思惑を知りたい影達は攻撃の手を止めた。

マダラの要求は一つ。八尾と九尾の人柱力を差し出せ。

そうして十尾を呼び出して無限月読なる幻術で人類をコントロールし、結果世界を一つにして世界平和を叶えると言う。

幻術に掛けられると言われて納得する者など無く。

ならばと第四次忍界大戦と忍連合軍の発起が決まった。

そう言えば八尾の人柱力は生きているらしいのだが、雷影は謝らないらしい。

もろもろの話し合いの結果わだかまりを捨てて結束。雷影を総大将として暁と戦う事になった。

狙われている八尾と九尾の人柱力は隠す事にしたらしい。

まぁ取られれば世界が終わるのだから妥当な判断だな。


木ノ葉に帰るとアオはまた机の上で頭を悩ませる。

「あのクソ雷影。敵アジトの発見と偵察を木ノ葉に振るとはな」

バサと届けられた書状を机に投げた。

「でも妥当な判断だわ。木ノ葉には犬塚、油女と探知探査に向く一族が多いもの」

とイズミ。

「そして日向もね」

そうハナビ付け足した。

「わざと言わなかったのに」

「ありがとう、イズミ」

ハナビはイズミの心遣いに感謝した。

はぁ、とアオ。

「戦争だ。戦死者が出ない、なんて事は無い。だが、一番に日向一族を送る事になるのはな…」

「しょうがないわ。だから、わた…」

「私が行きましょう」

ハナビの言葉を遮ったのは火影であるアオの護衛にと控えていた日向トクマだ。

「トクマ」

トクマは修行の末、白眼を開眼し使いこなしている日向の名を許された分家の人間だ。

「宗家のご家族を一番に戦場に出しては分家の恥」

「それはわたしも入っているのかしら」

と呟いたイズミ。

それを聞いたトクマは勿論と頷く。

それを見たイズミは困ったように俯いた。

「今は分家とか宗家とかは関係ないじゃない」

「いいえ。私が行きたいのです。どうか」

ハナビの言葉に頑な態度で返すトクマ。

「ごめんなさい、トクマ」

「ハナビさま。こういう時はありがとう、と言うのですよ」

「…ありがとう。トクマ。そして死ぬ事は許さないわよ」

「善処します」

「そこは必ずと言う所だわ」

「……ええ、必ず」


九尾の人柱力であるナルトは生態調査の極秘任務との嘘を吐き、自来也を伴って雷の国、雲隠れが所有する島亀に送る。

自来也が付き添うのは九尾のコントロールの修行を見るためだ。

完璧な人柱力と言われる八尾の人柱力であるキラー・ビーが一緒ならその極意を習得できるかもと言う打算もある。

探索メンバーを選抜し国家間の垣根を越えた探索チームを出立させた頃、綱手の容態が回復し意識が戻ったようだ。

「綱手様」

綱手はベッドの上ではなく椅子に座りかつ丼のようなハイカロリーの食べ物をこれでもかとかき込んでいた。

「んぐっぷはぁ」

お茶で無理やり飲み込んだ綱手がこちらを向いた。

「まさか次の火影がお前とはな」

「いやまだ正式に任命式は終えて無いんで、面倒…」

「いや」

と綱手に言葉を遮られるアオ。

「コロコロと火影が変わるのは里にとっても良くない」

「えー…」

「それに、戦争の事はシズネに聞いた。私が火影じゃない方が存分に後方部隊の掩護に回れる」

「確かに、綱手様が戦場で動かれる方が戦死者は減りますね」

火影と言うのはそう簡単には戦場へは出られないものだ。

その後、回復した綱手を伴って里の上忍を集めて戦争の段取りの為の会議がしばらく続く。


その合間、ようやく時間が取れたアオ達はいつもの修行場に居た。

ペインの襲撃以降バタバタし通しであの時のアオやハナビの呪印、またイズミの輪廻眼の事の確認が出来ていなかった。

「今でこそ落ち着いているけれど、結構ショックだったのよ、わたし」

とイズミ。

「そうか、そうだよな」

輪廻眼なんてものを開眼したのだ。それは結構な衝撃だっただろう。

「自来也様が長門…ああ、輪廻眼を開眼していた弟子なのだけど、その彼が開眼したら元に戻った所を見た事が無いって」

ん…?

「それを聞いてからもうダッシュで鏡の前よっ」

「ぷぷ、あの時のイズミ、面白かったわ」

とハナビが思い出し笑いをこらえていた。

「ただでさえわたしはもうわたしの目が黒い内はとか使えないのよ?その上一生水色のグルグルの目なんて言われたら、死ぬわ、わたし。自害してるわ」

イズミの両目は白眼に戻っている。

「イズミ?」

「ひぃっ!白眼最高っ!いぇいいぇいっ」

ハナビに睨まれてふぅと深呼吸するイズミ。

「それで?」

「ああ、輪廻眼ね」

ハナビがおっかないのかイズミはアオの振った話題に食いついた。

「変化させることは出来るわよ。写輪眼の要領でね」

と言うとやって見せるイズミ。

「へぇ。じゃああのペインが使っていた術も使えるの?」

「それがそう言う訳じゃないみたいなのよ」

ハナビの質問にイズミはうーんと答えた。

「あれでしょう。あの術を吸収したり相手を突き飛ばしたりしたやつ」

「そう」

「なんかそんな事は出来なさそうなのよね」

輪廻眼開眼者が使えると言う六道の術。

しかしそれらは副産物に過ぎない。

あの紫色の輪廻眼は六道仙人への先祖返りだ。

六道仙人のチャクラを宿したその輪廻眼は彼が使えていた神術を六道の術として記憶していただけで、本来の輪廻眼の能力は時空間瞳術だった。

イズミの輪廻眼は大筒木ウラシキから移植された物であり六道仙人への先祖返りでは無いために六道の術は使えなくて当然なのだ。

「ただ…」

そう言うとイズミは印を組み上げた。

「水遁・水龍弾」

「イズミ、いつの間にこんな水遁を?」

「輪廻眼の状態だと五大性質変化を不得意なく使えるみたい」

「へぇ、便利じゃない」

「ウラシキは未来が視えるとか言っていたが」

「そう言う感じじゃないわね。扱え慣れてないからまだ何とも言えないのだけれど、ただ…」

「ただ?」

「この状態だと写輪眼の能力が使えないのよね」

「そうなの?何か問題が?」

とハナビ。

「大ありだわ」

「ちょっとイズミ、白眼のわたしには分からないもの」

「あ、ごめんなさい」

ふうと一息つくイズミ。

「写輪眼の見切りの力やコピー能力が使えないの。あと万華鏡写輪眼の能力も」

「それは問題ね…問題…かな?輪廻眼の方が強い…んじゃないの?六道仙人の眼でしょ」

「あー、もう伝わらなくてモヤモヤするわ」

イズミの中では輪廻眼と写輪眼は写輪眼の方が使い勝手が良い様だ。

「あれ、じゃあ写輪眼は」

「それは問題なく使える」

輪廻眼から写輪眼、万華鏡写輪眼へと切り替えるイズミ。

「戦闘中は適宜切り替えて使う他ないわね」

「ちょっとまってイズミ」

「なによ、ハナビ」

「じゃあイズミは白眼、写輪眼、輪廻眼と三大瞳術と呼ばれたそれを全部使えるって言うの?」

「あ、そうね。そうなるわね」

「ずるーい。イズミ、流石にそれはズルと思うわ」

「そんな事を言われても…わたしの事はこんな感じかな。だからハナビは?あの呪印は?」

と話題を変えるイズミ。

「ああ、あれね。以前も何度かなったけど、最近ようやく自力で発動できるようになったのよ」

みててとハナビ。

額の◆から幾何学模様が伸びる。

「これは…」

ハナビのそれに共鳴するようにアオの◆からも模様が刺青の様に伸びていく。

そしてハナビの瞳は輝きを増し剣十字が重なって輝いていた。

「転生眼」

「アオ、なんて?」

「いや、なぜかその名前が出て来た」

何故か分からないが、とアオ。

「へぇ、転生眼、ねぇ。いいじゃない。その呼び名がしっくりくるわ」

とハナビ。

「何が出来るの?」

「うーん、難しいんだけど…こんな感じ?」

ハナビは手のひらほどの石を持ち上げると眼を一度閉じ、しっかりと見開いてその石を見る。

「わ」

イズミの驚きの声。

それもそのはず、ハナビの手の上で石はカエルに変化し、ピョンとハナビの手から飛び上がって逃げていく。

「これは…石に生命を与えている…のか…?」

「凄いじゃない」

とイズミ。

「でも戦闘では役に立ちそうにないわね。それとイズミと同じようにこの状態だと白眼の能力は使えないのよね」

「まぁ戦闘中にそこまで重要になる能力じゃ無いし、デメリットは無いのでは?」

「イズミー?」

「ご、ごめんなさいっ!!」

日向の柔拳は白眼ありきの体術だからね、一応。

………ハナビの沸遁モードでは関係ない気もするとは言わない。

「だが、ハナビのそれはまだ完成に至ってないようだぞ」

とアオ。

「アオ」「あなたねぇ。そんな物を隠していたのね。日向家のくせに」

「ん?」

良く見ようと思ったのが間違いだったようで。

この状態のアオは写輪眼、それも万華鏡写輪眼を使っていた。

二人の瞳の中の自分を見る。

「桜守姫(おうすき)か」

万華鏡の模様からアオはそう呟いた。

その眼でハナビの◆…ウラシキが楔(カーマ)と言ったを見る。

それは書き込まれた者を長時間掛けてその楔に書き込まれた情報を解凍して行き、最終的には楔に打ち込んだデータの人物に書き換える転生呪法のようだ。

だが、ハナビのそれは他者の意思までは書き込まれてい無い様で、単純に力を与えている側面が強い。

このまま解凍されても人間を逸脱する事にはなってもハナビじゃ無くなる心配は無い。

一安心か。

桜守姫で解析した楔をハナビに伝える。

「へぇ、そんな事が。それで転生眼を開眼したのね」

「それとその状態だと六道ペインの忍術を吸収したやつのような事も出来るようだ」

「何それ、ずるい。わたしの攻撃の殆どがハナビに効かないって事じゃない」

イズミが言う。

「そうでも無いぞ。吸収できるのはチャクラ由来の物だけだ。物質操作系の忍術は吸えない」

「輪廻眼なら何とかなるって事ね」

水遁や土遁などの地形操作系の忍術。イズミは輪廻眼の状態じゃないと難しいらしい。

「それでアナタ。まさか写輪眼だけって訳はないわよね。じゃないとおかしいもの」

すっとイズミの目が細められた。

「確かにアオくんは瞳術に詳しすぎるものね。それこそ自分が使えるみたいに」

と言うハナビの言葉にアオは降参。

一度目を閉じると再び開いた眼は蒼銀に波紋を打ち、巴模様が幾つも重なっている。

「輪廻眼…」

「いいえ、輪廻写輪眼ね」

アオ自身は忘れている事だが、この輪廻写輪眼は十尾のチャクラを吸収し、外道魔像を封印した事で開眼した。

この世界で有り得るはずの無い矛盾。

アオの輪廻写輪眼の能力は三つ。

正確には輪廻眼で使えるようになった能力が一つと輪廻写輪眼でしか使えない能力が二つだ。

輪廻眼の能力を伊斯許理度売命(いしこりどめのみこと)、正確には日像鏡(ひがたのかがみ)と日矛鏡(ひぼこのかがみ)の二つを合わせて伊斯許理度売命(いしこりどめのみこと)と言う。

輪廻写輪眼の能力をシン・イザナギとシン・イザナミの二つ。

「これであなたが写輪眼に詳しい理由が分かったわね」

「本当、アオくんにはもう少し日向家であると言うプライドを持って欲しいわ」

とイズミとハナビが言う。

「それで、あなたの楔には誰かの意思が有るのかしら」

転生眼でアオを覗いたハナビの言葉にイズミも輪廻眼でアオを見る。

「俺がアオなのかと言う問いならばそうだと答える。だがそれが誰かでは無いかと言われれば分からない。なんせ俺が俺と認識したのは九尾襲来事件の有った日で、それより前の記憶は無い。だから、もしかしたら…」

