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DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~ 

作者:山神
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想定外

 
前書き
昨日一日で雪がとんでもなく積もって疲労困憊です…
日本全国ヤバイみたいなので皆さん気を付けてくださいね。 

 
莉愛side

「えぇ!?それヤバイじゃん!!」

ベンチからやってきた澪さんの言葉に盛大に笑っている私たち。澪さんの陽香さんの物真似が面白すぎてベンチを直視できない……たぶん陽香さんの顔を見たまた吹き出しちゃうと思う。

「はぁ……で、何か言ってた?」
「??なんか言ってたけど覚えてないや」
「「「おい!!」」」

笑い終えて落ち着いたところで莉子さんが問いかけたが澪さんは首をかしげてそんなことを言っていたため私たち一年生から突っ込みが入っていた。

「だって大したこと言ってなかったもん。ここは任せるみたいな感じだったし」
「あぁ、だから今の物真似だったわけですね」

ベンチから指示がないのなら伝令がやるべきことは選手たちをリラックスさせること。それを全うしてくれた澪さんはまさに適材適所だったってことか。

「ピンチの後にチャンスありだからね!!頼むよ、瑞姫!!」
「はい」

瑞姫のお尻を叩いてベンチへと戻っていく澪さん。それを受けて莉子さんたちも彼女に声をかけてポジションへと戻っていく。

「瑞姫、いいボール来てるよ。さっきのはアンラッキーだっただけだから」
「うん。わかってる」

ソフィアさんのヒットは気にしていない様子で一安心。でもランナーがいる状況でリュシーさんの相手をしなければならないのはかなり厳しい。

「今日の審判コース広いからいつもより厳しく攻めていいよ。低めは絶対止めてみせるから!!」
「??うん、わかった」

なんか不思議そうな顔で応答されて不安な気持ちが沸いてきたけど球審に急かされポジションへと戻る。

(でも監督が敬遠の指示を出さなかったってことは瑞姫なら抑えられるかもって考えてくれてるってことだよね?)

ベンチを見ると監督と目が合い頷き合う。その後ろに陽香さんがいて笑いそうになってしまったけどすぐに顔を逸らし瑞姫に向き合う。

(ソフィアさんは足もあるけどここで動いてくるとは思えない。だから変化球で入っても問題なし!!)

まずは内に切り込んでくるスライダー。最悪当たってもしょうがない。それくらいの気持ちで厳しく攻めていく。

外角から膝元へと食い込んでくるスライダー。リュシーさんはこれを振っていくが想定よりもキレがよかったのか空振り。

「ナイスボール!!」

要求以上の変化球に返球にも力が入る。それを瑞姫もわかっているのが、表情に余裕が見える。

(これならもう一球試してみるのもいいかも。浮かないように気を付けてよ)

甘く入ったら持っていかれる。そんなことは瑞姫もよくわかっているだろうけど、ここは特に気を付けてほしいところ。

「!!」

内心ドキドキしていたことが瑞姫にまで伝わってしまったのか、指先に引っ掛かってしまいワンバウンドの投球になる。危うく後逸するところだったが何とか抑えることができランナーの進塁は阻止できた。

「ごめん」
「大丈夫!!いい球来てるよ!!」

ボールを拭ってから返球する。カウントは1-1だけどこの二球で低めに意識が向いているはず。次は高めにストレートをーーー

(っと、そういえば一打席目は釣り球を打たれたんだった)

出しかけたサインを止める。変な間合いができてしまい瑞姫がプレートを外し、改めてサインを見る。そんな彼女に右手を向けて謝罪する。

(リズム狂わせちゃったかな?でも気付いてよかった)

追い込みながらも三塁打を打たれた一打席目。あれと同じことになってしまったらと考えるとこの配球はできない。そうなると次も変化球で行くしかない……よね?

