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ライチの香り

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第二章

 その民を自分の前に連れて来させた、民は畏まって玄宗に拝謁してから顔を上げることを許されて述べた。
「万歳老がここに来られると聞きまして」
「それでなのか」
「はい、それでです」
 民は玄宗に竹籠を差し出して言った。
「こちらを」
「その中にあるものをか」
「献上させて頂きたいのですか」
「一体何であるかだ」
 玄宗は民に笑顔で問うた。
「見せてくれるか」
「はい、こちらです」 
 民は玄宗に応えてだった。
 籠の蓋を開けた、すると。
「おお、これは」
「何とかぐわしい」
 玄宗だけでなく隣の座していた楊貴妃もだ。
 蓋を開けた途端に香ったそれに声を挙げた、その香りは。
「ライチですね」
「そうだな、この香りは」
「ここでライチを献上してくれるとは」
「何と風情があることか」
 山中の離宮の中で言うのだった。
「これはまことによい献上品だ」
「全くですね」
「この香りもいい」 
 玄宗はライチの香りにうっとりとして述べた。
「そして曲の名も思いついた」
「そうなのですか」
「曲を聴いてすぐにこの香りを受けた」
 だからだというのだ。
「そこから名付けたい」
「では何と名付けますか」
「茘枝香としよう」
 楊貴妃に微笑んで答えた。
「そうしよう」
「それはいい名ですね」
 楊貴妃も笑顔で応えた。
「それでは」
「うむ、皆の者よいな」
 玄宗は周りにいる者達楽人達だけでなくそこにいる者全てに話した。
「これよりこの曲の名は茘枝香とする」
「わかりました」
 皆玄宗の言葉に笑顔で頷いた、こうしてこの曲の名は決まった。その後でだった。
 玄宗は楊貴妃と共に献上されたライチを食べその曲を聴いた、そうしてこんなことを言ったのだった。
「この時が永遠に続く」
「そうなりますか」
「必ずな」
 こう言うのだった、全ては唐の夢の中のことであったと玄宗がわかるのは暫くしてからのことだった。


ライチの香り   完


                   2022・8・12 
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