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展覧会の絵

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最終話 幸せな絵その一

                   最終話  幸せな絵
 一連の裁きの代行から数ヶ月。一郎や雪子の殺人事件、世間ではそう認識している裁きの代行から数ヶ月。まだ事件のことは人々の記憶にはあった。
 だが口に出ることは少なくなり清原塾は。
「あの理事長の弟さんがですか」
「そうだよ。新しく理事長になってね」
「十階もですね」
「オープンになったよ。新理事長だけじゃなくてね」
 かつては由人が私物化しおぞましい宴の場所にしていたその階もだと。十字は神父に対して教会の一室でコーヒーを飲みながら語っていた。
 彼は今日も白い服だ。白い服に黒いコーヒーが映える。そのコーヒーはイタリア風だ。
 イタリア風のそのコーヒーを飲みながらだ。彼は言うのだった。
「関係者、生徒は呼ばれた場合に限るけれど」
「入られるようになったのですね」
「うん。理事長室の他には資料室になったよ」
「そうした階になったのですか」
「勿論今の理事長はあの理事長の素顔は知らないよ」
 それは十字が消したのだ。だがそれは情けからのことではない。  
 塾に罪はなく由人の悪事で塾が潰れることがないようにだ。彼の悪事の証拠は全て消したのだ。
 そのうえでだ。彼は言うのだった。
「あの塾は本来の姿を取り戻すんだ」
「今の理事長さんの手によってですね」
「そうなるよ」
「いいことです。藤会は最早完全に壊滅しました」
「僕が頭を全て潰したからね」
 どの様な生き物も頭を潰せば死ぬ。これは組織も同じだった。
「だからね」
「いつものやり方を踏襲されたのですね」
「ああした悪人の集りは幾ら潰してもね」
 そうしてもだというのだ。
「何度でも出て来るものだけれど」
「それでもですね」
「そう。各個撃破していくよ」
 こう言うのだった。
「これからもね。けれどね」
「今はですね」
「そう。裁きの代行は終わったよ」
 雪子へのそれを行ってだ。それは全てだというのだ。
「無事ね。今回も終わったよ」
「それは何よりですね」
「あれから数ヶ月」
 コーヒーのその地獄の様な熱さと天使の様な甘さを感じながらの言葉だ。
「悪人への裁きの代行はしているけれど」
「組織的なものに対するものはないですね」
「あれだけだね。日本に来てからは」
「今のところは」
「裁きの代行は神に仕える者に許された聖なる務め」
 十字は確信していた。神に仕える者であるが故に。
「だから僕は躊躇はしていないよ」
「それも一切ですね」
「そうだよ。それでだけれど」
「理事長や四人の不良達に陵辱されていた少女達ですね」
「彼女達のことはどうなっているかな」
「全ては順調です」
 心の傷の回復、それはだというのだ。
「私が何とか彼女達の話を聞いて」
「そしてだね」
「傷を癒しています。枢機卿がそうされている様に」
「罪人に汚された子羊達は救わなければならない」 
 十字は淡々とこうも言った。
「それ故にね」
「救済も務めですね」
「神に仕えるのならね」
 十字の務めは裁きの代行だけではなかった。
 子羊達の救済、それもだった。そして十字はこのことに対しても忠実だった。
 彼は淡々とだ。こう神父に述べた。
「必ず果たすよ」
「それもいつも通りですね」
「うん。じゃあ今は日曜だから休んでね」
「そうしてですね」
「明日からね」
 その明日からだ。為すことは。 
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