誰かの意識を乗っ取ってしまったのではないかと言う疑問は解消されない。

しばしの沈黙。

「アオ。わたしはあなたが誰かに乗っ取られてしまったら、それはきっと必死になって元に戻すわ。でもそれは以前の…記憶をなくす前のあなたと言う事じゃ無いの」

だってとイズミ。

「わたしが知っているアオは今のあなたなんだもの」

イズミがアオに抱き着いた。

「…そうね。わたしもそう思うわ。知らない誰かを可哀そうとは思わない。貴方が居なくなる方がイヤだから」

そう言ってハナビも反対側の腕を取った。

「………ありがとう。二人とも」

二人のやさしさに、アオは絶対にこの二人を守ると心に誓った。


忍界大戦の開戦は刻一刻と迫っている。

調査隊からの報告から本拠地と、敵戦力の詳細が送られてきた。

敵の戦力はよく分からない人間ほどの大きさの人型生態兵器。

その数10万。

対して忍連合は8万。

数の上では負けていた。

アオ、イズミ、ハナビとテンテンは本部に詰めている。

参謀であるシカクも忙しそうに資料とにらめっこしていた。

「なんかわたし凄く働かされているんですけどっ!」

テンテンが声を上げた。

「飛雷神の術をここまで使える忍者をどうして遊ばせておけようか」

とシカク。

あちらこちらに飛雷神の術で行ったり来たりさせられているテンテンが言葉を詰まらせた。

「うぐぅ」

マーキングした所、その物体へと飛べる飛雷神の術は長距離を繋ぐのにすごく便利な能力で、そんな物をシカクに見せれば当然こうなる。

「アオ先生も使えるんですが…」

「火影を顎で使う訳には行かないだろうが」

「とほほ…」

「誰にでも出来る事じゃない。誇っていい事だぞ」

「それは分かりますけれど…」

「お前が強いのは知っている。見たからな。だが、今すぐに戦場にお前を送るのは愚策と言うもの。俺を愚か者にはしないでくれないか」

万華鏡写輪眼のサスケを圧倒したテンテンの実力は折り紙付きだ。

しかしそれも飛雷神の有用性の前では霞む。

「分かりましたよぉ」



そして遂に忍界大戦の口火が切られた。

相手はゼツと呼ばれる人造兵器およそ10万。

本部には多くの情報が入って来る。

「死者が混じっている?それは確かか」

「はい。過去の名のある忍を複数確認しました。彼らの死亡記録はしっかりと残っているものばかりです」

「これは…」

言葉を詰まらせるシカク。

「穢土転生だな」

とアオ。

「エドテンとはなんだ」

雷影が厳しい視線をシカクに送る。

「死者を浄土から呼び寄せて縛る、木ノ葉の里の禁術です」

まぁ二代目火影の卑劣な技だとは言えないはな。

「また木ノ葉か」

呆れた様子の雷影。

「この技は術者を見つけて解呪させるしか解く方法がありません。そうしなければ死者は死なずに再生されてまた襲ってきます」

「厄介だな、対処法は」

「術者を見つけられていない以上、封印術で一人一人封印するしかありません」

「すぐに封印班を用意しろ。いそげ」

「はっ」

と雷影の側近たちが消える。

直情的な雷影だが、こう言う即断は褒めるべき長所だろう。

「わたし達が…」

イズミがハナビと二人で出征しようと言う。

「いや、まだだ」

「シカクさん」

なぜ、とイズミが視線で訴えた。

「確かにお前達が戦場に居ないのは飛車角落ちのような盤面だがな、張るのは今じゃない。我慢してくれ」

シカクとしてはこちらの被害よりも勝ちに拘らなければならない。

負けは許されないのだ。

最高戦力を消耗させる訳には行かない。

「く…」

悔しそうなイズミだが、まだうちはマダラを戦場に確認できていない。

「これが戦争…」

ハナビの表情も曇った。


戦況は刻一刻と移り変わり…

巨大な人形(ひとがた)、外道魔像がついに戦場に現れたという情報が入る。

「そろそろわたし達の出番かしら」

とハナビ。

さてと考えていると時を同時にしてナルトとキラー・ビーが隠し場所から脱走したとの連絡が入る。

「飛車角以前に玉が飛び出てったな」

アオがやれやれとため息を吐く。

「ええ、ワシが行って直接ビーを止める。火影、お主も来いっ!」

えー…

「ナルトは言って聞くようなヤツじゃ無いんだけどねぇ」

「それならなおさら力ずくだっ」

その力ずくをまずアオに振るう雷影は首根っこを掴み指令室を出る。

「あ、アオ…」

「あー大丈夫。後の事は任せていいか」

「大丈夫よ。アオくん行ってらっしゃい。無駄だろうけど…」

そう言ったハナビにヒラヒラと手を振ってナルト達を追った。


ナルト達を追跡している班と連絡を取りつつ先回り。

彼らの進路上で待ち構える事に成功する。

雷影はビーを説得するが聞かず。

二人は殴り愛をしている。

「アオ先生もオレを行かせねーつもりかよっ」

「いや、俺はお前の説得なんて諦めているよ」

「じゃぁっ!」

気色ばむナルト。

「だから、額あてを寄こせ」

「は?」

えっと硬直する。

「けじめを付けろ。木ノ葉の忍をやめてもらう。その後どうしようが勝手だ」

ぐっと押し黙った後に絞り出すように言葉を紡ぐ。

「この額あては渡せねぇ、これにはいろいろな思いが詰まってるんだってばよ」

「ナルト、それはわがままと言う物だ」

「我儘で結構。オレは何も諦めねぇ。この戦争はオレが一人で止めてやるよっっ!」

その言葉にアオのテンションが急降下。

「だからどいてくれってばよ、アオ先生っ!」

はぁとアオは息を吐く。

「ナルト。お前は火影になれないだろう…」

そう言って道を開けた。

「なぜだってばよ」

「火影とは助けられる数を選択する者の事を言うからだ」

「そんな者は火影じゃねぇ」

恐ろしい表情で否定するナルト。

「いや、この問答はお前の負けだよ。だが心しろよ、この先は地獄だ。お前の選択のせいで死んだ人間の数を数える事になる」

「そんな事にはならねぇ」

「いや、これから一人。お前の選択で人が死ぬ」

次の瞬間アオの体が消える。

「アオ先生?……はっ!気を付けろ、ビーのおっちゃん」

殴り合っていたビーと雷影は振りかぶられたアオの刀を受け止めていた。

「どう言うつもりじゃ火影っ」

「さすがに俺もナルトには情がわく。お前と一緒でな。だが人柱力が死ねば尾獣も死ぬ。一時だがな」

「ビーはやらせん」

「ブラザーっ!」

二人に押されて距離を取るアオ。

「俺を止めるには殺す他ないぞ」

とアオ。

ナルトの選択でどの道一人の人間が確実に死ぬ。

「ここからは本気で行く」

楔から模様が広がる。

「何っ!?写輪眼じゃと」

「なんでアオ先生が写輪眼なんて持ってるんだってばよ」

「もともと持ってる」

更にその瞳が歪む。万華鏡写輪眼だ。

アオのプレッシャーに息を飲む三人。

「万華鏡を前に油断しすぎだ。人では俺に敵わない」

今のアオの推し量れない強さにただの作業で殺されると理解する雷影とビー。

その強さをナルトもヒシヒシと感じていた。

自分の中の九尾よりも測れない何かに息も出来ない。

『わるいが、少し状況が変わった』

そう精神に直接届けられたシカクの思念。

その声はナルトや雷影にも届いているのだろう。

やる気に待ったをかけられて再度テンションが下降するアオ。

どうやら白ゼツと呼ばれる敵が味方に変化し、それが見分けられるのは九尾の力を得たナルトだけだと言う。

『ここで雷影様との仲たがいは連合の瓦解に繋がる』

ビーの殺害も止められた。

「今日一番の拾い物、アイツ本当の化け物」

ビーがラップ口調で言うが、冷汗が止まっていない。

命を拾い上げた幸運。

「ぬぅ…」

雷影も唸るだけだ。

「行って良いのか…?」

とナルト。

「ま、俺は何も見ていない」

さっさと行けとアオが言う。

「わ、分かったってばよ」

神妙な顔でナルトが戦場へと向かった。

飛雷神の術で本部へと戻る。

「お帰り、アオ」

「アオくんお帰りー」

「いやまぁ…ただいま」

余りいい表情をしていなかったのだろう。イズミとハナビが駆け寄って来た。

「大丈夫?」

「ま、ね」

「そう言えば雷影は」

「あ……」

飛雷神の術で一人だけ帰ってきてしまった。

「うん…まぁ、ね」

あはははは。

「それで、わたし達はいつまでここに居ればいいのかしら?」

とハナビがシカクに問いかける。

「マダラが出るまでは待機していてもらう。オレの考え得る最大戦力を消耗させる訳には行かない。例えお前たちが行く事で救える命が多かろうが負けてしまえば意味が無いからな」

