展覧会の絵
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第十五話 ユーディトその四
「それがない者が討つことはね」
「それは何になるのかしら」
「それもまた悪。正しき信仰がなければね」
「じゃああんたにはその正しい信仰があるのかしら」
「そのつもりだよ」
「するとあんたもその絵みたいに人を殺せる」
雪子の口調、十字が今見ている彼女のその口調が変わってきた。
「そうだっていうのかしら」
「どうだろうね。ただね」
「ただ?」
「神は全てを御覧になられているから」
自分のことは隠してだ。神のことを話すのだった。
「悪は必ず討たれるよ」
「絵の斬られる人みたいになるのかしら」
「首を斬られるかどうかはわからないけれどね」
だがそうした目に逢うとだ。十字は己の言葉の行間に入れてきた。ただしそれは雪子にも気付かれないものだった。彼もあえてそうしたのだ。
「けれどね」
「怖いわね。悪い奴は絶対にっていうのはね」
「そうだよ。悪人は裁かれる」
雪子の心の奥に何かを置く様にして。十字は述べた。
「必ずね」
「だといいけれどね」
「君はそうしたことは信じないのかな」
「どうかしら」
軽い笑みでだ。返す雪子だった。
「私は別にね。神様とか信じる方でもないから」
「そうかも知れないね。けれどね」
雪子の本質を知ったうえでだ。十字は言っていく。
「神は確かにおられる。そして」
「悪を裁くの?」
「そうだよ。そのことは絶対の摂理だから」
「じゃあ聞くけれど私がね」
「君が?」
「悪いことをしていたらね」
隠している、思わせぶりな笑みでだ。雪子は十字に問うたのだった。
「神様は裁きを下すのかしら」
「当然だよ」
未来をだ。十字は今言った。
「そうなるよ。誰であろうともね」
「だといいけれどね。そうなったらね」
「そして悪が醜くければ醜い程」
どうなるかと。十字はあえて雪子に言っていく。
「邪悪であればある程ね」
「あの絵みたいになるのかしら」
「首を斬るとね。人がすぐに死ぬよ」
「そのことは誰でも知ってると思うけれど」
「そう。首を斬ればすぐに死ぬんだよ」
十字は言っていく。ここでも。
「簡単にね。けれど他の場所を斬ったり潰したりしても」
「死なないっていうのね」
「首を斬って終わりとは限らないんだよ」
これが十字が今雪子に言うことだった。当然ながら雪子のことを知っていての言葉だが雪子はそのことに気付いていない。気付かれていないと確信している故に。
十字もそのことは顔にも声にも出さない。だがその琥珀の目にだ。彼は微かにだが出していた。
その目で雪子を見つつだ。彼は話していく。
「神の裁きの代行はね」
「魔女狩りみたいなことがあるのかしら」
「あるよ」
「だと面白いわね。じゃあ私も」
神の存在をせせら笑いつつだ。雪子は神の僕に述べていく。
「魔女狩りみたいに殺されるのかしら」
「君がそうした人間だったらね」
「確かに聞いたわ。けれどそうならなかったら」
「どうするかっていうのかな」
「貴方、私の言うこと何でも聞いてくれるかしら」
「いいよ」
無表情なままでだ。答えた十字だった。
「その時はね」
「言ってくれたわね。それじゃあね」
雪子は十字にここまで話して手を振った。そのうえでだ。
彼と別れてそのまま帰った。十字はその背中を無言で見送った。だが最後にだ。一言こう言った。
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