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<ポケットモンスター トライアル・パレード>

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1章「新しい旅先」
  8話「カゲギシ砂丘 綺麗な砂の主」

 
前書き
ポケモンの二次小説です。主人公はサトシです。ご興味あれば、1話からお読み下さい。

(注意)
掲載された作品で、文章の変更や文章ミス・誤字脱字などに気付きましたら、過去のも含めて後日改めて修正する可能性もあります。 

 
サトシ、ヒョウリ、マナオの3人は、ヨヨミキシティでポケモントレーナー・ベストカップの存在を知った。そして、サトシとマナオの二人は参加し、第一の試練に挑戦した。結果、無事に達成出来た二人は、次の第二の試練が開催されるフィオレ地方のフォルシティへ向かう為、西へ向かっていた。


サトシ達は、昨日ヨヨミキシティから旅立って、ハルタス地方の海沿いの近くにある町へ向かっていた。
「なぁ、ヒョウリ。町まで、あとどの位だ」
サトシは、先頭で道案内をしているヒョウリに向かって聞いた。今のサトシは、なぜか普段より元気が無く、下を見ながら歩いていた。
「あと3時間も歩けば、チョウドタウンに着く」
ヒョウリは、腕輪のモニターを見ながら、後ろのサトシへ教えた。
「3,3時間もですか」
今度は、サトシの隣で草臥れたような顔をして歩いているマナオが、そう愚痴る。
「あぁ、そうだ。頑張って歩け」
すると、サトシが腹を押さえながら、口ずさんだ。
「腹減った」
「さっき、昼飯食ったろ」
サトシの言葉を聞いたヒョウリが、彼に振り返ってそう話す。
「昼飯って、ヨヨミキで買った保存食だろ。朝飯といい。あれだけじゃあ、まだ物足りないっていうか、味気ないっていうか。やっぱりちゃんとした料理が食べたいぜ」
「そういうなら、お前が今度材料買って料理すればいいだろ」
「いや、そうだけど。俺は・・・余り得意じゃないっていうか」
「私も余り得意じゃないですね。家では、ずっとおばあちゃんに作って貰ってたんで」
「ヒョウリは、あれで満足なのかよ」
「ふん。確かに量も味も良いとは言わないが、体が動ける分のカロリーと栄養は取れてるだろ。まぁ、俺は料理しようと思えば、出来るがいちいち買っては料理して片付けるのが毎回面倒なだけだ。ましてや、野外でそういう事をするのがな」
ヒョウリは、そう話し腕輪のマップを見ながら、先へ進んでいく。
「はぁ、タケシの料理が食べたいぜ」
「ピィカ」
サトシの愚痴に、肩に乗るピカチュウもそう頷く。すると、隣にいたマナオが質問をしてきた。
「師匠。タケシって、誰ですか」
「え?あぁ、俺が昔一緒に旅をした仲間でな。はじめてポケモントレーナーとして旅はじめたカントーから、ジョウトやホウエン、シンオンとずっと一緒に回ったんだ」
サトシは、かつての旅仲間であるタケシを思い出しながら、語り出す。
「タケシは、元々はジムリーダーをやっててな。俺が、はじめて挑んだジムで出会ったんだ。ジム戦の後、あいつがポケモンブリーダーを目指しているって言って、家族にジムを預けた後、俺と一緒に旅をすることになったんだ。それから、いろんな地方を巡っては、美味しい料理を作ってくれたり、道案内をしてくたり、ピカチュウや他のポケモンを一緒に世話してくたり、何か困った事があったら助けたり、相談にも乗ってくれた。あいつのお陰で、俺はいつも安心旅が出来たんだ」
「その人、師匠にとって、大切な仲間なんですね」
「あぁ。あれから、あいつはブリーダーでなく、ポケモンドクターを目指して、今もどこかで頑張ってるんだろうな」
「ポケモンドクター?お医者さんなんですか。ポケモンの?」
「そう。ポケモンドクターになって、いろんな怪我や病気になったポケモンを助けてるんだ」
「凄い人なんですね」
「あぁ。タケシは、凄い奴さ」
そうサトシとマナオが会話をしていると先頭で道案内をしているヒョウリが話しかける。
「そうか。そんな凄い奴がずっと居たから、お前は道案内も料理も出来ないトレーナーになっちゃったのか」
「そうそう・・・って、俺を馬鹿にしてるのか。ヒョウリ!」
「ふっ、半分かな。けど、事実だろ」
そう言ってヒョウリは、腕輪のマップをサトシにチラつかせる。
「うっ」
サトシは、道案内をしているヒョウリに、そう図星を突かれて黙った。