「ナルトや八尾の人柱力が捕まったら意味無いでしょうに」

「輪廻眼と転生眼がある。最悪捕まってもどうにかしてくれ」

「信頼が重い」

「おとぎ話に縋りたくもなる」

シカクが肩を竦めた。

勝たなければならない戦いに知恵者のシカクですら神に祈りたい気分なのだろう。



「シカク」

通信を担当している山中いのいちがシカクよ呼んだ。

「どうした」

「戦場に二人のマダラが現れたらしい。片方は穢土転生だそうだ」

「なんだと」

慌てるシカク。

「どうなっているんだ」

と呟くいのいち。

「決まっている。穢土転生の方が本物だ」

アオが当たり前だろうと言う。

「そうだな、片方はかたりだった訳だが俺達がする事は変わらん…が」

シカクが思案する。

「そろそろわたし達を使う場面よ」

とハナビが言う。

「そうね。相手がうちはマダラなら尚更ね」

写輪眼の相手は写輪眼だとイズミも言う。

「悪いな、行ってくれるか」

「任せておいて」「ええ、ぶっ飛ばしてくるわね」

「死ぬなよ」

とアオ。

「それとアオには王手をかけに行ってもらいたい。もう一人のマダラだ」

シカクが向こうからナルトの方へと出向いている方のマダラを捕まえれば戦争も終わると最大戦力の投入を決めたらしい。

「了解。情報じゃ楽じゃ無さそうだが、行って来る」

そうしてそれぞれの戦場へと飛雷神の術で飛んだ。




「何、これ…」

「クレーター?」

忍連合軍はうちはマダラの手によってすでに壊滅していた。

巨大な岩の塊と乱立する巨木。

「遅いお出ましじゃな、木ノ葉の」

土影であるオオノキが息も絶え絶えに言う。

「気を付けろ、相手は輪廻眼だ」

と砂に乗っている我愛羅が肩で息をしながら言った。

「ほう、写輪眼と白眼か。面白い」

穢土転生されたうちはマダラが巨木の上で腕を組んで見下ろしながら呟いた。

左右を見るイズミとハナビ。

戦争だ、人はゴミの様に散る。

しかし、二人は静かに怒っていた。

他の穢土転生の死者はイヤイヤ従っている者が殆どのなか、あのマダラは嬉々としてこの戦争を楽しんでいるように感じる。

「ハナビ、わたし凄く不愉快だわ」

「奇遇ね。わたしもよ」

と二人の気配から緩さが消え、剣呑な空気に包まれた。

「ほう、万華鏡か。すこし遊んでやろう」

イズミを見たマダラが嬉々として印を組み上げた。

「火遁・豪華滅失」

ボウと吐き出される炎弾。

それをイズミはひと睨み。

万華鏡写輪眼、アメノウズメで写輪眼に封印する。

「面白い眼をしているな。吸収するのか。だが、つまらん」

輪廻眼の封術吸引を使えるマダラには特別な事には映らなかったようだ。

「いくよ、ハナビ」

「いつでもっ!」

二人は呪印を廻し、仙術チャクラを練って沸遁チャクラモードと灼遁チャクラモードでマダラへと駆ける。

巨大な岩を落とした神羅天征のインターバルだったのか、使われる事はなく、しかし余裕の表情を崩さないマダラ。

「そら、止めてみろ。木遁・花樹界降臨」

大地からうねる様に現れる巨木。

「その技のヤバさは知ってるわ」

そしてと言って素早く印を組み上げる。

「その対処法もね」

そうってスウと大きく息を吸いあげた。

「火遁・爆風乱舞」

アメノウズメで封印したマダラの豪火滅失を風遁・大突破で煽る。

「火遁では対処できんぞ」

とオオノキが叫ぶ。

当然、うねる巨木の質量は一瞬で燃やし尽くす事は出来ない。

うねる巨木を避けるイズミとハナビ。

「やるな」

しかしマダラの評価は高かった。

イズミが止めたかったのは巨木に交じって飛来する花粉。

その花粉は毒性で、吸い込めば意識を失う可能性が高い。

それを爆風乱舞で吹き飛ばし、燃やし尽くしたのだ。

爆風乱舞の中をイズミとハナビはマダラとの距離を詰め、ハナビがマダラへと迫る。

「はっ!」

沸遁による怪力と柔拳のダブル攻撃。

写輪眼では無いマダラは一瞬対応が遅れた。

ハナビの必殺の一撃がマダラを抉る。

「木分身っ」

しまったとハナビ。

白眼で視野を広げると、マダラのチャクラを複数感知する。

「イズミっ!」

ハナビの言葉でイズミが印を組んだ。

「灼遁・灼火炎上」

吹き荒れる熱風はあらゆるものから水分を抜き去り辺り巨木は風化し一面を荒野へと変えた。

生命の芽吹かない荒野に木遁は相性が悪い。

「須佐能乎…」

イズミが呟く。

イズミの熱波から木分身も含めて5体のマダラが須佐能乎の初期形状で身を守っていた。

「木遁分身でも使えるのね。まったく教えておきなさいよね」

ハナビが愚痴る。

「教育してやろう。うちはの戦いと言う物を」

うちは最強の瞳術は須佐能乎で間違いは無い。

うちはの歴史を見ても須佐能乎を開眼した者は少ない。

その須佐能乎は既に二足歩行の巨人にまで肉付き、その四つの腕にそれぞれ剣を持っている。

「悪夢じゃぜ…」

オオノキが慄く。

「くそ…化け物め」

我愛羅も悪態を吐いた。

「半分こには切りが悪いわ」

「どちらが多く倒せるか勝負ね」

イズミは写輪眼に、ハナビは白眼に力を込めた。

「ほう、須佐能乎か」

イズミの周りをチャクラが覆い上半身の修験者が現れる。

「それと…」

似たようなハナビの技を興味深そうに見つめるマダラ。

ハナビは奇稲田姫を纏っていた。

その形は須佐能乎によく似ている。

「ふん、小さいな」

笑ったマダラの須佐能乎が歩を進める。

「術は使いようだわ」

ハナビがマダラの須佐能乎の一体に駆け寄る。

振り下ろされる剣を奇稲田姫の十拳剣で受け止め、そして渾身の力で押しとどめる。

「はっ!」

その隙にハナビはマダラ本体へと隣接、沸遁で一気に臨界まで持って行ったチャクラを掌に纏わせ須佐能乎を殴りつける。

絶対防御と誇る須佐能乎は、しかしハナビの規格外の嘗手の一撃で崩れた。

「何っ」

まさか割られると思っていなかった木遁分身のマダラは次のハナビの掌打で木片に戻る。

「先ずは一体」

「調子に乗るなよ小娘」

「実際やられてるじゃない」

二体目のマダラが取り付く。

須佐能乎の攻撃は奇稲田姫が受け。

次の瞬間ハナビの掌打が迫る。

しかしマダラは奇稲田姫からハナビが抜け出す瞬間を待っていたようにスッスとマダラが印を組む。

「火遁・豪火滅却」

大量に巨大な火の玉がハナビを襲う。

「まだまだっ!」

ハナビの楔から幾何学模様が伸びた。

「なんだ、それは」

突き出した右手はマダラの豪火滅却を吸収し自分のチャクラとして取り込み、返す左手がマダラを貫いた。

二人目のマダラが木片へと戻った。



イズミの須佐能乎が持った釣り竿がマダラの須佐能乎の剣を受け。

「その様なふざけた玩具でオレを倒せると本気で思っているのか」

「わたしは結構気に入っているのよ」

振られた糸はマダラの須佐能乎に巻き付いてその腕を拘束して締め上げる。

「む」

二体目の須佐能乎がイズミに迫るが釣り竿を操り須佐能乎に須佐能乎を投げつける。

ズザザーと地面を煙を立てて転がる二体の須佐能乎。

「この程度で調子に乗るな」

「あなたは写輪眼ではない」

煙に紛れて振られた釣り糸は狙いたがわず二体のマダラをその釣り針で貫いていた。

グンと引っ張ると二体のマダラからチャクラが抜かれその体を木片へと戻した。

「やるな。だが、本当の恐怖はこれからだ」

後ろに控えていた本体のマダラの須佐能乎が再び巨大化し、鎧を纏った。

天狗のような面を付け、大きな一対の翼をもつ巨人。

「これを見て生き残った者は居ない。柱間以外はな」

「完成体須佐能乎…」

翼から太刀を引き抜くと一閃。

遠くの山が吹き飛ぶ威力に天変地異を思い起こさせる絶対の力。

巻き上がる粉塵に吹き飛ぶ忍連合軍。

「終わりか、つまらん」

巨大な須佐能乎から見下ろしているマダラ。

その余裕そうなマダラを殴りつけたのはいつの間にか須佐能乎に取りついたハナビの一撃。

「がっ…」

「灯台下暗しってね」

ハナビの一撃がマダラの顔を吹き飛ばす。

完成体須佐能乎は確かに強力だ。しかし、取りつかれてしまえば攻撃手段を失う。

マダラの最後の実践はおそらく千手柱間との終末の谷の戦いだろう。

その戦いは両者ともに他の忍者とは一線を隔す頂上の戦い。

完成体須佐能乎も柱間の木遁の巨体と巨体の戦いに小回りの利かなさを忘れたのだ。

常人なら既に死んでいる一撃だが、穢土転生体故に再生が始まっている。

「イズミっ!」

「了解っ!」

意識を失ったマダラの須佐能乎は消え、その瞬間肉薄するイズミ。

イズミの万華鏡写輪眼のアメノウズメは封印術だ。

ここまで弱らせれば視点を媒介に念字を刻み穢土転生体のマダラを封印する事が出来る。

「まるで耳なし芳一ね」

念字がびっしりと刻まれ地面へと落下していくマダラを見たハナビが言った。

「取り合えずこっちのマダラは何とかなったわね」

「少し休憩してからアオくんを追うわよ」

肩で息をしているハナビ。

「そうね」

ハナビの言葉にうなずいて疲れたとイズミは地面に腰を下ろした。


ナルトの居る戦域へと到着すると、死んだはずの人柱力達が穢土転生で甦りナルトとビーと戦闘していた。

マダラと二尾から七尾の人柱力では多勢に無勢。

尾獣化している八尾に五尾の人柱力も尾獣化して戦っているようだ。

「怪獣大決戦だな…」

さて、なぜ五尾の尾獣が顕現しているのかは分からないが、チャンスだ。

「尾獣を殺せばいいのだろう。必殺の一撃は初撃で、だ」

何せ必殺なのだから。

呪印を廻し、楔を解き放つ。

幾何学模様が全身に伸び発光。

「須佐能乎」

一瞬で顕現する尾獣も超える大きさの完成体須佐能乎。

「はぁああああっ!」

更には銀のチャクラが左腕を覆い、全てを切り裂く権能を須佐能乎に与え引き抜いた刀で五尾を一閃。

「なんだ、どこから来やがった」

「なんだ、あのでけーのはっ!」

「須佐能乎だと…!?まさかマダラか」

ビー、ナルト、マダラと驚きの声をよそに振り下ろされる大刀。

五尾と八尾の戦いの横合いから振り下ろされた刀は五尾の首を狩り落とす。

「きゅぉおお」

ドシン。

絶命の悲鳴を上げた後、地面に倒れ込む五尾。

「こらー、今オレも危なかったぞっ!アオ先生ー」

振り下ろされた刀の先でナルトが喚いていた。

「助けてやったんだろ」

ナルトに敵が振れようとしていた所に振り下ろし、堪らずと距離を開けたマダラとナルト。

「五尾がしんだ…?…いや、まだだっ!」

ドンとチャクラの気配が迸り、二尾、三尾、四尾、六尾、七尾の人柱力が尾獣化。

口元に尾獣玉の収束に入った。

「こいつはやべーぞ。我儘言っている場合じゃねーだろ九尾」

と八尾が言うとナルトが覚醒。

ナルトもチャクラで出来た尾獣の体を操って八尾と一緒に尾を巻いて防御態勢。

五つの尾獣玉は重なり大きさを増してアオ達へと放たれる。

「その程度で俺の須佐能乎を倒せると思うなよ」

キュイーンと甲高い音を立てながら迫る尾獣玉に、アオは全チャクラを込めて須佐能乎の刀を横に薙いだ。

「うぉっ」「うわあーーー」

尾獣玉を裂くアオの須佐能乎の衝撃にナルトとビーが叫ぶ。

粉塵が晴れると、健在の八尾と九尾、そしてアオの須佐能乎。

対する二尾、三尾、四尾、六尾、七尾は生きているのか死んでいるのか、アオの須佐能乎の尾獣玉を割っても止まらなかった大太刀から放たれる衝撃波で傷を負い、地面に伏していた。

ふっとアオの須佐能乎が消え、アオは地面に着地。

「はぁ…はぁ…さすがにツラい…」

最大限に練っていた仙術チャクラを使い切り肩で息をするアオ。

「なんて事を…」

しかしマダラは口寄せの印を組むと外道魔像を口寄せし、二尾から七尾を封印。ついでに何やら瓢箪と瓶(かめ)も飲み込んだ。

「ぐぉおおぉぉおおお」

声を張る外道魔像。

「やべぇ、十尾が復活する」

「アオ先生、もう一度さっきの奴はできねーのか」

「悪いがチャクラ切れだ。しばらくオレは援護だ」

「肝心な時に使えねーってばよ」

「よし、ナルト。後で覚えておけよ」

「さーって、俺ってばアイツをやっつけてくるってばよ」

冷汗を流し前に出るナルト。


奥の外道魔像を狙いたくとも、さすがにうちはマダラ。そう簡単には通してくれない。

「火遁・爆炎乱舞」

「うおっ」「あちちちち」

アイツのチャクラ量どうなってるんだ。見た所仙術を使っていると言う訳じゃ無いのだが。

アオは援護にと遠くから手裏剣を投げる。

クルクルと飛んでいく手裏剣は正確にマダラの目を捉えるが…

「当たらない…だと?」

必中の権能を使って投げられた手裏剣は必ずマダラの写輪眼を潰すはずだった。しかし…

必中の権能を超える瞳術かっ!

