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展覧会の絵

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第十六話 最後の審判その三

「静かに行われるものではないのです」
「こうして動きがあるものなんだね」
「はい。悪人ですが」  
 十字は絵の中の裁かれる者を見ていた。そのうえでの言葉だった。
「この様にして裁かれるものです」
「そこも動きあるね」
「そうですね。本当に」
「悪人は裁かれるものです」
「善人は救われてだね」
「はい、そうです」
 その通りだと述べる十字だった。
「悪人は永遠に裁かれるのです」
「地獄に落ちるんだね」
「地獄に落ちる前に」
 表情はないにしてもだ。十字は言っていくのだった。
「このの世に生まれたことを後悔することになるのです」
「後悔?」
「はい、後悔です」
「どういうことかな、それって」
 先生は十字の今の言葉の意味はわからなかった。それで首を捻った。
 それでそのうえでだ。こう十字に言うのだった。
「生まれたことを後悔する?」
「そうです。そうなります」
「ちょっと意味がわからないけれど」
「そのままです。恐怖と苦痛、絶望を感じながら裁きの代行を受けるのです」
「代行?」
「人を裁くのは神です」
 これはキリスト教の言葉だった。まさに。
「人ではありません」
「じゃあこのキリストも?」
「はい、判決を下されていますが」
「その判決もなんだ」
「神が為されそれの代行をされているのです」 
 あくまで神が全てだとだ。十字は先生に話す。
「主もです。そして人もです」
「裁判とかかな」
「法による裁判ですね」
「うん、そういうのもかな」
「それだけではないです」
「それだけじゃないって」
「神の裁きそのものへの代行もです」
 それもだとだ。十字は己のことも話した。ただ先生には全く気付かないことだ。
「それもまた然りです」
「代行ねえ」
「そうです。それもです」
「いや、意味がわからないよ」
 先生は首を捻ったまま十字に述べる。
「何がどういうことなのか」
「そうですか」
「何かね。まあとにかくね」  
 先生は十字の話がわからなかった。しかしだ。
 それでもミケランジェロのその絵を見ながらだ。描いた十字に言うのだった。
「君は本当に色々な絵を描けるよね」
「模写ばかりですが」
「いや、模写でもね」
 それでもだというのだ。
「人には癖があってね」
「それ故にですか」
「そう。模写できる絵とできない絵があるんだよ」
 普通はそうだというのだ。だが、だった。
 十字はどんな絵でも模写できる。しかも完璧にだ。先生はそのことを言うのだった。
「君は凄いね、その辺り」
「有り難うございます」
「何故それができるのかな」
「そうですね。それは」
「君はそのことについて自分では何が根拠にあると思っているかな」
「心を見ているからでしょう」
 それ故にだとだ。十字は先生に答えた。
「絵にある心を」
「心を見ているから?」
「はい、僕は絵柄を見てはいません」
 これはその通りだった。十字は常にその絵の絵柄といったものは意識して描いてはいない。彼にとって絵柄は見るべきものではないのだ。 
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