暫く歩き続けて、約1時間が過ぎた。草原や森、トンネルを抜けて、ドンドン先に進んで行く。すると、草木が見えていた光景が、徐々に消えていき変わりに、地面に砂が増えている事に、サトシは気付いた。
「ん?」
そのまま、ヒョウリの道案内に従って進んでいると、正面に大量の砂が広がっていた。それと見たサトシとマナオは、その光景に目を丸くしていた。
「・・・砂漠だ」
「・・・砂漠ですね」
「・・・ピカピィ、ピカ」
サトシとマナオは、砂だらけの大地を見て砂漠だと言うと、先頭のヒョウリが話した。
「正しくは、砂丘だよ」
「さ、さきゅう?」
ヒョウリの言葉に、サトシがそう聞き返した。
「ここはハルタス地方で有名なカゲギシ砂丘だ」
「あっ、そっか。ここは、カゲギシ砂丘なんだ」
マナオが、そう言った。
「知ってるのか?」
「はい。ハルタス地方で有名な観光スポットの1つで、私の両親がまだ居た頃、一度遊びに来たことがあります。ここの砂、凄く綺麗で、海岸とか良い景色なんですよ」
「そっか。マナオは、ここの地方出身だもんな。それにしても、観光スポットか。寄っていくか」
「そうですね。ヒョウリさんは?」
「まぁ。スケジュール的に、少し寄って行く分は余裕はあるな。いいぞ」
「よし。なら、決まりだな」
サトシ達は、そうやってカゲギシ砂丘で、観光する事にした。そんな彼らは、そのまま砂丘の方へ足を運んでいくと、途中で妙な場所を見た。
「なんだ、これ」
「ゴミ捨て場だ」
「結構、多いですね」
砂丘の外れに、ゴミ捨て場があった。そこには、壊れた機械や何かの金属製品に、食料のゴミ、ペットボトルなどの様々なゴミが、大量に捨ててあった。
「きっと、訪れた観光客のゴミを、集めてるんだろうさ。まぁ、機械や金属の塊は、関係ないだろうが」
そうヒョウリが憶測してから、そこを過ぎていくと、彼らは漸く砂丘の奥へ進んで、中へ入った。
「うわぁ、本当に砂だらけだ」
「ピカァ」
「そうですね」
「この砂、凄く綺麗だな」
「ほんと、綺麗ですよね」
サトシが、前へ足を歩いて行くと、足元からくぅ、きゅと音が鳴った。
「ん?」
もう一度、足を踏んでいると、同じような音が鳴った。
「おい。足元の砂から、音が出たぞ」
「師匠。それは、鳴き砂ですよ」
「鳴き砂?」
「鳴き砂というのは」
マナオが、サトシへ自慢で鳴き砂の説明をしようとした時だ。
「鳴き砂は、石英粒という成分があってな。その石英の砂粒は、綺麗な水や空気でちゃんと洗われた後、砂の表面の摩擦係数が、極端に大きくなる特性があるんだ。その砂達に、足で踏んだり、握ったりと力を加えると、限界まで持ちこたえるんだ。そして、更に力が加わったら砂粒が動いて、動いたら、加わった力が開放されて、砂が止める。それを、繰り返すと、砂粒が一連に振動して、音を出すんだよ」
ヒョウリが、一気にそう説明をした。それを、聞いてサトシは、納得したような声を出した。
「へ、へぇー(よく、分からない)」
サトシは、彼の説明が分からないのでなく、自分でイマイチ理解が出来ないでいたが、取り敢えず、返事だけはした。その隣では、お冠なマナオがヒョウリを睨んでいた。
「ちょっと、ヒョウリさん。私が、師匠へ説明しようとしてたのに~。(私が、しようとしていた事よりも細かく説明して。もぉ)」
そんな彼女に、ヒョウリは後目に答えた。
「遅いのが、悪い」
「むぅ~」
「まぁまぁ。マナオが教えようとしてくれたのは、嬉しかったから。ヒョウリも悪気があった訳じゃないよ」
サトシは、ヒョウリへ怒るマナオに、そう言って落ち着かせて、彼への軽いフォローを入れる。
「まぁ、師匠がそう言ってくれるなら」
「そうだ、サトシ。ここは、野生のじめんタイプのポケモンが、結構生息しているらしいぞ」
「そうなのか」
サトシが、その事に反応する。
「あ、師匠。ポケモンがいますよ」
マナオが、指を差しながらサトシへ教えると、彼は彼女の示す方向を向いた。
「ディグダだ」
そこには、カントーやジョウト地方でも見られる(もぐらポケモン)のじめんタイプ、ディグダが居た。
「あっちは、メグロコだ。お、ヒポポタスにナックラーまでいる」
サトシは、続けて目に入ってポケモン達に指を差して、名前を言っていく。
「流石、師匠。トレーナーとしてポケモンの知識が豊富」
マナオが、そうサトシを褒めるように言と、サトシは、一本指で鼻の下を擦りながら。
「いやぁ、まぁな」
そう照れていたところ、彼らの目の前に、ひょっと1匹のポケモンが現れた。
「コジョ」
現れたのは、同じくしてじめんタイプである(ねずみポケモン)のサンドだった。
「サンドですね」
「・・・そうだ。マナオ」
すると、サトシはサンドを見て何かを思いつき、マナオに話す。
「は、はい」
「ポケモンをゲットするチャンスだ」
「え?」
突然、サトシにそう言われて驚くマナオ。
「今、マナオのポケモンはカラカラだけだろ。ゲットして仲間を増やしたり出来るぞ」
「けど、私。今まで、自分でポケモンをゲットした事が無いですし」
「大丈夫だ。これも立派なトレーナーになる為の修行さ」
サトシは、
「はい」
そうして、マナオはサンドへ近寄り、カバンからモンスターボールを1つ取り出し、構えた。
「い、いけ!モンスターボール」
彼女が、大きく振りかぶって投げたモンスターボールは、そのままサンドから外れて地面に当たり転がってしまった。
「コジョコジョ」
一方。サンドは、ボールをいきなり投げられて事に驚いて、慌てて砂の中に、逃げて行ってしまった。
「あちゃー」
「ピカァ」
サトシとピカチュウは、その光景に目に手を当てる。ヒョウリは、呆れた顔で話す。
「あぁ、逃げちまったな」
「ご、ごめんなさい」
マナオは、そう彼らに謝ると、ヒョウリに続けてツッコミを入れられた。
「てか、速攻でモンスターボールを投げるのかよ」
「え?」
ヒョウリに、そう言われた彼女は、そんな声を出すと、その隣にいるサトシに指摘された。
「マナオ。こういう時は、まず自分のポケモンを出して、バトルしてからゲットするんだ」
「・・・そっか。すいません。うっかりしてました」
マナオは、片手で後頭部を掻きながら、そう言って苦笑いをした。
「まぁ、別にいいじゃねぇか、サンドぐらい。ここなら、まだいっぱいいるぞ。それに、ここでポケモンゲットはあんまおすすめしないな」
「ん?どうして?」
「今こいつが持っているのは、カラカラ。じめんタイプだぞ。じめんを続けて2体持つのは、余りおすすめしないな。特に、バトル編成として」
「別にいいだろ。じめんタイプばっかでも」
「仮に、相手がみずタイプ揃いや水場でバトルすることになったら、即全滅だが?」
「うっ。だとしても、どんなポケモンをゲットするかは、自分の自由だ」
「あぁ、そうさ。ただ、バトルや状況適用としての基本を教えるなら、そういう事を考えた上で、勧めた方がいいと思うが」
サトシとヒョウリが、なぜか言い合いをはじめてしまい、マナオは慌てて止めに入った。
「あの、師匠もヒョウリさんも喧嘩しないで」
彼らが、そんな事をしている最中だった。
「ピカ?!」
最初に、ピカチュウが気付いた。ポケモンである彼は、一瞬で危険な何かを察知出来た。次の瞬間、彼らの足場が崩れ出した。
「「「!」」」
足場の砂が徐々に沈んいき、彼らの足が砂の中へ埋もれ始める。
「うわぁ!」
「ピカァ!」
「くっ」
「きゃあ!」
その勢いは、徐々に早まっていき、3人のすぐ近くに、巨大な凹みが出来上がってきた。
「なんだ?!」
その凹みは、次第に深く大きく広がり、3人をその中へ引きずり込むかのように、クレータ状のものが出来ていった。
「すなじごくだ!」
それを見たヒョウリが、そう叫ぶ。サトシ達は、すぐさま必死に砂から足を抜こうと片足を上げようとすると、重心の方の足がより沈んでしまい、結局両足が抜けられない状態だった。
「無理か」
ヒョウリは、そう言うと右腕の裾からモンスターボールを取り出し、空へ投げる。
「ハッサム」
ヒョウリは、ボールの中から出したハッサムに指示を出す。
「ハッサム、俺を引っ張れ!」
そう指示を受けたハッサムは、羽で宙を飛んで、彼の元へ向かう。それから、砂に埋まっていくヒョウリの両脇に腕を通して、彼を引き上げる。そして、ヒョウリは、サトシに腕を伸ばして、名前を叫んだ。
「サトシ!」
「あっ!」
サトシは、ヒョウリに手を伸びし、彼の手を握りしめた。今度は、サトシがすぐ側にいるマナオへ振り向くと、腕を伸ばして名前を呼ぶ。
「マナオ」
「あっ、くっ」
彼女は、サトシの手を掴もうと、必死に腕を伸ばそうとした。あとちょっとで、指が触れる寸前だった。
「あっ」
勢い良く、彼女の体が(すなじごく)の中心へ、吸い込まれるかの様に、沈んでいった。
「し、師匠」
「マナオ」
徐々に、二人の距離が広がっていき、もう手を掴むことは不可能となっていった。
「ヒョウリ、マナオが」
「あぁ、分かってる。だが、こっちも手が離せない。今、彼女を追うと俺らも完璧に埋もれてしまうぞ」
今の彼らは、自身と人間二人分の体重を、必死に羽の力だけで、引き上げようとしているハッサムによるもの。マナオを助ける余裕は無い上、もし向かえば、再び引き上げる事は無理だろう。そうなれば、確実にマナオと助けにいった者も含めて砂の下となる。
「くっ」
サトシは、歯を食いしばり、マナオの方を見る。彼女は涙目となり、サトシへ手を伸ばしながら、悲鳴を上げる。
「きゃぁぁぁ」
「マナオ!」
彼女が、(すなじごく)に飲み込まれる寸前だった。
「行きなさい。フワライド」
どこかから男の声が聞こえた。すると、ポケモンのフワライドが、滑り落ちるマナオに向かっていった。
「さぁ、君。その子に捕まるんだ」
「は、はい!」
マナオは、その声に大きく返事をして、フワライドの手に掴まった。そして、フワライドは一気に上昇して、(すなじごく)から間一髪で彼女を救い上げていき、そこから離れていった。助かったマナオは、そのまま安全な場所で降ろして貰うと、そのまま膝をついて、口に入った砂を吐き捨てようと、咳き込んでいた。
「コホッ、コホッ」
彼女の元に、近づいて来た男がいた。その男は、彼女の元に駆け寄ると、すぐさまに話しかけた。
「君、大丈夫かい?」
「は、はい」
マナオは、近づいた男性を見て、そう返事をする。
「そうか、良かった」
男は、彼女の無事な様子に安心したようで、にこやかになった。すると、先程マナオを助けたフワライドが、男の元に近寄った。
「おぉ、フワライド。ご苦労様」
男が、フワライドにそう言うのを見て、マナオは問いかけた。
「もしかして、そのフワライドは」
「あぁ、私のだ」
そう答えを聞いて、彼女は頭を下げて礼を言った。
「さ、先程は、ありがとうございました」
「いやいや、いいさ」
そこへ。無事に、(すなじごく)から脱出出来たサトシ達も漸くやって来た。
「マナオ」
「師匠」
彼女の無事に、安心する一同。そんな彼らを見て、男は話しかけた。
「君たちは、トレーナーかい?」
「はい」
「そうか。私は、この砂丘エリアを管理している者だ。ヤマカという」
ヤマカと名乗る男は、名前を言って挨拶をすると、サトシ達も名乗っていった。
「俺、サトシです。こっちは、相棒のピカチュウ」
「ヒョウリです」
「マナオです」


そんな彼らを、遠くから双眼鏡で見ている者達が居た。
「<ボリボリ、ボリボリ>。みふきたあよ、しゃりほーひ(見つけたわよ、ジャリボーイ)」
「あぁ。あむっ<ボリボリ>。ひゃはり、こほはんほうふほっとおおほふれたか(やっぱり、この観光スポットを訪れて来たか)」
「<ボリボリ>、ゴクン。予想通りにゃ」
前回、遠くへ吹き飛ばされていったロケット団の3人組だった。彼らは、遠くからサトシ達の様子を観察しながら、ボリボリと菓子を食って会話をしていた。
「ゴクン。けど、どうする。この砂丘で」
「ゴクン。どうするも何も、ピカチュウゲットに決まったでしょう」
「いや、それは分かってる。ただ」
「今、にゃー達にポケモンは、ソーナンスぐらいしか居ないにゃ」
「そう、それ。こないだ俺たちのレンタルポケモンは、期限が来たから返却しただろ」
「にゃー達だけじゃあ。あのジャリボーイとピカチュウならまだしも、他の暴力ジャリボーイに、ジャリガールの相手は難しいにゃ」
ここ最近、ロケット団がジャリボーイことサトシ達と遭遇し、ポケモンバトルをしたのは、2回だけ。その2回とも、レンタルポケモンと言われる貸し出し用の強いポケモンを使ってバトルをしていた。だが、今はそのレンタル期間が終了して返却してしまった。
「今、俺たちの小遣いじゃあ。また、レンタルするのは厳しいから、もう少し間を空けようと決めただろ」
「だから、今のにゃー達に、戦うのは難しいにゃ」
そう、コジロウとニャースは、ムサシに言うと、彼女から言葉を返された。
「だったら、簡単な話じゃない」
「「?」」
「ポケモンをゲットするメカを作ればいいのよ」
「「メカ?」」
それを聞いて、コジロウとニャースは暫し黙ると、再びムサシに問いかけた。
「ちなみに、ムサシ。そのメカは」
「誰が用意するんだにゃ?」
二人に、そう聞かれたムサシは、両手の人差し指を構えて、真顔でこう答えた。
「あんたとあんた」
2つの指先は、コジロウとニャースへ向いた。
「「げぇ」」
「げぇって何よ。あんた達以外にいないでしょ!」
ムサシは、そう言うと菓子が空っぽになった袋を、ポイッと後ろへ投げてしまった。すると、彼らの側にあった砂の山からキラリと何かが光った。その光は、まるで彼らを砂の中から見ているようだった。