絶対に当たる権能も絶対に当たらないマダラの能力の前では効果を得なかった。

「アオ先生ーそいつに攻撃は通じないんだってばよっ!」

「じゃあどうやって攻撃するんだよ」

「攻撃の瞬間は実体化するんだってばよ」

なんて面倒な…

アオも地面を駆けて参戦。

幻術は…ヤツの左目の輪廻眼が強力で効果が薄そうだな。

「ここは通さん」

肉薄した瞬間、アオの瞳が蒼銀に染まる。

「輪廻眼だとっ!」

「輪廻眼がお前だけのものだと思うなよ」

「だが俺に攻撃は通じない」

アオが輪廻眼を持っていようと、確かにアオの攻撃はマダラをすり抜けてしまう。

だがアオの輪廻眼の能力である伊斯許理度売命(いしこりどめのみこと)の内、日像鏡(ひがたのかがみ)は相手の瞳術をウツシ取る。

見合った瞬間、アオの両目がマダラの万華鏡写輪眼と輪廻眼を写し取った。

「がっ…なぜ」

アオの攻撃がマダラに当たる。

「さて、どうしてだろな」

「火影、貴様…俺の神威を…」

原理は分からずとも同じ能力を使っているのは使用者でるマダラには分かっている。

アオは写し取った神威を使い、触れた部分を他時空間へと飛ばす神威の術に干渉し同じ空間へと飛ばす事で相手と同じ土俵に立つ事に成功したのだ。

これで打撃攻撃に限り互いの攻撃が有効だ。

こうなればマダラは攻撃も防御も慎重にならざるを得ない。

「くそ、厄介な…」

「お前が言うな」

遠距離の忍術や飛び道具はすり抜けてしまう為互いに効かない。

肉弾戦のみが有効なのだが、マダラの右半身はどうにも人間離れしているようで、関節の可動域すら無視しているよう。

これにはアオも手を焼いている。

しかし神威だと…?偶然か?

神威とははたけカカシの万華鏡写輪眼の能力じゃ無かったか?

なぜマダラは右目にしか写輪眼が無い?左目を輪廻眼に移植したからか?

いいや、最初から無かったとすれば?

この距離ならマダラの万華鏡写輪眼の模様が良く見える。その形は正にカカシのそれだ。

二つがもともと同じ眼だとしたらこのマダラは…

「お前、うちはオビトか?」

アオの攻撃で面が飛び、その中から現れる素顔。

「どうしてお前がその名前を…」

「火影だからな」

過去の資料で知ったのだ。カカシがうちは一族でも無いのにどうして写輪眼を持っているのか。

それは過去に亡くなったチームメイトから譲られたものだ。

そのチームメイトの名がうちはオビトと言う訳なのだ。

「うちはオビトって誰だってばよ」

とナルト。

「カカシの元チームメイトだ。亡くなっているはずの、な」

「だけどエドテンのような気配はしないってばよ」

「生きていたと言う事なのだろう」

「その名は捨てた。俺は何者でもいたくないのさ」

そうして語られる月の眼計画の真実。

それは幻術で人類をコントロールするなんて生易しい事ではなく、強制的に幻術で自分の思うままの世界の夢を見せる事のようだ。

そしてその動機は過去になくした幸せな夢の続きが見たいと言う彼一人の独善。

「一つ良いか」

「なんだ、火影」

「俺がお前に月読をかけてやろう。それでこの戦争は終いだ」

「な…」

「だってそうだろう?お前が見たい世界はお前だけのものだ。お前だけ夢の世界に居れば良いんじゃないか?」

何処に他人を巻き込む必要があるとアオ。

「ちがう。俺は世界の為に無限月読を…」

「他人の事なんてどうでも良いだろう?それはおせっかいと言うんだ。そして大多数は望んでない」

「な……」

「お前はただ世界が憎いんだ。壊したいだけだ。世界の救世主などではけして無い」

確信を付くアオの言葉。

「ふふふ…あはははははははは……」

狂ったように嗤うオビト。

「そうか…そうだったのか…俺も気が付くのが遅い」

オビトは糸が切れたかのようにガクリと俯く。

アオがオビトを足止めしている内にナルトとビーが外道魔像を吹き飛ばそうと尾獣玉を打つ。

それが外道魔像に着弾し、炸裂。

「終わったか」

と言うアオに感情のこもらない声が掛かる。

「ああ、終わった。さあ、世界の終わりを始めよう」

オビトは何かを決意したように再び気力をみなぎらせた。

煙が晴れると無傷の外道魔像、十尾の幼体に姿を変えたそれが見えた。

「グォオオオオ」

十尾は唸り声をあげると口元から尾獣玉を発射。

「うわああ」

吹き飛ばされるナルト。

アオは神威ですり抜けるがその隙にオビトは十尾へと向かう。

十尾の頭に乗ったオビトは外道の術で十尾と接続。どうやら操るつもりのようだ。

たった一度の攻撃で大地は抉れ、天変地異を引き起こす。

「癇癪で世界を壊すつもりか…」

戦況はかなりきわどい。

「お待たせ、アオくん」

「ちょっと遅れたかしら」

ハナビとイズミが到着。

「二人とも」

「わたし達だけじゃ無いわよ」

そう言ったハナビの後ろには数多くの忍が駆けつけた。

戦況は最終局面を迎えている。

復活した十尾。そして月の眼計画。

ここで十尾を止めれなければ世界が終わる。

「逆に言えば勝てばいいって事じゃない」

とハナビ。

「何あれ、輪廻眼?」

十尾の目は真っ赤な輪廻写輪眼をしている。

ここからは総力戦だ。

指令部に居るシカクから十尾打倒の戦術を連合軍全員に伝達される。

第一段階はまず雷遁で目くらましをしつつ土遁で地面を掘り下げ足止め。

次は熔遁で作り出した石灰と水遁でコンクリートを作り攪拌させつつ火遁で乾かして固める。

「「火遁・豪火滅失」」

チャクラも回復して来た所でアオとイズミも加わって盛大に炙る。

コンクリートが固まり、動きを封じたかに見えたがしかし十尾を封じる事は叶わず。多数の命が十尾の反撃で失われる。

立ち上がろうとする十尾は尾獣玉をどこかへと撃ち始めた。

「なんだ…?」

足元へ取り付く忍連合への攻撃は自爆してしまう為という感じでは無い。

この方向は…

「本部かっ!」

ドウと放たれる尾獣玉。

これを止めなければ飛雷神の術で飛んでも助けられない。

チャクラ感知でカカシを探知し、瞬身でカカシの前に現れる。

「火影様?」

「少し眼を借りる」

「輪廻眼…?」

のぞき込んだカカシの左目。

日像鏡(ひがたのかがみ)でカカシの万華鏡写輪眼をウツシ取りありったけのチャクラを使って遠くへと飛んでいく尾獣玉を睨んだ。

神威っ!

