おぢばにおかえり
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第七十一話 詰所の中その五十三
「指一本でも」
「そこで何かしたらね」
次郎さんは新一君にも笑って言いました。
「いいのにね」
「いいですか?」
「高校生は本当は駄目だけれど」
「それでもですか」
「阿波野君もここぞって時に前に出ないからね」
「何かこう」
「いいよ、高校を卒業するまではそれでもね」
どうも私にわからない会話をしていました。
「阿波野君も奥手で」
「いいですか」
「うん、それでもね」
「あの、何をお話しているのか」
私は次郎さんに尋ねました。
「わからないんですが」
「わかった時驚くよ」
「そうなるんですか」
「うん、その時にね」
「そうなんですか」
「まあその時を待つよ」
次郎さんとしてはというのです。
「僕はね」
「そうですか」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「千里ちゃんは本当に恋愛経験ないんだね」
今度はしみじみとした口調でした。
「そのことがわかるよ」
「確かに誰ともお付き合いしたことはないです」
このことは事実です。
「私は」
「それでそのことがね」
「わかりますか」
「よくね」
「ちなみに僕もなかったです」
新一君も言ってきました。
「これまで」
「新一君もなの」
「はい、これまでは」
私を見て言ってきます。
「そうでした」
「そうだったのね」
「これからはですね」
やっぱり私を見て言います。
「素敵な恋愛をしたいですね」
「そうしてね、私もね」
言われて思いました。
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