あれから、サトシ達はヤマカと話をしていた。
「実は、ここ1ヶ月の間で、妙な事が起きてねぇ」
「妙な事?」
サトシは、ヤマカに聞いてみた。
「実は、この観光スポットに訪れた人が、突然落とし穴に落ちたとか。他にも、何かに砂をいきなり掛けられたり、持っていた荷物を取られたり、一緒にいたポケモンが何かに攻撃をされたりという被害が続出してねぇ」
「そんなことが」
すると、マナオは先程の(すなじごく)の事を思い出す。
「もしかして」
「あぁ。さっきの(すなじごく)も、似た被害があったよ」
マナオの言う事を、察して肯定した。
「ここは、地元民をはじめ、いろんな街や地方から観光客が来る人気スポットだから、こういう事件が続くと、変な噂は出るし、観光客が減ると町にも影響が出る。そこで、町長から直々に頼まれて、私が調査をする事にしたんじゃ」
「そうなんですか」
「そこで、何か分かったんですか?」
ヒョウリが、そう聞いてみる。
「あぁ。この2週間の間で、調査した結果。どうやら、野生のポケモンの仕業らしいんだ」
「さっきのは、ポケモンのわざ(すなじごく)に間違いない。となると、おそらく野生のじめんタイプのポケモンが犯人ですね」
「あぁ。私もそう思う」
ヒョウリの推測に、ヤマカも同意する。
「最初、町の住人達は、この砂丘に住まうポケモン達の誰かではないかと疑った。だが、長年ここを管理している私には、そうは思えんかった」
「なぜ?」
「ここにいるポケモン達を、よく知っているのもあるが、彼らには人間に対して強く敵視したりしない。それに、強くもないのだ」
「強くもない?」
妙な言葉に、ヒョウリは聞き返す。
「1週間前、町の若いトレーナー達が、集団になって犯人を捕まえにやって来たんだ。すると、犯人が姿を表す事もなく、全員が返り討ちに遭ってしまった。結果、トレーナーやポケモン達は、怪我をして入院することに」
「そ、そんなに強いですか?」
マナオは、ヤマカの説明を聞いて少しビビリ、そう聞いた。
「あぁ、強い」
すると、今度はヒョウリが聞いてきた。
「つまり、犯人は他所者ですね?」
「そう。他所からやって来て、人間に対して凄く警戒感を持つ、強いポケモンが住み着いてしまったようだ。それが、分かってから、私は一体どうしたらいいか。砂丘を観察しながら、ずっと対策を考えている所なのだ」
「それで、今日は偶然、俺たちに出会ったと」
「あぁ」
「そうでしたか。ところで、そんなに危険ならなぜ、砂丘を閉鎖しないですか?」
ヒョウリの質問に、ヤマカは申し訳ない顔で答える。
「一応、ここの観光スポットであるが、同時に私有地でもない。一応、町と私が責任者として、管理はしているが自然の場所であり、野生ポケモンが多数いるここをそう簡単に閉鎖は出来ないんだよ。それに、今この対応をしているのが私だけでねぇ。申し訳ない」
それを聞いて、サトシはヤマカに聞いた。
「え?ヤマカさん、お一人で、やられてるんですか?町の人は?」
「実は、町は今忙しい次期で、こちらに手を貸す人材も限られておるのだ。それに、協力を頼もうと思っていた腕利きのトレーナー達も入院中。わし、一人しかいないのだ」
そう悩んでいるヤマカの顔を見てサトシは、何かを決めた顔をして話しかける。
「ヤマカさん」
「ん?」
「俺達も協力します」
「「え?」」
その言葉に一番反応をしたのは、ヒョウリとマナオだった。
「え?いいのかい?」
サトシの言葉を聞いたヤマカは、喜んだ顔をする。
「はい」
サトシが、そう返事をした瞬間、ヒョウリがサトシの前に立った。
「おい、ちょい待て」
「なんだよ」
「ちょっと、来い」
ヒョウリは、サトシの腕を引っ張り、ヤマカから距離を取った。
「どうしたんだよ?」
突然の事に、サトシはヒョウリへ問うと、逆に彼から問われてしまった。
「サトシ。なんで、俺らがその調査に付き合わないといけなんだ?」
「だって、ヤマカさんや町の人が困ってるみたいだし、ほっとけ無いだろ。それに、マナオを助けてくれたお礼を」
そうサトシが答えると、ヒョウリは真顔で言った。
「おい、お人好し。よく聞け、立派な事を言っているお前に、親切心を持って言うぞ」
「・・・」
「第二の試練まであと9日、いや約8日半。フォルシティまで、最短でも約7日。途中、問題が起きたら、半日1日ロスタイム。そして、お前の本来の目的であるソウテン大会へ出場する為、たくさんのジム戦を巡らないといけない。OK?」
ヒョウリの説明を聞いて、サトシは少し押され気味に答える。
「わ、分かってるよ。・・・けど」
サトシが、
「私も、師匠に賛成です」
マナオが、話に入ってきた。それを聞いて、ヒョウリは呆れ顔で言う。
「・・・お前もかよ」
今度は、マナオへ向いて言う。
「あと9日で、フォルシティへ行かないと間に合わないんだぞ。お前、分かってるか?」
「分かってます。だから、お願いします」
マナオは、ヒョウリに頭を下げた。それを見て、ヒョウリは聞いた。
「・・・命の恩人だからか?」
「確かに、私は、あの人に助けられました。けど、それだけじゃないです」
「ん?」
「サトシ師匠みたいに、困ってる人が居たら助けるのは、良い事です。正しい事です。それで、私も・・・だから、師匠に賛成したんです」
「・・・」
すると、横からサトシも、両手を合わせて頼んできた。
「なぁ、頼むよ。せめて、今日1日。今日1日だけでも」
「お願いします」
ヒョウリは、二人に頼まれて暫し黙った。
「たく。・・・今日1日だけだぞ」
その言葉を聞いて、二人は喜んだ。
「ヒョウリ」
「ありがとうございます」
「その変わり、俺の指示に従えよ」
「「ん?」」
三人がそうやり取りをしていると、ヤマカが近づいて来た。
「あの君たち」
ヒョウリは、ヤマカさんへ向いて話した。
「すいません。ヤマカさん、もういいです」
「あ、そうかい。もしかして、用事とかあるじゃないか。なら、無理せず」
「今日一日だけですが、ヤマカさんを手伝います」
「そ、そうかい。何か、すまないね」
「いいえ。うちには、馬鹿が2人いますが、宜しくお願いします」
そうヒョウリが言った言葉に、後ろの二人は軽くイラとしたが、すぐに我慢した。すると、ヒョウリは、ヤマカに話しかける。
「ヤマカさん」
「ん?」
「過去にあった被害内容と調査結果、見せて下さい」