「がっ……」

流石に距離と質量の相乗はアオであってもその負担は大きくアオの左目が流血する。

堪らず左目を抑えて崩れ落ちるアオ。

次射が発射されるまでの十数秒。

この時間が有ればアオなら本部に飛べる。

悲壮な決意のシカク達の声が届く中本部へと飛雷神の術での術で飛ぶ。

「火影さまっ!?」

驚く奈良シカク。

「驚く暇が有れば俺につかまれ」

「飛雷神の術かっ!」

集められる本部にいる忍者。

だが距離の遠い忍者は間に合わない。

「アオ先生っ!」

「テンテン、そっちは任せたっ!」

その時、アオの後から飛雷神の術で駆けつけたのはテンテンだ。

現れた場所も中々良い所でアオよりも遠い。

チャクラを感知してみれば尾獣玉が迫っている。

「五秒だ。五秒で飛べっ!」

それが着弾ギリギリの時間だ。

「はいっ!」

「2、1…」

飛雷神の術で戦場へと戻る。

「助かった…のか…」

といのいち。

「ああ、まだまだ働けと火影様はおっしゃるようだ」

シカクもヤレヤレと肩を竦めた。

「俺が火影になったのはシカクさんのせいなんですから。面倒なのは戦争よりも戦後、二人にはまだまだ現役でいてもらわないと」

とアオも肩を竦めて見せた。

「と言う事は先ずは目の前のコイツからだな」

「ああ」

シカクといのいちは後方へと下がり命令系統の再構築に努める。


アオが本部へと戦場を離れている間も十尾の攻撃は続いている。

十尾の拡げたシッポから無数の木の杭が雨のように降り注ぐ。

「く…須佐能乎っ」

イズミは須佐能乎を使い防御と攻撃力を上げ、降り注ぐ杭をその釣り竿で撃ち落としている。

ハナビも同様にクシナダヒメで杭を食い止めているが、連合の忍者は無残にその命を散らしていた。

「しまった、ヒナタっ!」

ハナビの声にイズミも振り向けば木の杭からナルトを庇うために割り込んだヒナタは自分の体を盾にしようとしている。

しかしその杭はヒナタを貫く事は無かった。

何故ならそのヒナタを庇う形でネジが体をねじ込んだからだ。

巨木がネジに突き刺さる。

「ネジーっ!」

ハナビの絶叫。

その瞬間、イズミは輪廻眼の使い方を理解した。

イズミの瞳が水色の輪廻眼に変わると、自分だけ数秒過去に戻っていた。

「っ!」

次の瞬間地面を蹴ったイズミ。

移動速度を上げる為に須佐能乎を消していた。

「イズミ?」

横を過ぎ去るハナビが疑問の声を上げる。

ナルトを守るヒナタ、それに割り込むネジ。そのネジを押しのけたのは駆けつけたイズミだった。

「ぐはっ…」

イズミの腹部を刺し貫く木の杭。

「イズミーーーーッ!」

ハナビがイズミへと駆け寄る。

「イズミッ」

イズミをハナビが抱き上げる。

「ちょっと……へましちゃったわ…」

「いや…いやだ…どうして…」

「イズミ姉様っ!」「イズミ様っ!」

ヒナタとネジも駆け寄った。

「なぜ自分なんかを庇ったりしたのですっ!」

とネジ。

「わたし…は、一度ほら、…一族を…失っているから、…ね。…日向家くらい…守りたい…じゃない?…かはっ」

口から血が滴る。

「イズミ様…」

目に涙を溜めるネジ。

「死なせない。…絶対に死なせないからっ!」

そう言ったハナビの楔はさらに全身へと延び、見開いた転生眼の輝きは以前のそれよりも光って見えた。

ハナビの触れた木の杭が細胞へと変化し穿ったイズミの傷口を埋める。

「これは…」

初めて見たネジが驚愕の声を上げた。

「イズミ、しっかりしてっ」

そう言ってイズミを揺するハナビ。

「ちょ、ハナビ、わたし今死にそうだからっ!……痛いってのっ!」

首をガクガクを揺らされたイズミが切れた。

「イズミっ!」

ガバとハナビがイズミを抱きしめる。

「あ、あれ…傷口が…ない?これ、ハナビが?」

「そうみたい」

「転生眼ね」

ここで遅れてアオが到着する。

「イズミ…?」

今まさにイズミの命が危険にさらされていたと理解するアオ。

アオの額の楔が全身に伸びる。

空気が震えた。

そして高まるアオのプレッシャーに周りにいた忍どころか十尾までも動きを止めた。

「アオくん」「アオっ」

左右からぎゅっと抱きしめられる。

「落ち着いた?」「死ぬ寸前だったのわたしなのに、わたしの方が落ち着いたわ」

「わるい、二人とも…よかった…本当に…イズミ…」

「泣くのは後よ。今はこの戦いを終わらせないと」

「ああ、分かっている」

ぐっと十尾を睨みつけるアオ。

しかし、構えた十尾から放出される天変地異。

「余裕が有れば俺達の後ろへ移動しろ」

と言うアオ。その言葉で天変地異に対して須佐能乎とクシナダで壁を作った。

竜巻に落雷、突風と正に天変地異が襲い掛かる。

「タケミカズチ」

アオは万華鏡写輪眼で十尾が上空に発生させた雷雲から巨大な落雷を奪い取り十尾目がけて落とす。

ドドンッ

「グォオオオオ」

かなりの量の電撃を喰らったにもかかわらず十尾は未だに健在のようだ。


「この程度では十尾はどうにもならん」

十尾の頭の上で両腕を組み忍連合を見下ろすオビト。

幾条もの雷光がオビトを襲おうともすり抜ける為にダメージは無い。

「そろそろ絶望を与えよう」

そう言ったオビトの言葉で十尾がさらに姿を変え、頭に巨大なラフレシアのような花を咲かせ、その花弁の中央から巨大な尾獣玉を撃ちだす。

「これで終わりだ」

今まさに撃ちだすと言う瞬間、巨大な十尾を囲むように強力な結界が張られた。

「何?」

ジロリと四方を見ると三代目火影ヒルゼンと四代目火影ミナトが見える。

他のに方は初代火影柱間と二代目火影扉間か。

「穢土転生か、くだらん」

そのまま結界を破壊してやろうと十尾のダメージを覚悟で尾獣玉を放つ。

自爆攻撃にも等しい攻撃だが、神威の力を持つオビトは考慮に入れない。

「待っていたぜ、この時を」

神威空間の中。

その中に潜む人影。

「距離は有るから、この程度だが」

そう言って投げつけたのは一枚の手裏剣。

「今度は外さない」

コピーした神威を使って神威空間の中に待機していたアオの木分身。

その一体が必中の権能を使って投げた手裏剣は狙いたがわずオビトの左目を直撃する。

「ぐぅああああああっ!」

神威の効果を失って爆風にあおられるオビト。

「俺の神威が…くそ…くそ…」

爆風にあおられはしたが、移植された柱間の細胞の生命力からか倒れずに踏ん張るオビト。


木分身を解除したアオは経験が還元されオビトの神威を潰したことを知る。

「今がチャンスだ。敵はもうすり抜けられない。全員で十尾を止めろっ!」

アオの激励に怒号が響く。

オォーーオォーーーと声を上げ、死の恐怖を克服し、忍たちは人が通れるほどに開けられた結界の穴を通り中へ。

我先にと結界を通って行くのはナルトと…

「あれ、サスケじゃね?」

「どれ?」

「あ、本当だ」

アオに言われて白眼で遠視するハナビとイズミ。

「何しに来たんだ…」

「助けに、とか?」

「サスケがか?」

「他に何が有るって言うのよ」

「まぁな」

アオがイズミの言葉に曖昧に返したが、今サスケの参戦など些細な事。

「火影様と二人は一旦下がってくれ」

と近くに寄って来たシカクが言う。

「シカク?」

「この場面で?」「どうしてですか」

イズミは不満そうだ。

「結界を張っている火影様方が仲間ならばここは奥の手は温存しておくべきだ」

それに、とシカク。

「俺達は戦後の事も考えなければならないしな」

「勝つ前からそんな事を…」

「勝つ事は前提で最終目標では無い」

シカクとイズミでは見ているものが違う。

「一旦下がる」

「アオくん」「アオ…」

結界内で、初代火影柱間の封印術で動きを止められた十尾は眷属を生み出して忍たちを迎え撃つ。

オビトの神威はアオが潰した為に忍たちは多大な犠牲を払う事になるが確実にオビトを追い詰める。

「螺旋丸っ!」

ナルトの螺旋丸がオビトを吹き飛ばす。

「ぐっ!」

「これで終わりだってばよっ!」

螺旋丸に吹き飛ばされ地面を転がるオビトは天を仰いだ。

「く…このままでは…十尾の人柱力にならねば…」

「この期に及んでまだ抵抗するのか。俺の天照で」

サスケがトドメとばかりに万華鏡写輪眼を見開いた。

「サスケッ!やめろっ!」

「止めるなナルトッ!ここで止めを刺す」

ナルトに止められて一瞬だけオビトに隙が出来た。

その内に十尾の人柱力へと変じようと印を組み上げるオビト。

「な…これは…くそ……ばかなっ!!ぐぁああ」

必死に何かに抵抗しようとしているようなオビト。

「なんだってばよっ!」

次の瞬間、オビトの左目に残った輪廻眼が輝く。



「ははははは、やはり生身でこそ戦場の空気を肌で感じる」

戦場を見下ろせる丘の上で古風な鎧を着た誰かが高笑いをしていた。

死体を覆っていた塵は活気に満ち、血が通い始める。

「口寄せの術」

その誰かが手を地につくと結界内で封じ込められていた十尾がまるで瞬間移動したかのように男の前へと現れた。

「前は余裕ぶって失敗した。今度は機敏に動く」

その両目は輪廻眼を宿していた。

「地爆天星」

その瞳術が空中に瓦礫を集め複数巨大な隕石を形成。

忍連合軍が居る真上へと落下した。





「なんだ、あれはっ!」

シカクが移動された十尾を見て驚きの声を上げた。

「そんな、あれは」

白眼の遠視で見えた顔にイズミの表情が驚愕に染まった。

「なんだ、イズミ」

「あれはマダラ…」

ハナビがそう呟いた。

「バカな、マダラは封印したはずだ。穢土転生も解けているはずだ」

「火影を呼んだ誰かが穢土転生で呼んだとも考えられるが」

「それならば味方のはずだろう」

あれはどう見ても味方には見えないとシカク。

「くそっ、なんて事だ」

真下からではなく、横から見ている分、その巨石の数に絶望する。

「これじゃ連合はっ」

落下する巨石群に尾獣化したナルトとビーが尾獣玉で破壊する。

初代火影も木遁で巨木を乱立させ忍連合を守っていた。

その隙に十尾の口から鎖のような物が二条の鎖のような物が伸び、今まさに九死に一生を得た九尾と八尾に巻き付く。

「なっ」

「ヤバイんじゃないかな」

抵抗むなしく、九尾と八尾はナルトとビーから取り出され十尾に吸収されてしまった。

「ぐぉおおおおおおおおおっ」

さらにその形を変える十尾だったが…次の瞬間その巨体が一瞬で消え失せた。

「何が起こったっ」

とシカク。

「マダラが十尾を取り込んだように見えたな」

そうアオが答える。

「まさか、人柱力…なのか…」

シカクが驚愕の表情を浮かべた。

白眼で遠視すればマダラは肌が色白く変色し髪色も薄い白色にそまり頭には頭部を巻くように一本の角が生えていた。

忍連合軍はナルトとビーが時間を稼いでいる間に穢土転生の四代目火影がナルトとチャクラをくっつけて間接的に繋がった忍連合軍を飛雷神の術で爆心地から遠ざけた為にどうにか全滅は回避出来たものの九尾と八尾を抜かれたナルトとビーは死を待つ状況で、なぜか現れたマダラは十尾の人柱力になっている。

