展覧会の絵
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第十三話 ベアトリーチェ=チェンチその十二
「それでね。今日ね」
「ああ、今日にするんだ」
「どうせ彼今日も学校に来ないでしょうし」
「だからこそだね」
「彼の家に行くわ。ただね」
「問題は家族の人だね、一緒に住んでる」
「彼のお母さんは専業主婦なのよね」
つまり大抵は家にいるということだ。このことが問題だった。
だがこのことについてだ。雪子はすぐにこの解決案を出したのだった。
「クロロフォルムを持って行くわ」
「それで眠らせているうちに」
「やるわ」
悪魔の笑みが戻った。雪子の顔に。
「そうしてあげるわ」
「そう。じゃあついでだから」
「ええ、学校休むから時間があるから」
それでだというのだ。雪子は悪魔の顔で言い続ける。
「塾でもね」
「仕掛けるんだね」
「あの二人に仕掛けるのは今日にしましょう」
「具体的にはどうして仕掛けるのかな」
「叔父様とあの四人に連絡をするわ」
雪子が名前を挙げたのは彼等だった。
「それであの二人にもね」
「何時仕掛けるのかな」
「放課後。熟の時でいいと思うわ。それじゃあね」
「今日だね」
「今日。それぞれ仕掛けるかな」
「そうして今のささくれだった気持ちを紛らわせる」
「ああしたね。幼馴染みとか純愛とか」
そうした清らかなものに対してだ。雪子はこれ以上はないまでの悪意と憎悪を向けていた。それは最早病的な、異常とまで言っていい位のものだった。
その異常なまでの悪感情を見せながらだ。雪子は言うのだった。
「そういうものを壊してやることこそがね」
「一番いいストレス解消だよね」
「あとはセックスに薬に」
「そしてお酒だね」
「真面目な遊びなんて遊びじゃないわ」
「悪いことこそがだね」
「それが最高の快楽なのよ」
今度は快楽に関心を向けた雪子だった。
「だからこそね」
「そうするんだね」
「ええ。今日ね」
「じゃあ僕は真面目にね」
「学校に行くのね」
「うん、そうするよ」
真面目で善良な教師の仮面を被りだ。一郎は言った。
「今日もね」
「兄さんは何時でも真面目ね」
「僕はそうだよ」
「そうね。真面目な人間の仮面を被ってるわね」
「おやおや、そう言うんだね」
「じゃあ兄さんは悪人じゃないのかしら」
その兄の仮面を見ながらだ。雪子は兄に問うた。
「そのことはどうなのかしら」
「僕かい?」
「そう。兄さんだってお薬やって」
まず言うのはこのことだった。
「私と寝て生徒にも手を出してるわよね」
「確かにね」
「それで悪人じゃないって言えるのかしら」
「顔というのは便利だよね」
今度はしれっとした感じでだ。一郎は返した。
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