あれから、30分近くが経過した。サトシ達は、ヤマカさんに案内されて砂丘近くにある彼の管理人用の小屋を訪れていた。
「彼、何者だい?」
ヤマカは、サトシ達3人にお茶を出していきながら、サトシとマナオにそう訪ねた。
「え、えぇと」
「俺たち、その・・・あいつに出会って、まだ10日も経ってなくて」
「ピカァ」
マナオとサトシは、若干半笑いをして、そう答える。
「そうかい。それにしても彼、凄いね」
彼らが見ているヒョウリはというと、ここ1ヶ月の被害や調査結果などのまとめた事件資料を、すぐさま目を通していた。資料を1枚ずつ見て、何かをブツブツといいながらメモを取っては、砂丘の地図に何かを書いたりして、時には自分のカバンから取り出した小型のパソコンを使って、キータッチで何かを入力していく。
「一体、何をするんでしょうね」
「分からない」
サトシとマナオは、ただヒョウリの作業を見ながら、ヤマカの入れた茶を飲んで過ごした。それから、更に10分が経過した時だった。ヒョウリは、第一声を上げた。
「よし。罠を仕掛けよう」
サトシとマナオは、首を傾げた。
「「罠?」」
「ヒョウリくん。具体的に、どんな罠を」
ヤマカは、ヒョウリの言う罠がどんなものか尋ねる。
「ここ1ヶ月の犯人の行動条件と活動分布、そして砂丘全体の構造を見て、考えました。作戦は、こうです」
1時間後。
サトシ達は、ヒョウリの指示の元で、小屋から出て砂丘のあるポイントに来ていた。彼らは今、4人揃って砂の丘で伏せた状態で、双眼鏡を覗いていた。彼らが見ているのは、30m程離れた砂の場を観察していた。そこには、空き缶と菓子の空き袋等が置かれていた。サトシ達は、なぜかそれを監視しながら、何かを待っていた。
「本当に、大丈夫なんですか?」
「あぁ。過去のデータから見て、安全かつ高い確立で犯人が現れる方法だ」
ヒョウリは、マナオの指摘にそう答えると、今度はサトシが言ってきた。
「けど、なぜゴミなんだよ。ポケモンをおびき寄せるなら、ポケモンフーズとかせめて中身の入ったお菓子がいいはずだろ」
「確かに、それでもいいが、それだと対象外のポケモンまで来てしまうおそれがある。ここは、じめんタイプをはじめ野生ポケモンが多く住んでいる場所だ。もし、ポケモンフーズでも食い物でも置いとけば、匂いに釣られて来てしまうし、餌を食われたらアウトだ。それに、犯人は食い物もそうだが、最も特殊なものにも釣られる習性がある事が分かった」
「特殊な習性?」
「・・・ゴミだ」
「「「ゴミ?」」」
「犯人は、なぜかこの砂丘に捨てられたゴミを回収する修正があるらしい。過去に、訪れた客の中の被害届けには、食事の際に襲われたとあったり、手持ちの食料を奪われたとあるが、大概は食った後だと予想出来た」
「どういう事かね?」
ヒョウリの言う事に、ヤマカが疑問を持って尋ねた。
「ヤマカさん。この砂丘って、確か何年か前にゴミや違法廃棄物の持ち込み問題で、ニュースになった事がありますよね」
「あぁ。確かに、以前観光スポットであるここにゴミや廃棄物を捨てる者が現れてはじめて、問題になった。それで、町では砂丘の周囲にゴミの持ち帰りや廃棄物を捨てないようにと注意喚起の看板や観光客への説明、更には警察の協力で対策を行い始めた。結果、すぐに0とはいなかったが、年々減少していった」
ヤマカは、過去にあった事を説明した。
「はい。それで、被害届の資料の中で、気になった点があったんです」
「気になる点?」
「観光スポット内に、食料を持ち込んだ者は、勿論居ます。ただ、全員が襲われた訳ではないんです。食料を持っていた者の何割かは、なぜか食料が奪われず、他の被害にあった。そして、食料が被害にあったという者の何割かは、食事中や置いてあった食料を奪われたと言ってます。しかし、資料にあった被害者の手持ちの状況では、未開封や中にまだ残っている食料が奪われ無かったみたいなんです」
「え?」
「取られてなかった?」
「なぜ?」
ヤマカに続け、サトシとマナオもそう口に出す。
「もし、犯人が食料狙いであるなら、未開封や食べ残しとはいえ、ポケモンは平気で持ち去ったり、食べたりするでしょう。しかし、そうはしなかった。そこで、思ったんです。なら、なぜ取らなかったか」
「「「・・・」」」
「彼らは、取られたという食料は、既に空だったんですよ」
「「「!」」」
「彼ら、食事中や食料を盗まれたと言ってきた者達は、恐らく食事後に放棄した弁当や袋、空き缶やペットボトルなどを放棄したんです」
「ゴミを捨てた?」
「それって」
「もしや」
「えぇ。そして、放棄した彼らは、犯人のポケモンに襲われた。結果、被害にあった彼らは、そのポケモンへ仕返しをしたい気持ちがあったが、同時にルール違反とされるポイ捨てをした事を隠したいという後ろめたい気持ちがあった。だから、わざと食事中や手持ちの食料を狙われて、襲われたと嘘の報告をついたんです」
「そうだったのか」
「そいつら、許せないな」
「けど、予想ですよね。それ」
「あぁ。確かに100%とは言えない。が、資料や状況から見て、確証持って言える」
ヒョウリは、双眼鏡を覗きながら、迷いなくそう告げた。
「許せん」
隣では、ヤマカがそう口に出した。
「この地を、汚した事を隠した上に、それをポケモンに擦り付けようだなんて。なのに、管理人である私は、騙されてしまった」
「・・・ヤマカさん」
サトシは、隣から彼の悔しい表情を見た。
「ん?」
突然、双眼鏡を覗いていたヒョウリが反応をした。
「動きがあったぞ」
「え?」
他の3人は、慌てて双眼鏡を覗き込み、罠を張っていた場所を見た。
「あれは」
彼らが置いたゴミの近くに、隆起した砂が出来ていた、それは移動しながら、ゴミへ近づいていたのだ。
「間違いなくポケモンだな」
「潜ってて分かりません」
「だが、罠に触れるなら、姿を出すはずだ」
「うん?頭に何かあるみたいだね」
双眼鏡を覗きながら、そう話す4人。最後に、ヤマカが言った何かという者は、白と赤色の何かの棒状のものだったが、砂で隠れていた為、よく見えなかった。それから、ターゲットのポケモンと見られる移動する隆起した砂は、罠であるゴミに目の前に来ると止まった。
「出るぞ」
彼らが、見る隆起した砂から次第に、正体を露わにした。
「・・・スナーバ」
彼らには、聞こえなかったそのポケモンは、その場でそう鳴いた。それを見たサトシ達。
「スナバァか」
「ほんとだ。スナバァだ」
ヒョウリとサトシは、そのポケモンを見たことがあるのか、名前を言った。
「あれが、スナバァか」
「スナ、バァ?」
一方で、ヤマカとマナオは、はじめて見たような台詞を出す。
彼らが見ているポケモンのスナバァは、(すなやまポケモン)と言われ、タイプは(ゴーストとじめん)を併せ持つ。体は、砂で小さな山を形成し、真ん中に向こう側が見えるトンネル状の口とその上に2つの目のようなものが存在する。平均的な高さは、約50cmと言われている小型のポケモンでもある。砂浜が棲み処としている。自分の口の中に、手を入れた相手を操り、自分の体を大きくさせると言われている。
「あのスナバァ、少し小さいな。まだ子供か?」
「久しぶりに見たなぁ。アローラ地方の時以来だぜ」
「師匠。アローラ地方に、行ったことがあるんですか?」
「あぁ。以前、あっちにあるポケモンスクールに通ってて、そこではじめてスナバァを見たんだよ」
「そうなんですか」
二人が、そう会話していると、マナオとヤマカにヒョウリが話しかけて来た。
「ヤマカさん、マナオ。スナバァの頭にあるあのスコップには、触ったり、抜いたりしないように」
ヒョウリに突然、そう言われたヤマカとマナオの二人は、双眼鏡でスナバァの頭部を見た。そこには、白いグリップがついた赤色のスコップの先が刺さっていた。
「あぁ、そうだったね。気をつけるよ」
「え?なぜです?」
マナオだけは、理由が分かっていないようで、ヒョウリに聞き返すと、隣のサトシも同様の注意をしだした。
「あっ、そうだった。マナオ、気をつけろ。あれには、触っちゃ駄目だ」
「だから、どうしてですか?師匠」
「その、説明が難しいが、大変なことになる」
サトシは、どう説明したらいいか、分からなくそう告げると、ヤマカが説明をした。
「スナバァの頭部に刺さったスコップはねぇ。一般的に、スナバァ本人のお気に入りのものと言われていて、失くすと木の枝や旗などを代用し、その間に自分のスコップを探して彷徨ってしまいと言われているんだよ。あとは、スナバァのスコップを握ってしまった者は、一定時間だけ体を操られてしまい、スナバァの砂の体を大きくさせる為、砂を集めさせて掛けさせるとも言われている。私自身、本物を見たのは、今回はじめてだが、そう聞いたことがある」
「こ、怖いですね。絶対、近づきません」
ヤマカの説明を聞いたマナオは、ビビった顔をして、そう答えた。
「ヤマカさんが、はじめてという事は、やはり他所の者ってことですね」
「そうだね。30年以上、この砂丘を見てきたが、スナヴァは生息した事がない」
そんな会話をしていると、スナヴァは罠であるゴミを触り始め、袋を畳んだり、空き缶を持ち上げたりした。
「あのスナバァ。もしかして、ゴミを片付けているのか」
「それなら、良い事をしているですから、いいじゃないですか」
サトシとマナオが、そう話すとヒョウリが告げた。
「だが、被害はゴミ拾いじゃない。ここへ来た人やポケモンを襲った事は、実際にある。それに、今日俺らも巻き込まれたろ」
「「・・・」」
ヒョウリに、そう言われて二人は黙ってしまう。
「さて、ヤマカさん。一応、奴が犯人と見て間違いないですね」
「うん、そうみたいだね。もし、あのスナバァが犯人というなら・・・悲しいけど何とかするしかない」
「分かりました。では、結構します」
ヒョウリは、ヤマカに確認を取ると、ポケットから何かを取り出した。それは、手で握るようなグリップの形状をしていて、上側にカバーが付いていた。ヒョウリは、それを握ると親指でカバーを開けて、中にある赤いスイッチを押した。
その瞬間、ゴミ集めをしていたスナバァの側で、何かの機械音が鳴った。
「!」
その微かな音に気付いたスナバァが、反応した瞬間。近くの砂の中から突然、モンスターボールが飛び出した。そして、宙でボールが開くと中から、ポケモンのラグラージが出てきた。「ラージ!」
そう。このモンスターボールとラグラージは、ヒョウリのだ。今回の罠を考えたヒョウリは、まず罠として用意した空き缶や菓子の空の袋などのゴミを設置した後、近く砂の中にある者を隠した。それは、彼が以前作ったと言われる遠隔式のモンスターボール収納開閉ボックスというものだった。灰色に立方体の形をしたその箱は、中にモンスターボールを収納する事が出来る。そして、先程ヒョウリがポケットから出したグリップ状のものは、そのボックスを遠隔操作するスイッチだった。そのスイッチを押すことで、電波が届く範囲であれば、モンスターボールを収納したボックスを、開くことが出来て、遠くからポケモンをボールから出すことが出来るというもの。
なぜ、今回そのようなものを使ったか。それは、サトシ達に今回の作戦を説明した内容にある。まず、1つ目にターゲットに気付かれないようにするため、遠くからの罠の監視をする必要があった事。2つ目は、それと現れたポケモンを捕まえるまたはバトルして倒す必要がある為、ポケモンを使う必要があった事。その2つ目をするには、1つ目の遠方からの監視だと出現から現場までの移動に時間が掛かる上、その間に相手に察知されて、現場到着前に逃亡されるリスクがある。そこで、ヒョウリは彼の左腕に着けたマップ機能がある腕輪のように、彼が以前自作したアイテムであるこの遠隔式モンスターボール収納開閉ボックスを使うと言った。結果、作戦通りに事が進み、ターゲットとして現れたスナバァにバレることなくポケモンを出す事が出来た。
ラグラージを出した後、グリップをポケットに直すと、今度は右耳にイヤホンマイクを着けた。
「よし、行くぞ。ラグラージ」
「ラージ」
彼は、マイク越しにそう話すと、ラグラージは返事をした。そのラグラージの首には、何かが巻かれていた。それもヒョウリが用意したもので、遠距離での通信装置の首輪だった。彼の話すイヤホンマイクの声が、そのまま首輪に内蔵されたスピーカーへ繋がり、遠くから指示が聞こえるようにしている。
「よし、ハイドロポンプだ」
ヒョウリは、マイク越しにラグラージへわざの指示を出した。すると、ラグラージは指示通りに、口から勢い良く(ハイドロポンプ)を、スナバァ目掛け撃ち出した。一方で、スナバァは突然現れた体格が倍以上あるラグラージに怯んでいた。その結果、すぐに体が動けず、そのまま(ハイドロポンプ)を受けてしまった。
「スナァァァ」
攻撃を受けたスナバァは、そのまま砂の壁に激突してしまう。砂の体は、水で濡れたせいで、色が変色していた。
「続けて、れいとうビームだ」
ラグラージは、そのまま動けないスナバァに、(れいとうビーム)を放とうと準備を始めた。
「さて。これで氷漬けにして、掴まれる」
ヒョウリは、やっと仕事が終わったという様な気持ちで、一息をつく。
「「・・・」」
一方で、サトシとマナオは、遠くからそう見ていたが、余り見ていたく無いのか、目を反らしていた。その隣で、ヤマカもこれで問題解決だという気持ちもあったが、余り喜べずにいた。各々が、そういった面持ちをしていたその時。
「ス、スナァー!ナー!ナー!」
件のスナバァが、大声を上げた。その声は、遠くの砂丘まで木霊した。
「ラ?」
「なんだ?」
ラグラージとヒョウリが、スナバァの行動にふっと動きを止める。
「ん?」
「ピカ?」
「え?」
「?」
他の3人とピカチュウもそう反応した。
「・・・よく分からんが、ラグラージ。早く、れいとうビームだ」
「ラージ」
再度、ラグラージは中断した(れいとうビーム)をスナバァへ放とうと、口を開けて用意を始めた。だが、突然地面が揺れだしたのだ。
「!」
ラグラージは、その揺れで再びわざを中断し、体勢を整えて周囲を見渡す。
「ん?地震か?」
双眼鏡で見ていたヒョウリ達にも、砂が揺れる振動を感じていた。
「うわぁ」
「ピカピカ」
「きゃ」
「地震かね」
全員も突然の揺れに慌てるが、ヒョウリがすぐに否定した。
「いや、違う。・・・何か近づいている」
彼は、足元の揺れは地震でなく何かが移動しているものだと察知した。それを聞いたサトシ達は、足元をよく集中してみると、確かに揺れが移動しているようにも感じた。その揺れは、サトシ達の側を近づく毎に大きくなったが、次第に小さくなって行った。それは、彼らから離れといいうことだ。
ヒョウリの言う通り、砂の中で何かが動いていた。それは、先程のスナバァの声に反応し、活動を始め、スナバァの元へ向かっていた。揺れは、ラグラージの方へ近づいていった為、徐々に大きくなっていった。だが、突然揺れが収まった。その事に、ラグラージは不思議に思ったのか、首を傾げた。
「ラージ?」
その瞬間。ラグラージの背後の地面から、砂が勢い良く吹き出したのだ。
「!」
ラグラージは、すぐに振り返ったが、何か吹き飛ばされてしまう。そのまま、ラグラージは砂の坂にぶつかって転がり落ち、途中で足に力を入れて止まった。ラグラージは、自分を吹き飛ばした相手を睨んだ。そこには、巨大な砂の城状のものが姿を現していて、それはラグラージへ大声を上げた。
「デスナァ!」
「シロデスナ!」
双眼鏡で、見たヒョウリは、そう叫んだ。新たに現れたのは、ポケモンのシロデスナだった。
「シロデスナだ」
「あれが、シロデスナ」
「お城みたいですね」
他の3人も姿を見て、そう話す。すると、ヒョウリは、ある事に気付いた。
「そうか」
突然、現れたシロデスナは、自分を呼んだスナバァに話しかけて、会話をした。
「デスナァ」
「スナァ~」
「デスナ」
「こいつら・・・親子だ」