その相手は輪廻眼をもちさながら六道仙人のようだった。

「あれが本当にマダラなら、木ノ葉の里を襲ったペインと同じ術が使えるわ」

イズミが戦った経験から言った。

「六道の術か…」

状況が混沌としていて九尾を抜かれたナルトを心配している暇もない。

更にマダラが何かしたのか巨大な木が生えて来た。神樹だ。

「おいおい、あれは何だよ」

「分からないけれど、巨大な生命力を感じるわ。イヤな気配ね」

そうハナビが冷汗を垂らした。

そのマダラに一番に向っているのはサスケだった。

「須佐能乎か」

須佐能乎を纏ったサスケが二足歩行でマダラに距離を詰めるがどう言う訳か吹き飛ばされる。

「斥力?」

「では無いな。何か見えないマダラがサスケを攻撃していた」

「見えないマダラって何よ。見えてるんじゃないの」

ハナビが言う。

「輪廻眼じゃ無いと見えないようだな」

「本当だ…影分身じゃ…ないわね」

イズミも輪廻眼で見れば豆粒ほど遠いがしっかりと別の次元に居るマダラが見えた。

「もうっ!観察眼で日向が負けるのは気に入らないっ!」

ハナビは悔しかったのかその両目は転生眼へと変じた。

「あ、見えたっ!」

転生眼でも異界に存在するチャクラを感じられるようでマダラの輪廻眼の能力である輪墓・辺獄による分身が見えるようになったらしい。

その脅威の能力は一方的に相手を殴れると言う事実。

歴代の火影ですら感知できず一方的に攻撃されていた。

攻撃されれば矢鱈でも攻撃を返したが…

「すり抜け…いや、実体が無い…のか?」

見えないマダラの攻撃は当たるのにこちらの攻撃は当たらない。

「そんなバカな攻撃が有るかっ!あのオビトの神威すら打開策が有るのにっ」

シカクが悔しがる。

「インターバルが有るな。出し続けてはいられない様だが…すでに連合軍は全滅か」

離れた所から見ているアオ達はまだ攻撃されていないが危機的状況を脱したばかりの所に見えないマダラの強襲に連合軍は風前の灯火だ。

歴代の火影すら黒い棒のような物で刺された後動けないでいる。

「外道か」

あの棒はペインの使っていたものと同じか。

輪墓・辺獄で出す分身体は確認できるものは四体。

数的不利な状況でそれ以上出していない所を見るに四体が限界なのかもしれない。

「何か策は無いのかっ!」

シカクが叫ぶ。

ハナビ、イズミもジリジリと手を握って今にも戦場に駆け付けたい衝動に耐えていた。

二人ともあの輪墓・辺獄に無策では勝ちようが無いと感じている為だ。

「イズミの万華鏡写輪眼で封印するとか」

「そもそも干渉できないわ。それに万華鏡写輪眼じゃあれは見えない」

別次元に居る相手にどうやって干渉すればいいと言うのだろうとハナビに答えるイズミ。

「あれはチャクラを吸っているのか?」

連合軍の忍たちに神樹の根が絡みつき、囚われた忍び達は一瞬でチャクラを抜かれて干からびている。



だがそれよりもと続ける。

「あの背中に浮かんでいる黒い球だが」

マダラの後ろに七個浮かんでいる直系十五センチ程の黒い球。

「何あれ…」

イズミも驚く。

「触れたものが消失した…?」

「伝承で聞いた事が有る。求道玉だ」

そうシカクが呟いた。

「六道仙人が使える血継網羅と言われるすべての属性を混ぜ合わせたものなのだそうだ」

「効果は凶悪だな。塵遁が張り付いているような物で、形態変化もするようだ。忍術もあの求道玉の前には効果を成さず、正に最強の盾と最強の鉾を持っているようなものだ」

「何か弱点は無いのかっ!」

「…もう少しこれに頼る時か」

アオは瞳を閉じると◆にチャクラを送る。

一瞬、意識が現実を離れ、アオはどこか暗い水面の上に居た。

「ここまで来たか」

「ようやく会えたか。じいさん」

目の前の角の生えたじいさんはアオをこの世界に連れて来た張本人だ。

「名前は?」

「大筒木ハゴロモと言う。此度は我が弟の子孫の頼みでお前をこの世界に連れて来た」

「子孫?」

「お前もよく知っておる」

「ハナビか」

「だが、どうしてそんな事を?」

「お主の疑問に答えてやる事は出来ない。その方がより良い選択しを選び取れるであろう」

「じいさん…まぁいい。それで、この楔と言うのは」

「それは大筒木の一族が自身の転生体を作る為に刻むものだ。時間を掛けて刻まれた体を侵食し作り変える」

「…俺を乗っ取るつもりか?」

衝撃的事実にアオも若干引いている。

「否。それはもともとお主の持っている素養を楔にして打ち込んだものま。まぁ、そこに幾分かはワシの情報も刻まれているが、その楔でワシとして転生することはあるまいよ」

「ほ…」

良かったとアオは胸をなでおろす。

「じゃが、それはここに来たお主も知っている事じゃろう」

だから来たのではないのかとハゴロモが言う。

「まぁな。あのマダラと言う男は六道仙人の力を使う、ならばと思ってね」

「いささか早いが、これも運命。ワシの力の解凍を進めよう。これであのマダラと言う男に対抗できるじゃろうて」

六道仙術が開花していくのを感じる。

「これなら」

「しかし心せよ。真に強敵は大筒木であると」

その言葉を最後にアオは現実世界の戻った。

「アオ、ハナビ、それって…」

チャクラの衣をマントとして着込み、アオ背中には九つの求道玉が浮かんでいる。

ハナビを見ればアオのそれにつられたかのように求道玉が浮かび似たような出で立ちに変化している。

「意識の中で変なじいさんに会って来た」

「わたしも。たぶんこの呪印を刻んだ人だと思う」

ハナビの転生眼が完成をみていた。

今のハナビは六道の術を使いこなし転生眼の瞳術も使いこなせるだろう。

彼女の先祖である大筒木ハムラのように。

「二人とも、でもこれじゃあわたしが見劣りするわね」

イズミが拗ねたように笑った。

「輪廻眼の使い手が見劣りするとは…とんでもねぇな」

シカクが首を掻いた。

「イズミ」

「……?」

ハナビの差し出した右手。促されるように左手を合わせるイズミ。

「ほら、アオも」

「しょうがないな」

差し出したアオの左手。合わさるイズミの右手。

「これは…?」

「チャクラは繋ぐ力だ。俺とイズミ、ハナビのチャクラをくっつけた」

チャクラで出来たマントを羽織り、その瞳は薄い水色の輪廻眼を輝かせている。

アオとハナビの背中に浮かんでいた求道玉の数は六個ずつに減り、残りの三つはイズミの背中で浮いていた。

「これでお揃いね」

とハナビが笑う。

「もうっ!」

この荒業はイズミがうちはの家系でその祖先は大筒木ハゴロモであり、イズミのその両目には大筒木ウラシキの瞳が移植されている事も大きな要因だ。

「それじゃ、行こうか」

「さっさとマダラをぶっ飛ばして世界を救わないとね」

「そうね。明日みんなで笑い合う為に」

輪廻眼、転生眼、輪廻写輪眼と六道仙術を携えアオ達が戦場へと駆ける。

相手は瞳術使いなので、オビト同様にその眼を飛び道具で潰したいアオだが十尾の人柱力となったマダラにはいくら必中の権能を使おうが遠くからでは当てる事は難しいだろう。

一メートル程まで近づけば…いやそうなったら斬った方が速いな。

「ほう、輪廻眼開眼者二人と六道仙術か」

面白いとマダラは近づいて来たアオ達に輪墓・辺獄による分身をけしかけた。

「くるよっ!」

「分かってるっ!」

ハナビの言葉にイズミが応じる。

そして目の前に迫ったマダラの分身体を迎え撃つ三人。

圧倒的なチャクラから繰り出される攻撃は膂力も人外レベルで仙術を極め、念能力の応用で攻防力の移動が出来るアオ達三人だからどうにか対応出来るレベルだった。

「くそっ!分身のくせに劣化なしとはね…」

六道仙術のおかげでどうにかマダラの輪墓の攻撃を防ぎ、対等に戦えている。

幸いなのは輪墓マダラには求道玉が無い事だ。

それなら少し強いだけで対処は可能なのだから。

「はっ!」

アオは自分の求道玉を日本刀に変えてマダラを切り裂く。

「はあっ」「これでっ!」

1人1体。イズミとハナビも輪墓のマダラを倒していた。

「なにっ!?」

目の前の輪墓マダラを倒したアオ達は空中を飛んでいる本体へと迫る。

三方から求道玉を形態変化させた武器で同時にマダラを斬り付けるヒナタ、イズミ、アオ。

「はぁっ!」「やぁっ」

マダラは求道玉の全てを使って自分の体を球体状に包み込み防御。

「そして、俺だけ特別の…」

アオの左腕が銀色に光っていた。

「斬り裂けっ!」

シルバーアーム・ザ・リッパーの全てを切り裂く権能は堅牢な求道玉をいとも容易く切り裂きそして…

「俺の求道玉を裂くだと…く…」

求道玉を解いた所で二方向から迫るイズミとハナビの攻撃が迫るだけだ。

さらにアオはダメ押しと輪廻眼、日像鏡(ひがたのかがみ)でマダラの輪墓・辺獄をウツシ取る。

「くそ…」

アオの刀がマダラを切り裂き、そのままマダラを覆っていた求道玉も消失。イズミとハナビの攻撃でバラバラに刻まれた…はずだった。

「分身…?」

「どこっ!」

斬ったはずのマダラの手ごたえに驚くイズミとハナビ。

マダラは忌々しそうに地上からアオ達を睨みつけていた。

「どうやらあの分身と瞬時に入れ替えが出来るらしいな」

倒していなかった輪墓の四体目。

その分身と本体を入れ替えたのだ。

「強力だな…だが」

アオは写し取ったマダラの輪廻眼、輪墓・辺獄を使い見えない世界に四体の分身を召喚。

「そら、お前の術だ」

輪墓アオが四体、マダラに迫る。

「アオくん…あなたって」「さすがに相手に同情するわ」

アオによる連携攻撃。

しかもその四人には忍術などはすり抜けて効果が無く。六道仙術をもってしても物理干渉しか出来ない。

「ぐ…がは…くそがっ…」

吹き飛ばされるマダラ。

「このうちはマダラを舐めるなっ!」

禍々しいチャクラがマダラを包み込むと一瞬で膨れ上がり実体化。

「須佐能乎…」

現れたのは完成体須佐能乎。

「だが、分身が使えないとは言っていない」

輪墓アオの分身がそれぞれ須佐能乎を使い結果、先ほど吹き飛ばされたマダラを大きくしてみたように吹き飛んでいく。

「アオ…まさかマダラも使えたのかしら?」

輪墓マダラも使えたのかとハナビ。

「相手が舐めててくれて助かったな」

「むぅ…」

「バカ言ってないで行くわよっ!」

イズミがそろそろ輪墓・辺獄が切れるころだと二人を促す。

四体の須佐能乎がマダラを囲んで斬り付ける。

巨体の須佐能乎では逃げ場はないが、その瞬間、マダラは須佐能乎の隙間から飛び出した。

完成体須佐能乎の巨体では指先程の大きさには対応するのが難しい。

「くそがっ!夢の世界はすぐそこのはずなのに…またしても…」

悪態を吐いた次の瞬間、マダラは何かを悟ったかのように神樹へと走った。

アオの輪墓・辺獄はインターバルで分身が戻り、駆け寄るハナビ、イズミには再びマダラが呼び出した輪墓マダラが四体立ちはだかった。