(次もスライダー。ただし今度はボールからストライクになる感じで……)

















第三者side

手元を離れた瞬間に遠いと感じたリュシーは一瞬反応が遅れる。しかしゾーンに向かってきていることに気が付いた彼女は慌ててスイングに入るが捉えきれず真後ろにボールが転がる。

(またスライダー……てっきりストレートを挟むかと思ったけど読みが外れたね)

ボールデッドになったため一度打席を外し素振りを行う。打席に入り直した彼女はベンチを見るが、カミューニからの指示はない。

(狙い球のサインすら出さないんだ……信じてくれてるんだか投げやりなんだかわかんないんだよねぇ)

常に頭をフル回転させて采配を振るっている青年がこの場面では思考する様子すらない。そのため彼女は自身で考えてこのチャンスを物にしなければならない。

(三球続けてスライダー。でも交わそうとしているというより逃げてるような気がするんだよね)

強打者を打ち取るために変化球で目先を変えながら相手の打ち気を逸らしながら抑える攻め方がある。しかしそれと似て非なるものがある。それが逃げの投球。リュシーはここまでの配球から莉愛の気持ちが逃げているのではないかと感じていた。

(最初の二球で低めを意識させたはずなのにまた低め……それも今度は外。ストレートで差し込める可能性もあったのにそれをしなかったのは一打席目のスリーベースが効いてるから)

そこまで分かれば次の球の予測も立てられる。彼女はストレートの可能性を一切排除し、変化球……それもフォークに的を絞る。

(四球続けて同じ球は投げられないでしょ?すくい上げて外野の頭を越えてやる)

逃げ腰の状態なら一度打たれているストレートはない。そう割り切りタイミングを計るリュシー。そして莉愛の配球は……

(次はフォーク!!ワンバンでも止めるよ!!)

彼女の思惑通りのものとなる。

「ふぅ……」

背中越しにランナーを見てからセットポジションへと入る。クイックからの投球だったがコースは抜群。しかしわずかに浮いてしまったそのボールを少女は待ち構えていた。

(外いっぱい!!でもこれなら届く!!)

腕を目一杯伸ばしアウトローギリギリのフォークをフルスイング。すくい上げる形になった打球は右中間へと伸びていく。

「センター!!ボール三つ!!」

届くかどうかといった打球に一塁ランナーのソフィアは二塁ベースを回ったところで止まっている状況。

(捕れそうには見えないけど……これ以上出ると戻れないし……)

スタンドインもギリギリだが捕球できるかもギリギリ。大きめのハーフウェイでも戻れると判断した彼女はできるだけ次の塁を近くすることを優先した。

「私が行く!!」
「任せた!!」

打球を追いかけていた伊織がそのボールが失速していることに気が付いた。フェンスにも届かないと確信した彼女は一か八かダイビングに出る。

彼女の判断は正しかった。打球はフェンス手前に向かって落ちていく。しかし、彼女のグローブはその白球にわずかに届かなかった。

「落ちた!!」
「ソフィア!!」
「はいは~い」

既に一、二塁間の真ん中へやってきているリュシーと落ちたのを確認して走り出すソフィア。ソフィアの生還は確定的かと思われた。しかし思わぬ幸運が明宝学園へと降りる。

「莉子!!」

ワンバウンドでフェンスから跳ね返った打球。それは伊織の真上を飛び越えカバーに入っていた栞里の正面へと落ちる。それを拾い上げるとすぐ近くに来ていた紗枝の中継を飛ばし莉子へと返球。キャッチャーも経験していた彼女の肩は強いこともありノーバウンドで莉愛へと投じられる。

「ストップストップ!!」
「えぇ!?」

ホーム突入するつもりだったソフィアはコーチャーの指示に驚きながらも停止する。不服そうな彼女だったが直後にミットに収まるボールを見て驚愕しながらコーチャーと目を合わせる。