作戦をはじめて40分近くが経過した。ターゲットだったとされるスナバァが、姿を現してから約5分が過ぎたが、状況は予想外の方へ運んでいった。
「デスナァ!」
突然、新たに現れたシロデスナに、ヒョウリ達は驚いていた。
「まさか、親が居たのか」
ヒョウリは、双眼鏡を覗きながら、そう声に出す。
「デカいですね」
「恐らく、周りの砂を吸収して大きくなったんだろう。スナバァやシロデスナは、周りの砂を吸収して、大きくなると聞いた」
シロデスナは、スナバァの進化系であり、(すなのしろポケモン)と呼ばれている。タイプは、スナバァ同様に(ゴーストとじめん)タイプで、通常の高さは1.3m程だと言われている。だが、彼らの前に現れたシロデスナは、3m以上もあった。
「チッ」
ヒョウリは、舌打ちをすると突然走り出し、ポケモン達の方へ慌てて走った。
「作戦中止だ!」
彼は、走りながら、そう叫ぶ。
「ヒョウリさん」
「よし、行くぞ。マナオ」
「え?私達も」
サトシも、ヒョウリに続けて走り出すと、マナオも渋々ついていく。
「君たち。シロデスナには、気をつけるんだぞ!」
ヤマカは、遅れて体を起こすと、三人の後を追った。
ヒョウリは、現場に付くと、すぐに仕掛けていた収納ボックスを回収し、モンスターボールを取り出した。それから、目の前を確認する。自分のポケモンであるラグラージと、シロデスナが対峙している。先に現れたスナバァは、シロデスナの側に近寄って、身を隠していた。
「さて、どうしようかね」
その状況を見たヒョウリは、そう口ずさむ。
「・・・」
「・・・」
ラグラージとシロデスナは、互いに静かに睨み合い、次に来る相手の動きを待ち構えていた。その静粛の間は、ヒョウリの声で幕を閉じた。
「ハイドロポンプ!」
ラグラージは、一気に(ハイドロポンプ)を放つ。それにシロデスナは、口の前で(シャドーボール)を作り、それで相殺した。互いのわざがぶつかった事で煙を起こし、視界が一瞬だけ妨げられた。すると、その煙から水色の光が突き抜けてきて、シロデスナへ向かった。ラグラージの(れいとうビーム)だ。シロデスナに、命中し体の一部が凍った。
「デスナァァァ」
シロデスナは、自分の体の一部が凍って慌てていた。
「ほお、こおりタイプのわざは、はじめてか?」
彼は、そう告げると、頭の中で考えていた。
(シロデスナは、スナバァと同じゴーストとじめんタイプ。弱点のタイプは、くさ、ゴースト、あく。そして、みぞとこおりだ。このまま、ラグラージで一気に決めるか)
「もう一度、ハイドロポンプ」
「ラージ!」
ヒョウリは、一気にけりを付ける為、ラグラージにシロデスナの苦手タイプわざを次々と指示して、攻撃した。そこへ、後ろから来たサトシ達も、その場に追いついた。
「ヒョウリ」
「ヒョウリさん」
「そこに居ろ。お前らのポケモンじゃあ。こいつの相手は無理だ」
「え?」
「シロデスナに、ピカチュウの電撃は効かない。同じじめんタイプのカラカラでも、相手の方が上手だ」
彼が、サトシ達へ言っている間、ラグラージの足元がいきなり沈んだ。
「ラァ?」
「すなじごくか・・・やはり、こいつが」
それを見たヒョウリは、焦ることは無かった。
(だが、俺のラグラージは、そう簡単にいかんぞ)
「すなじごく中央へ、れいとうビームだ」
ラグラージは、すなじごくの渦の中央へ目掛けて、(れいとうビーム)を放つ。そして、すなじごくは、中心から凍っていき、動きが止まった。
「今だ」
そうして、ラグラージはすぐに(すなじごく)から脱出した。
「あのすなじごく。まさか」
サトシが、(すなじごく)を見て言う。
「あぁ。どうやら、こいつが犯人だったらしい」
サトシの問いに、ヒョウリがそう答える。自分たちが、ここで襲われた(すなじごく)の犯人が、目の前にいるシロデスナだったという事が判明した。
「デスナァ!」
シロデスナは、再度わざをラグラージに出した。すると、先程同様にラグラージの足場が沈んでいった。
「また、すなじごくか。無駄だ」
ヒョウリは、再度ラグラージの(れいとうビーム)を使い、同じ方法で脱出させようとしたその時だった。(すなじごく)の中から砂状の手がいくつも出てきてラグラージを掴んだ。
一方、ラグラージは(すなじごく)に足を取られた上、これから(れいとうビーム)を使った脱出を行おうと、準備をしていた。結果、回避も対応が出来なかった。すると、ラグラージを掴んでいた砂の手が、僅かに緑色に光るとラグラージが大声を上げた。
「ラァァァジ」
「なっ!ラグラージ!」
ヒョウリは、ラグラージに慌てて心配する。ラグラージは、その場に手をついて、倒れかかった。
「まさか」
ヒョウリは、何が起こったのか。すぐに気付いた。彼は、シロデスナの方へ振り向くと、先程のラグラージの攻撃で、ダメージを負って元気が無くなったシロデスナが、元気になっていた。
「ギガドレインまで覚えていたか。ミスったな」
先程、ラグラージを襲ったのは、シロデスナのわざ(ギガドレイン)だった。(ギガドレイン)は、くさタイプのわざでラグラージの弱点の1つ。そして、(ギガドレイン)は相手の体力を吸い取ってダメージを与え、その半分を自分の体力として、吸収する事が出来るのだ。よって、ラグラージが受けたダメージの5割分が、シロデスナの体力回復へなったのだ。
(仕方ない)
「戻れ、ラグラージ」
ヒョウリは、モンスターボールをラグラージへ向けた、戻した。
「ふぅ~、やっと追いついた」
そうしていると、最後尾だったヤマカが漸く、3人の場所へ追いついた。ヒョウリは、サトシ達へ向かっていき、話した。
「シロデスナは、厄介だ。ましてや、砂まみれのこの場所で、あんなにデカくなった奴が相手だとな」
「では、どうするんです?」
マナオが、尋ねると。
「俺の今の手持ちで、みずタイプはラグラージだけだ。だが、あんだけ巨大化した奴を止めるには、地理的にも少し厳しい。それに、シロデスナは厄介な力を持っている」
「じゃあ」
「さっき、言ったろ。作戦は中止だ」
そうサトシとマナオに言うと、そのままヤマカに話をする。
「ヤマカさん。申し訳ないですが」
「いや、もういいよ。みんな、ありがとうね」
ヤマカは、サトシ達へ感謝を告げる。
「私が、直接話をしてみる」
そう言ってシロデスナへ歩いて行くヤマカ。
「・・・危険ですよ」
ヒョウリは、そう警告をすると、突然もう一人が歩き出した。
「俺も行きます」
サトシがそう言って、ヤマカの後を追おうとすると。
「おい、サトシ」
ヒョウリは、サトシの前へ立ち塞がった。
「・・・あの日、俺と会った日の事を、忘れたのか?」
「・・・覚えてる」
サトシは、しっかり覚えている。ヒョウリとはじめて会った日。共にバスに乗ってハルタス地方へ向かった途中で、起きた事件を。忘れたくても忘れられてない嫌な出来事を、サトシは覚えていた。
「大丈夫だ」
サトシは、まずそう答えた。
「ヒョウリ。俺は、大丈夫だから」
「・・・勝手にしろ」
そう告げてヒョウリは、彼の前から退くと、サトシはそのままヤマカと一緒に、シロデスナの近づいた。
「シロデスナ!」
「ナ?」
「私は、ヤマカという。この砂丘を管理している者だ」
ヤマカは、シロデスナに自己紹介をはじめて、話をはじめた。
「先程は、すまなかった。君の子供であるスナバァにも酷いことをした。彼らは、私にただ協力しただけなんだ。私は、君たちがこの砂丘に現れた人々を襲っていると聞いてねぇ。それで、私はどうにかしようと考えていたんだ」
「・・・」
「だが、それには事情があったんだろう。君たちは、この砂丘でゴミを捨てた人間を追い払い、そのゴミを砂丘の外にあるゴミ捨て場に捨ててくれたんだろ」
「「「え?」」」
隣にいるサトシやマナオ、ヒョウリがそう声に出す。
「砂丘の近くに、ゴミ捨て場によく誰かがゴミの山を置いていくんだ。ゴミの中には、砂が僅かに入ってたりしていて、誰かが砂丘のゴミを運んでくれたんだと思っていた」
そうヤマカが言うと、サトシ達は思い出した。
(((あのゴミ捨て場か)))
「ありがとう。私は、凄く嬉しい。君たちは、この砂丘を綺麗にする為に、そうしたんだろ」
「・・・スナァ」
「そうか。それに、この砂丘の中にいるポケモン達も守ってくれたそうだな。たまに、ここへポケモンを乱獲しようとする者もいてな。そいつらからも、ポケモンを守る為に、攻撃したんだろ。同じ、ここに住む仲間として」
ヤマカがそう言うと、マナオが声を出す。
「そっか」
「俺らが、サンドを捕まえようとしたから、攻撃してきたってか」
「そうですよ。私が、あんな事をしたから」
ヒョウリとマナオは、自分たちの原因で攻撃を受けた事を、納得した。
「ただ、シロデスナ。ここには、悪い奴らだけが来るんじゃないんだ。ここは、凄く綺麗な所だから、それを見に来る者もいる。私は、そういった人達にも見せて上げたいんじゃ。だから、悪者じゃない人やポケモンへの攻撃を辞めれくれないか」
「・・・」
ヤマカは、必死にシロデスナへ説得をしている。
「頼む、シロデスナ。俺たちは、お前の敵じゃないんだ」
「ピカァ~」
続けて、サトシとピカチュウも話しかける。
「俺たちは、お前の友達になりたいんだ。俺、はじめてここに来て、びっくりした。辺り一面、綺麗な砂の山でさぁ。踏んだら、音が鳴った。それで、友達に教えて貰った。鳴き砂って言って、綺麗な砂だから音が鳴るんだって。そんな場所を、お前は綺麗にしてくれたんだろ」
「・・・」
暫く、シロデスナから反応は無かった。時間が過ぎて行く。黙ってから、2,3分程が経った時だった。
「スナ?」
「ピカ?」
ポケモン達が、何かに反応した。
「うん?どうした、ピカチュウ」
ピカチュウの様子に、気付いたサトシが聞いてみると、ゴォォォと音と振動を感じ始めた。
「なんだ?」
「なんでしょう?」
その場に居た全員も、それに気付きはじめると。近くの砂の丘から、何匹からのポケモン達がこっちへ向かって走って来た。
「ん?」
「あっ、ポケモン達が」
ポケモン達は、そのままサトシやシロデスナ達を無視して通り過ぎ、離れていった。
「あっちに何かいるのか?」
ヒョウリは、ポケモン達が来た方向を見て、怪しんだ。
「デスナ」
すると、シロデスナがポケモン達が走って来た丘の方へと向かう。それに、ピカチュウがサトシの肩から降りていき、その丘へ走って行った。
「あ、ピカチュウ!」
サトシは、ピカチュウの後を追う。
他のヒョウリやマナオ、ヤマカにスナバァも続けて、向かって行った。
「なんだ、あれは」
サトシが、第一声を放つ。彼らが、丘の向こうで見たのは、巨大な機械的な物体が野生のポケモン達を追いかけていたのだ。
その機械は、全長30m近くある円柱状の胴体部を持つフォルムで、下半身は巨大なキャタピラが2本左右について、それで移動していた。また、胴体の真ん中には、巨大なアームと先にラッパのような部分がついていた。そして、その部分にポケモン達が次々と吸い込まれていた。丸で、巨大掃除機ロボットとも言えるその物体を見た、サトシ達は驚きの顔をしていた。
「なんだあれは」
「ロボット?」
「ポケモンが」
ヤマカやマナオ、サトシがそう口に出していると、ヒョウリが双眼鏡を覗いて、そのロボットみたいな物の胴体部を見た。その胴体の中央部に、赤色でRの文字が入っていた。
「あのマークは」
ヒョウリは、何か心当たりがあるように、見ていると。
「よし、助けに行くぞ」
「ピカ」
サトシとピカチュウが走って行った。
「あ、師匠」
「危ないぞ。サトシ君」
サトシは、ロボットの側にまで来るとピカチュウへ指示を出した。
「ピカチュウ、10マンボルトだ」
「ピカ。ピィカァチューーー!」
ピカチュウは、(10マンボルト)の電撃をロボットに食らわすが、効いておらず。ロボットは、動きを止めなかった。
「なっ。効いてない」
その後ろから、ヒョウリ達もやってきた。
「耐電加工をしているみたいだな」
ヒョウリが、そう言うと
「マナオ、カラカラのホネブーメランを試せ」
「あ、はい」
ヒョウリに言われて、マナオはカラカラをボールから出した。
「いけ、カラカラ」
「カラァ」
「カラカラ、あの変なロボット目掛けて。ホネブーメラン」
「カァラ!」
カラカラの投擲した(ホネブーメラン)は、真っ直ぐロボットへ飛んでいき、中央部上の頭部に当たる。だが、特にダメージが無かった。
「駄目ですね」
「装甲もかなりあるみたいだな。どうやら、対ポケモン用に設計しているみたいだな」
ヒョウリは、ピカチュウとカラカラのわざを受けたロボットを見て、分析をしてみた。そんな事をしていると、ロボットが動きを止めて、こちらを向いた。
「「「!」」」
それに全員は、身構えると。
『あら。あんた達、やっと来たのね』
ロボットから人の声がした。
「ロボットが、喋った」
サトシが、そう反応すると。
「いや、誰かが乗ってるんだろ」
ヒョウリが、そう否定した。
「一体、誰がこんな物を」
ヤマカは、困惑した顔で、そう呟くと。その声に、ロボットの搭乗者が反応した。
『一体、誰がこんな物を、と聞かれたら』
『教えて上げるのが、世の情け』
ロボットのスピーカー越しに、その様な台詞が聞こえた。
「もしかして」
「あぁ」
マナオとサトシは、その台詞を聞いて、すぐに勘づいた。
『世界の破壊を防ぐため』
『世界の平和を守るため』
『愛と真実の悪を貫く』
『ラブリーチャーミーな敵(かたき)役』
『ムサシ!』
『コジロウ!』
『銀河を駆ける ロケット団の二人には』 
『ホワイトホール白い明日が待ってるぜ』
『ニャーんてにゃ!』
『ソーーーナンス!』
以上のように、ロボットの操縦席に座っているロケット団のムサシ、コジロウ、ニャース、ソーナンスが順番に台詞を読み上げていった。
「また、お前らかロケット団!」
「あぁ、変人集団!」
「また、テメーらかよ。いい加減にしろ、ぶっ飛ばすぞ!」
ロケット団の登場台詞が終わると、サトシ達が各々と野次を飛ばす。それに対して、ロケット団は文句を言う。
『おい!ジャリボーイ以外のお前ら!変人集団とかぶっ飛ばすぞとか、そういう事を言うじゃない』
『誰が、変人集団よ。ジャリガール!』
『ぶっ飛ばすぞとか、そんな乱暴な事を言うんじゃないにゃ!』
『ソーナンス!』
スピーカー越しに、そう大声で文句を言っていると、サトシ達の側にいるヤマカが尋ねてきた。
「あの人達は、一体?」
「あいつら、他人のポケモンを奪ったりする悪い奴らです」
ヤマカの質問に、サトシがそう答える。すると、ロケット団が続けて話しかけた。
『そう私達は、悪者』
『天下のロケット団だ』
そんなロケット団へ、ヒョウリが話しかけた。
「お前ら。そのメカ、どうしたんだよ」
『これは、ピカチュウ捕獲用以外にもお前らのポケモン対策も兼ねて作った』
『その名も、サイクロンクン・マークZ号だにゃ』
「そうか。かなり金を掛けたみたいだな。いつから作ってた」
『今日考えて、さっき出来たのにゃ』
『それに、近くのゴミ捨て場に、丁度いい材料が捨ててあったし』
『要らない部品は、近くの店で売って、その金で良い材料を買ったのにゃ』
『試運転のため、そこらのポケモンを捕まえてみようかと思っていたら』
『この砂丘にはたくさんのじめんタイプがいるみたいじゃない』
『ついでに、この辺りにいるポケモンも全て、にゃー達ロケット団が頂く事にしたにゃ』
そうロケット団が言うと、ヤマカが一番に反応した。
「なんだって」
だが、そんな彼の事を無視して、ロケット団は次の行動に移した。
『さて、本命もゲットするわよ。ほら、ニャース』
『分かってるにゃ。ポチッとにゃ』
ニャースが、ボタンを押すと、メカの吸引が再びはじまり、アームの先のラッパ状の吸引口が、こちらへと向いた。そして、サトシたちは勢い良く吸引口の方へ体が徐々に引っ張られていく。
「全員、身を縮めろ!」
ヒョウリが、全員にそう合図をすると、全員がその場で屈んだり、体を丸めて地面に強く踏ん張ろうとした。すると、近くにいたシロデスナとスナバァも吸い込まれないように、踏ん張っていた。シロデスナは、流石に大きさと重さから吸い込まれにくく、体の砂の粒が徐々に削られていくだけで済んだ。だが、体の小さい小柄なスナバァが、吸引に耐えきれず、宙に浮いてしまった。
「スナ~!」
そのまま、スナバァが吸引口の中へと吸い込まれていってしまう。
「デスナ!」
それを見て、自分の子供を叫ぶシロデスナ。
「カラァ!」
今度は、スナバァに続いて、カラカラまで吸い込まれてしまった。
「カラカラ!」
マナオは、カラカラを助けようと手を伸ばすが、すぐに吸い込まれていってしまった。
「ピカピィ~!」
ピカチュウは、必死にサトシの服を掴み、サトシもピカチュウを掴んでいる。
「ピカチュウ捕まれ!離すな!」
『くっ、ジャリボーイ。ピカチュウを離さないわよ』
『こうなったら、吸引力を上げてやる』
コジロウが、吸引のスイッチの上げていくと吸引力が上がっていき、同時にサトシへアームを近づいていく。すると、吸引の力でサトシが持ち上がってしまった。
「うわぁぁぁ」
「ピカァァァ」
そのまま、サトシとピカチュウは吸引口への入っていった。
「サトシ!」
「し、師匠!」
ヒョウリとマナオは、名前を叫ぶ。
『『『ハ!ハ!ハァ!ピカチュウ、ゲットだぜ!』』』
『一緒に、ジャリボーイまで吸い込んじまったけど』
『中からは、どうしようも出来ないにゃ』
『さぁ、目的も果たしたし』
『撤収するか』
そうやって、ロケット団のメカは動き出し、その場を離れて行こうとした。
吸い込まれていったサトシとピカチュウはというと。
「うわぁ」
「ピカ」
メカの配管の中を通っていき、ある場所で落ちてしまった。
「イテテ」
サトシは、尻もちを着いてしまい、手で尻を擦る。
「大丈夫か?ピカチュウ」
「ピィカ~」
サトシは、ピカチュウの無事を確認すると、立ち上がった。
「ここは、ロボットの中?」
周りを見ると、そこは薄暗かった空間だった。上や壁周りは、鉄製で出来ていて、下は一緒に吸い込んだ大量の砂で覆われれていた。サトシは、ピカチュウと一緒に、周りを見渡していると。
「スナァ」
「カラァ」
共に吸い込まれてしまったスナバァとカラカラに出会った。
「スナバァ、カラカラ。二人共大丈夫か」
「スナスナ」
「カラカラ」
すると、周りの砂の山で動きがあった。そこら中に、吸い込まれたポケモンが居たのだ。
「吸い込まれたポケモンか」
サトシは、ポケモン達を見て、気合を入れた。
「よぉし。皆、待ってろ。すぐ出してやるからな」
そうして、ピカチュウと壁の側に近寄り。
「ピカチュウ、10マンボルトだ」
「ピィカァチュー!」
ピカチュウの電撃で壁を壊そうとしてみたが、全く効かない。
「中も電撃が効かないようになっているのか。こうなったら、カラカラ。手伝ってくれ」
「カラァ」
「ピカチュウはアイアンテール。カラカラは、ボーンラッシュだ」
「ピカァ」
「カラァ」
続けて、壁に向かって(アイアンテール)と(ボーンラッシュ)で攻撃をするのだが。
「くそ。硬すぎる」
壁には、特にダメージが入らなかった。