「嫌な予感がする…」

アオはマダラとの距離を過程を飛ばして一足で詰め、トドメとばかりに斬り付ける。

「はぁっ!」

「く…」

それをやはり輪墓の分身を犠牲にしてかわすマダラ。

「くそっ!またっ!」

「あはははは、今のはヤバかったぞ。だが、もう遅い」

もう一度と向かうアオよりも速くマダラは神樹に取りつきその巨木を取り込んだ。

「な…」

「あはははは…終わりだ。月の目が開く」

景気づけとマダラは地爆天星で巨石を降らせ、その間にマダラの第三の目が開く。

「くそ…何が…マダラを…だが…」

この地爆天星をそのままにすれば生き残った忍連合も今度こそ全滅だ。

「く…」

アオ、イズミは須佐能乎で、ハナビは奇稲田で巨石を粉砕して行く。

その間に準備を終えたマダラは無限月読を行使。

月を媒介に全世界に幻術を掛ける。

「くそ…」

幸か不幸か、須佐能乎と輪廻眼を持つアオとイズミ、転生眼と奇稲田姫を持つハナビはその幻術の光を通さなかった。

「全滅か…」

全人類が幻術に掛けられ、さらにマダラが使った神・樹界降誕の根に絡み取られて行く。

次第に月光も弱まるとアオ達は寄り添って須佐能乎を解いた。

「アオくん」「アオ」

「ハナビ、イズミ」

「大丈夫だったのはわたし達だけかしら」

「断定はできないが、余り期待しない方が良いな」

「父様、ヒナタ…」

心配そうに巨木の根を見つめるハナビ。

「囚われているが死んではいない。先ずは…」

「マダラを倒すのが先決、ね」

アオとイズミがハナビをそう励ました。

「そうね。まだ終わりでは無いわ。マダラを倒して世界を救う。もちろん父様とヒナタも」


飛んで移動したアオ達はスタッと地面に降りマダラと距離を置いて対峙する。

「三人か。もう終わりだ。俺は地獄を天国に変えたぞ」

夢の世界ではそれぞれで完結していて互いが互いを傷つける事はけして無い。

それはある種絶対の人類補完計画だが、それは人類の滅亡と同義だ。

「どうだ、うちはの娘よ。今からでも遅く無いぞ。夢の世界ではお前の幸せがあるはずだ」

「それは…」

父と母を失っているイズミ。その甘言はまるで花の蜜のよう。

「イズミ」

ぎゅっとイズミの手を握ったのはハナビだ。

「…大丈夫よ。ハナビ。夢はどこまで行っても夢でしか無いわ。例えそれが理想の世界だとしても」

だから大丈夫だとイズミが言う。

「ハナビとの軌跡は現実世界だから繋がれた奇跡。だからね」

この腕もとそう言ってニカと笑う。

「それじゃあさっさとこいつを倒してしまおう」

アオが一歩前に出た。

「せっかく完成された世界を構築したと言うのに」

バカ共めとマダラ。

「出遅れたか」

「アオ先生?」

「これはーどう言う事だってばよ?何でアオ先生とー、イズミ先生がー輪廻眼を持ってるんだってばよ」

サスケ、サクラ、ナルトが駆けつけて来た。

サスケの左目には輪廻写輪眼、ナルトの背中には求道玉が浮いている。

サクラの額には◆模様が刻まれ、その表情は自信に満ちていた。

「輪廻眼がゴロゴロと…まるで輪廻眼のバーゲンセールね」

とハナビ。

「まぁいい。お前達も夢の世界に連れて行って…がっ…!」

突如として地面から現れた何者かにその胸を貫かれるマダラ。

「なんだっ!」

「くそ、なんか嫌な予感がするな」

マダラの中から際限なく力が沸きだし、膨張していく。

地面からマダラを襲った何者かは黒い影となりマダラに取りつき膨れ上がるマダラの膨張を包み込むように制御。

膨張が収まるとまるでひっくり返るかのように中から一人の女性が現れた。

「あれは大じーちゃんが言っていた」

「大筒木カグヤ…六道仙人の母か」

「くそ、十尾の復活も全てこれの為だったのか」

その黒い何者かは長い年月をかけてただ大筒木カグヤの復活のためだけに数多くの種を撒き、そしてここに結実した。

「く…十尾なんかよりも混沌としている…」

「もうやめにしよう」

現れた誰かの言葉は誰もが耳を疑う。

彼女の言葉ではこの世界は彼女の苗床だと言う。

だからこの場所では争いたくな無いらしい。

この場所では。

そう言った次の瞬間、強制的に空間を転位させられたアオ達。

突如として襲い掛かる浮遊感と熱気。

下を見ればマグマが煮えたぎっている。

「くそっ」

サスケは慌てて須佐能乎で飛び、飛べないナルトをその手で掴む。

「サクラちゃんっ!」

「きゃぁ!」

飛ぶ手段の無いサクラがマグマへと落下していく。

「サクラっ!」

いち速くイズミが飛んでサクラをキャッチ。

アオはこの状況は不利と日像鏡(ひがたのかがみ)をウツシ取り、その空間を元に戻す。

「ハムラ…ハゴロモ…」

「「はっ!」」

振り返るアオとハナビ。

先ほどまで眼前に居たカグヤは突如として後方からアオとハナビに手を伸ばした。

その表情はどこか悲し気だった。目に涙すら浮かべている。

だが、どんなに悲しげな表情を浮かべていても彼女の最終目的はこの地の全てのチャクラを得る事だ。

手を振り払い距離を取るアオとハナビ。

次の瞬間、景色がまたも一変。今度は氷河の中に閉じ込められてしまう。

「つめたっ」

「無駄だっ!」

再びアオの輪廻眼で元に戻る。

「この世界を壊したくは無いのだがな。どこならよいのだ?」

砂漠、酸の海と入れ替えられた空間を元に戻すアオ。

最後は超重力の空間だった。

「ぐ…」

ハナビが膝を着く。

ハナビ以外も皆、それこそカグヤも膝を着いていた。

自分の技で身動きできなければ世話は無い。

「いいな、ここ」

アオは楔からの経験で猿武を極めた状態だ。

この超重力を受け流し普通に地面に立てている。

「この…へんたい」

へんたいとはひどいな、ハナビ。

だが、ここが勝機。

超重力をものともせずにアオが駆ける。

「く…」

再びカグヤは天之御中で空間を入れ替えようとするが、アオがウツシ取った天之御中で妨害。

「ならば…」

プルプルと超重力の空間で細腕を上げるカグヤ。

その掌から骨が突き出している。

共殺の灰骨。この骨は突き刺した相手と共に朽ち果てる一撃必殺の攻撃だ。

「その程度」

手のひらから撃ちだした共殺の灰骨。アオは輪廻写輪眼で見切り手にした形態変化させた求道玉の黒刀で弾く。

振り下ろされる黒刀。

キッと白眼で睨むカグヤ。

その刹那、カグヤの体から無数の共殺の灰骨が突き出る。

それはまるでハリネズミのよう。

「ぐ…なっ!」

「アオーーーーーッ!」「ちょとやめてよね、アオくん」

突き刺さった共殺の灰骨に諸共にボロボロになって崩れ去るアオ。

「少しもったいなかったか」

アオのチャクラを吸収出来なかった為にでたセリフだ。

「あ、ああ…」

崩れ落ちて泣き叫ぶイズミ。

「そんなに泣くなよ」

何事も無かったかのように平然とイズミの傍に現れたアオ。

「っアオっ!」

重力に逆らってアオに抱き着く。

「どうしてっ!」

「俺の輪廻写輪眼、シン・イザナギの効果だな」

神威によるすり抜けでも良かったの知れないが、不退転の場面ではアオはこの瞳術を好んで使っていた。

シン・イザナギはその名の通りイザナギと同じ効果だ。

ただ一点違うのはその完成された能力は視力を無くすことは無い点と使用時間。

「まったく心配させて」

ハナビもようやく慣れた重力を振り切ってアオに悪態を吐いた。

再び空間転移されたが今度はアオは止めなかった。

なぜならナルトはともかく、サスケ、サクラが限界だったからだ。

そこは始球空間と呼ばれる瓦礫の世界。

今までの過酷な世界に比べれば優しい。

「うぉおおっ!」

「サスケくんっ」

「待つってばよっサスケっ!」

重力の枷が無くなった途端勢い勇んで須佐能乎を纏ってカグヤに迫るサスケ。

それをナルトも追った。

九尾を纏った九喇嘛モードのナルトと須佐能乎を纏うサスケがカグヤを左右から挟む様に攻撃。

九喇嘛の拳、須佐能乎の剣をカグヤはその両手で軽々と掴む。

「く…」「チャクラ吸われてっぞサスケっ!」

両者とも空いている手で攻撃を入れようとした瞬間、二人の体が入れ替わる様に左右に投げられた。

「がっ」「うわぁっ!」

そしてカグヤは拳で空気を叩くとまるで無数の巨大な拳が幻視されその拳は須佐能乎と九尾を軽々と吹き飛ばし、その大部分を消失させるほどの威力を見せた。

「サスケくん、ナルトっ!」

二人に駆け寄るサクラ。


「完成体須佐能乎を軽々と…」

驚きの声を上げるイズミ。

「存在の格が違う」

「そんな…」

「大丈夫よ。大筒木を倒す為にわたし達が居る」

「ハナビ…?」

ハナビはイズミにニコリと笑ってみせた。

ハナビの髪は蒼銀に染まり、チャクラで出来た角が二本前向きに生えていた。

それはまるで大筒木カグヤのよう。

「これは…」

つられるようにアオの額にも二本の角が現れる。

「大丈夫、なの?」

「平気よ、イズミ。わたしとアオくんがオフェンス。イズミは援護をお願い」

そう言ったハナビは転生眼に向って経絡系が隆起していた。

どうやら転生眼と白眼を同時に使っているらしい。

ハナビの合図で左右に展開してカグヤへ向かう三人。

「火遁・豪火滅失」

イズミが巨大な火柱を上げ牽制。

「これはオマケよっ!」

垂直に一瞬で表した完成体須佐能乎の剣が振り下ろされる。

それを片手で掴んで受け止めるカグヤ。

左からアオが刀を振りかぶる。

カグヤの突き出した左手からハリセンボンの如く突き出された共殺の灰骨。

ボロボロと崩れ去るアオだが、やはりイザナギで現実を書き換え一刀。

シルバーアーム・ザ・リッパーも使っていると言うのに阻まれた骨を切り裂けない。

「硬い…」

「今っ!」

意識がアオへと向いた瞬間、右からハナビの嘗手。

「はっ!」

ドンと言う衝撃を受けて吹き飛んでいくカグヤ。

「柔拳による仙術チャクラの攻撃なら効果があるわね」

カグヤの経絡系を見切り直接ハナビの攻撃の意思を乗せたチャクラでの攻撃はカグヤも防げないようだ。

「なるほど、ならば俺とイズミが陽動だ」

「ええっ」

イズミとアオが陽動し、ハナビが強打を与える。

しかし、二度三度と繰り返すうちにカグヤも慣れたのか…

「しまっ…!」

共殺の灰骨がハナビを襲う。

「ハナビっ!」

このタイミングだけを狙っていたのか、ダメージを覚悟で共殺の灰骨がハナビに刺さり…

スゥと透けて消えるハナビ。

ドンッ

「はぁっ!」

「…っっ!!」

突如背後から現れ不意の一撃を加えるハナビと理解不能と言った表情のカグヤ。

「何がっ!」

「俺のイザナギは他者にも掛けれる」

「最初に言いなさいよねっ!」

他者にも掛けれるとは言ったが、本来はアオが視界に収めている場合のみ現実を幻術に置き換えれる空間幻術なのだが、チャクラをくっつけている今ならハナビとイズミも自身同様に知覚できるので例え視界外だったとしてもイザナギに漏れは無い。