「伊織?大丈夫?」
「なんか疲れた」
「はいはい、頑張った頑張った」

なかなか起き上がらなかった伊織だったが怪我などはない様子。栞里が手を貸し立ち上がった伊織はポジションへと戻っていく。

















莉愛side

元気そうな伊織さんを見て一安心。ただ、状況はさらに悪くなっている。ノーアウトでランナーが二、三塁。そして打席には前の打席でランニングホームランを放った蜂谷さん。

「内野前進!!外野も前で!!」

前の打席はバント対策で野手が前に来たところを狙われた。でもこの場面で前進守備を敷かないわけにはいかない。もう1点でも取られたら試合が決まっちゃうかもしれないんだから。

(紗枝と莉子さんの頭の上を越されたらまた同じことになりかねない。前の打席はストレートを合わせて越された感じだった。なら変化球から入るべき?)

スライダーだと合わされそうな気がするしパスボールが怖いけどここはフォークから入ろう。瑞姫のフォークなら打たれるはずはない。このピンチを抑えるためにも出せるものは全部出していかないと。
















第三者side

「やっぱりうまいですね」
「まぁうちとじゃ素材も練習量も違うからな」

チャンスではあるもののここから打順は下位に向かっていく桜華学院のベンチでは二人がそんな話をしている。ノーアウト二、三塁で打者はクリンナップの一人である蜂谷。しかし前の二人に比べれば多少なりとも力は落ちる。それがわかっているからカミューニも表情が暗い。

「何か策はないんですか?」
「四回に出し切っちまったからなぁ……狙い球は伝えてるからあとはあいつのセンスに託すだけだなぁ」

スクイズの気配も何か小技を仕掛ける素振りも見せない。指揮官はキャプテンにこの場面を託したのだ。

(あのキャッチャー……チャンスを生かせなかったことで気持ちが逃げてる。となると変化球だがスライダーなら合わされると思ってフォークから入ってくるだろう。だが、この回それが浮いてきてることに気が付いてるか?どうせ抜けるならゾーンに来てくれ)

疲労からかもしくは前の回のチャンスを逃したことで気持ちが切れてきているのか、決め球であるフォークが甘く入って来ているこの回。そこを狙い目と考えているカミューニに対し莉愛はフォークを選択し、瑞姫は投球に入る。

(ベルトより下なら振らない。上ならフルスイングする!!)

初球がフォークであることを伝えられている蜂谷はボールの出所をじっと見つめる。彼女もこの回の瑞姫の投球が良くないことに気が付いているからだ。そして彼らの読みは的中する。

(ヤバッ!?高い!!)
(来た!!しかもコースも甘い!!)

ここまで何とか低めに集まってきていたフォークがここに来て真ん中に入ってくる。この一球を待ち構えていた蜂谷はもちろんこれを打って出る。

ガッ

しかし予想以上の失投に気持ちが逸ったのか、打球は鈍い音を残しレフト前方へと打ち上がる。

「レフト!!」

内野は前進していたためここはレフトの明里に任せるしかない。弾道は低く力はない。しかし彼女の足なら問題なく追い付けるであろう打球。しかも当たりが浅いためランナー二人はタッチアップすることは不可能。

(このあとはみんな当たりがない。ここを抑えられたのは大きい!!)

ピンチを脱することができる可能性が出てきたことに歓喜している莉愛。しかしここで最悪のアクシデントが明宝を襲った。

(少し助走をつけて万が一のタッチアップに備えたいから早めに落下点に入っーーー)

グキッ

「うっ!!」

ダッシュで落下点に入ろうとした明里。彼女もこの当たりは問題なく捌けると思っていたところで突如足に走る激痛。

「明里!?」

彼女が一歩を踏み出した時に葉月がその違和感に気付き叫んだ。しかしその声は彼女に届かない。体勢を崩した彼女は長いリーチを伸ばし打球の捕球を試みる。

しかし無情にも打球は彼女のグローブに掠るに止まり、センター方向へと転がっていった。




 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
前々からちょいちょい出してた(本当に少しだけ)明里の足の不調がここで露呈した感じです。
そろそろ試合も終盤に入ると思います。ここからは少し展開が加速するかも? 
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