その頃、外に居るヒョウリとマナオ、ヤマカは。
「一体、どうしたら」
「ヒョウリさん。師匠が」
「あぁ、分かってるよ」
何とかサトシ達を助けようとしていたところ。
「デスナァ!」
側に居たシロデスナが、一気にロケット団のメカ目掛けて突っ込んで行った。
『なんか、来たぞ』
『シロデスナだにゃ』
『ふん。やっておしまい』
『ハイドロキャノン、発射!』
すると、メカの胴体部の両側から大きなパイプ2本が飛び出し、中から水を勢い良く吹き出した。そして、近づいて来たシロデスナに、ぶつけた。
「スナァァァ」
そして、シロデスナはその場で倒れ込んでしまう。
「あっ」
「水が」
「どうやら、対じめんタイプ用の武器らしいな」
『なぁ、ハァハ』
『万が一に備えて、水攻撃出来るように設計してあるんだよ』
『近くの海から海水を吸い上げて撃つ』
『それに、モーターの冷却用としても使える。例え、海水で腐食しても今日限りだから問題はない』
そうロケット団が丁寧に説明していくと、ヒョウリが何か思いついた。
「そうか!」
彼は、仕舞っていた遠隔式ボールボックスを取り出すと、中にモンスターボールを入れた。そして、袖からハッサムの入ったモンスターボールを出して、投げた。
「ハッサム」
「ハッサム。奴らに、エアスラッシュ。奴らの注意を引きつけろ」
「ハッサム」
ハッサムは、彼の指示通りにロケット団のロボット目掛けて、(エアスラッシュ)を放ち、回りり込む。
『今度は、何よ』
『ハッサムだにゃ』
『こないだの暴力ジャリボーイのポケモンか』
『折角だし、こいつも奪って上げなさい』
『了解だ』
ロケット団は、ハッサムへ吸引口を向けて吸引を開始した。
(今だ)
ヒョウリは、横からボールボックスを吸引口に目掛けて投げた。そして、ボックスは吸引されていった。それを確認したヒョウリは、ハッサムを退かせた。
「よし、ハッサム。戻れ」
『うん?あいつら、撤退するぞ』
『どうするにゃ』
『いつもなら、あいつらもゲットしたいけど。深追いは、禁物よ』
『よし。さっさと行くか』
『いざ、撤収にゃ』
そうして、ロケット団は彼らから去ろうと、移動を始めた。