一種の無敵だった。

とは言え完全無欠の術ではない。

消費チャクラ量は大きいし、もちろんイザナミにも弱い。

事象を決定する権能などの効果で上書きされれば破られるし、不死殺しの概念にも弱い。

弱点は多々あるのだが、それらを実行できる相手がまず居ない。

カグヤもイザナミを使えるかもしれないが、この弱点に気が付くかどうかだが、戦闘経験の少なさから難しいだろう。

ハナビに打ち付けられたカグヤから巨大なチャクラが漏れる。

それは巨大な獣が集まったような形を取った後、更に膨れ上がり巨大な求道玉へと姿を変えた。

「やばいっ!」

「アオのイザナギでもダメなのっ!?」

「俺達じゃ無くてナルト達がな」

膨張を続ける求道玉。その大きさは留まるところを知らない。

アオ、イズミ、ハナビはすぐさま三人の所へと飛んでいく。

「アオ先生っ!」

サクラはサスケを介抱していて動けず。

「ナルト、求道玉を合わせろっ!」

持ち前の再生能力の差でナルトはどうにか回復している。

「分かったってばよっ!」

「イズミ、ハナビっ!」

「ええ」「分かってるわ、よっ!」

二十七個の求道玉を合わせ、一つの球形にして全員を包み込む。

カグヤの放つ膨張求道玉。

その一撃は込められたチャクラ量が強大でこちらの防御を削っていく。

「くそ…もう少し…しまっ…」

防御に力を込めすぎてイザナギが切れる。

そのタイミングで最悪な事に防御が割られてしまった。

「ぐ…」「「きゃあ」」「うゎあああっ!」

吹き飛んでいくアオ達はそれぞれ地面を転がって砂埃を上げていた。

「はぁ…はぁ…」

肩で息をしながら辺りを探るアオ。

「生きて…る」

ハナビ、イズミ、それにナルト、サクラ、サスケのチャクラもちゃんと感じ取れた。

起き上がらない所を見ると気を失っているらしい。

「死なせるものか…あんな奴に…大筒木に…負けない…」

アオの楔が全身を覆う。

するとアオの瞳が変化した。

輪廻写輪眼から転生眼を思わせる輝きを放つ瞳。

「うっ…あああっ……な…なん…だ…」

世界に黒い線が刻まれていた。

「う…あああああっ!」

気を抜くと発狂しそうだ。

持ち上げた自分の両腕にも書かれている黒い線。

「ああ……これは…死だ…」

唐突に理解した。

アオが持っていた白眼。それが至る可能性の一つである浄眼。

しかしその浄眼が様々な要因で変貌した。

死を見る魔眼、直死の魔眼へと。

「く…」

カグヤが八十神空撃で巨大な拳を叩き付ける。

それをアオは手に持ったクナイに全てを切り裂く権能を乗せて黒い線をなぞった。

スッと一閃。ただそれだけでそよ風の様に通り過ぎる八十神空撃。

十重二十重と繰り出される八十神空撃をクナイ一つで捌く。

劣勢を悟ったカグヤは黄泉比良坂で背後に異空間へのゲートを開き撤退しようとしたが…

「油断しないっ!」

「がっ…!」

突如、黄泉比良坂の中から現れたイズミに殴り飛ばされた。

イズミを見ればその両目は輪廻写輪眼へと変貌していた。

二三度地面をころがった後カグヤは飛び上がろうとしたが、今度はまるで生き物のように絡みつく地面に動きを止められた。

「今のうちにっ」

ハナビが横たわりながらも地面に手を付いて転生眼の能力で地面を操っているようだ。

タッタと駆ける音が響き、振り上げられたアオのクナイがカグヤに刻まれた黒い線をなぞった。

「大筒木であるこのわらわが…まさか…その眼は…」

九つに分けられたカグヤの体はその内三つが実体化。

一尾、八尾、九尾が現れた。

「終わったの…?」

「倒したわよね…?」

イズミとハナビがアオへと駆け寄った。

「ああ。だが、このままだと少しまずいな」

「なにが?」

アオの見つめる先には形を失ってただチャクラとしてだけある六つの塊。

それはアオが殺した尾獣たちだ。

「どうするの?」

とイズミ。

「使ってしまえばいいか」

「どうやってよ」

「そうだなぁ…」

しばし一考。

「そうだっ!」

何か良い事を思いついたようだ。



アオは天之御中を使い元の世界へと場所を移動するとイズミ、ハナビを連れて上空へと昇って行く。

ここに生と死、そして輪廻。三つの目が揃った。

「「「輪廻天生の術」」」

尾獣七匹分のチャクラを利用してこの戦争で死んだ忍び達を可能な限り蘇生していく。

行き場を無くしていた大量のチャクラは消費され、アオの掌の上には六つの勾玉が浮かんでいた。

「それは?」

のぞき込むハナビ。

「うわ、ちっちゃい尾獣じゃない」

イズミが勾玉の中を見て驚きの声を上げた。

「どうするの、それ」

「どうすると言っても…育てるしかないな。生まれ変わったこいつらは子供と一緒だ」

「はぁ…父様、ペットを許してくれれば良いのだけれど」

「イズミ、論点はそこじゃないと思うわ」



地面に降りると真剣な面持ちのサスケ。その形相は鬼をもにらむだけで殺せそうなくらいだ。

「戦争も終わった。なら、五影を殺して俺が影となる」

写輪眼の瞳術と輪廻眼の能力で一尾、八尾、九尾を地爆天星で封印するサスケ。

「サスケ、何を考えているんだってばよっ!」

うん、ナルト。もっと言ってやってくれ。流石の俺も理解の範疇を超える発言だった。

「革命だ」

聞けば、サスケが全ての闇を一人で背負い忍の世界に安寧をもたらす、と言う事らしい。

それが真の火影であった兄イタチの意思を継ぐと言う事なのだと言う。

その始まりとして五影を殺害すると言う事らしい。

圧倒的な力による支配。

これは承認欲求と自己同一性の爆発。つまり…

「中二病かよ…」

「中二病って何よ」

とイズミ。

「14歳くらいに誰もが掛かる精神疾患だな。反社会的な行動がカッコイイと思っているタイプの」

そもそもサスケがやろうとしている事に正当性など皆無なのだ。

他人から見ればただのおせっかい、押し付けである。

「ああ」「たしかに…」

呆れたような、憐れんだような目でサスケを見つめるハナビとイズミ。

「うるせェ、そんな憐れんだ目で見るな。先ずは火影、お前から殺してやる」

とサスケが身構えた。

「悪い事を言わないから、止めときなさいって」

優しく諭すハナビ。

「今の俺には尾獣の力もある。全てを使ってお前を殺す」

「ダメね。今のサスケくんには何も受け入れられないわ」

そう言っていっそう憐みの目を向けるイズミ。

「そもそもサスケくんじゃアオくんには逆立ちしたって敵わないわよ」

「こら、煽るなよハナビ」

「クソがっ!」

サスケが殺気だって駆け出した。

だが…

「ぐ…がっ…」

突如として苦しみだして地面に倒れる。

「ほらね」

「サスケくんっ!?」

駆け寄るサクラ。

「サクラちゃん、何があった。なんでサスケは倒れたんだってばよ」

「これは…酸素がうすい…?」

サスケを気付けるサクラ。

「ぐ…かはっ…はぁはぁ……な、何をした…」

睨みつけるサスケ。負けん気だけは一丁前だ。

「本当、何をしたのよ」

とイズミ。

「万華鏡写輪眼、志那都比古(しなつひこ)。その能力は視界に収めた空間の空気を操る」

「風遁ってこと?」

「分類で言えばな。ただそう言った使い方以外にも空気中の酸素を無くすと言った使い方も出来る」

「うわぁ…それでサスケくんが呼吸困難で倒れたのね」

「この卑怯者がっ!」

「口だけは達者だな、サスケ。手加減してやっているのに生意気だ」

「どう言う事」

とサクラ。

「その気になれば酸素を増やしたり、一酸化炭素を増やしたりも出来るぞ」

やらないだけで、とアオ。

「な…」

「ど…どう言う事だってばよ、サクラちゃん」

「一酸化炭素は大量に吸えば意識障害の後に死亡するし、酸素だってありふれたものだけど高純度のそれを吸い続ければ脳が破壊されてしまう。無味無臭の上目にも見えないのだから防ぎようが無い…」

「どうしてあの大筒木カグヤに使わなかったのよ」

そう言ってハナビが睨みつけた。

「いや、カグヤなら呼吸しなくても生きていけそうだったし」

そうアオがハナビを向いた瞬間、反対側に居たイズミとサスケの位置が一瞬で入れ替わる。

「きゃっ」

輪廻眼、天手力の能力だ。

その能力は凄まじいが、今回入れ替わったイズミとアオには若干距離が開いていて必殺の一撃を入れるには遅い。

「がっ!」

その時間が有れば今のアオなら対処は可能で、肘うちでサスケを吹き飛ばす。

「へぇ、面白い能力だ」

その一瞬で、日像鏡(ひがたのかがみ)でウツシ取る事も忘れない。

吹き飛ばしたサスケの後ろにある岩に天手力で入れ替えサスケを追撃。

しかし、間一髪でサスケは天手力でアオが入れ替えた岩と入れ替えて脱出した。

アオの攻撃が岩を砕き止まる。

「火遁・豪火球の術」

ボウと襲い掛かるサスケの火球。

それをアオは右手を突き出して吸収した。

「吸収した…?くっ…」

サスケを襲う手裏剣。

それはサスケが火遁を放った時すでにアオが投げていたものだ。

その手裏剣をサスケは写輪眼で見切って避けた…つもりだった。

避けたはずの手裏剣は有り得ない軌道を描いてサスケの輪廻眼を貫く。

「があぁあああああっ!」

堪らず目を押さえて蹲るサスケ。

「きゃぁあサスケくんっ!」

「アオ先生、やりすぎだってばよっ!」

「お前たちはどっちの味方だ」

「「それは…サスケくん」だってばよ」

だと思った。

「いったいどうやって当てているのよ」

とイズミ。

「因果逆転現象。放ったから当たったんじゃなくて、当たったから放ったんだ」

「意味が分からないのだけれど…」

必中の権能。

オビトに一度は効かず、カグヤにも当てる事が難しかったが、サスケではこの攻撃をかわす事は出来ない。

ドシン。

巨大な岩が激突する音が響く。

輪廻眼を失ったからか地爆天星で捕まっていた九尾達が地面に落ちたようだ。

「くそ…くそ…くそ…」

憎悪を口にし、あふれ出たチャクラが巨大なカラス天狗へと形どる。

「ぐぅがっ…」

遅れた二枚目の手裏剣が須佐能乎内のサスケの右目を突いた。

両目を失えばサスケは攻撃の目標を付ける事が出来ない。

「仙法木遁・真数千手」

アオが組み上げた印により作られる完成体須佐能乎を優にしのぐ大きさの千手観音像。

「サスケェっ!」

友のピンチからかナルトが九尾かしてサスケに寄りそう。

「何で来たっ!」

「友達だからだっ!」

「くそ…目が見えない、お前が決めろ」

完成体須佐能乎を威装スサノオでナルトの九尾に纏わせる。

「いやー…ありがてぇんだけどよ…」

「なんだっ!」

「多分無理だ」

見上げる九尾のその先。

「頂上化仏」

九尾を見下ろす千手観音が千の腕を万力の力で振り下ろす。

キュイーンと音を出して撃ちだされる尾獣玉。

それすら片手で押し込め無数の腕がサスケとナルトを襲った。

その数の暴力に威装スサノオははがされ、むき出しの九尾も削られて行く。

「サスケくーん、ナルトーーっ!」

粉塵が薄れると爆心地の中心へとサクラが走る。

「くそ…どうして」

「やっぱ敵わなかったな…アオ先生ってつえー」

サスケとナルトはハの字を描くように頭を突き合わせて仰向けに倒れていた。

「よかった、生きてる…サスケくん」

必死に医療忍術で二人の外傷を治療するサクラ。

「サスケくんの目は…」

「ああ、それは俺が一番分かっている…」

涙を流すサクラ。

その後ろから足音が聞こえた。

「どうだ。力による支配を受けた感想は」

とアオが言う。

「…………最悪だ」

アオの圧倒的なまでの実力差を感じさせられて心が折れたサスケ。

「だけどよ、いつか二人で超えてやろうぜ、な、サスケ」

「………この…ウスラトンカチが」

「ぐす…そこは…三人で、よ」

サクラが二人の手を取って泣いた。

「分かったら反省しろ」

間違ったら諭すのが大人の役目だ。

アオはサスケの両目に手を添えて放す。

「……目が…見える」

「サスケくん…」

「サクラ…」

「よかった、よかったよ…」

抱き着いて泣いているサクラ。

アオの後ろから遅れてハナビとイズミがやって来る。

「わたし、今気が付いたんだけど」

「何、イズミ」

「アオの方が大筒木カグヤよりも化け物よね…」

サスケの目をいとも簡単に治したアオを見てイズミが言った。

「ふふ、アオくんだもの。嫌いになった?」

「そんな訳ないでしょ。うちはは愛が重い一族なのよ」

「ふふ」「あはは…」

「おーい、二人とも、まだやる事は有るんだが…」

まぁいいか。

しばらくして神・樹界降誕を解呪してこの忍界大戦は奇跡的に戦死者ゼロで幕を下ろす。


輪廻天生で甦った主犯格のうちはオビト。八尾の人柱力襲撃の犯人であるうちはサスケ。そしてなぜか蘇っている大蛇丸の身柄は木ノ葉の預かりとなった。

サスケとオビトは魂が抜けたように牢屋で拘束されている。

サスケにはナルト、サクラが居るしオビトには同期であったカカシが通っている。

オビトは主犯格ではあるがカカシの説得もあり改心し、うちはマダラに操られていた事を理由に情状酌量の余地を探っている。

サスケがやった事は里抜けと八尾襲撃だが、八尾の人柱力は幸運な事に生きていたし、里抜けも表向きには暁へ加入したうちはイタチ殺害で相殺となった。

サスケはイタチの名誉棄損を嫌がったが彼の名誉回復と事実関係はこの先ゆっくり進める他ない。

忍界大戦後、口寄せカラスがアオの元に幾つかの神器と一対の写輪眼を届けに来た。

草薙の剣、八尺瓊勾玉、八咫鏡。

どれも実体のない霊器で、うちはイタチが持っていたものだ。

※注1

この作品を書き始めた頃のNARUTOはまだ須佐能乎と言えばイタチの須佐能乎しか設定が無く、その為作中のアオとソラの須佐能乎の能力は草薙の剣と八咫鏡を持っているものとして書いてあります。ご了承ください。
また、八尺瓊勾玉手裏剣を使った事が無いのも同様の理由です(八尺瓊勾玉手裏剣を使ったのがイタチの穢土転生後の為)

※注2

番外編 リリカルなのはIF においてアオとソラの万華鏡写輪眼が天照、月読である事は書いた当時、須佐能乎を使えるのは天照と月読の能力が揃って初めて使えると考察されていたためです。
本編のアオ達はサスケの加具土命の使用後の為能力の変更を行っています(シナツヒコ等)。

一対の写輪眼はうちはシスイの万華鏡写輪眼でその能力『別天神(ことあまつかみ)』は月読を超える最強幻術だ。

これを弟であるサスケではなくアオに持って来た理由はサスケの情状酌量の嘆願の為だ。

死して尚弟思いの兄だ。

イタチの最後の願いだ。どうにかしてやりたいとアオも思っている。


大蛇丸についてだが…これについてはどうしよう…

どうやら今の大蛇丸を殺してもどこかのバックアップから蘇る手段がまだあるらしい。

ならば少しでもこちらの意見を聞き入れてくれている今の大蛇丸を木ノ葉で囲うしか手が無いのが現状だ。




それよりも一番の問題はイズミについてだ。

「楔(カーマ)だな」

イズミのおでこに刻まれた◆模様。

「だよねぇ」

「いったいいつの間に…」

アオとハナビが楔を発動すると共鳴したかのようにイズミの楔が発動する。

昼は火影としてまた忍者として里の復興に時間を割いている昨今、自由に有る夜になってようやくイズミのこの状況を整理できる時間が出来た。

三人、家の新しい武道場で顔を突き合わせた出した結論だ。

「問題はその楔が機能しているかどうか、だ」

楔は他の誰かの遺伝情報をその体に書き込み書き換えるものだ。

アオで言えばアオ本人とハゴロモの能力と経験のみが記録された不完全の物だが、イズミのそれははたしてどうか。

「大筒木カグヤは死んだ。物理的にも概念的にも、な。これは断言できる」

ハナビの物も複雑で、ハナビによればハナビ本人とハムラの能力と経験が宿っているらしい。

「でも打ち込んだのはカグヤよね」

そうハナビが腕を組みながら言った。

「本来は時間を掛けて体を変化させ、最終的にはそこに魂までも憑依させる転生術だな」

「それじゃ…もしかしてわたしも?」

「そこが複雑だ。俺はあの時、魂すら殺した」

「つまりどう言う事?」

「断言はできないが、カグヤ本人になる事はないだろうが、やはりその体はカグヤに限りなく近づくだろうね」

「見た目がって事?」

「いや、外見がと言う事じゃないな。器と魂、揃ってこそだからね」

「それは…よかった…のかしら?」

一応アオの言葉にホッとするイズミ。

「最悪の事態にはならずに済んだだけだ。問題の解決かは分からんな」

「まぁイズミはイズミって事で良いんじゃない?」

「ハナビ…」

「だってどうしようもない事をいつまでもくよくよ悩んでいても人生むなしいだけよ」

「はぁ、…まったくハナビには敵わないわ。…すこし強い力が手に入れられてラッキーって思う事にするわ」

「それが良いわ。むしろこれでようやく三人お揃いと喜ぶ所よ」

「ふふ…まったく」

と言ってイズミはハナビに釣られて笑った。


そうして時間が過ぎ17年後。再び大筒木の一族が動き出す。
 
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