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展覧会の絵

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第十八話 我が子を喰らうサトゥルヌスその九

「務めのことはね。例えば」
「例えば。何よ」
「君は学生だね。学生の本分は勉強だね」
「それがどうかしたの?」
「これまで回答したテストの枚数は覚えていないよね」
 こう言うのだった。彼にとって裁きの代行は学生のテストの回答の様なものだとだ。
 つまりだった。殺した人間の数なぞだというのだ。
「それと同じだよ」
「あんた、何者なのよ」
「バチカンの枢機卿だよ」
「枢機卿!?ローマ=カトリック教会で法皇の次に偉いっていう」
「そのうちの一人になるね」
「まだ私と同じ年齢なのに」
「特別にね。任命されているんだ」
 かつては一国の君主に匹敵するとまで言われた緋色の法衣を着る立場に任じられているというのだ。それが佐藤十字という人物だというのだ。
「僕はね。神の裁きの代行者としてね」
「そんなの聞いたことはないわよ」
「内密にだからね。どんな組織にも表と裏があり」
 そしてだというのだ。
「バチカンもまたね」
「表と裏があってそれでだっていうのね」
「そうだよ。裏があるんだよ」
 彼がその裏の担い手、そのうちの一人だというのだ。
「そういうことだよ」
「それで今からだっていうのね」
「君にも裁きの代行を下すよ」 
 死刑宣告に他ならなかった。雪子にとって。
「覚悟はいいね」
「だからこんな暗い部屋で二人にしたのね」
「二人。違うね」
 十字はそのことは否定した。二人ではないというのだ。
「もう一人いるよ」
「もう一人?誰よ」
 雪子は周囲を見回した。だが、だった。
 十字とゴヤの無気味な絵以外は何もなかった。彼女は最初絵を擬人化してそのうえで言っているのではないかと思った。その彼女にだ。
 十字はいつもと変わらない冷淡でさえある声でだ。こう言ったのだ。
「彼だよ」
 言ってだ。そしてだった。 
 彼はその手に何かを出して雪子の前に置いた。雪子は私服、パジャマのまま両手を後ろに縛られており足首もそうされていた。そのうえで動けなくされていたのだ。
 その彼女の前に十字が置いたもの。それは。
「・・・・・・・・・」
「彼だよ」
「お兄ちゃん・・・・・・」
 置かれたのは一郎の血塗れの首だった。耳も鼻もなく歯と顎は叩き潰されそこから血が流れている。見れば開かれた口からは舌も引き千切られている。
 そして頭から毛があちこちから頭皮ごと抜かれそこからも血が出ている。しかも。
 片目がなかった。そこから視神経が出たままになっている。一郎は恐怖に凍りついたその顔で雪子の前に来た。十字のその案内によって。
 その彼を見てだ。雪子は蒼白になり呼んだのだった。
「首がないと思ったら」
「死ぬ直前に。最後の苦しみの為にね」
「生きたまま首を切ったっていうのね」
「そう。鋸でゆっくりとね」
 切ってだ。そのうえで裁きの代行を下したというのだ。
「喉には食べてもらった眼球や内臓の切れ端がまだ残っていたよ」
「自分の内臓まで食べさせた・・・・・・」
「裁きの代行には絶対の恐怖と絶望、そして苦しみをじっくりと時間をかけて与える」
 彼の裁きの下し方も告げた十字だった。
「その為にもね」
「お兄ちゃんを殺したっていうの」
「そう。そして君の裁きの代行を見てもらうんだ」
 一郎、彼にだというのだ。
「穢れた罪を共有する彼にね」
「一体これから何をするつもりなのよ」
 雪子は自分がどうして殺されるのかを十字に問うた。 
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