「どうすれば」
あれから、サトシはロケット団のメカの中で閉じ込められて、脱出を試みていた。ピカチュウやカラカラを使って、何度も壁や天井にわざで攻撃させていた。しかし、中の構造も頑丈で一切壊れる様子はなかった。
「ピカァー」
「カラァー」
ピカチュウとカラカラも、疲れが出てきて、息が上がっていた。
(ピカチュウとカラカラも限界だ。ヒョウリ、マナオ)
サトシが、心の中で外に居る二人の事を考えていると。ウィーンと、メカの駆動音が激しくなった。
「!」
その音は、先程のメカが吸引する時の同じものだった。
「また、何か吸い取ってるのか?」
そうサトシが、言っていると排出口から砂が微々たるものと出てくると、同時に灰色の何かが飛んできた。
「いてっ」
それは、サトシの頭にぶつかった。サトシは、頭を手で押さえると、ぶつかった物を見て、手に取って見た。
「これって、確かヒョウリの」
それに見覚えがあった。ヒョウリが作った遠隔式のモンスターボール収納開閉ボックスだ。先程、ヒョウリが吸引口目掛けて投げたボールボックスが、見事サトシやポケモン達が閉じ込められた内部に入ったのだ。サトシが掴んでいた箱を見ていると、突然ボックスの一部が光リ出して、ボックスが開いたのだ。
「!」
ボックスが開くと、中に収納されていたモンスターボールが開き、中に入っていたポケモンが出てきた。
「ラージ!」
「あっ、ラグラージ」
ラグラージを見てサトシが声に出す。すると、ラグラージがサトシの元へ近づき、手で首輪を示した。
「うん?外せって言うのか」
サトシは、ラグラージの気持ちを察して、着けていた首輪を外した。
『アー、アー、聞こえるか』
「!」
外した首輪から音が聞こえた。サトシは、それがヒョウリの声だと分かった。予め、ヒョウリから今回の作戦を聞かされていた際、首輪の話も聞いていた。
『首輪が外されたという事は、サトシがやった事だと思って会話している。この首輪は、一方通行で、そちらの声が聞こえない。いいか、サトシ。今から作戦を話すから、よく聞いて覚えろ。まずは』
サトシ達がその様な事を知らないでいたロケット団達は、メカの操縦席で少し早い宴会をしていた。
「「「かんぱ~い!」」」
「ソ~ナンス!」
彼らは、操縦席から離れて後ろにあった少し広い空間の床に座り、ジュースが入った紙コップを片手に乾杯をしていた。メカは、自動操縦モードに入り、目的地目掛けて安全自動運転をしていた。
「いやぁ~。まさか、こうも簡単にいくとは」
「ほんとにゃ。にゃーとコジロウが頑張って作ったかいがあったのにゃ」
「それを言うなら。私が、メカ作ろうと言い出しお陰でしょう」
「けど、作ったのはにゃーとコジロウだにゃ」
「何よ。メカを作れるのが、そんなに偉いの」
突然、ニャースとムサシが喧嘩を始めていると、間からコジロウが仲裁に入る。
「まぁまぁ、二人共。無事に、ピカチュウとたくさんのポケモンをゲット出来たんだから、いいだろ。な、な」
「まぁ、そうねぇ」
「確かに、そうだにゃ」
「これらを、無事ボスに元へ届ける事が出来たら、俺たちは」
「「「幹部昇進、支部長就任で、いい感じ♪」」」
「ソーナンス♪」
彼らが、そう賑わっている真下では、ある作戦が結構されようとしていた。
「いくぞ」
サトシは、ポケモン達にそう言うと、ポケモン達も返事をした。
「ラグラージ、ハイドロポンプだ」
「ラージ!」
ラグラージは、排出口へ目掛けて(ハイドロポンプ)を放つ。
「よし、ピカチュウ。10マンボルト」
「ピカチュー――!」
続けて、ピカチュウも同じく排出口に向かって(10マンボルト)を放つ。よし、みんな伏せろ。サトシに言われて、中のポケモン達は、すぐに砂へ潜ったり、身を潜めた。それから、10秒程が経過した。
「よし、そろそろかな」
サトシが、そう言うと。
「ラグラージ、れいとうビームで排出口を防ぐんだ」
ラグラージは、続けて排出口へ向かって(れいとうビーム)で放って、排出口を密閉していった。
「よし、いいぞ。離れよう」
二人に、そう言って全員で中心から距離を取った。そして、サトシは先程ラグラージから外した首輪型の無線機を両手で持ち、外した留め金同士を再度くっつけた。
『よし、分かった。いくぞ』
無線機からヒョウリが合図を送ってきた。
「伏せろ」
サトシは、そう言って自分やピカチュウやカラカラ、ラグラージは共に構えた。
中でそうしていた頃、外ではヒョウリが行動に移そうとしていた。
「いくぞ、ハッサム。あの吸引口には、気をつけろ」
「ハッサム」
ヒョウリに言われてハッサムが、羽で空へ飛んでいく。
「エアスラッシュ」
ハッサムが、(エアスラッシュ)を放ち、逃げていくロケット団のメカを後方から攻撃した。
「うわぁ」
「なんだ」
「攻撃にゃ」
中で宴会していたロケット団は、攻撃の振動で気付いた。
「あっ。また、あのハッサムだ」
「なら、暴力ジャリボーイがいるはずにゃ」
「しつこい奴ね。さっさとやっちゃいなさい」
「「おう」」
自動操縦を解除して、コジロウとニャースが操縦を行い、サイクロン・マークZは方向転換をした。
『おら、かかってこい』
『おみゃ~の攻撃は、このサイクロン・マークZには通じないにゃ』
「よし、もう一度。エアスラッシュ」
再度、ハッサムは攻撃をしたが、メカは一切傷つく様子がない。
『ふん。無駄無駄』
『ニャース、さっさとこいつもやっちゃいなさい』
『了解にゃ』
ロケット団が、また吸引口をハッサムへ向けて吸い込もうとした。
「よし、ハッサム戻れ」
「ハッサム」
ヒョウリの指示で撤退をする。
『あ、また逃げた』
『くっ、逃げさ無いわよ。ほら、吸引』
『ポチッとにゃ』
ニャースがボタンを押して、吸引を開始した。このメカの主力武器となる吸引マシンは、メカ内部にある大型モーターを回転させて、吸引口から空気や物質を吸い込んでいる仕組みだ。ロケット団が、吸引開始を見てヒョウリが、イヤホンマイクで合図を出した。
「そろそろだぞ」
それから、数秒程でヒョウリの狙い通りの事が起きた。
ドガァァァンとメカの内部で爆発が起きたのだ。
『うわぁ』
『ちょ、何よ』
『分からないにゃ』
『あぁ、吸引モーターが爆発したぞ』
『にゃにぃ!』
突然の内部爆発に驚くロケット団の声が、スピーカー越しでヒョウリの耳へ届く。
「よし、計画通り」
彼が考えた作戦。それは、既に入っているピカチュウと、後からわざと中入れたラグラージ。その二人の電撃と水によって、電気分解での水素と酸素を発生させた。気体を発生させた場所は、サトシやポケモンが閉じ込められた空間でなく彼らを吸い込んだ吸引装置、それと繋がる排出口だった。排出口へ水と電気を送り、中で電気分解による酸素と水素が充満していく。それを、自分たちのへそれが来ないようにとラグラージの(れいとうビーム)による氷漬けで密閉。あとは、ハッサムで挑発させたロケット団が、捕まえようと吸引装置を動かせば。配管で充満させた水素と酸素が吸引モーターの方へ行くと、モーターの熱により一気に引火した。密閉空間での高濃度の燃焼しやすい酸素と水素に熱が加わったことで、大爆発が起きたのだ。そして、どんな硬い物質でも内部からは脆い構造になっている事、それによりロケット団のメカは中の爆発に耐えきれなかったのだ。最後に、(れいとうビーム)で密閉した事で、爆風や熱はサトシやポケモン達へ届く事がなく。彼らは、ほぼ無傷だった。
先程の爆発で、メカの一部の装甲に穴が空いた。その穴から中から何かが顔を出した。
「外だ」
サトシだった。
「うわぁ、高ぇ。ここから、皆降りるのは無理だな」
サトシは、真下を見て、そう言った。彼らがいるのは15m程の高さだった。
『あぁ、大変にゃ』
『何よ』
『さっきの爆発で、装甲の一部に穴が』
『それに、捕獲用の部屋にも穴が空いた。このままじゃあ。ポケモン達が逃げるぞ』
『なんですって!』
ロケット団達は、慌てて何とかしようとしてメカの動きが止まった。すると、ダメージを受けて倒れていたシロデスナが現れて、(すなじごく)でメカの足場が沈めていった。
『ちょっと、どうなってんの』
『すなじごくだにゃ』
メカは見る見る沈んでいく。それから丁度半分程が埋まった所を。
「デスナ!」
シロデスナが、彼らに合図を送った。地面である砂の高さがサトシ達と1m程の差まで縮まったからだ。
「よし、みんな。今のうちに脱出だ」
サトシに釣られて、次々とポケモン達が脱出していく。
「よし、急げ」
ヒョウリは、サトシやポケモン達の元へ行く。
『ヤバイ、ピカチュウやポケモン達がぁ』
『くそ、そうはいかないにゃ』
再度捕まえようと、まだ埋まっていない上半身が回転し、吸引口のアームがサトシやポケモンへ向く。
「ヤバイ。みんな、走れ」
サトシは、それに気付き逃げるポケモン達へ警告する。
『ポチッとにゃ』
ニャースが再度、吸引しようと吸引ボタンを押す瞬間。
「ハッサム、バレットパンチ」
ヒョウリのハッサムは、右腕を光らせると、その吸引口を殴りつけ、アームをへし折ったのだ。
『にゃー、アームが折れたにゃ』
お陰で、ポケモン達はメカからドンドン離れて行った。
「カラァ」
「カラカラ、良かった」
「スナァ」
「デスナァ」
カラカラとスナバァは、マナオとシロデスナに無事に再会出来た。
『もう、何も出来ないにゃ』
『こうなったら、脱出するのよ』
『無理だ。足が埋まって逃げられない』
ロケット団は、最早打つ手無しと脱出を試みるが、下半身が砂に埋もれてキャタピラが動いても、移動出来ないでいた。
そのチャンスを、サトシ達は見逃さなかった。
「よし、出番だぞ。ピカチュウ!」
「ピィカァ!」
サトシは、ピカチュウと共にロケット団を撃退する準備に入る。
「10マンボルトだ!」
「ピィカァ」
続けて、ヒョウリもハッサムへ指示を出す。
「ハッサム、エアスラッシュ」
「ハッサム」
そんな彼らに合わせて、シロデスナも(シャドーボール)を共に、放とうとした。
「ヂューーー!」
「スナァ!」
「ハッサム!」
彼らのわざは見事に、ロケット団のメカへ命中し、爆発が起こった。そして、煙の中から、乗っていたロケット団達が、爆風の勢いで空へと飛び上がって出てきた。
「くそぉ~。折角頑張って作ったのに」
「なんで、こうも簡単に壊れるのよぉ」
「短期間での設計製作は、凄く大変なんだぞ」
「そうにゃ。低予算で、頑張ってあんな素晴らしいメカを作ったのにゃ」
「ふん。結局、いつも通り壊れたら意味ないでしょ」
「それを言わないでほしいにゃ」
「あぁ、今日もなんだか」
「「「やな感じ〜~~!!!」」」
「ソーナンスゥ!」
そうして、ロケット団はまた本日も遠く彼方へと消えていった。
そんな飛んでいく彼らを、地上でサトシは眺めていた。
「どうして、あんな人達がいるんでしょうね」
マナオは、彼方へ飛んでいったロケット団を睨みながら、そう告げると隣に立つサトシは、苦笑いで答えた。
「あ、ははは。俺、ずっとあいつらに会ってきたけど、分からないや」
「さぁ。あんな恥さらしな連中、知らんし。どうでもいい」
ヒョウリは、飛んでいったロケット団に興味が無いようで、見向きもせずにそのままヤマカの元へ歩いて行った。
「ヤマカさん」
「なんだい?」
「これから、あいつら・・・どうします?」
ヒョウリが見た先では、再会に喜ぶ親であるシロデスナと子供のスナバァが居た。
「デスナ」
「スナァ~」
そんな親子を見てヤマカは。
「・・・そうだねぇ」
そう声に出した。


