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蓬莱人

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第二章

 まずはだ、こう言った。
「異朝の服を着ているが」
「それでもですね」
「そなたはそちらの者ではない」
 このことを見極めて言った。
「間違いなくな」
「そう思われる訳は」
「今あちらはかなり酷い有様と聞いている」
 唐はというのだ。
「今にも大乱が起こるまでに乱れているな」
「その様ですね」
「それで本朝まで逃れる者がいてもおかしくないが」
 それでもとだ、業平はさらに言った。
「そなたの言葉の訛にはだ」
「唐のものがないですか」
「普段使う言葉が違えば訛も違う」
 このことを言うのだった。
「それは本朝も然り、ましてや唐の言葉を普段から使うとなると」
「尚更ですか」
「その訛が出る」
 唐の言葉のそれがというのだ。
「それがない、また物腰もな」
「そちらもですか」
「そなたには唐のものがない」
「物腰もこちらと唐ではですね」
「また違う、訛だけでなく物腰もだ」
 これもというのだ。
「国が違うとな」
「出ますか」
「左様、そなたには唐のものは一切ない」
 強い声場で指摘した。
「そしてだ」
「さらにですか」
「そなたの言葉や物腰についてまた言うが」
 業平はその整った顔の表情を鋭くさせて言った。
「本朝の何れでもないな」
「どの国のものでもないですか」
「都にいればどの国からも人が来てだ」
 本朝即ち日本のというのだ。
「見る機がある、国によってだ」
「やはり訛と物腰がありますか」
「本朝の言葉を使っていてもな」
「そう思われますか」
「うむ、東の蝦夷でもないな」
 業平はこちらも否定した。
「東国に行き蝦夷の者達と会ったこともあるが」
「私はですか」
「そちらでもない、しかしだ」
 それでもとだ、業平は女を見つつ述べた。
「そなたの言葉は本朝の言葉を元から使っているもの」
「そうですか」
「そうである、しかし本朝の者とは思えぬ」
 日本の言葉を使っていてもというのだ。
「かといって蝦夷でもない、となると」
「南の島々はご存知でしょうか」
 女はここでだった。
 思わせぶりに笑った、そうしてこう言ってきた。 
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