時間が流れて夕方。ロケット団を撃退したサトシ達は、ロケット団のメカに掴まったポケモン達を無事に全て助け出し、そのまま野生のポケモン達は、帰っていった。だが、シロデスナとスナバァだけは、その場に残った。
「ありがとう。君たちの協力のお陰で」
「いいえ。俺たちは、ただ通りかかっただけですし」
ヤマカに礼を言われて、サトシが代表して言葉を返す。
「ところで、ヤマカさん」
「ん?」
「今後、スナバァとシロデスナは」
マナオは、近くにいる親子を見ながら話す。
「シロデスナとスナバァには、このままこの砂丘に居て貰い、共にいい観光スポットを作ろうと思う」
「本当ですか」
マナオは、心配した顔で聞いてみるとヤマカは、自信を持って答える。
「あぁ大丈夫。最初の出会い方は、悪かったがあの二人は悪いポケモンじゃない。いや、悪いポケモンなんていない。だから、分かっていけるさ。同じ、この場所を綺麗にしたいという思いがあるなら」
「そうだよ、マナオ。きっと、仲良く出来るさ」
サトシも、笑顔でマナオに言う。
「それなら、いいですね」
「あぁ、きっと上手くいくさ」
「俺もそう思います。お前も、そう思わないか。ヒョウリ」
「ん?まぁ・・・上手くいくんじゃないか」
そうヒョウリは、顔反らして答えた。そうして、サトシ達はヤマカやシロデスナ親子と別れの挨拶をする時間へなった。
「それじゃあ。俺たち、チョウドタウンのポケモンセンターへ行きます」
「明日の朝には、南へ行きますので、ここでお別れです」
サトシとヒョウリが、そう説明していく。
「そうか。なら、ここでお別れだな。サトシ君、ヒョウリ君、マナオ君。本当に、ありがとう」
ヤマカは、彼らに改めて礼を言った。
「シロデスナ達と頑張って下さいね」
「俺らも、応援してます」
マナオとサトシは、最後にそう伝えた。
「じゃあな。シロデスナ、スナバァ」
「ピカピカ」
「バイバイ」
「カラカラ」
サトシとピカチュウ、マナオ、カラカラは、彼らにも手を振って別れを言った。
「デスナ」
「スナスナ」
それに答えて、シロデスナやスナバァも返事をして、彼らを見送った。


サトシ達は、砂丘から出ると、予定通りすぐ近くのチョウドタウンに向かった。
「疲れたな」
「ピィカ~、」
「えぇ、疲れましたね」
サトシやピカチュウ、マナオはそう疲れた顔で言うと。隣にいたヒョウリも同じことを言う。
「あぁ、本当疲れたぜ。全く、どこかのお人好しさんの為に、動いたら酷い目にあったぜ」
そう言うと、サトシの方をチラッと見た。目が合ったサトシは、ヒョウリに言い訳をした。
「けど、良かっただろ。砂丘のポケモン達が助かったし、シロデスナも分かってくれたんだから」
「まぁ。結果オーライにしておこうか。けど、今後こういった事はウンザリだからな」
「わ、分かったよ」
サトシは、彼に念を押されて、そう返事をしたが、その約束を守る自信が無いと言った、顔をしていた。
「その目、またやりそうだな」
「うっ」
「ピカァ」
サトシは、図星なのかヒョウリから目を逸らして、気不味い顔をした。すると、突然走り出した。
「さぁ。早く、町のポケモンセンターへ行って、休もうぜ」
「おい、話逸らすなよ」
「あっ、待って下さいよ」
サトシに続いて、走って行く彼らは、町へと向かった。 
 

 
後書き
今回は、サトシ達が次の町へ行く為に、立ち寄った観光スポット(カゲギシ砂丘)での話でした。

次回は、南へ向かい、次のトレーナー・ベストカップ(第二の試練)が開催予定の(フォルシティ)があるフィオレ地方へと向かいます。

話としては、この先最終話まで続ける予定ですので、ご興味がある方は、最後までお読み下さい。

追記:
現在、登場人物・ポケモン一覧を掲載しました。
登場する人物やポケモンが増えたら、更新します。また、修正も入ります。
今後、オリジナル設定関連についても、別途設定まとめを掲載を考えています。

(注意)
掲載された作品で、文章の変更や文章ミス・誤字脱字などに気付きましたら、過去のも含めて後日改めて修正する可能性もあります。 
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